以下は個人的な意見ですので参考程度にどうぞ。
画像はUFC公式より
WIN 王者ジョルジュ・サンピエール VS 挑戦者ニック・ディアス
(ユナニマス・デシジョンによる勝利)
王者は9度目の防衛に成功
ファイトメトリックによるデータはこちら
悪童ニック・ディアズ、遂に王者挑戦
先に言っておくと、自分はニック・ディアスが嫌いだ。
素行不良に魅力を感じる年齢はとうに過ぎている。
マガジンやチャンピオンを毎週買うことも当然無い。
だから、世間が好むニック・ディアスの魅力というのは
自分には何ら訴えかけるものがない。
彼はその突飛な行動や粗暴な発言により多くのファンを
魅了してきた。まず、彼は大麻吸引を公言し、またその
ドラッグ陽性反応により出場停止処分を受けている。
そしてトラッシュ・トークにより対戦相手を挑発し、
計量では必要以上に相手に食って掛かって場を
騒がせる。何よりも試合中に相手に何がしかの
罵倒をし、打ってこさせるように仕向けるのである。
これらを魅力と感じる人がいるのはわかる。だが
自分にはこういう小細工はひどく鬱陶しい。
これらは悪童だから不良だからと色々言ってはいるが、
つまりは全て自分のボクシングマッチのための
布石に過ぎない。相手に自分の顔面を狙わせる、
そのために作られたキャラクターだ。
頭に血が上るとついつい拳で相手の顔面を
殴りつけたくなるのは人間の性だ。ニック・ディアスは
恐らくこれまでの人生を通じて、そんな人間の本能を
よくよく熟知しているのだろう。
そんな彼がいよいよ王者に挑戦することになった。
ウェルター級王者といえば、もはや説明するまでもない。
「ラッシュ」ジョルジュ・サンピエールだ。ニックはその
人気と、GSPに対する因縁とでとうとうここまで
こぎつけた。直前の試合で、「天性の殺し屋」カルロス・
コンディットに敗北しているにも関わらず、だ。
世間では批判もあったが、自分はこの王座戦を
歓迎していた。鬱陶しい幻想を早めに叩き潰して
爽やかな春を満喫したいと思ったからだ。
悪童、徹底したシステムの中で完全に管理される
悪童の最も忌み嫌うもの、それはルールとシステムだ。
己を束縛するものに対して強い憎しみを抱く。
そして、王者GSPはまさに自分のルール下に
対戦相手を組み敷くことで長期政権を築き上げて
来た。ニック・ディアスにとっては最も忌むべき
ファイターなのだ。
序盤、ニックはあまり前に出ないようにしながら
頻繁にスイッチを繰り返した。恐らく彼の作戦はこうだ。
ベンヘン・ネイト戦がディアス戦のヒントになったと
GSPは語っていた。そしてコンディット戦では前足に
重心を置くボクシングスタイルの欠点を狙われて、
ローキックでズタズタに蹴られてしまった。何より
GSPはシングル・レッグのTDに秀でている、
だからその二つを防ぐために頻繁にスイッチを
しよう、ということだ。
GSPは語っていた。そしてコンディット戦では前足に
重心を置くボクシングスタイルの欠点を狙われて、
ローキックでズタズタに蹴られてしまった。何より
GSPはシングル・レッグのTDに秀でている、
だからその二つを防ぐために頻繁にスイッチを
しよう、ということだ。
だが、その程度でGSPを止められるなら恐らく
とっくに王座を陥落していただろう。彼は早々に
タックルで転がされた。元々レスリングは巧くない
ニックだ。ここまでは大方の予想通りだった。
予想外だったのはここからの展開だ。下から
GSPの裏をかいてサブミッションを狙うニックだが、
ことごとくを読まれて完全にコントロールされて
しまったのだ。まるで赤子が母親の懐であやされる
かのように、ニックがもがいてもあがいても常に
GSPが上にいて、折を見ては肘や拳で殴りつけて
安眠させようとしてくるのだ。ニックは完全に
無力化されていた。
スタンドにおいてもニックに勝機らしいものは
一度しか訪れなかった。ニックがなぜ挑発をして
