早いものでもうすぐUFCジャパンですね!ちょっと遅れましたがUFNフォックスウッド大会の感想と分析です。以下は個人的な意見ですので参考程度にどうぞ。
画像はUFC ファイトナイト:ジャカレ vs ムサシ 大会フォトギャラリー | UFC ® - Mediaより
ミドル級5分5R
WIN ホナウド・ソウザ vs ゲガール・ムサシ
(3R フロントチョーク)
相手が死ぬまで離さない!「ジャカレ」の柔術デス・ロール
哺乳類に今だ屈せず、むしろその柔らかな肉を己の糧として生き続ける水中の王者、それが鰐だ。彼らの狩猟方法をご存じだろうか?彼ら最大の武器はその大きな顎だ。もちろんそれを使うのには違いない。だがこの武器は意外にも不器用で、横に動かす機能は存在しておらず、哺乳類のような咀嚼は出来ないという。その結果彼らが思いついたのは、あまりにも暴力的な解決方法だった。
彼らは鋭い牙のついた顎で噛み付いた後に、筋肉の塊のごとき肉体を高速で回転させて獲物の肉を引きちぎるのだ。だがこれだけでは大型の獲物を殺すにはまだ足りない。そこで彼らは、ついに肺呼吸する生物全てが青ざめる狩り方を発明してしまった。
恐ろしいことに彼らは獲物に噛みついた後、高速で回転しながら水中に引きずり込むのだ。獲物は凄まじい力で己の体を引き裂きさかれながら、さらに水の中で呼吸すらも阻害されてしまう。一度彼らに噛みつかれたものは、突如として襲い掛かる様々な苦痛に混乱し、判断力を奪われ、最後は溺れてしまうのだという。これは「デス・ロール」と呼ばれ、鰐の必殺技として有名なものだ。その名の通り、彼らは相手が死ぬまで回転し続けるのだ。そして獲物が呼吸を止めた後には、彼らの歓喜の高速回転がその獲物の五体をバラバラに解体してしまうだろう。
アルメニアの血を引く戦士は空気を求めて足掻き続けた。もとよりそこに水はない。ここはズッファという会社が開催するMMA大会の会場で、彼は七色のスポットライトが当たる金網の中にいたからだ。だが彼の顔は酸素を求めて歪み、肺ははち切れんばかりに伸縮を繰り返す。腰の当たりには、長い両腕を巻き付かせてのたうち回る褐色の鰐がぶら下がっていた。ホナウド・「ジャカレ」・ソウザ、鰐のニックネームを持つブラジル人は「ザ・ドリームキャッチャー」ゲガール・ムサシに何度も何度もしつこく食らいつき、そして激しく回転し続けた。
3R残り1分、必死に逃れつづけた夢追い人は、わずか一瞬間水面に顔が出た時に安堵の様子を見せてしまった。その刹那、端正な彼の顔は水面下に沈み、もはや二度と浮上することはなかった。
グラウンドこそが我が主戦場、ジャカレの信念が呼び込んだ勝利
鰐はグラウンドこそが自らの棲み家であることを疑わなかった。その明確な信念がシンプルで強固な作戦の主軸となり、結果的に全局面を優位に運ぶことに成功したと言えるだろう。
ソウザは序盤から徹底してグラウンドを選択した。パンチをばらまいて下がらせ、その打撃の勢いのまま突進して組み付き、そこからはどれだけ時間をかけてもいいからTDしてグラウンドに持ち込む。どこで勝利したいのかがはっきりとした素晴らしい戦略だろう。無邪気なまでに己の柔術を、極める力を信じた組み立てだと感じた。どこか子供っぽさすら感じる迷いの無さに、彼の人間性がよく出ているようにも思う。
岡見勇信にトラブルを引き起こした左ミドルなどの蹴りはこの試合では見せなかった。足が止まる打撃をあまり使わず、とにかく距離を潰しにいったことからも打撃戦のみではそこまで分が無いと判断していたのだろう。この判断も称賛に値する。
この試合では後半にソウザのパンチがよく当たっていたことから、ソウザのほうが打撃技術でも上という意見があるかもしれないが、打撃単体で見れば恐らくソウザにアドバンテージはないと私は思う。ではなぜ有利になったのかといえば、それはタックルを意識してムサシのディフェンスが散漫になったことと、ソウザの柔術デス・ロールによってムサシのスタミナが根こそぎ奪われてしまったからだ。3Rのムサシは上体がふらついてハンドスピードも目に見えて落ちていたが、ガス欠自体はすでに2R開始時点からだったと私は見ている。
だがガス欠後もムサシのジャブはよく当たっていたし、ソウザもあまり反応できていない。ソウザがグラウンドの選択肢を持たなかった場合に、ソウザはもっと苦戦を強いられていただろう。
