MMA Fightingより
画像はUFC® 162 Silva vs Weidman Event Gallery | UFC ® - Mediaより
ファイト・ゲームの中で、ロッキーと同列に語るのはほとんど耐え難いほどの侮辱になる。2013年までに、その類推はドリアン・グレイの屋根裏部屋を塗りつぶすのと同じくらいに醜悪なものとなっていた。お決まりのセリフなんぞ気にするな、数学は嘘をつかない:他に類を見ないような何かが50もあるはずがないのだから。
クリス・ワイドマン、ロング・アイランド出身で、UFCで最長に続いた悪夢ことアンデウソン・シウバを倒したこの選手は、未だにあなたをそんな面白くも無い比較をする気にさせる。彼にはあなたがそれになぞらえて呼びかねない、かなりの余地があるのだ。
まず一つ目に、彼は実人生のアポロ・クリードを取り出した―長きに渡り居座る権利を持つが年老いたチャンピオン、大人気の「キング・オブ・スティング」、彼はミドル級の景色の中を7年近く闊歩し、負傷者達の痕跡を残し、それはドアから出ていった。シウバのような稲妻は、4オンスのグローブでは絶対に起こるはずがなかった。ワイドマンはベガスに到着した、質実剛健でブルー・カラーな類の人間として彼は挑戦しようとしていた、華やかな見世物、取り巻き、神秘性、それだけでなく歴史的な重圧に対してもだ―そしてどうにかしてそれを全て力で奪い取ろうとしていた―それはただロッキーとの比較を促す。
だが王者シウバの顎にレフトを食らわせてダウンさせた6週間後、ワイドマンはロング・アイランドのレイ・ロンゴの元にいる、そして彼はいまだ単なるご近所さんの一人のままだ。通りは少しばかりがらんとして工業的すぎる、それは「ガーデン・シティ」と呼ばれる場所に素晴らしく似合っている、そして全ては雨によってさらに灰色になっていた。その王者は彼の周囲に同じ表情を見せる、小さなことに「懸命に取り組む」ことが一日を作り上げている。最もはっきりとした変化は彼がベルトを持っていることだ、どこに行くにも、彼と写真を撮りたい人たちのために彼はそれを手に持っている、そしてそれはあり得ないほどに金色に輝いていた。
「それは1週間私の車の中にあった、私が使っていない車だ、ちょうどそこの中で溶けてたんだよ。」と彼は言う。「だが正直に言えば、それはどこにあってもいいんだよ。時々私の小さな事務所のスペア・ベッドの上にある。時々私は自分がどこに置いたのか忘れるんだ。」
その変化は待遇の中でもまた際立つ。ワイドマンは言う、彼は今どこにいっても顔が割れるし、それは7月6日以前には必ずしもなかったケースだ。ロング・アイランドでは、彼はヒーローとの握手か写真撮影無しにはどこにも行けない。彼は成功を収めた地元の子だ。メディアの依頼は3倍になった。もしかしてそれでも足りなかったのだろうか、ナッソー郡の役人達は彼のために死に物狂いで記念日を作り出した―7月17日は今やクリス・ワイドマンの日だ。それは全てチャレンジャーからチャンピオンにアップグレードされたことの一部だ。「その偉業」の後の、ハワイでのバケーションの時でさえ、彼は隠れた場所にいたパパラッチから逃れることはできなかった。彼は言う、彼が思い切ってホテルから外に出るといつでも、人々は彼のレンタカーの後を走ってついてきたのだと。
それは不敗の男に対する機を捉えた左が生み出した魔法だ。彼の時代に入った6週間、ワイドマンはそれを愛している。
「今朝出かけるために自分の車に向かっていて、私はいつもより遅くて全部いつもどおりだったんだけど、それからご近所さんが駆け出してきて言うんだ、ヘイ、女子バレーボール・チームの皆があなたに会いたがってるのよ、ってね。」と彼は言う。「だから私は自分のベルトを掴んだんだ、なぜって皆はベルトと一緒の自分の写真を取りたいってことを知ってるからね。私はまた、彼との約束も守り続けなければいけなかったしね。」
