2013年9月7日土曜日

UFN27・28、UFC164 感想と分析まとめ

ここ最近あった3大会のその他の試合の寸評です。
以下は個人的な意見ですので参考程度にどうぞ。

INDIANAPOLIS, IN - AUGUST 28:  (L-R) Hatsu Hioki kicks Darren Elkins in their featherweight fight during the UFC on FOX Sports 1 event at Bankers Life Fieldhouse on August 28, 2013 in Indianapolis, Indiana. (Photo by Ed Mulholland/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)
UFN27

フェザー級5分3R
WIN ダレン・エルキンス vs 日沖発
(ユナニマス・デシジョンによる判定勝利)

敗因はフィジカル差とTDディフェンス、3戦連続で同じ展開に

INDIANAPOLIS, IN - AUGUST 28:  (R-L) Darren Elkins takes down Hatsu Hioki in their featherweight fight during the UFC on FOX Sports 1 event at Bankers Life Fieldhouse on August 28, 2013 in Indianapolis, Indiana. (Photo by Ed Mulholland/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

今回もスタンドでは巧さが光る日沖だったが、チャンスでの焦った攻撃でスタミナをロスしたこと、パワー負けしているせいでグラウンドから脱出できず、相手に長時間コントロールされたことにより敗北した。日沖は全ての試合で同じ負け方をしていると思う。打撃では常に勝っており、リーチのある左ジャブも、相手の急所を突き刺す前蹴りも有効だった。今回もエルキンスのボディに当てた前蹴りはほぼダウンに近いダメージを与えた。しかしその後のラッシュで焦ってしまい、無理な攻撃をしたことでかなりのガス欠になったように思う。さらにその後、打撃で不利と見たエルキンスがテイクダウンを狙ってくるのに対処できず、テイクダウンされてそのまま長時間トップを取られてしまった。クリンチやグラウンドでのフィジカル差でどんどんと消耗し、3Rにはもはやグラウンドから脱出することをあきらめてしまったようにも見えた。

日沖の課題は明らかだ。フェザーでは大きい180センチという体格でありながら、日沖は減量に苦しんでいるようには見えない。つまりフィジカルをさほど作りこんでいないということだ。ラマス、グイダ、エルキンスと誰を相手にもスタンドの技術では勝っていながら、フィジカルで押し返されて負けている。彼は勝てる試合をみすみすドブに捨てているようにしか見えない。今回3連敗でリリースされなかったのは、彼はどの試合でも光るところを見せているからだ。とても独特なスタンド・スキルを持っているし、まだまだ伸びる余地も感じさせる。フットワークなどもケージに対応しつつある。しかしまず最優先すべきはフィジカルの強化だろう。組み負けない力とスタミナだ。強豪を相手に負けない日沖のスタンド・スキルは相当なレベルにあると思っている。だがそれも最低限彼らと匹敵するフィジカルがあってこそ初めて意味を成す。次で負けたら今度は確実にリリースだろう。このまま埋もれさせるには、あまりにも惜しい才能だ。日沖にはなんとしてでもUFCに残って欲しいと思っている。

UFC164

ヘビー級5分3R
WIN ジョシュ・バーネット vs フランク・ミア
(1R クリンチからの膝蹴り)

ウォーマスター、見事な戦術で完封勝利

MILWAUKEE, WI - AUGUST 31:  (R-L) Josh Barnett puts a knee to the head of Frank Mir in their UFC heavyweight bout at BMO Harris Bradley Center on August 31, 2013 in Milwaukee, Wisconsin. (Photo by Ed Mulholland/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images) *** Local Caption *** Frank Mir; Josh Barnett

昔から、「ウォーマスター」ジョシュ・バーネットは好きな選手だった。彼の最大の魅力は「喧嘩がうまい」というところだ。フィジカルはひどいもので、色白の肌と合わさって巨大な鏡餅のようだ。とてもアスリートの身体ではない。スタンド・スキルもパンチは巧くないし、蹴りだって巧くない。タックルが速いわけでもなければ、柔術に特に秀でているということもない。スタミナだって怪しいものだ。ただ彼は手持ちの武器の使い方の巧さとメンタルの強さで、それら全てを容易くカバーしてしまうのだ。タイプとしてはロイ・ネルソンなどに近いだろう。曲者、トリックスターの素質だ。

