2012年12月13日木曜日

UFC on FOX Henderson vs Diaz 感想と分析 Part2

Part1の続きです。
以下はあくまで個人的な意見ですので参考程度にどうぞ。
大会結果はこちら。写真は公式ギャラリーより


SEATTLE, WA - DECEMBER 08:  (R-L) BJ Penn punches Rory MacDonald during their welterweight bout at the UFC on FOX event on December 8, 2012  at Key Arena in Seattle, Washington.  (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images) *** Local Caption *** BJ Penn; Rory MacDonald
交錯する新旧天才の拳

WIN ローリー・マクドナルド VS BJ・ペン

ローリー・マクドナルドについて

軍神アレスの名を持つ男。GSPの愛弟子であり、基礎となるスポーツが
MMAという新世代を代表する天才児はまだ若干23歳である。
あどけない表情で、似合わないスーツを着て会見に臨む
彼はまるでバンドマンか大学生のような風貌だった。

だがスーツを脱いだ彼はまさに軍神だった。
絞り込んだ均整の取れた体と、一切表情を変えずに
BJペンを見据える顔は、23歳とは信じられないほどに
落ち着いていた。戦場が我が家であるかのようだった。
彼の家には絶対に招かれたくないものだ。

スタンドは圧巻だった。MMAボクシングの名手として知られる
ペンを相手に常に優勢だった。体格差をきちんと活かして、
長い距離からの左ジャブがペンの顔面を最後まで捉え続けた。
ペンの左目は完全に潰されてしまっていた。
特筆すべきは彼の引き出しの多さだ。決してただロングリーチ
からの削るジャブだけではない。ペンがジャブを警戒したら
すぐにヘビーなローを叩き込む。ペンが前に出てくるのに
合わせてカウンターの左肘を叩き込む。一発を狙ってきたら
すっと間合いを詰めてタックルで倒す。ペンはディフェンスが
常に後手に回り、一発を狙うチャンスさえほとんど掴む
ことができなかった。
その中でも光っていたのが、えげつないほどの角度でペンの
腹に突き刺さる左ボディアッパーだった。

SEATTLE, WA - DECEMBER 08:  (L-R) Rory MacDonald punches BJ Penn during their welterweight bout at the UFC on FOX event on December 8, 2012  at Key Arena in Seattle, Washington.  (Photo by Ezra Shaw/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images) *** Local Caption *** BJ Penn; Rory MacDonald
軍神の矛に腹を突き刺されて体を折り曲げる天才
内臓が悲鳴をあげる!

この一発でペンの表情から血の気が失せたのがはっきりわかった。
蒼白な顔で立ち尽くす天才は、それでも精神力で意識を繋ぎとめながら
一発を狙い続けた。しかし軍神は彼を冷徹に見つめながらじわじわと
追い込み続ける。膝、ハイキック、ボディ、タックル、ジャブ、肘・・・
全方位からペンを追い込み、自分の優位に浮かれる素振りもなく
彼は戦争に勝つために必要なことをやりつづけた。そこには
もはや天才が勝つための手段など残されてはいなかった。

組みではさすがの安定感だった。ペンに足を取られて倒されかけても
不思議なバランスで気づいたら立った状態に戻っている。
なぜ倒れないのかが不思議なくらいだった。そして離れ際で
確実に打撃を入れてくる。これは最先端のMMAを習得したものは
必ずやる行動である。シーンが移る刹那は最大のチャンスなのだ。

また、TDトライや組みでの見極め、嗅覚は天才的だった。
タックルトライで無理と見るやすぐに打撃に切り替える。
グラウンドで危ないと見るやすぐに距離を取る。
決してダラダラと無理な仕掛けをしないですぐに切り替え、
相手が対応する前に動いて優位に試合を運ぶ。
この歳でこの展開をできるのは末恐ろしい。

結果はユナニマス・デシジョン (30-26, 30-26, 30-27)で若き天才児の
圧勝だった。ファイトメトリクスによる試合データではこちらも効果的な
打撃で100発近い差があった。決して体格差だけに頼ることなく
足を使い、きちんと打ち分け、それでいて深追いすることのない
安定した試合運びだった。終盤まで動くスタミナも十分だった。
戦前の予想通りかなりの実力差があったと言えるだろう。
試合後のマイクでは、ペンファンからのブーイングに対しても
知らぬ顔で以前KO負けを喫したコンディットとの再戦を要求した。
若干23歳の若き軍神は駆け足でタイトルマッチへの階段を
駆け上がっていく。このまま登りつめていったとき、彼は
愛する先輩であるGSPと合間見えるのだろうか、それとも・・・。
全ては殺し屋に借りを返してからだ。