相手に顔面の打ち合いをさせようとするかといえば、
彼がボクシングテクニックにおいて非常に優れて
いるからだ。ただボクシングが巧いというよりも、
MMAで最も効果的なパンチの打ち方を知っている、
というほうが適切ではないかと自分は思う。
3R、彼が挑発を繰り返す中で、GSPはそれまでの
優勢に油断したのか少しだけ打ち合いに付き合って
しまった。その時だ、悪童の本領発揮、彼は数発
GSPに打ち込んだ。これによって明らかにGSPの
動きが悪くなり、距離を取って少し休む気配を
見せたのだ。効いた、というのはもちろんだろうが、
自分が思うに迷ったのではないかと思う。突然の
ダメージに、TDで行くかこのままスタンドで行くかで
判断に迷ったのだ。恐らく、それだけニックの
パンチは異質のダメージなのだろう。結局GSPは
すぐにタックルで行く選択肢をした。ここで意地に
なってスタンドで行ったら悪童は今頃ベルトを
巻いていたかもしれないと思う。この冷静さこそが
王者の強みなのだ。
動きが悪くなり、距離を取って少し休む気配を
見せたのだ。効いた、というのはもちろんだろうが、
自分が思うに迷ったのではないかと思う。突然の
ダメージに、TDで行くかこのままスタンドで行くかで
判断に迷ったのだ。恐らく、それだけニックの
パンチは異質のダメージなのだろう。結局GSPは
すぐにタックルで行く選択肢をした。ここで意地に
なってスタンドで行ったら悪童は今頃ベルトを
巻いていたかもしれないと思う。この冷静さこそが
王者の強みなのだ。
この展開を除けば、得意のボディを打つ機会も
ほとんど訪れず、打っても試合を左右するほどの
ダメージは与えられなかった。ジャブの差し合いでも
明らかにGSPに分があり、序盤からパンチの
ヒット数ではGSPが圧倒していた。4R以降、消耗を
見せたニックは次々とGSPのパンチを被弾し、
得意のボクシングでも大きく水をあけられてしまう
ことになった。
悪童、それは弱さの別の名前
結果は事前予想通り、ニックは完全なコントロールを
されてジャッジ三者ともに45-50という大差のスコアを
つけての判定負けとなった。完敗だろう。ほとんど
勝機らしいものを見出せなかったのだ。グラウンドで
特に酷かった。彼はまるで無力だった。
試合後、ニックは自分の手口をなぜかGSPに
全部読まれていた、不思議でしょうがないと言っていた。
そのトリックは簡単だ。GSPは、手続きをすっとばして
一気にサブミッションを狙う暴力柔術の大好物の
餌をばら撒いていたからだ。
ディアス兄弟の柔術は一本に貪欲な、一気に展開する
柔術だ。だが、特定のポジションにおいて、そこから
狙える技というのは大体限られてくる。ガードで頭を
下げて腕を出せば三角絞め、腕を残せば十字と、
ある程度限定される。GSPはそういうものをわざと
ちらつかせ、ディアスが飛びつくように仕向けていた
ように自分は感じた。そしてそれを利用して、自分の
作りたいポジションに誘導していたのではないだろうか。
つまり、悪童はジョルジュ・サンピエールという釈迦の
手のひらでいいように踊らされていたに過ぎないのだ。
この試合でも明らかなように、ディアスに目立つのは
MMAの進化に対する適応への拒絶だ。
常々彼はプライドを引き合いに出し、泥くさい
打ち合いの良さを語り、今のMMAは退屈な
レスリングマッチだと非難してきた。だが、何の
ことはない。それは自分がレスリング技術に
劣っているからそういってるに過ぎないのだ。
MMAでボクシングマッチをしている選手を見れば
わかることだ。元ヘビー級王者ジュニオール・ドス・
サントスは、ボクシングを最大限に使って勝つために
徹底したTDディフェンスを学び、グラウンドからすぐに
脱出してスタンドに戻す技術を身につけた。それは
フェザー級王者ジョゼ・アルドも同様だ。アルドにも
ディフェンス面において、明らかなレスリングの