この王者は「機能的に組織化する(勝ちパターン構築することを指すと思われます)」ことで非難されることは絶対にないだろう。シウバの時、それを信じるか否かは別として、ワイドマンは彼のキャリアで初となる事実上のファイト・キャンプを行った。「このポイントに至るまでのどの試合も、文字通り無計画なトレーニングだったのさ。」と彼の柔術コーチであるジョン・ダナハーは数日前に私に語った、マンハッタンのヘンゾ・グレイシーのところでだ。「彼はここに月曜に来ていたものだ、試合の1週間か2週間前にね、いくつかの動きを学んで、それから試合に出て相手を極めちまうのさ。」
(写真 柔術を指導するジョン・ダナハー氏の近影 昔はフサフサのイケメンだったみたいです)
ダナハーはワイドマンの、トム・ローラーと2011年に行われた試合を例として指摘する。彼はちょうどダース・チョークを練習し始めていた、本番の動きの中でローラーにそれを極めようとした数日前のことだ。彼のリハーサルは彼ら自身の試合の最中にまで及んだ。「彼がロッカー・ルームに戻ってきて、皆は彼がやり遂げちまったことに笑っていた、そして彼は言いやがった、『あんな感じで動きました』ってな。」とダナハーは言う。
ロンゴにしてみれば、彼は「無計画な」状況でこそ最も活きるのだ―それに対する彼の唯一の表現は「草の根」だ。彼は「派手なカラクリ」なぞ必要ないのだ、と彼は言う。そしてその大地から生じた王者達を育てる中で、それが彼の役にたってきたのだ―そういう現実世界のロッキー・タイプは彼のジムに激増している。マット・セラ初めての試合はロンゴと一緒だった、そしてワイドマンもまたそうだった。ちょうど地元の少年二人が、偶然にもこの星で最高のパウンド・フォー・パウンド・ファイターであるジョルジュ・サンピエールとシウバの二人からそれぞれ王座を奪い取ってしまったのだ。ロンゴの元で試合をするということの中には、地理的な一致以上のものがある―ロンゴその人がいることだ。ダナハーが彼らに持ってきた、シウバへの準備に関係した詳細な概要は奇抜で必須なものだった。きちんと訓練されたワイドマンは、無計画に本能に任せて戦うワイドマンよりもずっと優れていた。
そしてすべてはハッピーだ。ロンゴのところでのお約束ギャグといえば、シウバの大勢の取り巻きについてだ、それはベガスのカジノ中を試合に至るまでの間ずっと、巨大な黒と黄色の、中国の新年の龍のようにするすると波打って通り過ぎた。
「彼はおよそ40人ほどのやつを引き連れていた。」とロンゴは言った。「なんとも大したメンタリティじゃないか。」彼は計量の秤に向かう直前がどうだったかについての話をした、シウバはワイドマンの後ろを歩き、彼の頭から1インチ(2.54センチ)以内の所に立ったのだという。「私にとって、そのことはそいつがどういう奴かを物語っている。君は友人の真ん前に陣取ったりするかね?これはなんだ、二流?貴様は立派なクソ野郎だよ。」
事実、ロンゴが言う通り、ファイト・ウィークの間シウバの周囲にはとても大勢の人がいて、彼はそのことからいくらかの恐怖を引き出していた。彼の最も素晴らしい懸念は、彼は半ば冗談で言ったのだが、シウバはモチベーションを歌手のアッシャーが試合後に行った激励演説から引き出すだろう、と―つまり、シウバは誓うだろう、再びあの馬鹿げたアッシャーの激励演説に耐えねばならない状況に自身を絶対に置かないようにしよう、と。折よく、シウバが二日後に上げたビデオ・ブログにそのスピーチが収録されていた。そしてロンゴの正論だ:それはどんな人間にとっても-超人だろうとそうでなかろうと-2度も耐えるのはきつすぎるのだ。
(記事中にあるビデオ 動画半ばくらいにロンゴが耐え難いと言う激励演説があります)
「君は馬鹿にしてるのか?私はアッシャーがあのスピーチを再び自分に行うのを聞くくらいなら何でもやるよ。」とロンゴは言う。「そのわずかなモチベーションが自分を怯えさせるのさ。」
