ジョーンズの足ががが・・。UFC159の感想と分析です。以下は個人的意見ですので参考程度にどうぞ。
画像はUFC公式より
ライトヘビー級タイトルマッチ 5分5R
WIN 王者ジョン・ジョーンズ vs 挑戦者チェール・ソネン
(1RパウンドによるTKO 王者は5度目の防衛に成功)
fightmetricによるデータなんか必要ない!
完敗、ソネン教授万策尽きた王者挑戦
予想はしていた。しかし、ここまでの差があるとは誰が想像しえただろうか?蹂躙、そう形容するしかないほどの試合内容だった。
ソネン教授の作戦は誰が相手でも一つしかない。それは師匠ダン・ヘンダーソンとまったく同じ、乱戦と削りのみだ。違う点は師匠よりも強引に距離を詰めることと、スタンドで打撃によるKOをあまり狙いにいかないことだ。あくまで打撃はクリンチのためのツールである。
それでも、彼のパンチは決して悪くは無い。タックルをフェイントにしたオーバーハンド気味の右の拳の的中率は意外に高く、威力も決して低くはない。あのアンデウソンからフラッシュダウンを奪うだけの威力はある、中々の代物なのだ。
今回の対戦相手ジョン・ジョーンズは、アンデウソン以上にスタンドで長い距離を持つ。決して無理に間合いを詰めずに獲物の周囲を徘徊する肉食獣のようにゆっくりと近づき、そして圧倒的なリーチとスピードで相手をなぶり殺しにする。その際に使う最大の武器はキックだ。だからこそ、ソネン
教授の作戦は決してそこまで悪くはなかった。スタンドでお見合いになり、遠目から削られるだけというのはまず最初に回避すべき展開だからだ。
ダーティ・テクニックを駆使した作戦、一切通じず
試合が開始するといつものようにソネンさんは強引過ぎるほどに一気に間合いを詰めて右のオーバーハンドを振るう。これは相手にガードをさせて、その隙にクリンチに行くソネンさんの十八番のコンビネーションだ。じっくりと様子を見たいジョーンズはガードしながらさがり、まずは狙い通りあっさりとクリンチに持っていく。
ここからが恐らくソネンさんのゲームプランだったのだろう。ソネンさんは、各種コンバット・スポーツでは反則と定義されているダーティ・スキルを駆使する作戦にでた。彼は金網際で、やたらめったらなダーティ・ボクシングを始めとしたラフ・ファイトを展開したのだ。
相手の頭に腕を回しクリンチアッパーを放つ、首相撲で膝を打ち込む、頭を抱えられた状態で相手の腹を打つ。とにかく細かい打撃を休むことなくコツコツと当てて、ジョーンズの気が削がれ、ディフェンスが散漫になるように仕向けたのだ。
ソネンさんは事前の分析で、ジョーンズが最も嫌がることは何かを考えたのだろう。その結論はたぶんこうだ。レスラーあがりのジョーンズが最も嫌うことは何か。これまでの戦いから分析して、それは「痛み」に違いない、彼はそう考えたのではないかと思う。
ジョーンズは実際これまでほとんどまともに打撃を食らっていない。彼は圧倒的リーチを維持して打撃を避け、打ち合いを嫌い、打撃の交換をひたすら避ける傾向にある。そしてたまに打たれると明らかに嫌がる時がある。これらから、ソネンさんはここを尽いて削ってやろうと考えたのだろう。
しかし、この狙いは圧倒的フィジカル差の前に崩れ去る。
クリンチしたときにはっきりしたのは、その体格とフィジカルのあまりにも大きな差だ。ジョーンズはあっさりと体を入れ替え、ソネンさんを金網に押し付けると膝や肘を打ち返していく。その削りの威力の差も明らかだ。金網際でのダーティ・テクニックではジョーンズに分があった。それもそのはず、ジョーンズこそMMAにおけるダーティ・テクニックを駆使して王者にのし上がった、いわゆる新世代ファイターの筆頭だったからだ。
それでも持ち前のレスリング・スキルを駆使して、体格差とフィジカル差がありながらよく善戦はしたと思う。相手の呼吸を見ながらあの手この手でソネンさんは状況を好転させようとしていたし、その工夫は見て取れた。しかし、それも時間の問題だった。ソネンさんはレスラーにとっては最大の屈辱である、お手本のようなダブル・レッグで尻を引っこ抜かれてテイクダウンされてしまう。
ボーンズ、足の親指がへし折れるほどの獰猛なストンピング
倒されてからのパウンドはもはや悪夢だった。必死にガードに持ち込むものの、体格差があるためにすでにまったくガードになっていない。ジョーンズ相手では、ノーガード・ポジションとも呼ぶべき状態なのだ。彼はガードの体勢からでも容赦なく肘が打ち込めてしまうのだ。そしてレスリングに長けているソネンさんは、はっきりいえば柔術のスキルはからっきしである。最近は向上したものの、それでも下から攻めることができるほどの能力は無い。
ソネンさんは抗った。襲い掛かる野獣を前に、とにかく必死で抗った。下から先に先にと自分からパンチを出し、肘を当て、とにかくジョーンズのパウンドを回避しようとあがき続ける。そしてスタンドに戻す隙を窺い続けていた。
だが無情にも、野獣はその攻める手を一切緩めない。上から体格と筋力を最大限に活かした、相手の骨を砕き折るようなエルボーを次々に振り回していく。それらが容赦なく腹や顔に打ち落とされる。ソネンさんはあっと言う間に弱り始めた。
それでもよく凌いだ。あと少しで1R終了が見えるというところまでこぎつけたのだ。だが王者はやはり嗅覚が違った。彼はここで一気にラッシュをかけてパウンドを放ってきたのだ。