シェイプが悪く、長期戦が不利なウォーマスターは打撃を恐れずさっさと距離を潰して相手にクリンチを仕掛ける。クリンチこそがウォーマスター最大の武器だ。彼はミアと組み付くと、さっそく膝と肘、そしてダーティ・ボクシングを駆使してミアを削り始める。距離を取りたいミアの腕を巧みに掴み、そして金網に押し付けて体重を預け、相手の自由を奪い取る。逃れようと足掻くミアに隙が出来るたびに、肘やら膝を打ち込み、結局嫌がるミアの頭を手でぐいっと暴力的に押し下げたところに膝を打ち込むと、ミアは腰からストンと崩れてしまった。まだ続行できそうにも見えたが、ジョシュが頭を押し下げていたのもあって危ない倒れ方に見えたため、レフェリーはそのまま試合を止めてウォーマスターが完全な作戦勝ちを収めた。

フランク・ミアは不服として抗議し、UFC社長デイナ・ホワイトはレフェリーを激しく非難した。ミアいわく、あまりにも悪いポジションを取られ、さらにそこにひざを打たれたのでそのままシングル・レッグに行こうとしていたのだという。それもあって腰が落ちたように見えたのかもしれないが、ただ映像を見直す限りは結構効いていたのではないかと思う。ミアは実際窮地から逆転勝ちを収めたこともあるし、またジョシュのスタミナはかなり怪しいと思うのでグラウンドで長引けばまた違った展開もあったかもしれない。しかしそもそもあそこまで何も出来ずに追い込まれた時点で勝敗は決していただろう。

フランク・ミアはあのパワーでありながらクリンチの展開に弱く、ロイ・ネルソン相手にはクリンチで泥仕合を演じ、シェーン・カーウィンやダニエル・コーミエにはクリンチの展開で敗れている。特にコーミエ戦ではクリンチで金網に押し付けられてからまったく脱出できずに削られ続けた。ジョシュが研究してきたかどうかは知らないが、クリンチが異常に強いジョシュからすれば相性がよかったところもあるだろう。

またフランク・ミアはスロー・スターターであり、近年とくにその傾向が強い。ダニエル・コーミエの試合でも3Rになってから素晴らしいミドルキックなどでコーミエにかなりのダメージを与えた。追い込まれてからが強いのはいいが、結局それはリスキーな試合展開だ。今回の試合でも、相手の様子を見ているうちにクリンチに持ち込まれ、あっという間に負けてしまった。クリンチで露骨に焦っているのが見えていた。あれでは勝てないだろう。途中でいらだったミアが振り回した左フックがジョシュのテンプルに当たると、少しジョシュの腰が落ちかけたので間違いなく効いていたと思う。純粋な打撃ならミアのほうが強かったはずだ。彼は距離を取り、フットワークを使ってひたすらに逃げ回りながら自分からミドルなりきちんとしたワン・ツーなりで手を出していけば、ジョシュは早々クリンチにこれなくなっただろう。もっと自分から攻めなければ駄目だし、少し相手を研究していないのではないかという気がする。

ジョシュは今回も自分の強みを最大限に活かして見事にUFC復帰後初勝利を飾った。しかしそのシェイプは最悪だ。長期戦になったときにかなりまずいことになるように思う。そしてやはり相変わらず打撃はヘタクソだった。オフェンスもさることながら、顔を下げて手を前に出してクリンチに行くスタイルはやはり危険だ。今回はミアが焦ってばたばたしたから助かったものの、その中でパンチを被弾して少し効いていた。もしもっときちんとしたボクシングができる相手とやったとき、足を使ってコツコツと削られたらあっさりと負けてしまいそうな気もする。顎が頑強で打たれ強いので多少の打撃なら凌げるかもしれないが、恐らく上位陣には彼が経験したことの無いような強烈なストライキングを使う奴がいる。そういう選手と対峙したときにウォーマスターの真価が問われるだろう。ともあれウォーマスターのUFC帰還は喜ばしいことだ。彼との対戦を見たい選手は大勢いる。彼にはどんなに劣勢でも何とかしてくれそうなところがある。いやらしい闘い方をさせたら彼の右に出るものはいないだろう。次の対戦相手は誰になるのか、今から考えるだけでも楽しくなってくる。