テクニックが散見される。得意な土俵で戦うために、
彼らはきちんと修練を積んでいるのだ。
対して悪童はどうか?一応対戦相手の研究は
わずかながらにしているようだ。しかし、彼が
得意のボクシングを活かすためにやっていることと
言えばその大部分は挑発だ。試合前から相手を
臆病者と罵り、試合中も手を広げて頻繁に挑発を
繰り返す。だが、そんなので揺らぐメンタルを持つ
選手はUFCの上位には存在しない。彼はコンディット
に冷静に流されて打ちのめされたのを、ネイトが
ベンヘンにやって逆に手ひどく叩きのめされたのを
何も覚えていないのだろうか?相手に顔を打たせて、
それにカウンターを合わせるだけの狡猾な
戦い方だけではとてもじゃないがトップは目指せない。
悪童、一見聞こえはいいが、結局のところ
メンタルが弱いことを言い換えているに過ぎない。
確かに彼は打ち合いを、痛みを恐れないかもしれない。
だが彼は、自分のやりたくないことをやったり、
新しいことを学んで自分の弱点を克服したりという
ことができないのだ。対戦相手が自分のやりたい
ことに付き合ってくれないとすぐにヘソを曲げて
引退をちらつかせるのも、結局自分自身に
向き合うことに耐えられないにすぎないのだ。
スポーツにはルールがある。ルールがあると
いうことは、そのルールを熟知したものが強いのだ。
気に食わないからと、そのルールを知り適応する
努力をしないものは負けるか、出て行くかの
どちらかしかない。コンディット戦では、コンディットが
「勝ちに徹した」などと叩かれていたがなんとも
馬鹿げた言い方だ。戦いの目標は勝つことだ。
負けたからと、相手のスタイルを非難するなど
恥の上塗りに過ぎない。
ニック・ディアスはMMAの進化から逃げるのか?
私はニック・ディアスは嫌いだ。だが、彼の技術や
フィニッシュを狙う姿勢は大好きだ。特にパンチは
非常に面白い技術を見せている。薄いグローブの
使い方を知っている、という印象だ。
脱力した状態で、脇を絞めずに肩から前に
押し出しあまり腰を回転させないような動き、
体重をそのまま拳に乗せているような打ち方だ。
以前からOFGでは完全にボクシングの強打を
してしまうと拳が壊れるとは言われていたが、
ニックはそれを知ってこのうち方をやっているの
かもしれない。ボクシングほどに力をかけて
打たなくても、OFGならばグローブが薄いから
十分にダメージがあるのではないだろうか?
この打ち方ならば拳の付加を減らすだけでなく
隙を減らして速く打て、さらにダメージは前足に
乗った体重を使って加えていける。またナックルを
きちんと返しているのも印象的だ。腕をねじりこんで
当てるようなジャブを使っているのもポイントかも
しれない。
またディアス兄弟のパンチは相手の顔が
崩壊するのも特徴的だ。今回のGSP戦でも
ヒットした数は少なかったにも関わらず、
GSPの目蓋や額は傷だらけになっていた。
これはパンチが当たるときの握りこみ方や
当て方に秘密があるような気がする。
非常に硬い物が当たったときの傷のようだ。
ニックには十分に非凡な武器がある。そして
明らかな弱点もある。ならばやるべきことは
挑発や、ましてや引退をほのめかしてGSPとの
再戦を要求することではないはずだ。
彼は若い選手とはやりたくない、だがGSPと
再戦したいと試合後にコメントしていた。しかし、
今の状態で再戦したところでどこに勝機を
見出すというのだろうか?GSPは怪我をして
なお衰えるどころか、より強くなって戻ってきた。
そして試合でもさらに進化し続けている。
進化を拒み、今のMMAをつまらないとそっぽを
向きながら、でもビッグマッチだけはやりたい
などと都合のいい事を言っていてはとても
じゃないが再戦など見えては来ないし、再戦を
したところで次はもっと手ひどく痛めつけられる
ことになるだろう。
試合後に自らGSPに歩み寄り、GSPの腕を
