その他の試合の感想です。
以下は個人的な意見ですので参考程度にどうぞ。
画像はUFC公式より
ウェルター級 5分3R
WIN デミアン・マイア VS ジョン・フィッチ
(ユナニマス・デシジョンによる判定勝利)
し、しつこい!しつこすぎる! |
「サブミッション・モンスター」ついに完成!
MMAはここ数年で飛躍的に進化した。
誰もがボクシング、ムエタイ、レスリング、柔術が
出来て当たり前、フィジカルも練りに練っていて当たり前。
生まれもった才能や過去にやっていたスポーツの遺産
だけで勝つなんてとても無理な時代になった。
ましてや何か一つの技術だけで勝つなんて-
誰もがそう思っていた。
この日、柔術だけで頂点を目指してひた走る
「サブミッション・モンスター」デミアン・マイアを見るまでは。
自分もろとも深海に引きずり込む恐怖の船幽霊戦法
柔術スペシャリストとして鳴り物入りでUFCに参戦した
マイアは敗戦の果てにスランプに陥った。
自分はどうやって勝てばいいのだろうか、
何をすれば先に進めるのか?彼は悩んだ。
そしてその果てに彼が見つけた結論、
それは誰もが予想外の結論だった。
そう、それは「柔術に全てを賭ける」ことだったのだ。
もしMMA学校があって、そのテストでこの答えを
書いたら0点だろう。彼は弱点を補って
トータルファイターを目指すのではなく、
自分の得意なものだけでスタイルを
貫き通すことに決めたのだ。
その彼が編み出した戦法、それはウェルター級では
驚異的なパワーを使って相手を深海の地獄に引きずりこむ
「船幽霊戦法」とでもいうものだった!
打撃戦をする素振りを見せつつ相手に組み付く隙を
窺い、一気にクリンチして金網まで詰めてしまえば
そこはもう深い海溝の入り口だ。船幽霊は相手の
足を絡め取り、あっという間に背中に張り付いて
ひたすら窒息させようと後ろから不気味な腕を
首に回して攻め続けるのだ。一度絡め取られたら、
ブザーによって救い出されるまで除霊することは
難しい。並の選手ならばブザーを聞く前に
船幽霊に窒息させられて海の底に沈んでいることだろう。
金網際の攻防で光る「柔」の技
今回自分がとても興味深かったのは、マイアが使う
金網際での技術だ。明らかにレスリングとは違う
系統の技術で、柔道では禁止技の河津掛けのような
ものだった。相手を金網際まで追い込んだら足を絡め、
そのまま体重を浴びせて倒すTDだ。これは見た目以上に
危険な技だ。受身が取れない状態で体を浴びせて倒すのだから。
河津掛けはその危険性ゆえに柔道から消された技だが、
それがMMAというほぼなんでもありの競技において,
再びその有用性が見出されるというのはとても
面白い現象だと思う。実際ドン・ヒョン・キムもマイアとの
金網際での攻防で投げを潰されてわき腹を負傷しているし、
マイアの動きにはどこか古流柔術のような雰囲気が
現れ始めている。それはギラついた殺気を持つ、
合戦組討のような相手を仕留める柔術だ。
推して参る!マイアの柔術道の行く末は?
不沈艦ジョン・フィッチを一方的な柔術地獄で倒した
マイアは、あと一戦勝てばタイトルも見えてくる位置まで
歩を進めた。だが、彼のファイトには不安も残る。
今回フィッチ相手の打撃戦はほとんど無かったものの、
たまに発生する打ち合いではフィッチに対して
明らかに打ち負けるケースが多かった。
また、スタミナ面もかなりの不安を見せていた。
終始攻め続けた1,2Rを凌がれると、3R目では
明らかな攻め疲れを見せ始めた。そのために
グラウンドから脱出され、スタンドではろくにガード
できずに打ち込まれるシーンがあった。
もしこれが5Rのタイトルマッチだったら、マイアは
果たして勝てていただろうか?自分はカーディオに
勝るフィッチの逆転もあったのではないかと見ている。
特にフロントチョークを取られたときはかなり
危なかったのではなかったかと思っている。
ともあれオールラウンダー全盛の時代に、己の
得意な刀を一本だけぶら下げて戦場にやってくる
「サブミッション・モンスター」デミアン・マイアの
スタイルは非常に面白い。このスタイルで
どこまでいけるのか試して欲しいというのが本音だ。
王者GSPに勝つには、もしかしたらこういう何か一つ
突出した武器だけで挑んだほうが可能性があるかも
しれないとも思う。不器用な男デミアン・マイア、
彼はこれからも柔術家の誇りを胸にオクタゴンに
足を踏み入れていくのだろう。彼は現代に生きる
サムライの姿そのものである。
ジョン・フィッチ、不沈艦の意地を見せた3R
負けはしたものの、自分はさらにジョン・フィッチという
男が好きになった。彼は最後の最後までただの一度も
