2014年6月19日木曜日

UFC174 感想と分析 マクドナルドvsウッドリー

UFC174、マクドナルドvsウッドリーの感想と分析です。以下は個人的な意見ですので参考程度にどうぞ。

VANCOUVER, BC - JUNE 14:  (L-R) Rory MacDonald punches Tyron Woodley during the UFC 174 event at Rogers Arena on June 14, 2014 in Vancouver, British Columbia, Canada. (Photo by Jeff Bottari/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

画像はUFC 174 大会フォトギャラリー | UFC ® - Mediaより

ウェルター級 5分3R
WIN ローリー・マクドナルド vs タイロン・ウッドリー
(ユナニマス・デシジョンによる判定勝利)

さあどこからでも攻めてくるがいい!軍神圧巻の攻城戦

VANCOUVER, BC - JUNE 14:  (R-L) Rory MacDonald battles Tyron Woodley in their welterweight bout at Rogers Arena on June 14, 2014 in Vancouver, Canada.  (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

彫刻のような体躯を持った男の足は、どうやらその外見に相応しく石化したようだった。彼は金網際で立ち尽くし、露骨に困惑の表情を浮かべている。彼の脳裏では脳細胞が極限まで活動して打開策を探っているに違いない。だが解決策は生まれない。彼は城に立て籠り、己を包囲する敵の顔をうんざりしながら見つめていた。

視線の先には、眉ひとつ動かさずに矛を構えて立ちはだかる男がいた。「アレス」ローリー・マクドナルド、軍神の二つ名を与えられた若干24歳の青年は、はち切れんばかりに自信を漲らせて「選ばれし者」タイロン・ウッドリーの城を包囲した。

何か打つ手があるならば打ってみるがいい、軍神の背中はそう語っていた。「天性の殺し屋」カーロス・コンディットを撃ち落した拳の前で、かつて己を破った男に圧倒的な力を見せつけて打ち倒した戦士の前で、軍神はただの一歩も引くことはなかった。

軍神はウッドリーの全てを封じてすり潰した。それは派手なKOや綺麗なサブミッションよりもずっと難しく、そして残酷な勝ち方だったように思う。彼は「選ばれし者」の全てを奪いつくした。選ばれたのはお前ではない、俺なのだと見せつけるように。

火の手を上げて崩れ落ちる城の向こうに、軍神は王城を見据えていた。驕りを捨てた今の軍神は、恐らく現王者にとって最大の敵となるだろう。

決戦の時は近い。

力を奪い取る軍神の「矛」、全てに備える鉄壁の「盾」

VANCOUVER, BC - JUNE 14:  (L-R) Rory MacDonald punches Tyron Woodley in their welterweight bout at Rogers Arena on June 14, 2014 in Vancouver, Canada.  (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

軍神の戦い方は相手をじわじわと追い込んでいく性質のものだった。それは彼の尊敬するレジェンド「ラッシュ」ジョルジュ・サンピエールの哲学だ。緻密に組まれた戦略の縄で相手を縛り上げ、あらゆる反撃の目を潰していく。

その戦略の要となるのが彼の矛と盾だ。

マクドナルドの武器はコンパクトでリーチのあるジャブ、腹を打ち抜くボディストレート、そして速く鋭く相手の急所を貫く蹴りだ。それらはKOを狙うよりも、相手から力を奪うことに主眼が置かれているように思う。

リーチのある左ジャブで常に牽制し、相手が腰を落とせば跳ね上げるような前蹴りを腹と顎に打ち分けて重心を上げさせる。特に前蹴りは途中まで軌道が一緒で読みにくく、顔面と思って対処したウッドリーの腹に何度も爪先がめり込んだ。

VANCOUVER, BC - JUNE 14:  (L-R) Rory MacDonald kicks Tyron Woodley during the UFC 174 event at Rogers Arena on June 14, 2014 in Vancouver, British Columbia, Canada. (Photo by Jeff Bottari/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

ウッドリーがキャッチしても倒せないために手数を減らせない。さらにミドル、ハイを素早く叩き込んでガードの上から削り続ける。

VANCOUVER, BC - JUNE 14:  (R-L) Rory MacDonald kicks Tyron Woodley in their welterweight bout at Rogers Arena on June 14, 2014 in Vancouver, Canada.  (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