そして試合の肝となったのは金網際でのクリンチ技術の差だったのではないかと思う。ここでソウザがかなりしつこく粘ったおかげでムサシはスタミナのみならず、精神的にかなり消耗したように感じた。クリンチでソウザが劣勢だった場合、スタミナを削り切れないどころか、むしろソウザの方が消耗してしまう展開になっていただろう。
タックルそのものはムサシが良く反応して防御していたし、ソウザの入り方がそこまで巧かったとも感じない。成功したのはクリンチからしつこく粘ってのTDだ。もし易々と脇を差し返され、体を入れ替えられていたらTDは難しかったと思う。
金網際の攻防で、鰐のフィジカルの強さと技術、何よりもそのしつこすぎるほどのタフな精神力が光った場面がある。ムサシが両手を鰐の顎に当てがい、グイッと前に押してクリンチを解こうとしたシーンだ。膂力ならばムサシも相当ある。そのムサシが全力で顎を押しているにもかかわらず、鰐は涼しい顔をしたままそれを耐え、さらにぬるっと顔をずらして腕を放すことはなかったのだ。一度閉じたジャカレイの顎を開かせるには、万力でも持ち込まなけば不可能かもしれない。何としてでも水中に引きずり込もうという鰐の執念が垣間見えた瞬間だった。
グラウンドに引きずり込んでからも、ムサシは激しく抵抗した。ムサシのようにバネと瞬発力があるタイプを押さえ続けるには相当なスタミナとパワー、技術が必要になるように思う。だが鰐はそれを見事にやってのけた。もちろん無傷ではない。下から殴り、足を振り上げ、立ち上がる隙を窺うムサシに手を焼きながらも、鰐は攻撃の手を緩めなかった。かつて鰐はこのアルメニアの戦士に噛みつこうとした瞬間、下から顎を蹴り飛ばされてKO負けした苦い記憶がある。だが鰐はそのトラウマをいともたやすく乗り越え、果敢にムサシに躍りかかっていった。
強い打撃とそれに連携したクリンチ、そこからのしつこいTD狙い、そしてグラウンドでの極めを目指した攻めと組み立て。ジャカレイの作戦が完全にスイングした試合で、強豪のムサシが完封された形となった。勝ち方としては申し分ない、鰐にとっては最高の勝利だったように思う。何としても王座を獲りたい、そんな鰐の屈託のない願いがしっかりと伝わる試合だった。
防戦一方、見えずに終わった王座への渇望
対するムサシは防御に追われ続ける展開となった。恐らく最初はスタンドを維持してパンチで削っていくつもりだったのだろう。柔術を警戒してTDの選択肢を外していたように思う。だがそれが仇となった。TD狙いで打撃を打ってくるソウザの突進に下がり切れないシーンが多く、押し返そうと反撃するもかわされてしまうケースが多かった。予想以上の突進スピードに対処しきれなかった、という印象だ。これはヘビー級の両雄、ジュニオール・ドス・サントスと獣王ケイン・ヴェラスケスの試合と同じ展開だ。
そしてクリンチで削られ、グラウンドで防戦していくうちにムサシはあっという間にガス欠になった。そのために当初予定していたスタンドの維持が不可能になり、2R以降はズルズルとTDされ、TDを防ごうと躍起になってパンチも次々に食らうハメになった、という展開だったように思う。
結果的にムサシの攻撃手段はジャブのみとなった。打ち返そうにも距離が合わず、いいパンチもあったがやはり急所を捉えきれずにソウザに押し切られている。ジャブは良かったかもしれないが、ソウザを止めるにはあまりにも非力だった。あれで止めようと思うなら圧倒的な手数が必要だろう。しかしそれも凄まじい勢いで距離を潰す鰐を相手には至難の業だ。
リョートのように圧倒的な距離と機動力を有するか、ロビー・ローラーのように射程に入った瞬間意識がぶっとぶような剛拳を乱打してくる、高性能の迎撃システムを積んでいないのであればムサシのプランはあまり有効ではないだろう。狙い自体は悪いとは思わないが、彼我の実力差を見誤った感は否めない。ムサシのパンチ技術の方が単体では上だったかもしれないが、それ以外の要素を加味したときにムサシのスタンドはソウザが上回れるものだった。この辺りの計算は中々にシビアなので、決して無策だったと責めるわけにはいかないように思う。それだけ今のムサシは己の拳に自信があったのだ、と私は思っている。同様にタックル防御にもかなりの自信があったのだろう。ムニョスを一蹴したことが大きな根拠だったのかもしれない。しかしそれも誤算だったようだ。
