チェール・ソネンは言う、実力を発揮できないことは敗北以上にあなたに絶えず付き纏うだろうと。
MMAweekly.comより
あなたはこの国の少年スポーツを通してこんなフレーズを聞くものだ、「あなたが勝ったか負けたかは問題じゃない、あなたがどう試合をプレイしたのかだ。」それかこの意見に類するものをだ。そのメッセージは子供達に彼らの両親、コーチ、そして教師から伝えられる。私達が大人になるにつれてそのメッセージはお払い箱になり、勝つことが最重要事項となる。
しかし全員がそうなるわけではない。ある者達に対しては、その教訓は職業倫理となり、自分が万全でないときでさえ全身全霊で挑むことができるようになるのだ。
UFCコンテンダーのチェール・ソネンの闘いへのアプローチはその幼少期の教訓から生まれたのだ。
「それは二人の男によるスポーツで、君は誰が勝つのかはわからない。私達は誰が勝つのかをコントロールすることはできない。君が唯一コントロールできるのは、君がどう競争するかということだけだ。」とソネンは最近MMAWeekly.comに語った。
誰しも負けたくはない、だが敗北は競争において常に可能性があるものだ。ある者が勝ちある者が負ける。勝利よりも敗北からより学ぶことがあるとはよく言われることだ、だが晴れの舞台で実力を発揮できないことはアスリートに絶えず付き纏うだろう、時には永遠に。
「アスリートとして、君は負けることについては絶対に悪く感じることはないだろう、では君が嫌だと感じるのは何かといえば、それは実力を発揮できないことだ。」とソネンは言った。「それは本当のことだし、自分のポテンシャルを活かせない時によく起こる事なんだ。そしてそのことは君を夜眠れなくさせるし、君を何年も何年も後悔させることもあるんだ。」
「それは人間関係でもあるだろうし、宿題でもあるだろうし、はたまた運動競技でもあるだろう。もし君が立ち向かわず、自身の能力を最大限に引き出せなかったら、それは本当に君をうんざりさせるだろう。」と36歳のファイターは付け加えた。
ソネンは信じている、時にアスリートは結果にこだわりすぎるあまり、自身のパフォーマンスを阻害してしまうことを。
「しかし勝利と敗北なら、人は自分の手が挙げられるようにするだろう。それはいいことだ。だが多くの場合、私達は結果を心配して、思案することにとても多くの時間を使ってしまう、『私は勝たねばならない、私は勝たねばならない、』そのために私達は力を出せないんだ。」と彼は言った。
ソネンは直近の試合において、元ライトヘビー級王者マウリシオ・「ショーグン」・フアを最初のラウンドでサブミッションにより打ち負かしている。彼はもう一人の元タイトルホルダー、ラシャド・エヴァンスとラスベガスはMGA・グランド・ガーデン・アリーナで11月16日のUFC167で対戦する。
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というわけでMMAを代表するインテリジェント・ファイターのチェール・ソネン教授によるありがたい講義でした。相変わらずいいことを言っています。
私の偏見として、アメリカでは幼少期より勝利に拘る価値観を教えられると思っていたのですが、決してそんなことはないようです。幼少期には勝ち負けよりも、自分自身の目標をどれだけ達成できたのか、というのが大事なんだよと日本と同じような教訓が与えられるようです。しかし、成長するにつれて勝利至上主義となり、いつしかその教訓は忘れ去られていきます。しかしソネンは、今もなおその教訓を忘れず、それをMMAにおける自身の職業理念としているとのことです。
なぜ勝利にこだわりすぎると実力が出せなくなるかといえば、一つはソネンが指摘するように、それを心配することにあまりにも多くの時間を使ってしまうからです。逡巡している間は結局無駄な時間ですし、その時間は自分に多大なストレスを与えます。もちろんこの時間はある程度は必要だと思いますが、そのことで行動が阻害されすぎるのであればそれはマイナスです。また考えすぎることで、シンプルだったはずの答えを複雑にし、自分から迷路に足を踏み入れてしまうこともあります。
そしてもう一つは、結果を考えることは恐怖を生むからです。ソネンも結果に拘ることで「勝たねばならない」という強迫観念に囚われて力が出せなくなるといっています。つまりこれは恐怖です。恐怖は人の足をすくませ、呼吸を阻害し、思考を停止させてしまいます。結果を考えることで結果を損なう、これは多くの人間が人生で体験してきたはずです。