BJ・ペンについて

天才はモチベーションを取り戻していた。宿敵の弟子を相手に、
彼はこれまでではもっともいいシェイプを取り戻していた。
浮かれて自分の肉体を動画投稿するくらいに、自他共に
認めるシェイプだった。しかし・・・。
なぜか計量時にはプヨっていた。感謝祭の罠から逃れられず、
ターキーをまるまる一匹平らげたのだろうか。寝ているときに
空腹に耐えられず、無意識にケーキをワンホール食べて
朝起きたときに口に生クリームをつけていたのだろうか。
彼の腹は明らかにすこしプヨっていた。なぜベストを
つくさないのか・・・!

スタンドではやはりリーチ差に苦しめられた。積極的に
前にでてプレッシャーをかけるがつかまらない。ジャブの
差しあいでは明らかに分が無かった。MMAではボクシングが
巧いと言われていたペンだが、彼の技術は今のMMAでは
もはや当たり前の水準になってしまったのだ。得意の
ボクシングで分が無い。では彼に何があるのか?
何も無かった。彼もネイト同様、一昔前のMMAスタイル
なのだ。足を止めて打ち合う旧式なのだ。今のMMAでは
足を使い、距離を計り、選択肢を増やして相手のディフェンスを
散らしながら隙を突いていくスタイルがスタンダードだ。
この新式の先駆者であり、MMAの一つの完成形、つまり
「ジ・アンサー」である元王者フランキー・エドガーに、
BJ・ペンはかなり昔に散々やられたはずではなかったか。
彼はあの二度の対戦から何を学んだのか。そもそも
ペンは対戦相手の研究をしたのか?天才は、己の
才能にあまりにも頼りすぎてしまったのではないだろうか。

SEATTLE, WA - DECEMBER 08:  (L-R) Rory MacDonald punches BJ Penn during their welterweight bout at the UFC on FOX event on December 8, 2012  at Key Arena in Seattle, Washington.  (Photo by Ezra Shaw/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images) *** Local Caption *** BJ Penn; Rory MacDonald
弱点であるボディを打たれて悶絶するかつての天才

ニック戦でも狙われてスタミナをごっそり奪われたボディを今回も打たれ、
天才は完全に失速した。スタンドでは立ち尽くして一方的に打たれるシーンが
何度もあった。天才は確かに天才だ。パンチ、グラウンド、勝負勘、精神力。
全てが素晴らしいものだった。だが、それゆえにペンは努力の才能に
あまり恵まれなかったのかもしれない。

打撃を逃れて必死にTDを狙うも、消耗したペンでは組みで勝てるはずも
なかった。また、彼は組際の攻防では明らかに研究不足だった。
離れ際、組際に隙が多いのだ。想定していないタイミングでの強襲に
何度も被弾を許していた。TD自体は決して悪くは無いにも関わらず、
そこで後れを取ったために結局まともにTDをすることはできなかった。

試合結果としては惨敗だ。KOされたと判断されてもおかしくないほどに
打ち込まれた。かつての天才は若き天才に完全に制圧された。
この先ウェルターで戦っていくことは恐らく不可能だと
感じさせる負け方だった。試合後、デイナはBJが引退するだろうと
言った。自分も恐らくそうだろうと思う。だが、BJペンは実はまだ
33歳なのだ。本当は今が最も強い時期のはずだ。試合では
決して肉体的に衰えたとは思わない。敗因は明らかに最新の
フィジカルトレーニングやMMAテクニックを習得していないこと、
チーム一丸で戦略を立てて試合に臨むこと、対戦相手を
研究して攻略法を探ること、そういう当たり前のことをやって
いないがためなのだ。

私はBJが好きだ。彼の戦いは好きだ。だからこそ、
本当に全てをやりきって、もう万策尽きたというときに
辞めて欲しい。天才はもうやりつくしたと思っているかもしれない。
でもそんなことはない。きちんと絞り、研究し、進化を続ければ
彼はライトでまだトップに食い込めるはずだ。
GSPしかりベンヘンしかり、彼らは誰よりも研究し勉強しているから
こそ王者なのだ。ペンはまだそれをやっていないのは明らかだ。
彼はジムを経営している。だが、二束のわらじで勝てるほどに
今のMMAは甘くない。願わくは、彼がファイターとして今一度
一から出直して再びオクタゴンにあがることを願っている。
ウサギがサボらずに走り続ければ、きっと亀よりも
遥かに速いはずだ。次にリングに上がるときは、わき腹に
貯蔵タンクのないBJペンでありますように。