以下は個人的な意見ですので参考程度にどうぞ。
WIN ベンソン・ヘンダーソン VS ギルバート・メレンデス
(スプリット・デシジョンによる判定勝利)
王者は3度目の防衛に成功
実力を疑われ続けたランキング1位の男
「おい、あいつがなんでライト級ランキング1位なんだ?」
メレンデスの話になれば、この言葉は常にセットだっ
た。彼がランキング1位になるほどの、一体どんな実
績があると言うのか?ストライクフォースの王者だっ
て?ところでそのストライクフォースという団体はどれ
だけ選手が豊富なんだ?彼はどんな強豪を倒してき
たんだい?
た。彼がランキング1位になるほどの、一体どんな実
績があると言うのか?ストライクフォースの王者だっ
て?ところでそのストライクフォースという団体はどれ
だけ選手が豊富なんだ?彼はどんな強豪を倒してき
たんだい?
この評価はメレンデスの耳にも常に入っていた。
彼の怒りは、もはや限界に達しつつあった。
ギルバート・メレンデスは、格闘技の主流がまだ日本
にあったPRIDE隆盛期にMMAデビューを果たした。
WEC、修斗、PRIDE、ストライクフォースと様々な団体
を渡り歩いて勝利を重ね、PRIDEが崩壊して多くのM
MA団体がその後釜を狙おうと凌ぎを削る群雄割拠の
時代に入ると、彼は主戦場をストライクフォースに定め
た。彼の幸運と悲運は全てこのときに決定付けられた
と言ってもいいだろう。
WEC、修斗、PRIDE、ストライクフォースと様々な団体
を渡り歩いて勝利を重ね、PRIDEが崩壊して多くのM
MA団体がその後釜を狙おうと凌ぎを削る群雄割拠の
時代に入ると、彼は主戦場をストライクフォースに定め
た。彼の幸運と悲運は全てこのときに決定付けられた
と言ってもいいだろう。
ストライクフォースの王者になったメレンデスだが、
その後UFCが頭一つ抜け出してMMA業界でトップの
団体となり、強豪選手が次々にUFCに参戦しはじ
団体となり、強豪選手が次々にUFCに参戦しはじ
めると、彼の地位は軽んじられ始めた。ストライク
フォースは他の団体と提携をして選手確保に躍起
になるが、UFCの対抗馬になりきれずに最後はズッ
ファに買収された。これでようやくメレンデスがUFC
の選手と対戦する機会に恵まれる、彼の真価が明ら
かになる。誰もがそう思っていた。
フォースは他の団体と提携をして選手確保に躍起
になるが、UFCの対抗馬になりきれずに最後はズッ
ファに買収された。これでようやくメレンデスがUFC
の選手と対戦する機会に恵まれる、彼の真価が明ら
かになる。誰もがそう思っていた。
だが、契約の関係からストライクフォースという団体を
消滅させるのには時間が必要だった。ストライクフォー
ス名義の大会を開き、そこで選手に試合をさせなけれ
ばいけなくなったのだ。デイナはもちろん手を突っ込ん
でそれなりに運営しようとした。だがショータイムはそれ
を拒み、デイナはうんざりして全てを放り出した。おか
げで選手たちはUFCが隆盛を極める中で、1年近くの
間あまりにも意味のない試合をする羽目になったのだ。
ばいけなくなったのだ。デイナはもちろん手を突っ込ん
でそれなりに運営しようとした。だがショータイムはそれ
を拒み、デイナはうんざりして全てを放り出した。おか
げで選手たちはUFCが隆盛を極める中で、1年近くの
間あまりにも意味のない試合をする羽目になったのだ。
ファンはUFCとストライクフォースの選手が衝突するの
を楽しみにしていただけにひどく落胆した。ましてや選
手にとっては、貴重な選手生命の1年を浪費するのは
を楽しみにしていただけにひどく落胆した。ましてや選
手にとっては、貴重な選手生命の1年を浪費するのは
どれほどの苦痛だったろうか。
彼はこの日、自身のキャリアの総決算となる日を迎え
た。環境や時代の移ろいに翻弄され、乱高下を繰り返
した彼の評価がとうとう定まるのだ。
た。環境や時代の移ろいに翻弄され、乱高下を繰り返
した彼の評価がとうとう定まるのだ。
スピーディでパワフル、「神の子」の恵まれたフィジカル
ベンヘンと対峙してすぐに明らかになったのは、エル・
ニーニョ(神の子)の膨れ上がって弾けそうな上半身の
分厚さだ。肩から背中にかけてが筋肉で隆起して岩の
ようにゴツゴツとしている。メキシカンなどの南米系に
多いずんぐりとした体格で、体幹とバネに秀でている
のは明らかだ。鍛え上げたベンヘンよりも一回りほど
大きく見えたのだから相当なものだろう。このフィジ
カルはまさに神の子に相応しい、神から与えられた
ギフトである。
ようにゴツゴツとしている。メキシカンなどの南米系に
多いずんぐりとした体格で、体幹とバネに秀でている
のは明らかだ。鍛え上げたベンヘンよりも一回りほど
大きく見えたのだから相当なものだろう。このフィジ
カルはまさに神の子に相応しい、神から与えられた
ギフトである。
試合が開始すると、メレンデスは前に出て先にローを
