2013年7月17日水曜日

MMAでの故障者続出、原因は「練習のしすぎ」?

MMAの怪我問題:ファイターはどれほどハードに練習しなければいけないのだろうか?

Junior dos Santos

bloodyelbow.comより
画像はJunior Dos Santos - Official UFC® Fighter Profile | UFC ® - Fighter Galleryより

ここ数日は恐らくデイナ・ホワイトとUFCのお偉方にとっては腹わたが煮えくり返るようなものだったろう。ファイターの怪我によって試合のキャンセルと組みなおしラッシュがあったし、ここにはこれらの怪我のほとんどに共通するテーマがある。それは後述しよう。まず、こちらが最近明らかになった主なMMA怪我問題の概要だ。


・TJ・グラント。UFC164でのベンソン・ヘンダーソンとのチャンピオン・シップを辞退した(そして群集は怒り狂った・・・)。彼は脳震盪を起こしたのだとツイートした。

・マット・ミトリオーネ。トレーニング中の怪我により、UFC on FOX8でのブレンダン・ショーブ戦から外れた。

・スペンサー・「ザ・キング」・フィッシャー。UFC on FOX 8でのイーブス・エドワーズとの対戦から退いた。怪我の詳細は明かされていない。

・ボビー・グリーン。トレーニング中に負った手の怪我のためにUFC on FOX 8を辞退する。グリーンは5連勝中だった。

・アンディー・オグル。UFC on FOX Sports 1 #1で予定されていた試合から外れる。怪我の詳細は明かされていない。

・ジョシュ・コスチェック。詳細不明の怪我により、UFC163で予定されていたデミアン・マイアとの試合から余儀なく外れる。

・チアゴ・アウベス。UFC on FOX Sports 1 #1での対マット・ブラウンのカードから外れる。怪我の詳細は不明。

他にも最近の怪我はあるが、これらのなかでいくつか自分には気になる件がある。この怪我を全て見たときに、二つほど言えることがある。


最初に、TJグラントが自身のエゴを脇に避け、真剣に今後長期間の健康状態を考慮したことに対して賞賛と大いなる感謝を述べたい。ちょうど頭の中で鐘が鳴り響いた後(※1)にすぐさまフィールドに戻りたがるフットボール・プレイヤーのように、私はTJがヘンダーソンとのタイトル・ショットを得たくてしょうがなかったと思っている。私はアンソニー・ペティスとヘンダーソンの新しい対戦に興奮するのはわかるが、一部の連中がグラントの怪我のタイミングについて悪巧み呼ばわりしていたのは興味深かった。この話題に対する彼のツイートにはそいつは最高だと書かれている。

(※1) フットボール用語で、頭部への激しいダメージを受けて頭中で鐘の音のようなノイズが鳴り響く状態をbell rungという。日本語でも頭がガンガンする、クワンクワンする、という表現をしますね。


陰謀論家の皆様には申し訳ない。デイナ・ホワイトとUFCは私に道を譲らせるための大金を支払わなかったし、支払えなかったんだ。

二つ目に、練習中に負う怪我の数には驚かされる一方で、殆どの怪我がトレーニング中に起こるのも当然のことだ、というのもファイターは実際の試合よりも遥かに多くの時間をトレーニングに費やすからだ。今だに私が疑問なのは、MMAにおいてエリート・レベルで競争し成功しようという衝動が、練習時に特定のファイターに安全の限界を超えさせてしまうのだろうかということだ。

私が最初にこの問題について真剣に考えたのは、ジュニオール・ドス・サントスについての記事を読んだときだ。彼はUFC155でのケイン・ヴェラスケスとの試合の直後、横紋筋融解症に罹患していたのだ。その状態は骨格筋が壊れ始めたときに引き起こされ、ミオグロビンと呼ばれる物質を血液の中に放出する。ミオグロビンは腎臓へのダメージを引き起こしうる。横紋筋融解症の一因に激しすぎる努力がある。ともかく、トレーニング(もしくはオーバー・トレーニング、ドス・サントスのケースのような)は間違いなく「過酷な努力」と認めるに足るものだ。もし彼の仕事が今後の人生で死ぬまで続くような健康上の問題を生み出すと知ったら、彼は辞めるか、少なくともトレーニングのやり方を変えたりするだろうかと彼が問われたとき、彼はこう答えた、

「ねえ、私はそいつはその価値があると思っているんだ。これは私の人生だ。これが私の持つ全てなんだ・・・MMAのアスリートはものすごく練習するんだ、ねえ・・・私はそいつが欲しくてたまらないんだ。こいつのために私は自分の持つ全てを注ぎ込みたいんだ。こいつは私にとっての全てなんだよ。」

Junior dos Santos

私は職業柄、彼らを怪我から復帰させる手伝いをする人たちと働いている。そのせいで私の反応がこれほどに真面目になるのだ。MMAにおいてエリート・レベルで競争するのに肉体的に何が必要なのかを知ったかぶるつもりはない。だが、疲れている時に身体が怪我しやすくなるのは私も経験していることだ。休養が必要だと身体が言っている時に、練習計画をどんどん押し進め続けるのは自殺行為だ。もし私が怪我をしたファイターに質問する機会を得たならばこう聞くだろう、「あなたが自身を怪我に追いやった日に、あなたはどれくらいの時間トレーニング/エクササイズをやっていたのですか?」