高く挙げた悪童だが、あれが本来の姿では
ないのだろうか?もうそろそろ悪童とは縁を切り、
一人の誇り高い戦士としてのニック・ディアスに
なってもいい頃だ。今後の去就はまだわからない。
しかし、ウェルターにはまだまだ彼が戦うに
値する選手が大勢いる。彼が本当に自分を
ファイターだと、戦うことが好きだというのなら、
このオクタゴンから逃げずに戦い続けて
欲しいと思う。
オクタゴンの紳士、怒りを露にした防衛戦
「UFC史上に類がないほど手ひどく痛めつけてやる。」
これは悪童ニック・ディアスのコメントではない。
長年に渡りウェルター級王者に君臨し、金網の外では
常にスーツを着込んだUFCの顔、「ラッシュ」ジョルジュ・
サンピエールの試合前のコメントだ。
GSPは防衛回数もさることながら、その端正な顔立ちと
スポーツマンらしい清潔で紳士的な振る舞いによって
大勢のファンからの支持と尊敬を集めてきた。何かと
いえば野蛮なゲテモノショーとして見られがちなMMAの
イメージを払拭させ、鍛え上げたアスリートたちが誇りを
賭して戦う魅力的な競技であることを世間に知らしめる
ために、GSPは他の選手よりも遥かに早くから努力を
し続けてきた男だ。
彼はスーツをきちんと着こなし、会見では相手への
敬意を示した発言で称え、そして慈善事業や子供たち
への格闘技の普及活動にも献身的であり続けた。
まさに彼は格闘家の模範たる人間だ。一昔前に
そんな彼の格好を見て、気取ってるんじゃねえよと
小ばかにしていた他の格闘家も、最近になって
ようやくGSPの真似をし始めるようになった。
そんな彼の態度や行動の礎にあるのは、日本が
世界に誇る武道である空手道だ。GSPは、幼少時代
いじめられっこだった。理不尽な暴力に悩まされる
彼を救ったのは、日本の武道だったのだ。
彼は空手を学ぶことによって、困難や弱さに
打ち克つ強さを、弱きものを守り労わる優しさを、
そして礼儀を欠くものたちに立ち向かう勇気を
手に入れて、己の人生をその手に取り戻したのだ。
暴力は決して人を傷つけるだけではない。
誇りを持って、正義のために奮う力もあるのだ、
そう学ぶことで彼は大きな成長を遂げることが出来た。
彼が今目指しているのは、未来に生きる
子ども達の理想像としてのMMA選手であろうと
することだ。子供たちが自分に憧れ、格闘技を
学び、武道の心を学ぶことによってかけがえの無い
子供時代を無駄にせず、楽しく健やかに過ごせる
ようになって欲しい。それが彼の願いであり、
MMAで戦い続けるモチベーションの一つなのだ。
だから彼が入場時に、日本に来て浮かれている
外国人のような格好をしているのも本人から
すれば大真面目だ。額には「必勝」と書かれた
日の丸の鉢巻を締め(たまに上下が逆さになって
いるからたぶん日本語は読めないのだろう。)、
上半身にはド派手な旭日旗をあしらった胴着を
着こんで真剣な顔つきで入場してくるシーンは、
いまやMMAファンにはおなじみの光景だ。
彼からすれば、悪童ニック・ディアスは
MMAの野蛮なイメージの象徴とも言える存在だ。
そして彼は、GSPに度々不愉快な思いをさせてきた。
記者会見を放棄して試合を流し、怪我をして
休養中の彼を臆病者呼ばわりし、ステロイド使用者
扱いをし、散々に王者を挑発してきた。さらには
コンディット戦後に禁止薬物のマリファナに
陽性反応が出てコミッションからライセンスの
剥奪を受けてしまった。まるでGSPと正反対の
キャラクターと言える。
冒頭の発言は、これらのことが全て積み重なった
結果、王者の口からついに漏れ出たものだ。
果たしてこれはディアスの思惑にまんまと乗って
しまったのか、それともニックがパンドラの箱を
開けて大いなる災厄に見舞われることになるのか、
GSPの精神が大きく試される一戦となった。
王者、完璧なグラウンド・ゲームで悪童を制圧
試合が始まってみれば、結局王者の精神は