出し、パンチを当てる隙を窺い続ける。速いフットワー
クで前に出て蹴りの距離を潰し、後ろに下がらせて自
分のパンチの間合いに入るまでぐいぐいとプレッシャ
ーをかける。いい作戦だ。下がり続けては蹴りを出せ
ず、どうしてもパンチを使うことになる。パンチであれ
ば自分に分があると踏んだのだろう。そしてベンヘン
が出てくるタイミングに合わせてのカウンターを狙って
いたように思えた。テイクダウンは最初からほぼ狙って
いなかったようだ。レスリングとグラウンドには分がな
いと判断していたのかもしれない。
クで前に出て蹴りの距離を潰し、後ろに下がらせて自
分のパンチの間合いに入るまでぐいぐいとプレッシャ
ーをかける。いい作戦だ。下がり続けては蹴りを出せ
ず、どうしてもパンチを使うことになる。パンチであれ
ば自分に分があると踏んだのだろう。そしてベンヘン
が出てくるタイミングに合わせてのカウンターを狙って
いたように思えた。テイクダウンは最初からほぼ狙って
いなかったようだ。レスリングとグラウンドには分がな
いと判断していたのかもしれない。
打撃においてはパンチのハンドスピードと回転では
メレンデスのほうが上だった。確かにベンヘンは
そこまでパンチが巧くはないが、大概の選手とは渡り
あえるくらいのスキルはある。だが、やはりボクシング
に造詣が深いメレンデス相手には少し不利だった。
メレンデスはベンヘンが懐に入ると足を止めて、エル
ニーニョ現象から生まれる台風のようなパンチの暴風
を巻き起こす。暴風圏内から逃れたベンヘンの頭髪は
メレンデスはベンヘンが懐に入ると足を止めて、エル
ニーニョ現象から生まれる台風のようなパンチの暴風
を巻き起こす。暴風圏内から逃れたベンヘンの頭髪は
バラバラに乱れ、台風中継の様相を呈していた。こん
な暴風雨じゃ実況なんかできやしないだろう!アナウ
ンサーならそう言って局の上司を殴りつけているような
荒れ模様だった。
な暴風雨じゃ実況なんかできやしないだろう!アナウ
ンサーならそう言って局の上司を殴りつけているような
荒れ模様だった。
グラップリングではスキルよりもやはりそのフィジカル
の強さが光った。ライト級では破格のフィジカルを持ち、
パワーでなら圧倒的と思われたベンヘン相手にメレン
デスはまったく互角の出力を誇っていた。グラウンドで
有利なポジションを取られても、あのベンヘン相手に
その体を跳ね除けてすぐさまスタンドに戻る様は、
自分の予想を遥かに上回るパワーとスピードだった。
メレンデスはベンヘン相手に、まずパワーで負けたら
勝負にならないと筋肉量を増量させてから絞り込んだ
「ベンヘン用の特注仕様」のボディにしてきたという
ことだが、この戦略はまさにズバリといったところだ
ろう。パワーのためにスピードが犠牲になることも
なく、素晴らしい仕上がりだったと思う。
また事前に彼が話していた通り、そのフィジカルを
フルに活かした蹴り足のキャッチは見事だった。同じ
ことをエドガーがやったが、エドガーはパワーと体格
で劣っていたためにベンヘンのバランスを崩しきれず
パンチを入れるどころか反撃を受けていたが、メレンデ
スは蹴り足を掬い上げて相手を倒したり、そこにパン
チをあわせようとしていた。メレンデスのリーチならば
十分に届く距離であり、惜しいシーンもあったと思う。
ベンヘンはこれで蹴りの頻度を下げざるを得なくなって
いたので、成果はまずまずだったのではないだろうか。
速いフットワークで常にベンヘンにプレッシャーをかけ、
相手に金網を背負わせて追い込み、相手が出てくるのを
狙ってカウンターをあわせる、出てこなければそのまま
金網に追い込んでパンチの打ち合いに持ち込む。
戦略としてはシンプルだが、それを実行しうるだけの
十分なフィジカルがあったといえるだろう。
決定打を与えられないまま底を尽いたガスタンク
だが、メレンデスは一つ問題があった。蹴り足のキャッ
チができるのは、ベンヘンの左の蹴りだけだったのだ。
左足であれば、ロー、ミドル、膝と反応してキャッチを
しようとしていたが、彼はベンヘンが両足で蹴ることが
できるのを完全に失念していた。その証拠がメレンデ
スの左足のふくらはぎだ。赤く鬱血している。ベンヘンの
地を這うような右のローキックをまったくディフェンスでき
ておらず、ほとんどまともに食らっていたのだ。パンチを
得意とする選手の踏み込む足を潰すのは常套手段であ
る。これは確実に中盤以降に響いていた。
そしてお互いが交錯する瞬間や、組際などでもかなり
被弾したのがベンヘンの膝だ。序盤からもらっており、
またミドルもキャッチしたとはいえ少なからずダメージ
はある。これがメレンデスのスタミナを奪ったのは間
違いない。3R過ぎた辺りからメレンデスはバテ始め
た。4R,インターバルに入るときには肩で息をし、膝に
手をついてかなりの疲労が見えていた。パワーとスピ
ードどちらも損ねずに鍛え上げた肉体はスタミナの部