彼はマットを蹴って、飛び込むようにソネンさんのボディにニー・ストンピングを叩き込む。まるで先のアンデウソン戦の再現をして、ソネンさんのトラウマを抉ろうとしているかのようだ。その飛び込む勢いたるや獰猛な獣そのものだ。そしてソネンさんのテンプルや鼻、頬骨にガツン!ガツン!と肘を当て、一瞬で血だるまにする。横で窺っていた審判は、ソレを見て慌てて止めに入った。これは当然の判断だろう。もはやソネンは完全に死に体だったからだ。
王者は当然のように1RでTKO勝利し、立ち上がってインタビューを受け始めたが、何やらローガンが下を見て顔をしかめている。カメラがすっと下がると、そこには思わず股間が縮み上がるようなものが映し出された。
ジョーンズの左親指が、へし折れてあらぬ方向にひん曲がっているではないか!背筋を怖気が走り抜ける。どうも少し骨も見えているような感じだ。笑顔のジョーンズが戦慄をさらに倍加する。どうもボディへの膝蹴りを叩き込むためにマットを蹴った際、力をかけすぎたのか左の親指を巻き込みねじれる様に折れてしまったようだ。常軌を逸した脚力である。彼は椅子に腰掛けての勝利者インタビューとなった。
ボーンズ、骨折り損のサスペンション儲け
はっきり言ってしまえば、自分はこの試合はさほど見たいと思わなかった。デイナ・ホワイトがどこのネットに顔を出したのか知らないが、彼曰くこの試合は世間が見たがっていたのだそうだ。彼は恐らく火星あたりのSNSでも見ていたのだろう。地球上のネットではどこもかしこも「試合結果が見えすぎていてつまらない」、「ソネンは挑戦する実績が何もない」、「ソネンは口先で挑戦権を掠め取った」という意見で溢れていたからだ。
結果は予想外だった。差があるとは思っていたがまさかここまで差があるとは思わなかったからだ。正直、アンデウソン戦のほうがまだ勝機があるだけマシだった。今回の試合には勝てそうな気配がほんとうにわずかだったからだ。何よりも問題だったのが、やはりソネンさんはライトヘビー級ではフィジカルで差がありすぎたということだろう。体重を増やしたとはいえ、パワーでも体格でもやはり1階級違うくらいの差があったように感じられたからだ。
余談だが、もし自分がソネンさんに作戦を授けるとしたらクリンチを使っての攻防ではなく、距離を潰してからのパンチによる乱打戦を提案していただろう。タックルをフェイントにした彼の飛び込み右フックを振り回させて、一発でもいいから当てさせる作戦が、恐らく一番勝機があったのではないかと思っている。
結局、ボーンズは5度目の防衛に成功したとはいえ、その内容たるや雑魚狩りとしかいいようがない。ジョーンズは試合のクオリティに非常に拘る。彼にとって、このような圧勝は恐らく不満が残るものだろうと思う。彼はこの後にグスタフソン戦を要求したが、こちらのほうが遥かに適切なマッチメイクだ。王者挑戦には、やはりその階級での実績というものが必要不可欠なのだと痛感させられた試合だった。
結果が明白に見えている試合をさせられて、試合内容では圧勝でありながら彼は親指に大怪我をしてしまい、長期の戦線離脱を余儀なくされた。これでグスタフソン戦はまた半年以上遠のくことになる。ボーンズからすれば、骨折り損のサスペンション儲けだ。彼のキャリアには無味乾燥な1勝1防衛が加えられたのみで、彼の怪我に見合うリターンだっただろうか?自分はジョーンズの試合に対する美学というのを非常に好意的に見ている。また美学を持ってオクタゴンにあがる選手はやはり皆強い傾向にある。ミドル級絶対王者アンデウソン・シウバも同じ考えの選手だ。金さえ稼げれば雑魚狩りでいい、などと言う奴は死ぬほど嫌いだ。それならば最初から格闘技などやらずにサラリーマンでもやればいいからだ。
一方でこの試合におけるソネンさんへの評価は何も変わらない。彼は自身の持てる全てを使って自分から攻めに行ったし、試合を組まれた以上一生懸命宣伝し、一生懸命戦った。その結果惨敗でも彼は何も恥じることはないし、自分も何も彼に対して悪く思うことは無い。あくまでもライトヘビー級の選手として実力がわからないままにジョーンズと対戦し、結果的に雑魚狩りのような形になってしまっただけでソネンさんには何一つ落ち度は無い。彼は本当によく健闘した。仮にもっと実力があったとしても、久しぶりのライトヘビー転向の一戦目で王者戦では調整もできず、発揮しきれるはずもないのだ。
自分はソネンさんは好きだし、彼の試合に対する姿勢も好きだ。また彼自身、強い奴と対戦してみたいという強い好奇心、もっというならMMAへの探究心があるのだと思っている。だから彼は筋が通っていなくても、自分が到底勝てそうに無くても試合をしたのではないだろうか。彼はいつも試合に負けてもあまり落ち込んだ素振りは無く、どこか満足げな表情をして相手を褒め称えていることからも、なんとなくそんな気がしている。彼はきっと、MMAの選手であると同時に、熱烈なMMAファンの一人でもあるのだろう。それかただのマゾヒストかのどちらかである。
自分はジョーンズもソネンさんも大好きだからこそ、ちゃんとした競争の結果としてのタイトルマッチが見たかった。そこはきちんと抑えておかないと、少しずつでも確実にスポーツとしての土台が揺らいでいくのではないかと思う。デイナもこの試合を見て、実績と蓄積がない試合は何も面白くないことがよくわかったはずだ。これに懲りたら頭を丸めて反省してもらいたいと思う。でも今回は、顔を腫らしながらもソネンさんがなんだか満足げだったからとりあえず良しとしようか。
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