そして最も強烈だったのが右のボディストレートだ。ウッドリーがハイガードで耐えることに専念するとみるや、左ジャブからの右ボディストレートを叩き込んだ。これは効いただろう。1Rからボディが当たるたびにウッドリーの足が止まったからだ。このボディはBJペンをサンドバッグに変え、「ルースレス」ロビー・ローラーの剛拳を何度も食い止めた。あのタフなローラーすら2Rにはこのボディで何度も動きが止まったのだ。その強烈さは想像に難くない。軍神の相手の臓腑を抉る矛こそ、彼の最大の武器だと私は思っている。

また肝が据わっていてよく見ているアレスは、立て籠るウッドリーのガードをじっくりと見て攻略した。ピーカブーで顎と腹を覆えば、すぐさまコンビネーションの中にガードの外からのフックを使って顔面にねじり込んでいく。

次第にウッドリーの足は止まり、飛び込みからスピードが失われ、彼の体からは滝のように汗が噴き出した。やはりボディが効いていたのだ。1Rに比べて、そのスピードは雲泥の差だったように思う。またパンチの当たる距離で表情一つ変えずにウッドリーを観察し続ける軍神の蛇のような目に、ウッドリーの精神がすり減らされていたのもあるだろう。

VANCOUVER, BC - JUNE 14:  (R-L) Rory MacDonald battles Tyron Woodley in their welterweight bout at Rogers Arena on June 14, 2014 in Vancouver, Canada.  (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

そしてもう一つの要が彼の鉄壁のディフェンスだ。まずこの試合で、軍神の目線の高さに注目した人も多いだろう。軍神はウッドリーより7センチほど身長が高いが、マクドナルドの方がウッドリーと目線の高さが同じか、それより低いことが多かった。マクドナルドはそれだけ腰を落として、かなり広いスタンスを取っているのだ。この構えこそが相手の攻撃をすべて受け止める盾の秘訣だ。

マクドナルドは1R、二つのことに徹底して注意していた。一つはウッドリーの右のオーバーハンド、そしてもう一つがタックルだ。

ウッドリーは1Rに何度も飛び込んでのオーバーハンドを狙った。だがマクドナルドは目線を合わせているからその出どころがはっきりと見える。察知するやマクドナルドはすばやく腕を上げて肘を立て、空手の受けのようにその軌道を遮った。ウッドリーが弾丸を装填した時点でマクドナルドは盾を構えてそれを防ぐ準備を完了させる。ウッドリーはその攻撃が通用しない事を早々に悟ったようだった。

そしてこの構えはタックルへの備えも万全だ。二人は1R、どちらに局面の選択権があるかを決める争いを繰り広げた。ウッドリーは何度もトライし、一回は成功しかけるが結局すぐに立たれてしまう。壁際でもそこまで優位には運べない。何よりもオーバーハンドが通用せず、通常の殴り合いでは明らかに負けていた。スタミナを消費し、スタンドで削られて体のキレを失い始めたウッドリーはとうとう局面の選択権を軍神に明け渡すことになってしまった。

ウッドリーの飛び込んでの右はタックルのプレッシャーが効かなければ通用しない。飛び込んだウッドリーにタックルを警戒して目線を下げた時に、ウッドリーの右拳は上方の死角から炸裂する。さらに腰が高くTDディフェンスに難があり、フットワークがそこまででもない長身のコンディットはまさにこの技の格好の餌食だった。だからこそウッドリーはしつこく対戦を嘆願したのだ。だがマクドナルドは腰を落として目線を合わせ、タックルなどいつでも切れるのだとはっきりと見せつけた。このとき、局面の選択権とともにウッドリーは一撃の可能性も奪われていたのだ。

唯一危険な貰い方をしたのはウッドリーのローキックだろう。コンディットの翼を捥いだ、致命的な一撃となったあのローキックだ。マクドナルドの大きく広げた足はローへの対処にはあまり優れておらず、何度かまともに食らって彼の体は流れていた。その後すぐに距離を調節することで被弾を減らし、さらにローに合わせてパンチをねじり込んでいたのはさすがだったが、もし盾に欠点があるとすればこのあたりだろう。