分でわずかに劣っていたのもあるかもしれない。
チができるのは、ベンヘンの左の蹴りだけだったのだ。
左足であれば、ロー、ミドル、膝と反応してキャッチを
しようとしていたが、彼はベンヘンが両足で蹴ることが
できるのを完全に失念していた。その証拠がメレンデ
スの左足のふくらはぎだ。赤く鬱血している。ベンヘンの
地を這うような右のローキックをまったくディフェンスでき
ておらず、ほとんどまともに食らっていたのだ。パンチを
得意とする選手の踏み込む足を潰すのは常套手段であ
る。これは確実に中盤以降に響いていた。
そしてお互いが交錯する瞬間や、組際などでもかなり
被弾したのがベンヘンの膝だ。序盤からもらっており、
またミドルもキャッチしたとはいえ少なからずダメージ
はある。これがメレンデスのスタミナを奪ったのは間
違いない。3R過ぎた辺りからメレンデスはバテ始め
た。4R,インターバルに入るときには肩で息をし、膝に
手をついてかなりの疲労が見えていた。パワーとスピ
ードどちらも損ねずに鍛え上げた肉体はスタミナの部
分でわずかに劣っていたのもあるかもしれない。
またパンチのスピードは素晴らしいが、その精度に
いくらかの問題があったのは否定できない。奇麗な
ヒットが少ないのだ。連打で威力があるようには見える
し、足を止めて的になるのを避けるためにベンヘンが
距離を取って逃げるシーンが多かったために攻撃して
いるように見えてはいたが、ベンヘンをぐらつかせるだ
けのビッグヒットは結局最後まで生まれなかった。せめ
て一度でもダウンなりはっきりと効かせるヒットがあれば、
試合をずっと有利に運べたかもしれない。前半で当て
られなかったために、スタミナが尽きかけた後半では
手数も減り、自分が下がることも増えていた。逆にベ
ンヘンに肘で強烈な一撃を貰ってしまうなど、やはり
不利な展開になってしまった。
結果はスプリット・デシジョンによる判定負けだった。
とりあえずやれることは全部やれた、現時点でのベスト
な内容だったと自分は思っている。
証明された実力、幕を開けた過酷な競争レース
ランキング1位は決して偽りではなかった。メレンデス
は恐らくベンヘンのフィジカルに真っ向から張り合えた
最初の選手だろう。それだけでも評価に値すること
だと思う。そしてメレンデスはあの王者を焦らせ、彼の
顔を苦渋に満ちた表情にまで追い込んだのだ。判定
で一つ勝ち取ったのも大きい。結果としてタイトルを
奪うことこそできなかったものの、次の試合が楽しみ
になるくらいの実力と可能性を十二分に秘めた素晴
らしい選手だった。
今回の敗因は複数ある。
まず一つ目に、メレンデスは攻撃の引き出しが少ない
ように思う。ローキックとパンチ以外、試合で主だった
攻撃方法は用意されていなかった。もちろん蹴りあい
を挑んでは不利だろうが、もっと積極的にTDを狙って
いってもよかったのではないかと思う。恐らくベンヘン
の柔術とレスリングをそれだけ高く評価していたのだ
ろうが、まったく狙わないのでは相手のディフェンスを
散らすことができない。TDをせずとも自分から差しあ
いにいって、クリンチで金網に押し込んでからのボディ
やアッパーなどの接近戦という手段もあっただろう。
途中の組際でのボディーやボディーストレートはいい
ものがあった。特に4Rでいいボディを打っていたが、
ボディショットをもっと多用していればベンヘンの足を
止めることが出来たのではないかと思う。
二つ目に、メレンデス自身もまた圧倒的なフィジカル
の強さを活かして勝ってきた部分が大きかったと
いうことだ。彼もまた自分と拮抗したフィジカルの選手
とやるのは初めてだったのではないだろうか。だから
こそ、そこでアドバンテージがなくなった時に、攻め手
を欠いてしまった部分はあると思う。
最後に、メレンデスは挑戦者であるならばもっとリス
クを背負って攻め込んでもよかったのではないだろ
うか。打ち合おうと思えばいけたシーンは何度かあっ
たし、自分はそこで勝負を賭けると見ていたのだが、
結局彼はそこを見逃して自ら削りあいの泥沼に
陥ってしまった。相手の不利な土俵に立たないように
しようとしすぎるところも目立った。お互いがあまりに
技術があり、フィジカルでも拮抗すればこうなるのは
仕方ない部分もあるが、だからこそ一歩踏み出した
ものにこそ勝機が訪れるのではないかと思う。
だが、今回の敗戦はメレンデスにとっては間違いなく
プラスに働くだろう。僅差であるということは、あと少し
の進化で彼は王座に手が届くということだからだ。
メレンデスは自身の敗因を分析し、あと少し何かを
改善すれば十分にベンヘンを倒せることははっきり
と理解できたと思う。
加えて、UFCにはまだまだ強豪が溢れている。今回
ネイトを見事な戦略で打ち破った長年のライバルで
あるジョシュ・トムソンを始め、MMA打撃の名手である
アンソニー・ペティス、圧倒的なパワーとレスリングを