ちょうどその後に一人の男がロンゴの元に滑り込んで来た、そこのドアはいつでも開かれているし、誰かがそういうことをするのは珍しいことではない。彼はワイドマンに会いに来たと言った。彼はそんな友好的で押しの強いロング・アイランド人の典型で、ジムの料金と彼が見学できるかを知りたがった。彼はワイドマンの友人の友人で、ビーチにいるあるライフガードが彼らの共通の知り合いだと言った。「ああ、いいよ、もちろんさ。」とワイドマンは言った。「私を案内してくださいませんか?」とその訪問者は尋ねた。ワイドマンはできないと言った、なぜなら仕事で撮影クルーがいて、12月下旬のために新王者の特集ビデオを共に作成しているからだと。
それでも彼はすべてを止めて、ロンゴのジムのトレーニングの利益を損なっていた。その男はワイドマンがベルトを勝ち取ったことを称賛する大げさな演説を中断し、彼は元はフランクリン・スクウェア出身だが、今はディア・パークに住んでいると言った。彼もまた近所の奴だった。ワイドマンは言った、「ああ、ほんとに?自分はちょうどディックス・ヒルズにある家の契約にサインしたんだ。」
彼らはロング・アイランドを通る道について、通勤時間について、L.I.E(映画Long Island xpressway)について話した。それはニューヨークの世間話だった。それからその男は去っていった。
(写真 アンクル・モニター 犯罪者の印のようなものみたいです。日本だと問題になりそうですね)
ワイドマンを除く全員が、その訪問者の足にアンクル・モニター(所在を把握するために着けられることがある装置で、犯罪者が自宅謹慎中に着用させられることがある、らしい)が繋がれているのに気づいていた。ワイドマンが自身の命を危険に晒していたことについて辛辣なジョークがあった、それかもっと悪いことに、その危険が彼の前に現れたら、彼はそれと挨拶するために何気なく手を力強く差し出してしまうだろう。「なんだ、なんだよ、君らは彼が人殺しか何かだったと思ってるのかい?」とワイドマンは尋ねた。「彼は中に入る前に体調を整えようとしてたぜ。」とワイドマンの仲間の一人が言った。「俺が保証するよ、彼は君を殺そうとしていたんだ。」と彼の気のおけないホフストラ大学のチームメイトで、MMAファイターのジョン・ボニラ・ボウマンは軽口を叩いた。「私はおまえを連れてって、おまえを私の防弾チョッキに使ってやるよ。」とワイドマンは言い返した。
2分ほどこんな感じで時が流れた、しかしそれから誰かが部屋全体に一片のロジックを投げかけ、それは空中に漂うワイドマンの新たな状況に追いついた。
「たぶんこういう理由でシウバはあれだけ大量の取り巻きを抱えてるんだな。」と誰かが言った。
彼がチャンピオンになってからの6週間、クリス・ワイドマンは一度に多くのことが起きるのを経験してきた。そして一流選手が誕生する夜明けというような類の出来事がある。
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だがこの前後の光景の間にある最も大きな違いはワイドマン、永遠に借金漬けのプロファイターは、今や腐るほどの金を持っているということだ。彼は、当然ながら、最近裕福になった人間だ。彼は今優れた使いやすい車を持ってるし、彼は堂々とそれを所持している。彼はサフォーク・カントリー内のディックス・ヒルズに新しい土地を手に入れたばかりだし、ハリケーン・サンディに台無しにされた彼の家よりもずっといい、ただロンゴの元に通うのに少しばかり遠くなるかもしれない。彼はホフストラで8万ドルの借金を抱えていた、そこで彼は心理学の学士号を取り、2度のオール・アメリカン・レスラーとなり、今それは全て返済された。
それはほんの少し前、今夏の初めごろの彼とは大きく違っていた。
「彼は実質的にホームレスだったのさ。」と彼のコーチであるダナハーは言う。「彼は財政的に完全に破産していた。私は覚えているよ、何千ドルという金を自分のポケットから取り出してクリスに貸さねばならなかったことをな、彼がシウバとの試合に備えている間、彼がなんとかやりくりできるようにするためだ。そして彼の人生は実質的に大混乱の最中にあった。いつか人々が何が起きたのかについて完全なストーリーを知ったとき、私はこれを言う時にふざけているわけじゃあないんだ、それは完全にハリウッド映画みたいだってな。こりゃロッキー・バルボアだよ。馬鹿げてやがるぜ。」