いつもとかわらず完璧だった。手ひどく痛め
つけるということだったが、この痛めつけ方は
毎試合GSPに見せてもらっている範囲内の
展開だ。
GSPの作戦はシンプルだ。自分が勝っている
グラウンドに引きずり込んで、有利な状態を
維持してきっちり相手にダメージを与え続ける、
それだけのことだ。だが、それだけのことを
どんな選手相手にもやれるということがGSPの
最も恐ろしい部分といえるだろう。
スタンドでは、ニックのパンチの距離に入らずに
遠目からの蹴りやステップ・ジャブを使い、
ニックが入ってくるのにあわせてタックルという
いつもの王道パターンだった。これを回避するには
まずタックルを無効化できるだけのレスリング
技術を習得するか、GSPよりもさらに遠い距離での
スタンドを展開する必要がある。だが試合前から
ニックにその部分がないのは明白だった。
パンチはボクシングをフレディ・ローチに学び、
一流のボクサーとの交流もあるGSPのほうが
リーチ、スピードともに分があったと言えるだろう。
ニックはジャブに反応できずにかなりの被弾を
許していたし、カウンターをあわせることも
あまりできなかった。強いて問題点を挙げる
なら、やはりそこまでの重さがないことだろうか。
ただスタンドではニックが明らかにジャブや
スーパーマンパンチで怯むシーンがあったので、
威力としては十分というところだろう。
何よりも今回素晴らしかったのが、ニックの
柔術を完全に無効化して、上を取り続けて
いたことだ。バック、ハーフと次々と有利な
ポジションを取っては殴っていく。もちろんニックも
かなり善戦し、四つんばいのような体勢で
GSPの攻撃を無効化したのはルールを利用した
面白い回避だったが、結局はバックから持ち上げ
られてまたグラウンドに引きずり込まれていった。
ニックが何をしたいかを上から観察し、ニックが
好む方向に巧く誘導しているように見えた。
一番驚いたのが、バックを取った状態での
ポジションの変更だ。まるで跳び箱でも飛ぶ
かのように、ニックを中心に右に左にと
ピョーンと飛び跳ねてはサイドチェンジをして
いくのだ。ディアズが亀の状態から手を伸ばして
足や腕を狙いに来るたびに反対側に飛び移って
殴る。身体能力もさることながら、なんという
テクニックだろうか。MMAレスリングの完成形
といわれるGSPだが、その引き出しにはまだまだ
たくさんの隠された技術があるに違いない。
ニックのセオリーから外れた柔術のおかげで
また新たなGSPの技を見れたのは嬉しい
誤算だった。
そしてやはり特筆すべきは、そのタックルの
成功率だろう。今回の試合でも、ニックはここぞと
いうところで結局テイクダウンを許して削られ続ける
ことになった。中盤では打撃を避けようとしすぎる
ために成功率が落ちてしまったが、その後は
持ち直して打撃を当てつつまたタックルを成功
させていた。MMAレスリングの究極はGSPに
あるといって差し支えない。やはりその秘訣は
タイミングにあると思う。相手の動きはじめを
潰す瞬間でタックルに入るのだ。これは言うのは
簡単だが、実際の動作を考えてみれば超人並の
反射速度と体さばきが必要なのではないかと
思う。また、それを活かすための打撃のスキルも
必須だ。今回打ち合いで少し怯んだがために
明らかにタックル成功率が落ちたが、やはり
タックルは打撃のプレッシャーがあってこそ
初めて成功するものなのだろう。
試合結果は述べたとおりの圧倒的な判定勝ちで
GSPの勝利だった。スタンドでもタックルとローを
警戒していつものようにパンチを打てないニックを
相手に、ジャブや蹴りでガンガンと削っていった
GSPのほうが遥かに手数でも勝っていた。
さすがのGSP、予想通りの圧勝ということで、さらに
防衛回数を延ばして絶対王者、アンデウソンの記録に
一歩近づいたといえるだろう。
進化を続けるGSP、次に望むものは?