誇るグレイ・メイナードなど彼との対戦を見てみたい
選手は多い。そしてまた様々なタイプの選手と対戦
して全てを倒してこそ、彼の本当の価値もまた定ま
っていくのだ。
もう誰も彼の力を疑うことは無い。ここから彼の、過酷
だが幻想や虚飾の無い真のキャリアがスタートする。
彼が何を考え、何を行い、そして何を得ていくのか。
強者が集うUFCで、彼ならば実力に見合うだけの結果
を必ず勝ち取れるだろう。さあ神の子よ、あなたの持て
る力の全てを見せてくれ。この場所でなら、彼の持つポ
テンシャルはきっと全て引き出されるだろう。
スムース、苦難の防衛戦
乱れてバラバラと額に落ちた髪を掬い上げるたびに、
眉根を寄せて相手を見据える険しい表情が露になる。
ベンソン・ヘンダーソン、その彫刻のように均整の取れ
た美しくしなやかな肉体と、蹴りを主体にくみ上げられ
た卓越したMMA技術を持ったUFCライト級王者は、そ
の時明らかに追い込まれていた。その顔には予想外
だという驚きと、勝利をもぎ取るためには何とかしなけ
ればいけないという焦りがはっきりと表れていた。
彼はこの試合の前まで、人生の絶頂にあったといえる。
エドガーからベルトを奪い、そして再戦で防衛を果たすと、
続くネイト・ディアズを赤子扱いして一方的に試合を運び、
その強さを完全に知らしめたのだ。世間の評価は一気
にあがり、彼は様々なメディアで王者としてコメントを求
められるようになった。彼が嬉しそうな表情でコメントを
しているのをかなり見かけたように思う。そしてこの防衛
戦では、そのような状況も相まって世間はベンソン・ヘ
ンダーソン勝利を予想する人が圧倒的な状況となって
いた。UFCの勝利予想でも、ベンヘンがサブミッション
で勝利すると予想する人が7割を超えていた。彼は今、
それくらい実力を評価されていたのだ。
だからこそ、試合中の彼の戦いぶりと表情は、その
前評判からは想像もつかないものだったのは間違い
ない。そして誰よりも、ベンヘン自身が予想だにして
いなかったのではないだろうか。この苦戦を予想して
いたら、試合中に彼の表情はあそこまで険しい苦渋
の顔になるわけがないからだ。
実力拮抗、負けられない戦いで攻め手を失う王者達
ベンヘンのメレンデス対策は、とにかくメレンデスの
得意な打ち合いに持ち込まれないこと、距離を維持し
て彼のパンチがあたる距離で足を止めないことだった
ように思う。恐らくパンチの打ち合いがそこまでのレベ
ルではないことをベンヘンはよくよくわかっていたのだ
ろう。これはセオリーどおりであり、極めて普通の戦略
である。そして自分の距離で蹴りを使い一方的に削り、
隙があればTDやパンチも狙っていくというものだった
のだろう。
しかし試合開始早々にこのゲームプランは破綻すること
になる。メレンデスが蹴り足をキャッチし、そこを狙って
攻撃をしてきたのだ。恐らくベンヘンは、エドガーとの
対戦経験から蹴り足をキャッチされても大丈夫だと
踏んでいたのかもしれないが、体格が自分と同じで、
パワーも五分の相手ではさすがにそううまくいくはずが
なかった。メレンデスは蹴り足をキャッチし、かなりの
力でそれを持ち上げてバランスを崩したところにパンチを
打ち込もうとした。ベンヘンの顔にははっきりと焦りの
色が浮かんでいた。彼は、メレンデスのフィジカルを
読み違えていたのだ。
それでも試合が進むにつれ、メレンデスは右のロー
に反応しきれずにかなりの被弾をする。中盤以降は
はローが面白いようにあたりはじめる。また組際での
膝、飛び込んでの肘、足へのパンチ、そして関節蹴り
などメレンデスのパンチを殺すあらゆる手段を用いて
最終的には優位に運んでいたと思う。特に関節蹴り
は明らかにメレンデスに不具合を起こしていた。
そしてベンヘンの足の低い位置を狙うローは、同時に
足払いのような効果も兼ね備えている。ローが当たった
時に、何度か奇麗にメレンデスが転がされることがあった。
このときに凄まじいスピードで飛び掛り、一気に試合を
極めようと襲い掛かったのはさすがの動きである。彼は
昔から相手がバランスを崩したときの追撃が素晴らしく、
その動きは獰猛な獣そのものだ。
だが、フィジカルとレスリングでも高水準を誇るメレンデス
は、ここでの危機回避に素晴らしい動きを見せる。バックを
取られたときも一気に突き放してスタンドに戻してしまった。
これには恐らくベンヘンもかなりの衝撃を受けたに違いない。
それでも、4Rに上を取ったときにはラウンド終了間際にかな
り重い肘を打ちおろし、メレンデスの顔面に強烈な一撃を加
えていた。
スタンドでもグラウンドでも、お互いの得意な攻撃を防御
できてしまったがために、双方とも大胆な攻めを行えずに
試合は停滞気味ではあった。メレンデスはパンチを打つ
ために必死で間合いを詰めるが、フットワークに優れた
ベンヘンは追い詰められることなく逃げ切ってしまう。一方
でベンヘンは距離を潰され、また蹴り足を掴まれてしまうが