最近は極めの強い柔術家を相手にそもそもグラウンドの選択肢自体を外す選手が多く見られるような気がするが、これは大きな誤りだと私は思っている。確かに一瞬で極められるリスクはあるし、下から抵抗されてスタミナをロスするのは嫌かもしれない。だが最初からTDする気が無いことをあまりはっきりと示してしまえば、グラウンドを望む相手からすれば試合は非常にやりやすくなる。なぜならタックルトライに失敗しても相手は不利な体勢になった自分をTDしようとしてこないし、タックルの可能性を除外できればスタンドもより集中して展開できるからだ。一番の問題点はこの後者のほうで、グラウンドを完全に拒否すればスタンドで選択肢を突きつけられて迷う側になってしまうのだ。偉大なるウェルター級のレジェンド、「ラッシュ」ジョルジュ・サンピエールはこの選択肢を怒涛のごとく相手に迫ることでディフェンスを崩壊させ、そして自分が一方的に攻撃できる状況を作ることで勝利し続けたのだ。
またたとえ相手の下からの攻めが強いとはいえ、パウンドというMMA固有の武器がある以上、基本的に上が有利なのは変わっていないように思う。安全圏を維持しながら上を取って殴る、というのがMMAのグラウンドにおいては最優先ではないかと考えている。ムサシは決して柔術の防御がそこまで悪いとも思わないので、やはり自分からTDしていくことも選択肢に入れるべきだっただろう。ソウザのあの突進はTDをちらつかせることで抑制できた可能性があるからだ。
リスクを考慮するのは大事だが、リスク回避を考えるあまりに自分の攻撃手段を狭めてしまうのは本末転倒だ。TDのプレッシャーを相手に与えられないがために、ソウザにやりたい放題させてしまうことになった。ムサシは上を取って殴るという展開も得意だったはずだ。勝つためにはあらゆる手段を用いて相手を揺さぶっていく必要がある。単調なパンチに終始したムサシからは、この大一番に勝利して王座を狙うのだという気迫をあまり感じることが出来なかった。ソウザを相手にこれでは、現王者である「オールアメリカン」クリス・ワイドマンにはまず勝てないだろう。
荒れるミドル級戦線、一歩躍り出た鰐は王座を呑み込めるのか?
ソウザはアルメニアの戦士を引き裂いて一飲みにした。相手を疲れさせ、打撃で弱らせ、最後はがっちりと柔術で極める。これ以上ない完勝だろう。鰐の腹には王座への特急券が収まっているに違いない。
だが果たして鰐は現王者、クリス・ワイドマンに勝てるだろうか?今回の鰐の打撃はあくまでもTDがあればこその展開だったように自分は考えており、単体でそこまで優れているかといえば少し疑問が残る。現王者は常にTDの選択肢を備えており、タックルとトップキープだけならばソウザより優れているように思う。さらに超人は柔術のスキルも十分だ。偉大なる柔術コーチのジョン・ダナハー氏もその技術には太鼓判を押している。柔術で王者が劣ったとしても、レスリング、スタミナ、フィジカル、打撃と総合的に考えた時に王者の方が一歩先んじているように感じる。おそらく二人が戦えば勝負はスタンドが鍵になるだろうと思う。蹴りでジャカレが上回ることが出来れば勝機はあるかもしれない。
ミドル級はSF勢の合流によって一気に潮目が変わりつつあり、各選手の実力が極めて把握しづらい状況になっている。そんな中でホナウド・ソウザは、UFCの中である程度実力がはっきりしつつあったムサシをきっちり仕留めたことでトップ5以内であることは確実となった。岡見勇信をあっさり撃破したのは偶然ではなかったのだ。全局面で高いスキルを持つ、紛れもないトップコンテンダーだ。あとは彼がルーク・ロックホールド、ビトー・ベウフォート、リョート・マチダあたりと対戦してどれくらい戦えるかだろう。ロックホールドには打撃で上回れるだろう。だがマチダとは相性が悪そうだ。もっとも、マチダと相性がいい選手などというものがこの世に存在する確率は、UFC南極大会開催と同程度のものだろう。
鰐は王者を玉座ごと噛み砕いて呑み込んでしまうのか、それとも口を押えられ、開くことも出来ずに解体されてステーキとバッグに変えられてしまうのか?かつて日本を震撼させた貪欲な爬虫類は、世界一の座を求めてアメリカの大河を悠々と泳ぎ、今やアメリカの英雄の足元に忍び寄りつつあるのだ。
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今回もスピーディな更新お疲れ様です!