フェザー級 5分3R
WIN チャド・メンデス vs クレイ・グイダ
(3R 右フックによるKO)

頑丈で知られるグイダを粉砕、常軌を逸したメンデスのフィジカル

MILWAUKEE, WI - AUGUST 31:  (R-L) Chad Mendes punches Clay Guida in their UFC featherweight bout at BMO Harris Bradley Center on August 31, 2013 in Milwaukee, Wisconsin. (Photo by Ed Mulholland/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images) *** Local Caption *** Chad Mendes; Clay Guida

どんなトレーニングをすればメンデスのような身体になるのだろうか。アメリカン・コミックのデフォルメされたヒーローのような体型と、エドガーによく似た童顔が合わさってくだらないコラージュのようだ。そしてそのフィジカルは、決して見掛け倒しではなかった。

今回は作戦を戻して積極的に前に出るグイダを相手に打撃で圧倒、苦しくなったグイダがテイクダウンを狙うがことごとく切っていく。グイダのしつこいタックルと凄まじいパワーによるテイクダウンは防御が難しく、これまで多くの選手がグラウンドに引きずり込まれたが、メンデスはそれを遥かに上回るパワーとスピードだった。完璧なタイミングのグイダのタックルすら、足に組み付かれた後に反応して弾き飛ばすようにタックルを防いでいる。反射速度とバネ、スピード、パワーとどれもが少し信じがたいレベルだった。完全なフィジカル・モンスターだ。

攻守ともにメンデスに制圧され、いよいよ打つ手が無くなったグイダは3Rにとうとう捕まり、メンデスが凄まじいハンドスピードで右フックを振りぬくとあのタフなグイダが吹き飛ばされてダウンした。あのパンチを耐えることはグイダといえども不可能だったようだ。メンデスの完勝だった。

メンデスは明らかに打撃もフィジカルも向上しており、これならば王者ジョゼ・アルドと対戦しても前回と同じ展開にはならないかもしれない。ここ数試合をどれも最高の勝ち方をしている。4戦全てが1RKO勝利だ。日沖に判定で勝ったエルキンスもワンパンチで仕留めている。彼はアルドに負けたことにより、新たな成長を遂げたのかもしれない。自信に漲るメンデスは王者戦を要求した。今の彼にはその資格が十分にあるだろうと思う。今後の活躍に期待していきたい。

そして負けたグイダはスタイルを以前のアグレッシブなものに戻していた。もっとも、この試合でスティック&ムーブを使ったところで結果は変わらないだろう。相変わらずの勝負強さであり、あれこれと手を変え品を変えてメンデスを揺さぶろうとするのはとてもいい攻めだったし、テイクダウンの混ぜ方も素晴らしかった。しかしそれらがメンデスに通用しなかったのは残念だった。決してグイダが悪いわけではない。メンデスが少し強すぎただけだ。他のフェザー級コンテンダーを見回してみても、グイダがこれから上位に留まるのは中々に厳しいかもしれない。

ヘビー級 5分3R
WIN ベン・ロズウェル vs ブランドン・ヴェラ
(3R パンチ→パウンドによるTKO)

バルンバルン!ロズウェルが不思議な踊りからのTKO勝利!