ために蹴りの頻度が減り、またタックルを狙っても防御と
膂力に秀でたメレンデスを倒しきれずに結局スタミナだけを
ロスしてしまう。双竜はお互いの喉笛に噛み付いて激しく
縺れ合い、わずかに動けばどちらかが絶命する状況で
膠着してしまったのだ。
そのなかで、やはり牙を深く食い込ませたのはベンヘン
だったと自分は思う。そのポイントは打撃の精度と、MM
Aにおける独創的な攻撃の引き出しの多さだ。
数々の試練を潜り抜けた王者がその経験とスタミナで逃げ切る
MMAはミックスド・マーシャル・アーツ、混合格闘術と言う
べきものである。そこにはルールによる制限がかなり
少なく、多くのコンバット・スポーツで禁止にされている
行為が合法となるスポーツである。ほとんどの選手は
何かしらのバックボーンとなる別のスポーツがあり、そこ
からMMAの世界に入ってきているため、得手不得手が
あり、どこかしら技術やフィジカルに偏りが発生する。
MMAではこの偏りを考慮に入れて、それを有利に活か
して勝つことが重要となる。
メレンデスは元々グラウンド&パウンドと、スタンドでの
ボクシングが主武器である。加えてローキックもコンビ
ネーションで使う。だが、今回はグラウンド&パウンドの
部分を1R以降はまったく使わなかったために、実質
メレンデスはボクシングとローのみの選手となっていた。
そのために、ベンヘンは徹底したボクサー殺しをして
きた。メレンデスの左足を狙い撃ちした低い軌道の
ローでふくらはぎを痛めつけ、またローブローで膝頭を
打ち、関節蹴りで止め、さらに前に出るときは膝と
肘を多用するなど、その引き出しは非常に多彩で、そ
のどれもが効果的だったと言える。また焦って後半に
ラッシュをかけたがるメレンデスに切られるもののTD
トライをするのもさすがの判断だろう。タイミングとして
はかなりいいタックルであり、メレンデスの突進を止め
るには十分な牽制になっていた。そして時折まぜるハイ
キックもリーチがあり、そこそこのダメージがあった
だろう。
自分は、ベンヘンがパンチの距離を嫌がり下がりすぎた
ためにメレンデスが押しているように見えただけで、
ベンヘンは1,3,4,5Rは取っていたと思っている。
メレンデスはパンチをかなりの数放ってはいたが、そ
の多くはクリーンヒットしておらず、ヘッドショットでも
ベンヘンのパンチのほうが少し多かったと思う。また彼は
ストレートでメレンデスをフラッシュダウンもさせている。
序盤からコツコツと多く当てた膝、ロー、そしてキャッチ
されてはいたが当たっていたミドルキックなどで、メレン
デスは相当削られてしまった。それが後半のスタミナの
差にはっきりと出ていただろう。これらは、様々な選手と
対戦し、UFCでも飛びぬけてタフな男、「ジ・アンサー」
フランキー・エドガーと2度の対戦を潜り抜けた経験が
活きていたと思う。
勝利だけでなく内容が問われる次の防衛戦
ベンヘンはスプリットで辛うじて防衛を達成すると、
顔に喜悦の表情を浮かべてなにやら小さな箱を取り
だした。後ろには女性が立っている。何事かと見てい
ると、開けた箱には指輪が入っている。
そう、なんとベンヘンは、
「俺、この試合に勝ったら結婚するんだ・・・」
などと考えて試合に臨んでいたのである。完全な死亡
フラグである。大苦戦も納得の前フリをしていたのだ。
むしろスプリットでも勝ててフラグを回避できただけ
驚きだというべきだろう。
皮肉なことに、彼の最高のプロポーズは、会場を包む
割れんばかりの大ブーイングの中で行われることにな
った。観客は、ベンヘンの勝利にかなりの不満を持って
いたのだろうか?正直、自分も少し鼻白むものを感じざる
を得ないところがあった。
その理由は明白だ。やはり、ベンヘンには慢心があった
のが試合内容からも感じられたからだ。メレンデスは
よく対策をしてきたし、体も相当に作りこんで、こちらが
思うより遥かに強かった。それは非常に喜ばしいことで
はあった。しかし一方で、ベンヘンはメレンデスに負け
ない対策はあったとは思うが、勝ちきる対策があったよう
には見えなかったように感じるのだ。どこかベンヘンは
メレンデスを侮ってはいなかったか?試合前に勝つこと
前提でプロポーズの準備をするなど、メレンデスの力を
見誤ってはいなかったか?彼の試合でのあの表情は、
それを全て物語っていたのではないか?
ストイックに己を鍛え、そしてトップに立ったがために
モチベーションが薄らぎ隙を生むのは、何もベンヘンに
限ったことではない。ベンヘンの試合前の表情に、自分
は見覚えがあったからだ、そう、前ヘビー級王者、ジュニ
オール・ドス・サントスの、ヴェラスケス戦前の計量にお
けるあの笑顔-自分がベンヘンを見たときに脳裏を
掠めたのは、あのサントスの表情だったのだ。
今回は首の皮一枚で繋がった。だが、この内容では
勝っても決して喜ぶわけにはいかないだろう。その
ことにベンヘンは気づいているだろうか?