今回も圧勝のGSP、もはやその強さは誰も
疑いようが無いものだ。ニックに勝ち目が無いのは
最初のラウンドで早々に明らかになった。ニックは
パンチが得意とはいえ、必ずしもワンパンチKOが
できるようなタイプのパンチではない以上、削りあいで
GSPに負けるのは当然の結果だった。
だが、今回もGSPは試合をフィニッシュすることは
無かった。これで6試合連続の判定決着となる。
GSPはその強さに対しては見合わないほどに
フィニッシュが少ない選手だ。GSPを毛嫌いする
ファンの中には、やはりそのなぶり殺しのような
スタイルが気に食わない、という人も多い。退屈な
戦い方だと言われることもある。リスクを負わず、
KOを狙わない姿勢はファイターではないと
いう人もいる。
しかし自分は退屈だとは思わない。なぜなら
GSPは攻めるからだ。今回の試合でも、常に前に
出てプレッシャーをかけ、仕掛けていったのは
GSPのほうだった。カウンター待ちだったのは明らかに
ディアスだ。「ラッシュ」の名前に偽りはない。彼は
ちゃんと自分から攻めて手数を出し、信じられない
運動量で5R動き続ける。だから決して試合が
つまらないとは思わない。
運動量で5R動き続ける。だから決して試合が
つまらないとは思わない。
GSPがなぜフィニッシュに行かないか、それは
相手の余力が残るうちに無理に仕掛けると、
大きな隙を生んで逆転を許してしまう可能性が
あるからだ。KO決着は魅力だ。誰だってスカッと
フィニッシュをしたいと願う。だが、その欲に負けて
無理をすれば、あっという間にひっくり返されて
しまうのがMMAなのだ。ダウンを取って追撃を
かけた選手が、勢いづきすぎるあまりカウンターを
もらって盛大に逆転負けするシーンを目にする
ことも多いと思う。GSPは、自分の苦い敗戦経験
からあのリスクを避けることを学んだのだ。だから
相手を完全に無力化しきるまでフィニッシュは
狙わない。もしかしたら、8Rくらいまであったら
GSPは全試合フィニッシュをしているのかもしれない。
しかしこの戦い方は、一方で別のリスクも孕む。
試合が長引けば長引くほど、逆転の可能性もまた
存在し続けるからだ。GSPも所詮は人の子だ。
ダメージを受ければ判断が鈍るし、スタミナだって
だんだんと減って必ず精彩を欠いてくる。
思い出して欲しい。コンディット戦では、ちょうど
試合の中盤に当たる3Rで、少し疲れ油断した瞬間に
痛烈な左ハイでダウンを奪われてしまった。
今回もやはり3Rで、挑発に乗ってわずかに
打ち合ってしまったがためにいいパンチを貰い、
少しばかり危ないシーンを見せてしまった。
実はGSPはさほど打たれ強くはない。ダウンもするし、
KO負けの経験だってある。
何が言いたいのか、それは来るべきスーパー・ファイト、
アンデウソンとの対決においてここがネックに
なってくるのではないかということだ。ミドル級の
絶対王者、PFPランキング1位のアンデウソン・シウバの
最も恐ろしいところは、そのフィニッシュ率の高さにある。
彼はチェール・ソネンとの一戦目、圧倒的に劣勢で
5Rの終わりまでほぼ一方的にやられ続けた。
判定で行けば誰が見てもソネンの勝ちはゆるぎない、
そんな展開だった。だがスパイダーは諦めていなかった。
最後の最後、わずかな隙をついて一瞬で三角締めで
ソネンを捉え、逆転勝ちしてしまったのだ。
勝負への嗅覚、相手の隙を狙って放つ毒針のような一撃、
これはGSPのファイトスタイルにとって最も相性の
悪い要素となるだろう。もしコンディットのハイや
ニックのパンチが、アンデウソンの一撃だったら?
恐らくGSPが再び立ち上がることは無いだろうと思う。
究極的にリスクを排除するにはフィニッシュが
最上の方法である。判定結果に煩わされることもない。
もちろん相手の自由を奪い、スタミナを消耗させて
無力化するというのも一つの答えだ。そしてGSPが
全くフィニッシュを狙っていないとも思わない。もちろん
隙があれば彼も狙いはするだろう。だが、それは完全に
リスクが取り除かれてからの話だ。今のGSPの戦い方は
最先端ではあるが、ここからさらにもう一歩進めなければ
アンデウソン戦では敗北の可能性が高い気がする。
フィニッシュまでに至る何か最後のワンピース、そういう
ものがあるのではないかと思っている。
ウェルターにはもう一人、フィニッシュによってリスクを
回避しようとする選手がGSPの足元に迫っている。
恐らく次のGSPの対戦相手になる男、ジョニー・
ヘンドリクスだ。この二人を相手にして、GSPが
いつものように支配できるのかどうか、非常に
楽しみな試合になりそうだ。
子供たちに夢を与え、MMAの風評を吹き飛ばし、
格闘技の面白さを伝えるために戦い続ける男、
ウェルター級王者GSP。彼のMMAへの愛は
本物だし、その飽くなき探究心と進化のための
ストイックな姿勢は見るものの胸を打ち、これからも
子供たちに多くの感動を与えてくれるだろう。
次の試合もハードな一戦になるだろうが、GSPは
またさらなる強さを見せてくれるに違いない。
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