ワイドマンは、彼の強大な左手が彼の資産一覧表を変える前の苦難について自ら語った。
「私はどうすることもできなかった。」と彼は言う。「全ては金が無いせいだった。私たちは犬を買ったんだ、そして私たちはそれの資金を調達したんだ―1400ドルの犬だ。私たちは金が無かった、だから私と私の妻は犬の資金を調達するために、クレジットに私たちの名前を一緒に記入しなければならなかったんだ。これは前(シウバとのタイトル戦の)まではよかったんだけど、それをすべて支払うのに3年くらいかかったんだ、だから私は結局1400ドルの犬のために3800ドルくらい支払う羽目になったよ。」
その犬は柴犬だ、先祖代々続く血統は侍の時代にまで遡る日本の犬種で、彼と彼の家族はその犬にレイラと名付けた。
「私には何もなかった。」と彼は言う。「私はただいつの日か、快適に生きたいと思っていた。たとえば、友達と一緒にランチに行くんだ、ひどい気分になることなしにね、ようはこの請求書を今すぐ払えるかどうかがわからない、なんてことなしにさ。私はこんなことをしているべきじゃないんだ。それが私が本当に求めていたものだ。そしてUFCのおかげで今自分はどこにいるかって?私はもう心配しなくてもいいんだ。」
そのUFCは、UFC162に向かう彼のためにかなりの救済措置を施した、彼の家で建造が進む中、彼が彼の両親、妻、子供と一緒に生活している間のことだ。そして彼のスポンサーの数社は先の見通しが立つように前金で彼に支払った。その援助のおかげで彼はステファン・「ワンダーボーイ」・トンプソンを招聘できた、シウバの仮想敵とするためだ、そしてロンゴの所とヘンゾ・グレイシーの所でダナハーと共に時間を使った。ロンゴも同様に元ゴールデン・グローブ・ボクサーでアダム・ウィレットという名の男を招聘し、ワイドマンによれば彼はジムで非常に素晴らしい仕事をしてくれたのだという。ロンゴが試合前夜のMGMグランドでグレープフルーツとグレイ・グース(ウォッカのブランド)を啜りながら、ワイドマンはシウバをノック・アウトするだろうと私に語ったのは、これが理由の一つだったのだ。
それはまったくもって映画的な感覚だ。
「あいつは9つの試合を経験した。」とダナハーは言う。「破産。ホームレス。おまけに完璧にぶっ壊れた肩も一緒だ。私が知る限りにおいて、でかい怪我から復帰して次の試合で勝利したのはたったの一人、ジョルジュ・サンピエールだけさ―そしてジョルジュはクリスの時よりも2倍以上の治療期間があった。彼はまるまる一年半ほどあったんだ。クリスは6か月だった。」
今彼の肩は治療された、彼は建設中の新しい家を持ち、彼の負債は取り除かれ、彼は自身を記念した祝日があり、そして彼は王者で、ハワイに訪れた際に群衆に集られる。
「私は幸せだよ。」と彼は言う。「私がこんな立場になろうとは考えたこともなかった。ここにいることが不思議だ。私がサンディや経済的に経験した全てのことでさえ、それはまだ私が自分の人生で成長する中で最悪の地点ではなかったんだ。私がホフストラでコーチをしていた時、私はもっと金がなかった。私はもっと何もない中で育ったんだ。」
もし彼でなかったら、ロッキー・ストーリーにはならなかっただろう。
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だが結局のところ、物事をより大きな視点で見れば、ワイドマンはその階級のブギーマンを殺害する前の彼と同じ人間だ。
「間違いなく、彼は同じ奴さ。」とロンゴは言う。「君は彼がここら辺を歩いているとき、ふざけまわっているときを見ることができる。私はワイドマンの日が7月17日だということをずっと覚えているだろう、なぜならそれは私の記念日だからだ―私は自分の20周年記念を彼と分かちあわねばならなかった。あれらのこと全てが起こっている間、ちょうどよく私は彼と同じ部屋にいたんだ、だが我々は一言も話そうとしなかった。それから彼はハワイに行ってしまった。」