決して人気がどうのなどと言うつもりは無い。そうでは
なくて、貪欲な勝利への姿勢を見せて戦い続けなけれ
ば、そう遠くない日に彼がベルトを手放すときが来てし
まう、ということだ。今回のメレンデスの登場は、決して
ベンヘンが磐石の王者ではないことをはっきりと示して
くれた、彼にとってはプロポーズ以上に価値のあること
だったかもしれない。
ツイート
いくらかの問題があったのは否定できない。奇麗な
ヒットが少ないのだ。連打で威力があるようには見える
し、足を止めて的になるのを避けるためにベンヘンが
距離を取って逃げるシーンが多かったために攻撃して
いるように見えてはいたが、ベンヘンをぐらつかせるだ
けのビッグヒットは結局最後まで生まれなかった。せめ
て一度でもダウンなりはっきりと効かせるヒットがあれば、
試合をずっと有利に運べたかもしれない。前半で当て
られなかったために、スタミナが尽きかけた後半では
手数も減り、自分が下がることも増えていた。逆にベ
ンヘンに肘で強烈な一撃を貰ってしまうなど、やはり
不利な展開になってしまった。
結果はスプリット・デシジョンによる判定負けだった。
とりあえずやれることは全部やれた、現時点でのベスト
な内容だったと自分は思っている。
証明された実力、幕を開けた過酷な競争レース
ランキング1位は決して偽りではなかった。メレンデス
は恐らくベンヘンのフィジカルに真っ向から張り合えた
最初の選手だろう。それだけでも評価に値すること
だと思う。そしてメレンデスはあの王者を焦らせ、彼の
顔を苦渋に満ちた表情にまで追い込んだのだ。判定
で一つ勝ち取ったのも大きい。結果としてタイトルを
奪うことこそできなかったものの、次の試合が楽しみ
になるくらいの実力と可能性を十二分に秘めた素晴
らしい選手だった。
今回の敗因は複数ある。
まず一つ目に、メレンデスは攻撃の引き出しが少ない
ように思う。ローキックとパンチ以外、試合で主だった
攻撃方法は用意されていなかった。もちろん蹴りあい
を挑んでは不利だろうが、もっと積極的にTDを狙って
いってもよかったのではないかと思う。恐らくベンヘン
の柔術とレスリングをそれだけ高く評価していたのだ
ろうが、まったく狙わないのでは相手のディフェンスを
散らすことができない。TDをせずとも自分から差しあ
いにいって、クリンチで金網に押し込んでからのボディ
やアッパーなどの接近戦という手段もあっただろう。
途中の組際でのボディーやボディーストレートはいい
ものがあった。特に4Rでいいボディを打っていたが、
ボディショットをもっと多用していればベンヘンの足を
止めることが出来たのではないかと思う。
二つ目に、メレンデス自身もまた圧倒的なフィジカル
の強さを活かして勝ってきた部分が大きかったと
いうことだ。彼もまた自分と拮抗したフィジカルの選手
とやるのは初めてだったのではないだろうか。だから
こそ、そこでアドバンテージがなくなった時に、攻め手
を欠いてしまった部分はあると思う。
最後に、メレンデスは挑戦者であるならばもっとリス
クを背負って攻め込んでもよかったのではないだろ
うか。打ち合おうと思えばいけたシーンは何度かあっ
たし、自分はそこで勝負を賭けると見ていたのだが、
結局彼はそこを見逃して自ら削りあいの泥沼に
陥ってしまった。相手の不利な土俵に立たないように
しようとしすぎるところも目立った。お互いがあまりに
技術があり、フィジカルでも拮抗すればこうなるのは
仕方ない部分もあるが、だからこそ一歩踏み出した
ものにこそ勝機が訪れるのではないかと思う。
だが、今回の敗戦はメレンデスにとっては間違いなく
プラスに働くだろう。僅差であるということは、あと少し
の進化で彼は王座に手が届くということだからだ。
メレンデスは自身の敗因を分析し、あと少し何かを
改善すれば十分にベンヘンを倒せることははっきり
と理解できたと思う。
加えて、UFCにはまだまだ強豪が溢れている。今回
ネイトを見事な戦略で打ち破った長年のライバルで
あるジョシュ・トムソンを始め、MMA打撃の名手である
アンソニー・ペティス、圧倒的なパワーとレスリングを
誇るグレイ・メイナードなど彼との対戦を見てみたい
選手は多い。そしてまた様々なタイプの選手と対戦
して全てを倒してこそ、彼の本当の価値もまた定ま
っていくのだ。
もう誰も彼の力を疑うことは無い。ここから彼の、過酷
だが幻想や虚飾の無い真のキャリアがスタートする。
彼が何を考え、何を行い、そして何を得ていくのか。
強者が集うUFCで、彼ならば実力に見合うだけの結果
を必ず勝ち取れるだろう。さあ神の子よ、あなたの持て
る力の全てを見せてくれ。この場所でなら、彼の持つポ
テンシャルはきっと全て引き出されるだろう。
スムース、苦難の防衛戦
乱れてバラバラと額に落ちた髪を掬い上げるたびに、