MMAファイターは何ヶ月も貴重な時間を費やして、たったの15分から25分に全てを賭けるという過酷な仕事です。やり直しはできませんし、もし負けてしまえばそれは永久に記録に残ります。練習でどれだけ力をつけても、それが本番で発揮できずに連敗すれば仕事を失います。一般の人よりも、勝敗に対するこだわりは桁違いに強いでしょう。もしも自分が全部の力を出し切らないうちに負けてしまったら、わずかなミスで自分の数ヶ月が無駄になってしまったら、その絶望は想像するだけでも恐ろしいものです。しかしそこからあえて離れることで、結果的に自分が望んだ勝利を手に入れられるのです。本当に世界は皮肉に満ちています。
ソネンの哲学は極めてシンプルです。それは、行動が全てに優先する、というものです。そして自分はこの重要性に最近気づきました。ソネンはTUFでも同様の発言をしていて感動した覚えがあります。試合前には喜怒哀楽、全ての感情がある。だがそれら全ては試合で勝つことには役に立たない。では何が役に立つかといえば、こいつだ(と握りこぶしを見せる)、とにかく動け、殴れ、それだけだ、と。有名な武士の指南書である葉隠れにも同様の教訓が見られます。そちらでは、自分が勝つために七転八倒するような剣術を全否定し、剣術とは剣を担いで相手の刃が届く距離まで近づき、ただ刀を振り下ろすだけだ、それが本当の戦い方だ、と書かれています。
そして面白いことに、同様の内容はソネンの永遠のライバル、アンデウソン・シウバも言っています。勝つときもあれば勝たないときもあるんだよ、と。彼は決して勝ちに拘ったわけではないのです。自分が納得することをケージの中で、全力でやることだけを考えていたからこそあれだけの勝利を得られたのでしょう。
戦いの場とは人間にとって土壇場です。究極の状態に追い込まれたとき、人間というのはとてもシンプルな思考になるのだと思います。シンプルでなければ動けないからです。そしてシンプルになれない人間は、そのままそこで身動きが取れずに全てを失うのでしょう。ソネンの発言の全ては、経験による裏打ちがされています。だから彼の言葉はとてもシンプルで、わかりやすく、そして他者への思いやりに満ちています。彼もまた、土壇場で色々と考えすぎて失敗した苦い経験を多くしてきたからです。
日本ではこの「勝ち負けが重要じゃない」というセリフが、負けたことへの言い訳に使われ、その本質を欠いていることがよくあるように思います。あくまでも、勝ち負け以外の「自分の達成目標」を設定し、そこでの勝ち負けを考えるのが重要なのだ、ということです。自分自身もとかくクヨクヨと考え、失敗したらと考えて変に二の足を踏んで思いきりやれずに後悔することばかりです。なのでソネン教授の教えに従い、結果を気にせずに自分のやりたいことをやりきるのを目標にしたいと思います。
当面の目標として、頑張って訳した記事が尻を掻きながら片手間に書いた記事より閲覧数が少なくても、「なんでこっちのが閲覧数多いんだよクソが!」とか言って次のエントリを書くのに二の足を踏んだりせず、たとえ閲覧数が3回(内確認で自分が見たのが2回)くらいになったとしても、ガンガン面白いと思った記事を紹介していきたいと思います。
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日米の教育において奇しくも同じ言葉が使われましたか
返信削除米は合理的な概念に基づき、日は感情的な概念に基づく印象があるので、エディさんのおっしゃる通り、中身は別物のような気がします
それにしてもソネンの哲学は有用性がありますね
感情的、というのは的を射てる表現だと思います。日本においては、勝ち負けは重要じゃないというセリフの次に「じゃあ何を目的にするのか」が無いように思います。だから子供達はただぼんやりと事に臨むのが多いように思います。私も幼少期に「参加することに意義がある」とよくいわれましたが、その意義を説明できた大人にはついぞ出会いませんでした。
削除ソネン教授の哲学はやはり全て体験に裏打ちされてるのでシンプルで有用ですよね。アンデウソンがソネンの知性を褒めて次期大統領候補などといっていましたが、次期UFC社長くらいにはなれそうです。TUFを見ていても思いましたが、彼がジムを立ち上げたら入門希望者が殺到すると思います。