こうして最強の矛と盾を構えた軍神は、3Rにとうとうウッドリーから完璧なTDを奪った。何度も左ジャブでウッドリーの顔を跳ね飛ばし、ウッドリーが応戦しようと腰を起こして不用意に飛び込んだところにカウンターでダブルレッグを仕掛けたのだ。その動きはGSPそのものだった。まんまと軍神の誘いに乗ったウッドリーは為すすべなく転がされ、そして上からジワジワと削られ続けた。動きは緩慢で、すでにウッドリーのガスタンクが空っぽになりつつあるのは明らかだった。

VANCOUVER, BC - JUNE 14:  (L-R) Rory MacDonald attacks Tyron Woodley during the UFC 174 event at Rogers Arena on June 14, 2014 in Vancouver, British Columbia, Canada. (Photo by Jeff Bottari/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

軍神は念願の王座挑戦権をその手に握った。誰が見ても文句のつけようがない、軍神の完封勝利だったと思う。

敗北が変えた青年の魂、取り戻した攻める気概

VANCOUVER, BC - JUNE 14:  (R-L) Rory MacDonald punches Tyron Woodley in their welterweight bout at Rogers Arena on June 14, 2014 in Vancouver, Canada.  (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

内容的には相変わらずの慎重な試合運びで、フィニッシュするまでには至らなかった。だがこれは5Rならば確実にフィニッシュしていたと私は思う。大まかなスタイルは批判を浴びたエレンバーガー戦と変わらないかもしれない。だがその戦略の根本は大きく変わった。彼は同じスタイルで前に出て、自分から仕掛けるようになったのだ。

やはり契機となったのは剛拳の使い手、「ルースレス」ロビー・ローラーとの闘いだろう。彼はこの試合で死闘を繰り広げ、終盤まで互角に戦うも最後のところで剛拳に捕まって敗北した。それはわずかな差だったと私は思う。だがこの敗北は間違いなく軍神を変えた。攻める価値を、戦う気概を、そして前に出る必要性をローラーの拳は教えてくれたのだろう。あと少し軍神が自分から仕掛ければ勝ちも十分にあった試合だからだ。あの試合は、軍神がもっと攻めてTDもどんどん仕掛けていけば勝てていたはずだ。総合的な力ではマクドナルドの方が上だと私は思っている。

ローラーとの接戦、そして今回のウッドリーの完封で、軍神が王座に十分届く可能性のある選手だということがはっきりしただろう。ウッドリーの飛び込みを防げるのならば、ビッグリッグの破壊的な一撃も回避できる可能性は高い。以前はうっかりした被弾と、そこから一気に崩れる負け方があった。おそらく今もそこまで打たれ強くはなく、ビッグリッグにいいのを貰えばそこから崩壊する可能性もあるとは思う。だが今のマクドナルドならばそうそう貰いはしないだろう。長いリーチ、多様な攻撃手段、全てに対応できるディフェンス、何よりも鉄火場で腰を下ろせるクソ度胸がある。そして何よりもまだ若く、伸びしろは有り余るほどだ。ヘンドリクスに勝つ可能性はかなりあるだろうと私は考えている。

敗北は軍神の驕りを捨てさせ、彼に青年らしい溌剌とした気概と、戦士としての謙虚さ、誇り高さを与えた。彼の才能とキャリアを考えればその驕りは宿命だったと今にして思う。そしてそれを捨て、敗北の屈辱を乗り越えて新たなる一歩を踏み出した軍神は間違いなく強くなった。彼の全身からは立ち上る自信が今にもはっきりと見えそうなほどだ。

彼は試合後、タイトル戦の準備はもうできていると語った。それは真実だろう。これまでの思い上がりとは違う。彼は自身の歩んで来た道のりから確信しているのだ。

子供のころにMMAをテレビで見て、自分の生きる道はこれしかないと心に決めた少年は、一直線に走り抜けてとうとうブラウン管の中にあった夢に辿り着こうとしている。世界で一番になること、威風堂々たる若き軍神の胸の内には、幼き頃の情熱が今も激しく燃え盛っている。

VANCOUVER, BC - JUNE 14:  Rory MacDonald reacts after defeating Tyron Woodley in their welterweight bout at Rogers Arena on June 14, 2014 in Vancouver, Canada.  (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

4 件のコメント:

  1. この試合は最高でしたねー。初めてマクド視点で試合を観戦しましたよ。自分の武器をモデルチェンジせずに使い方を進歩させたように見え ましたね。金網際にあのパワーとスピードを持つウッドリーを釘付けにしたのには痺れました。脚を使わないアウトボクシングとでもいうのでしょうか、インファイトとアウトボクシングの融合とでも言うのでしょうか。個人的に今回のマクドは軍神というよりも戦場で兵士を指揮し自ら矛を振るい駆け回る武将に見えました。よりサディズムを強調した感がありますね。

    個人的に一番MMAで興奮するシーンはレスラーが非レスラーにテイクダウンされるシーンです。柔道技よりもレッグダイヴだとなおいいです。テイクダウンされたレスラーの感情が溢れてくるみたいで。自分はJJをテイクダウンした瞬間に「おおきづち」グスタフソンに惚れましたから。ウッドリーは楽屋裏で泣いていることでしょう。本当にローラー和尚の一喝は効果テキメンですね。個人的には一喝された者同士で試合して勝ったほうが和尚に恩返しする展開を希望してますw

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    1. 初めてですって!?私はもうかなり前からマクド視点です。贔屓の引き倒しです。

      フットワークを使わないアウトボクシングは的を射てると思います。ひたすらにプレッシャーを掛けて相手を動かすんですよね。虫の捕食みたいな情の無い感じがサディスティックさを醸し出すのでしょうwクリチコとかが似たような戦い方ですね。一切無駄がない感じです。

      そしてまたムジナさんもサディストですね。レスラーが非レスラーにTDされるのがたまらないとはwウッドリーは相当凹んでると思います。ロリマクの戦い方はほんとに相手の自信を根こそぎ奪うやり方です。ただコンディットがこの試合の後に復帰戦でリマッチをしろとさっそく首を狙いに来てますので、凹んでる暇はウッドリーにはないでしょう。

      ローラー和尚の殺人説法はお金を出してでも受ける価値があります。こないだ相変わらずメンタルにムラのあるエレンバーガーが喝を入れられてたので、彼もまた立ち直るかもしれません。ただ和尚に拳で恩返しに行くのは結構しんどいんじゃないですかね。下手をしたらまた喝を入れられて門前に瀕死で放り出されそうです。私が選手なら当分対戦したくありませんw

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  2. 二代目GSPと呼ばれている事は知っていたのですが、リアルタイムで見たのは今回が初めてでした。Mr.パーフェクトの後継者と聞き、動画サイトでハイライトを見て以来ずっと虜だった僕は、試合中チキン肌全開でしたw
    ロリマクはサイコパスと呼ばれているそうですが、無表情で金網に追い詰め、的確に打ち込んでいく姿。ナイフをかざして怯える表情を楽しむかの様なフェイント。一見、ひ弱そうな顔つきと相反したスタイルに納得しました、相当キレたサイコパスですね。
    また、敗北を味わってから完全無欠(まだ分かりませんがw)となる所もGSPの遺伝子を受け継いでいる様に思いました。闘神GSPがいない今こそ、その魂を受け継いで行って欲しいです!

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    1. GSPは結構熱い戦い方なんですが、ロリマクはその真逆です。あの凍り付くような視線にゾクゾクしちゃいます。おぼっちゃんな見た目に反して肝が据わっててプロフェッショナルなんですよね。優秀な軍人のようです。相手の心が音を立てて崩れるのを心から楽しんでいると思いますw相手選手には楽屋で泣いてもらいたい、って言っちゃう変態さんですからね。でも闘志はGSPに劣らずあって、ここぞでガッツも見せてくれます。

      GSPもそうでしたが、敗戦そのものは問題じゃなくて負けた後どうするのかが一番の問題なんですよね。GSPは派手なKO狙いをやめて緻密な戦略を組むようになりました。逆にロリマクはより攻めて確実に勝てる試合展開を創り上げようとしている印象です。今はまだそこまで人気ないですが、これからもっと人気出ると思いますので一緒に応援しましょう。

      もうサイコじゃない、と以前書きましたが、試合中の視線見るとやっぱりまだアブナイ感じですねwナイフペロペロしながら襲い掛かって来そうです。冒頭の写真撮った記者は絶対悪意あると思いますw

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