返信削除ムサシは好きですがジャカレVSワイドマンのミドル級最強グラップラ―対決が見たかったので一応嬉しいですw
アリスターとビッグフットを見るにつけ、お薬抜きの実績が一切ないビト―を外してジャカレを挑戦させて欲しい気持ちが強まりますw
ただスキルセットを考えるとワイドマンがアルド化して打撃戦で終わらせる可能性もありますね。挑戦まであと半年はあくでしょうからそれまでにジャカレはTDを磨いて地獄の25分間寝技合戦を見せて欲しいですww
一度TDできればワイドマンは立つよりグラウンドで勝つ方を選ぶと思うんですよね~、オクタゴンの中では意外と彼はプライド高い気がします。
あージャパン楽しみだな~!!メインKO決着だといーなー!
返信遅れてすいませんでした。
削除ここ最近の流れだと、ビトーさんは相当弱体化してそうな気配がありますねwといってもビッグフットはTRT関係なしに、スピードがある相手には割とああいう負け方をする気がします。
自分もワイドマンはグラウンド&パウンドを選択すると思います。というか選択しないと危ないような気がしますね。警戒するのは大事ですが、逃げてはだめだと思います。
ジャパン楽しみですね!自分はもう日本大会があるってだけで十分です。天下一デブ道界は完全決着が理想ですね。でもロイネルはあざといので転がして来る気配を感じてます。
>最近は極めの強い柔術家を相手に~・・・
返信削除難しいですよね~
確かに打撃だけでは今回の様にタックルでなくクリンチ狙いでぐいぐい近づかれると蹴りは機能し辛く
かつ相手の組みに気を取られるのでパンチにおいても後手に回り易くなってしまいますから
相手にもこっちの組みに気を使ってもらいたいところですが
かといって組みの技術はそこから極めて(削って)までやらないといかず
それ単体では機能しないので相当練習時間を取られてしまうと思います
恐らくムサシに限らず多くのストライカーは薬使うか若くて節制してるとかなら別ですが
限られた体力と時間を有効に使うべく練習配分を、寝技師相手には組みは捨てて・・・となってしまうのも無理はないかと
ただジャカレイの様に寝技師に打撃を憶えられるとこうなってしまう以上もうそんな事は言ってられないのかもしれませんね
ほんと難しいんですよね。ただあそこまでスタンドで押し込まれるくらいならば、やはり極めのリスクを背負って自分からTDして上を取りにいくほうが勝機はあったと思います。どのみち防戦でもスタミナを根こそぎやられちゃいましたしねw序盤ならばそこまで簡単には極まらないと思うので、ムサシもパンチとTDを連携させて攻めて行ってほしかったです。
削除ジャカレイの一つ一つの動きに地道な練習の影がみえておもしろかったですね。
返信削除レスラーキラーをされそうになったら頭の位置を変えたりとか、蹴りあげを警戒しながらトップポジションに執着するところに彼の努力がみられるかと。
ワイドマン戦のカギは大内刈りを始めとした足技にかかっていると思いますね。ワイドマン陣営なら徹底的に対策してくるでしょうが。
さてUFC日本大会楽しみですね。無理して休みをとりましたともw
個人的注目は田中対ギョンホと徳留選手の成長ですね。徳留選手のダブルレッグはレスラー顔負けの素晴らしさだと思います。
20日は思いっきりハシャいで騒ぎますよw
スタミナありましたね。金網際の攻防はすごい練習してきた感じがありました。内掛けとかの柔道スルーは相性いいですね。
削除側頭部への肘は結構いいのはいってましたけど、連打される前に良い対処してましたね。そのまま相手のバランスがが崩れたのを利用してTDしましたし。ちゃんと対策してきた感じです。
ワイドマン陣営はどうするんでしょうかね。多分クリンチもタックルもそんなに怖くないでしょうから、強気でスタンドを仕掛けて、突っ込んでくるようならチョークに気を付けながらTDしてくるように思います。ジャカレイがタックル切れないようならワイドマンが勝ちそうです。
う、羨ましいw私は今年都合が合わずに行けないのです。自分の分まで応援お願いします!田中はギョンホをグラップリングで制することが出来るなら相当なフィジカルの強さがあることを証明できそうですね。徳留さんは嫌いじゃないんですがなんか試合が荒いところがちょっと気になるんですよねwもちろん応援していますが。
せっかくのお祭りです。あんまり周りの目を気にせず、アドレナリン全開ではしゃいできてくださいませw
あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー羨ましい!!!!!!!!!!!!!