眉根を寄せて相手を見据える険しい表情が露になる。
ベンソン・ヘンダーソン、その彫刻のように均整の取れ
た美しくしなやかな肉体と、蹴りを主体にくみ上げられ
た卓越したMMA技術を持ったUFCライト級王者は、そ
の時明らかに追い込まれていた。その顔には予想外
だという驚きと、勝利をもぎ取るためには何とかしなけ
ればいけないという焦りがはっきりと表れていた。
彼はこの試合の前まで、人生の絶頂にあったといえる。
エドガーからベルトを奪い、そして再戦で防衛を果たすと、
続くネイト・ディアズを赤子扱いして一方的に試合を運び、
その強さを完全に知らしめたのだ。世間の評価は一気
にあがり、彼は様々なメディアで王者としてコメントを求
められるようになった。彼が嬉しそうな表情でコメントを
しているのをかなり見かけたように思う。そしてこの防衛
戦では、そのような状況も相まって世間はベンソン・ヘ
ンダーソン勝利を予想する人が圧倒的な状況となって
いた。UFCの勝利予想でも、ベンヘンがサブミッション
で勝利すると予想する人が7割を超えていた。彼は今、
それくらい実力を評価されていたのだ。
だからこそ、試合中の彼の戦いぶりと表情は、その
前評判からは想像もつかないものだったのは間違い
ない。そして誰よりも、ベンヘン自身が予想だにして
いなかったのではないだろうか。この苦戦を予想して
いたら、試合中に彼の表情はあそこまで険しい苦渋
の顔になるわけがないからだ。
実力拮抗、負けられない戦いで攻め手を失う王者達
ベンヘンのメレンデス対策は、とにかくメレンデスの
得意な打ち合いに持ち込まれないこと、距離を維持し
て彼のパンチがあたる距離で足を止めないことだった
ように思う。恐らくパンチの打ち合いがそこまでのレベ
ルではないことをベンヘンはよくよくわかっていたのだ
ろう。これはセオリーどおりであり、極めて普通の戦略
である。そして自分の距離で蹴りを使い一方的に削り、
隙があればTDやパンチも狙っていくというものだった
のだろう。
しかし試合開始早々にこのゲームプランは破綻すること
になる。メレンデスが蹴り足をキャッチし、そこを狙って
攻撃をしてきたのだ。恐らくベンヘンは、エドガーとの
対戦経験から蹴り足をキャッチされても大丈夫だと
踏んでいたのかもしれないが、体格が自分と同じで、
パワーも五分の相手ではさすがにそううまくいくはずが
なかった。メレンデスは蹴り足をキャッチし、かなりの
力でそれを持ち上げてバランスを崩したところにパンチを
打ち込もうとした。ベンヘンの顔にははっきりと焦りの
色が浮かんでいた。彼は、メレンデスのフィジカルを
読み違えていたのだ。
それでも試合が進むにつれ、メレンデスは右のロー
に反応しきれずにかなりの被弾をする。中盤以降は
はローが面白いようにあたりはじめる。また組際での
膝、飛び込んでの肘、足へのパンチ、そして関節蹴り
などメレンデスのパンチを殺すあらゆる手段を用いて
最終的には優位に運んでいたと思う。特に関節蹴り
は明らかにメレンデスに不具合を起こしていた。
そしてベンヘンの足の低い位置を狙うローは、同時に
足払いのような効果も兼ね備えている。ローが当たった
時に、何度か奇麗にメレンデスが転がされることがあった。
このときに凄まじいスピードで飛び掛り、一気に試合を
極めようと襲い掛かったのはさすがの動きである。彼は
昔から相手がバランスを崩したときの追撃が素晴らしく、
その動きは獰猛な獣そのものだ。
だが、フィジカルとレスリングでも高水準を誇るメレンデス
は、ここでの危機回避に素晴らしい動きを見せる。バックを
取られたときも一気に突き放してスタンドに戻してしまった。
これには恐らくベンヘンもかなりの衝撃を受けたに違いない。
それでも、4Rに上を取ったときにはラウンド終了間際にかな
り重い肘を打ちおろし、メレンデスの顔面に強烈な一撃を加
えていた。
スタンドでもグラウンドでも、お互いの得意な攻撃を防御
できてしまったがために、双方とも大胆な攻めを行えずに
試合は停滞気味ではあった。メレンデスはパンチを打つ
ために必死で間合いを詰めるが、フットワークに優れた
ベンヘンは追い詰められることなく逃げ切ってしまう。一方
でベンヘンは距離を潰され、また蹴り足を掴まれてしまうが
ために蹴りの頻度が減り、またタックルを狙っても防御と
膂力に秀でたメレンデスを倒しきれずに結局スタミナだけを
ロスしてしまう。双竜はお互いの喉笛に噛み付いて激しく
縺れ合い、わずかに動けばどちらかが絶命する状況で
膠着してしまったのだ。
そのなかで、やはり牙を深く食い込ませたのはベンヘン
だったと自分は思う。そのポイントは打撃の精度と、MM
Aにおける独創的な攻撃の引き出しの多さだ。
数々の試練を潜り抜けた王者がその経験とスタミナで逃げ切る
MMAはミックスド・マーシャル・アーツ、混合格闘術と言う