MILWAUKEE, WI - AUGUST 31:  (R-L) Ben Rothwell punches Brandon Vera in their UFC heavyweight bout at BMO Harris Bradley Center on August 31, 2013 in Milwaukee, Wisconsin. (Photo by Ed Mulholland/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images) *** Local Caption *** Ben Rothwell; Brandon Vera

体重差がかなりあった試合だった。身長はさほど変わらないものの、身体の厚みはロズウェルのほうが一回りほど厚かった。体重差は12キロだという。1階級くらいの差であり、そしてその差はかなり試合に影響した。

足を使って距離を取り、打撃で削っていくヴェラの作戦は決して悪くなかった。ミドルやパンチもいいのが当たった。ロズウェルは必死で追うが中々捕まらない。このまま判定でヴェラが勝つように思っていた。

しかし体重差のためか、元々ロズウェルが異常にタフなのかはわからないが、打撃がクリーンヒットしてもロズウェルにはあまりダメージが入っているようには見えず、実際彼の動きはあまり落ちなかった。そしてその巨体のプレッシャーは凄まじく、金網に追い込まれたときにヴェラが異常に小さく見えた。そして酷く逃げにくそうだ。まるで立ちはだかる肉の壁だ。男性ホルモンの塊のような胸と腹で視界を塞がれるヴェラの恐怖が痛いほどにわかった。

そして3R、ヴェラがいくら身が相手より軽いとはいえさすがに100キロ以上の体重だ。動き回ってスタミナがなくなりかけ、手数が減って足が止まり始めたときだ。これまで追っ掛けまわしても捕まえられずにいらだっていたロズウェルが、突如として両腕を上げ、バルンバルンとその巨体を揺さぶりながらヴェラに迫ると、狂ったようにパンチのラッシュをかけ始める。ヴェラがどこか押してはいけないスイッチを押したのだろうか?こういう動きをする改造アメリカ車を見たことがある気がする。これがかなり的確な上に凄まじく速く、一気に壁際まで追い込むとそのまま畳み掛けてヴェラを殴り倒し、まさかの逆転勝利をしてしまった。ヴェラはもう相手にスタミナがないと思って油断していたのか、自分のガスが無かったのか、踊り出したロズウェルを見て頭が真っ白になってしまったのかはわからないが、これまで逃げ回っていたのが嘘のようにあっさりと捕まってしまった。

最後まで我慢し、勝負どころで一気にまとめあげたロズウェルの見事な勝利だった。しかしあの踊りは一体なんだったのだろうか。自分が対戦相手だったら笑い出して動けなくなっていたかもしれない。毛むくじゃらの胸と腹の肉が躍動し、顔面に狂気じみた笑顔を浮かべたロズウェルは、ブランドン・ヴェラの心に深い傷跡を残しただろう。ヴェラの精神が崩壊していないことを願うばかりだ。

UFN28

ミドル級5分3R
WIN ホナウド・ソウザ vs 岡見勇信
(1R 右フック→パウンドによるTKO)

打撃恐怖症発現?岐路に立たされた日本の英雄

BELO HORIZONTE, BRAZIL - SEPTEMBER 04:  (L-R) Ronaldo "Jacare" Souza knocks out Yushin Okami with a punch in their middleweight fight during the UFC on FOX Sports 1 event at Mineirinho Arena on September 4, 2013 in Belo Horizonte, Brazil. (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

岡見勇信が何もできずに敗北した。わずか1Rでのことだった。ソウザは序盤から右のオーバーハンドを振り回すと、岡見はそれがまったく見えておらず、序盤でそれを貰うと顔を下げて頭を覆った。そこに後ろを取ったソウザがパンチを次々と当てていく。これはガード越しだが、プレッシャーをかけるには十分だ。恐らくそれで当たると思ったのだろう。ソウザはその後、岡見に3連発、全部同じ軌道のオーバーハンドを叩き込み続けた。2発目が当たって下がった岡見がワンツーを出し、それを避けられると膝蹴りを狙ったが、ソウザはこれにカウンターでまたしてもオーバーハンドを叩き込み、これが顎に直撃して岡見は崩れ落ちた。

まず驚いたのがソウザのフィジカルだ。もっと小柄だったように思うが、いつのまにかかなりの身体の厚みになっていた。そこまで絞り込んでるわけではないが、パワーはそこそこ、身体のキレは素晴らしかった。ただ岡見と組み合った際にクリンチでは押し負けており、投げを潰されて下になっていたからパワーだけならミドルでは普通といったところだろうか。