「彼が戻ってきたとき、私はとうとう彼を見て言ったんだ、『お前が世界ミドル級王者ということが信じられるかね?』そして彼は言った、『いいや。』彼は変わらずしっかりした野郎さ、ちょうどマット(セラ)が彼にとってすべてが変わった時のようにね。」
彼が女子バレーボール・チームと写真を撮るためにポーズを取り、それから床屋に行った後、そしてUFCの特集ビデオ用に彼のコマを撮影するためにロンゴの所に来る前のこと、ワイドマンはデリに立ち寄って少年にシャツを与える時間を作った。その少年はジャスティン・ロマネロ、ロング・アイランドの男の子でステージ4のnon-Hodgkin lymphoma(非ホジキンリンパ腫、悪性リンパ腫でステージ4はかなり進行している)と闘病しており、ワイドマンはMMAをテーマとした非営利の「Live to Fight」という委員会のメンバーとして彼に会いに来た。ワイドマンは彼のヒーローだ。そしてこれはワイドマンが軽々しく扱わない事柄だ。彼は純粋にそのことに心動かされている。
彼はその少年にシャツ以上のものを与えてあげたいと思っている。彼は考えていることを声に出し始めた、「UFCは、UFC168で彼が私と一緒に入場することを許してくれるだろうか?」
その光景は12月28日にラスベガスに戻ってくるだろう。その対戦相手は同じだ。今度はワイドマンが彼のタイトルを防衛し、そしてシウバ―長い間に初めてのことだ―は挑戦者だろう、ワイドマンは自身2度目の完全な、本当のキャンプを行う予定だ。シウバは彼の取り巻きと一緒に到着するだろう。
「私は彼に一緒に入場してもらったらすごく嬉しいね。」とワイドマン言う、まるで彼の取り巻きの形を作り上げるかのように。「そうなったらどれだけ素晴らしいだろう?」
もちろんフィクションより素晴らしい。フィクションなんかよりも遥かに素晴らしい。
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というわけで、ちょっと古いですが「オール・アメリカン」クリス・ワイドマンが王者を倒す前後で何が変わったのかを取材した記事です。うーん、まさにアメリカン・ヒーローであり、陳腐な表現ながらロッキー・ストーリーです。
なぜこの記事を取り上げたのかといえば、今日本ではUFC王者になるというのがどういうことなのかがいまいち理解できないからです。日本ではPRIDE終焉後、格闘技でトップになることがどれほどの価値なのかがまったくわからなくなってしまいました。
UFCは今やメジャースポーツになりつつあります。FOXという世界規模の巨大なネットワークが放映し始め、今後さらなるファン層の拡大が予想されています。FOXもかなり力を入れてその宣伝をしていますし、世界中での大会開催を企画するズッファは決して北米市場のみを視野に入れているわけではありません。総合格闘技は世界中のあらゆるコンバット・スポーツを受け入れる舞台として整いつつあります。
そのUFCでレジェンドを倒したワイドマンがどういう扱いなのかというのを取り上げて、今の王者の価値というものを把握するのがこの記事を選択した意図です。今やワイドマンは時の人となり、州のお役人がハッスルしてとうとう彼の記念日まで作ってしまいました。7月17日はクリス・ワイドマンの日です。お祝いは何をするんでしょうか?町中をふざけた挑発をして練り歩き、左フックを食らいまくったりするんでしょうか。過激ですね。やはり地上波が放送しはじめてるのもあって、知名度は急上昇中のようです。このあたりは日本の地上波で放送された格闘技大会を思い起こせば想像に難くないですね。