べきものである。そこにはルールによる制限がかなり
少なく、多くのコンバット・スポーツで禁止にされている
行為が合法となるスポーツである。ほとんどの選手は
何かしらのバックボーンとなる別のスポーツがあり、そこ
からMMAの世界に入ってきているため、得手不得手が
あり、どこかしら技術やフィジカルに偏りが発生する。
MMAではこの偏りを考慮に入れて、それを有利に活か
して勝つことが重要となる。
メレンデスは元々グラウンド&パウンドと、スタンドでの
ボクシングが主武器である。加えてローキックもコンビ
ネーションで使う。だが、今回はグラウンド&パウンドの
部分を1R以降はまったく使わなかったために、実質
メレンデスはボクシングとローのみの選手となっていた。
そのために、ベンヘンは徹底したボクサー殺しをして
きた。メレンデスの左足を狙い撃ちした低い軌道の
ローでふくらはぎを痛めつけ、またローブローで膝頭を
打ち、関節蹴りで止め、さらに前に出るときは膝と
肘を多用するなど、その引き出しは非常に多彩で、そ
のどれもが効果的だったと言える。また焦って後半に
ラッシュをかけたがるメレンデスに切られるもののTD
トライをするのもさすがの判断だろう。タイミングとして
はかなりいいタックルであり、メレンデスの突進を止め
るには十分な牽制になっていた。そして時折まぜるハイ
キックもリーチがあり、そこそこのダメージがあった
だろう。
自分は、ベンヘンがパンチの距離を嫌がり下がりすぎた
ためにメレンデスが押しているように見えただけで、
ベンヘンは1,3,4,5Rは取っていたと思っている。
メレンデスはパンチをかなりの数放ってはいたが、そ
の多くはクリーンヒットしておらず、ヘッドショットでも
ベンヘンのパンチのほうが少し多かったと思う。また彼は
ストレートでメレンデスをフラッシュダウンもさせている。
序盤からコツコツと多く当てた膝、ロー、そしてキャッチ
されてはいたが当たっていたミドルキックなどで、メレン
デスは相当削られてしまった。それが後半のスタミナの
差にはっきりと出ていただろう。これらは、様々な選手と
対戦し、UFCでも飛びぬけてタフな男、「ジ・アンサー」
フランキー・エドガーと2度の対戦を潜り抜けた経験が
活きていたと思う。
勝利だけでなく内容が問われる次の防衛戦
ベンヘンはスプリットで辛うじて防衛を達成すると、
顔に喜悦の表情を浮かべてなにやら小さな箱を取り
だした。後ろには女性が立っている。何事かと見てい
ると、開けた箱には指輪が入っている。
そう、なんとベンヘンは、
「俺、この試合に勝ったら結婚するんだ・・・」
などと考えて試合に臨んでいたのである。完全な死亡
フラグである。大苦戦も納得の前フリをしていたのだ。
むしろスプリットでも勝ててフラグを回避できただけ
驚きだというべきだろう。
皮肉なことに、彼の最高のプロポーズは、会場を包む
割れんばかりの大ブーイングの中で行われることにな
った。観客は、ベンヘンの勝利にかなりの不満を持って
いたのだろうか?正直、自分も少し鼻白むものを感じざる
を得ないところがあった。
その理由は明白だ。やはり、ベンヘンには慢心があった
のが試合内容からも感じられたからだ。メレンデスは
よく対策をしてきたし、体も相当に作りこんで、こちらが
思うより遥かに強かった。それは非常に喜ばしいことで
はあった。しかし一方で、ベンヘンはメレンデスに負け
ない対策はあったとは思うが、勝ちきる対策があったよう
には見えなかったように感じるのだ。どこかベンヘンは
メレンデスを侮ってはいなかったか?試合前に勝つこと
前提でプロポーズの準備をするなど、メレンデスの力を
見誤ってはいなかったか?彼の試合でのあの表情は、
それを全て物語っていたのではないか?
ストイックに己を鍛え、そしてトップに立ったがために
モチベーションが薄らぎ隙を生むのは、何もベンヘンに
限ったことではない。ベンヘンの試合前の表情に、自分
は見覚えがあったからだ、そう、前ヘビー級王者、ジュニ
オール・ドス・サントスの、ヴェラスケス戦前の計量にお
けるあの笑顔-自分がベンヘンを見たときに脳裏を
掠めたのは、あのサントスの表情だったのだ。
今回は首の皮一枚で繋がった。だが、この内容では
勝っても決して喜ぶわけにはいかないだろう。その
ことにベンヘンは気づいているだろうか?
決して人気がどうのなどと言うつもりは無い。そうでは
なくて、貪欲な勝利への姿勢を見せて戦い続けなけれ
ば、そう遠くない日に彼がベルトを手放すときが来てし
まう、ということだ。今回のメレンデスの登場は、決して
ベンヘンが磐石の王者ではないことをはっきりと示して
くれた、彼にとってはプロポーズ以上に価値のあること
だったかもしれない。
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