次にボクシング技術だ。ここまで打撃が巧かったのも驚いた。今回一番衝撃だったのは彼のディフェンスの巧さだ。序盤からヘッドスリップを使って岡見のストレート系の打撃をすべて回避した。恐らくジャブは一発も貰っていない。岡見がこれまでやってこれたのはそのジャブの強さにあったが、これがまったく機能しないためにソウザのプレッシャーを押し返せなかった。ソウザは落ち着いてパンチをよく見ていた。打撃は曲線軌道のパンチばかりだったが、そのハンドスピードはかなりのものだった。

結局ソウザはミドル級3位をあっさりと撃破した。ダメージも無く、すぐに次のコンテンダーと対戦できるだろう。彼もまたUFCでは対戦を見てみたい選手が大勢いるので、なるべく早く次の試合を組んで欲しいところだ。ミドル級は少し上位陣が手薄な感があったので、リョートのミドル登場と合わせてとても嬉しい選手の登場だ。是非次はグラウンドの展開も見たいと思う。

そして肝心の岡見についてだ。アンデウソン・シウバ以来、明らかに打撃に対する反応がおかしくなっているように思う。アンデウソンとボッシュへの2連敗で、精神面に大きなダメージを負ったのはほぼ間違いないだろう。彼はアンデウソン戦以来、勝っても負けてもかなり危ういシーンが多く見られるようになった。いい打撃を貰うと、そこから身体が巧く使えなくなるように見える。

今回の試合でもそれは見られた。序盤、ダウンするほどではないにしろそこそこのオーバーハンドを一発貰うと、壁際で頭を抱えて顔を下げて横に逃げようとしていた。クリンチに行くか、タックルに行くか、ガードを上げて足を使ってサークリングで逃げるところだろう。結果彼はあっさりと背中を取られ、後ろから散々にパンチを打たれた。決してダメージがそこまであったようには見えない。だが彼は過剰に怯み、本能的に防御反応を取ってしまっているように見えた。

この症状が出る選手は決して少なく無い。ガラスの顎を持つアンドレイ・アルロフスキーはKO負けを重ねるうちに、いつしか打ち合いで足が止まって体が硬直し、まるでKOされるのを待つかのような状態になった。ミルコ・クロコップはディフェンスが崩壊し、相手が打ってくると必死に顔を下げてハイガードに閉じこもるようになってしまった。マルティン・カンプマンやフランク・ミアのように、異常なスロー・スターターになる選手もいる。少しいい打撃を貰わないと身体が動き始めないのだ。最たる者はアリスター・オーフレイムだろう。彼はディフェンスが機能するときもあるが、少し効かされると腰が引け、本能的に顔を下げて両腕を上げ、まるで相手の攻撃に怯えるかのように亀になってしまう。そして相手が接近してくると必死に両腕を突き出し、顔を下げて相手から逃れようとする。岡見はこのアリスターに近いように思う。

そして多くの選手はこの弱点を狙ってきている。ロンバード、ベルチャー、そしてソウザと、岡見はガンガンプレッシャーを掛けられると脆いということを把握されているように思う。そして実際、岡見は一回そうなると手数が減って思考が停止し、そのまま一気に劣勢になる。今回も恐らく技術ならソウザにそこまで後れを取ってはいない。フィジカルも岡見のほうが強いだろう。だが彼は一発貰ってそのまま瓦解してしまった。

この症状が出て再び元に戻った選手を見たことが無い。これは岡見の今後に致命的な要素になると思う。相手のパンチはますます見えなくなっていくだろう。PTSDの一種だと思うので、スポーツ心理学やメンタル・トレーニング、メンタルケアの分野ではないだろうか?一対一のメンタル・ゲームの要素が強いMMAでは、今後この分野の知識は必要不可欠になっていくだろう。あらゆる方面から、このトラウマを解消する手段を探す必要があるように思う。漫然と練習しても解消しないのではないだろうか。