さて、今回アメリカの英雄となった当のワイドマンですが、彼のこれまでの人生は借金まみれだったようです。ホフストラ大学在学中に800万以上の借金があったということですが、学費を借りていたんでしょうか?学生にこの借金はかなりの重荷です。ワイドマン曰く、この経験があったからサンディとそれに伴う破産はそこまででもなかったようです。彼は昔、友達とランチに行っては支払いに不安を覚えるような経験をしていたといいます。そんな思いをしなくて済むようになりたい、そんなささやかな願いが彼の夢でした。そして彼は奥さんと一緒にそれに耐え、周りの人からの援助を受けて必死に努力した結果、とうとうそれらの借金をすべて返してなお余りある金を手に入れることができました。
まさにサクセス・ストーリーであり、映画の脚本ならもはや陳腐すぎて誰も採用しないようなお話です。しかしこれは現実に起こったことです。コーチをしていたダナハーですら、あまりにも馬鹿げていると評するくらいです。
しかし、映画と違ってワイドマンの物語はまだ続いていきます。そして物語はここからが本番です。彼はこれから王者の重圧、そしてそれに伴う様々な出来事と向き合っていかねばならないからです。
その一つが記事中にもある、おかしな人間からの接触でしょう。人気者になるというのは決して楽ではないはずです。どんな素性の人間が寄ってくるかわかりません。ワイドマンは呑気な気のいい青年で、近寄る危険にも知らずに手を差し出して挨拶してしまうだろう、と記者は指摘しています。今回は何事もなかったですが、これからこういうことが次々と降りかかってくるでしょう。ロンゴが嘲笑したシウバの取り巻きですが、あれは決してハッタリや驕りのためだけではなかったのでしょう。王者とは、あれほど警戒しなければいけないものなのかもしれません。これまでと変わらずにいるのは至難でしょう。
しかしワイドマンはまだ変わりません。相変わらず気のいい男で、ファンサービスを常に忘れず、そして大病を患った少年に心から同情をしています。若いうちに想像を絶する苦労を潜り抜けた彼は、決して失うことを恐れはしないのかもしれません。願わくば、彼にはいつまでもこのままでいてほしいと思います。
そしてワイドマンが変わらない限り、彼の周りにいる人たちが彼を支え続けてくれるでしょう。ロンゴをはじめ、ダナハーやUFC、スポンサー、そして家族が彼を懸命に支えてくれたおかげで、彼はUFCの怪物を打ち倒すことができました。すべては彼の人徳がなせる業です。苦境において、それを表に出さない人間というのはやはり周りが助けてくれるのでしょう。
自分は苦境に立たされるとついつい愚痴りがちですが、やはりそうやって他人からの助けを口を開けて待つような人間には幸福は訪れないのだと思います。ワイドマンの笑顔には、どこにも暗い影がありません。とてもランチ代で四苦八苦した人間とは思えないものがあります。この底抜けの明るさと楽観主義が、彼の最大の強みだと思います。彼の強さを見習い、自分もワイドマンのようにタフな男を目指したいものです。
ただ楽観主義は結構ですが、金が無いのにクソ高い血統書付の柴犬を買うのはやめたほうがいいと思います。柴犬の可愛さを考えれば金が無くても買っちゃう気持ちはわからなくもないですが、ポケットマネーで数十万貸してるダナハーなどからすれば酷い話です。まさかダナハーの金で・・・。まあ金が無いといいながら犬を買っちゃうこの図太さがワイドマンのいいところでしょう。とりあえずお詫びとしてダナハーには思う存分レイラを撫でさせてあげるべきではないでしょうか。
というわけで今後ますますUFC王者の価値は高まっていくでしょう。日本では堀口選手があらたにデビューするようですし、この大舞台を目指して若い日本人格闘家の皆様にはぜひとも頑張っていただき、第二第三のワイドマンとなって成功を掴んで欲しいものです。UFCは日本の格闘技市場もちゃんと見ています。ひたすら強くなることだけを願って研鑽を積む選手には、必ずや道が開けると私は信じています。
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