諦めなかったからだ。常に考え、常に動き、自分の
おかれた状況を考えて最善を探る。彼の表情には
軍人のような風情が漂っていた。
予想外の動き、これまでの経験にない技術。
そういったものに翻弄されていたのは間違いない。
それでもジョン・フィッチは己のキャリアの全てを
使って防御し、攻める隙を窺い続けていた。
この試合、フィッチでなかったらとっくに1Rで
サブミッションにより終わっていただろう。フィッチ
だからこそここまで凌げたのだ。フィッチは
「アンチョーカブル」の異名を守り抜いた。
そしてフィッチがあらゆる局面を凌ぎ続け、
オーバーヒート寸前のカーディオでなお攻める
気概を見せたことにより、マイアの穴は鮮明に
浮かび上がった。船幽霊の除霊の糸口は
間違いなく他の選手たちに明確に見えたことだろう。
フィッチの敗戦は無駄ではなかったのだ。
この敗戦はフィッチにとって過去最大の屈辱と
なっただろう。自分の得意とするグラウンドでの
ポジションキープによる消耗戦というお株を
完全に奪われたからだ。3Rでグラウンドから
脱出したときのフィッチの表情には珍しいほどの
闘志と怒りが見えていた。彼は自分自身の
ふがいなさに明らかに腹を立てていたように
見えた。
普段静かな男が怒ったときは恐ろしい。
この敗戦はフィッチの魂に火をつけてしまった
ような気がする。私は今、フィッチのファンで
ありながらこの敗戦をどこか喜んでいる。
なぜかって?この怒りが、ジョン・フィッチを
さらに次のステージに推し進めてくれる予感が
ひしひしとしているからだ!次の試合で彼が
どういう結論を出してくるのか、今から
胸が高鳴るのを感じている。
寸評
ライトヘビー級 5分3R
WIN アントニオ・ホジェリオ・ノゲイラ VS ラシャド・エヴァンス
(ユナニマス・デシジョンによる判定勝利)
エヴァンスの悪いところがまた出てしまった試合だ。
能力的にはホジェリオに十分勝てるものがあった。
だが、エヴァンスはここぞという場面でリスクを
負わないのだ。これは以前からずっと感じていたことだ。
つつきあいながら、絶対に大丈夫というところが
見えるまでひたすら待ってしまうところがあるのだ。
よくいえば慎重、悪く言えばチキンである。
5分5Rのタイトル戦であればそれでもいいかもしれないが、
ノンタイトルマッチではその試合運びだと勝負どころが
訪れないままずるずると判定に行ってしまう。
エヴァンスはどうも勝つための試合というより、負けない
ことにあまりにも拘りすぎているように感じる。
試合もつまらない上に、勝てる相手に判定で取りこぼす
ようでは話にならない。これならばリスクを背負って
勝負を賭けたほうが観客もエヴァンス自身にとっても
ずっとよかったはずだ。
エヴァンスは精神面を鍛え、根本的な戦略から
見直さない限りジョーンズへの再挑戦どころか
トップグループ維持すらも危ういだろう。ライトヘビーも
新星が次々と登場している。ホジェリオにつまずく
ようではとてもタイトルは見えてこないだろう。
フライ級5分3R
WIN ジョセフ・ベナビデス VS イアン・マッコール
(ユナニマス・デシジョンによる判定勝利)
面白い試合だった。自分はマッコールがとても好きだ。
彼の試合運びには非常にスマートなものを感じる。
ただキャラのせいか有効打を割りと見逃されているのかな
という気がする。判定はベナビデスで文句は無いが、
マッコールの有効打が過小評価されているのでは
彼に気の毒だ。肘の使い方、挑発の仕方、カウンターの取り方、
あと少し彼に打撃のシャープさと重さが加われば、MMA界の
悪魔王子のようになれないだろうか。とても惜しい選手だと
思う。
大会総評
この大会はアルドVSエドガーという最高のファイターが
キャリアでも最高の時期に最高の舞台で勝負するという
理想的なスーパーファイトだった。その期待通りの
見所満載の試合で、こういう興奮こそが長らく自分が
格闘技に求めてきたものだ。同じことは
アリスターの敗戦にも言える。実力者同士が、
外野の余計な思惑なしに全力でぶつかりあって
勝敗を決する、これだけで最高のエンターテイメントなのだ。
私のヒーローであるエドガーは負けてしまった。
そのことは残念だが、彼の戦う姿に胸を打たれ、
彼を打ち砕いたアルドの力に戦慄し、そして
この敗戦を糧にさらに成長するだろうエドガーを
楽しみにする。格闘技ファン冥利に尽きるというものだ。
今年はここまでUFCの興行は当たりばかりだ。
去年は欠場が多く流れてしまった試合が多かったが
今年はとても幸先がいい。この調子で今年は
どんどんスーパーファイトを実現させて欲しいと思う。