いっそ戦略を完全に変えてしまうのも手だろう。今回一発いいのを貰った後、岡見はスタンドにこだわり続けてひたすらにジャブを当てようとしすぎていた。だが今の岡見がスタンドで勝負しても有利になるとは思わない。途中でソウザの投げを潰したときに上を取ったが、あそこで離れたのは一番不可解な行動だった。相手が柔術に長けているとはいえ、岡見もまたグラウンド&パウンドの選手だ。あそこでスーザのトップを取って、ひたすらに殴って削るほうが遥かに戦略的にはスマートだったように思う。クリンチではソウザを上回ったわけだし、なぜあそこでスタンドに戻したのか。彼は絶好の機会を逃したように思った。岡見はクリンチが強く、フィジカルではそこらの外国人選手を遥かに凌駕している。それならば、もっと自分からタックルなりクリンチを仕掛けて、どんどんテイクダウンして殴っていくほうが、今のように無理にスタンドでやりあおうとするよりはいいだろう。

UFCで最も活躍している日本人選手として、岡見には今だ大きな期待が掛かっている。技術もフィジカルも申し分ない。年齢的にも今がピークだろう。ただここに来て、メンタルと目の問題からそれらを大きく損ない、今後のキャリアに暗い影を投げかけている。今回の試合で、ますます他の選手は岡見にラッシュを仕掛けてくるだろう。あの反射的に顔を下げて頭を覆う行為を何とかして改善しなければ、これからトップに留まるのは至難の業だ。悔しいがこれも格闘技の一部、こういう症状が出ることもある。この症状が出た選手の凋落が激しいのを私達は目の当たりにしてきた。メンタルの問題は精神論ではどうにもならないし、科学的なアプローチでのみ改善するように思う。日本の英雄には、何としてもこの苦境を脱して再び王座にまでたどり着いて欲しいと願ってやまない。

ライトヘビー級 5分3R
WIN グローバー・ティシェイラ vs ライアン・ベイダー
(1R パンチ→パウンドによるTKO)

メンタル面でまたしてもトラブル発生、ベイダーが勝利を逃す

BELO HORIZONTE, BRAZIL - SEPTEMBER 04:  (R-L) Glover Teixeira knocks down Ryan Bader with a punch in their light heavyweight fight during the UFC on FOX Sports 1 event at Mineirinho Arena on September 4, 2013 in Belo Horizonte, Brazil. (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

フィジカルの仕上がりが素晴らしかったライアン・ベイダーは、スタンドでティシェイラに優勢だった。ストレートがよく伸び、かなりのスピードもあったように思う。そしてベイダーの打撃をもらってバランスを崩したティシェイラに、勝利に飢えたベイダーが浮き足立って猛攻を仕掛けたが、ティシェイラはそこまでのダメージがなく、そのまま落ち着いて立て直すとシンプルなワンツーを置きに行くように放った。それが完全に舞い上がったベイダーのがら空きになった顎を直撃、ベイダーは何が起こったのかわからないままにマットに倒れてしまった。ベイダーは勝てる試合を逃した。

ここ最近のベイダーはどうにも実力を発揮しきれない状態が続いている。ケチの付きはじめはやはりティト・オーティスに負けたことからだろうか。無理に攻め込んでは、カウンターで散る玉砕戦法が様式美となりつつある。彼もまた、メンタル面で問題を抱えているようだ。焦って無茶をしてしまうのが癖となっている。人間はとても複雑だ。一度歯車がずれてしまうと、それを元に戻すのは困難を極める作業になる。ベイダーも実力はありながら、ここに来てかなり苦しくなってしまった。

対するティシェイラはフィジカル、技術ともそこそこと言った感じだ。相手のラッシュに焦らずコンパクトなパンチを繰り出すあたり、きちんとしたボクシングを習得しているのを感じさせた。ただ決してベイダー相手にそこまで優位だったわけではなく、王座を取るには少し力不足感が否めないだろうか。何しろ王座にいるのがあの人外の生物だ。いい選手だが、王座に届くかは微妙なところだろう。

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