次の論理的な質問は、どれくらいがやりすぎなのか?というものだ。私はそれに対しての答えを持たない、だがファイターと共に働いているトレイナー達は間違いなく知っていると推測している。「やりすぎ」は人によって違うだろう。トレイナー達は、ファイターが限界に達したことを示す微妙な点に気づける完璧なポジションにいる。ファイター達が、トレイナーにストップして家に帰って休養を取れと言われて聞き入れるかどうかはまた別の問題だ。ファイターとトレイナーが、肉体には限界があるのだということを理解するのを私は切に望んでいる。

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というわけで前回に引き続き、ファイターのフィジカル・コンディションについてでした。

最近起きた欠場一覧表を見てもらえばわかるとおり、メインカードに穴がボコボコ空いています。UFCのマッチメイカーがパズル好きだとしても、これを全部埋めるのは苦痛以外の何物でもないでしょう。怪我もなく、前の試合から十分な間隔が空いており、かつ相手選手に見合うレベルのファイターを探し出しては連絡をして出場依頼、ダメならまた次を探す、その間に刻々と開催期限が迫ってくる・・・。自分が試合を組む人間だったならば、恐らく怪我をしまくる選手には回復後に嫌がらせのような制裁マッチを組むか、首切りリストに載せるかのどちらかをやってしまうでしょう。

MMAの怪我の大半が練習中なのは言われてみれば当たり前ですが、なぜそんなに頻繁に起こるのかということについて、一つ前のエントリで紹介したサントスの例を引き合いに出しています。選手自身が過酷なトレーニングを望んでいて、さらにはそのせいで危険な病気や怪我を引き起こしてしまっているのです。これを止められるのは、限界を見極められる立場にいるトレーナーだけだとしています。これはその通りでしょう。自分自身の限界は、案外自分ではわからないものです。わずかな変化を客観的に発見してくれる協力者の存在は、安全で効果的なトレーニングには必須といえるでしょう。

一方で、トレーナーが注意したところでそれを聞き入れるかどうかはわかりません。試合が怖くて怖くてしょうがないという恐怖から、ついついやりすぎるということは多いでしょう。これはギルバート・メレンデスも語っていたことです。もっとあれをやればよかったか、不十分じゃないのか、と自問自答をしてしまうそうです。これは選手のモチベーションを高い水準に維持する傍ら、選手をオーバー・トレーニングに追い込んで故障させてしまうものでもあります。問題はその感情をいかにコントロールするか、ということでしょう。その差はわずかなのではないかと思っています。

理想的なのは、絶対に信頼できるトレーナーやコーチを見出して、自分の管理をその人に全部委ねてしまう、というやり方ではないでしょうか。そうすれば、選手は目の前のトレーニングにひたすら集中してこなすだけ、休息中も不安からのストレスを感じなくて済む、危険なときはトレーナーがすぐに止めてくれる、という寸法です。ジャクソンズの選手は、この関係が巧く出来ているような印象を受けます。

ただ、一対一で戦うファイターは当然ながらエゴが強い人も多いでしょうから、そういう人を性格的に見出せない、委ねられないという人も多いでしょう。

また、ストレスから逃れるがために過剰な運動でそれを和らげている、という人も多そうな気がします。苦痛を感じると、人間はそれを和らげるために脳内で緩和させる物質を大量に作り出します。いわゆるランナーズ・ハイなどがそれですが、その依存症になってしまっている人も多いのではと推測しています。何しろMMAは相手から直接肉体的な攻撃を受けるわけですから、その苦痛たるや相当なものだと思います。もしかしたら、他のスポーツよりも痛みが多い分練習依存症になりやすいのかもしれません。

おかしな言い方ですが、苦しいのは気持ちいいのです。決して変態なわけではありません、人間にはそういう面もあるという話しです。(誤解の無いように!)しかしその状態で行うトレーニングは能率が悪く、また練習が手段ではなく目的に摩り替わってしまうために、決していいパフォーマンスには繋がりません。それどころか、過剰な練習で故障を生み出してしまいます。

というわけで最近のMMAにおける故障の多さは、競争の激化と、それに伴う過剰な練習が原因なのは間違いなさそうですね。私見としては、MMAをF1と同じチームスポーツとして考えるのが現状一番いいと思っています。

選手は車でありドライバーで、コーチやトレーナーはそれを管理するメカニックなどです。選手の良さや癖、弱点を把握して作戦を立てる人、肉体の状態を徹底的に管理して常に健康で最高の状態を作り維持する人、技術的なことを確認して彼の技術を改善する人、そうやってチーム一丸となって勝利を掴むスポーツと考えるのが、一番強くなる近道のように思います。個人の競技だと考えて、何でも自分ひとりでやろうとすればその負担は大きすぎ、どうしても手に余ることが多くなるようにおもいます。(もちろんコストの面で折り合いをつける必要がありますが)実際今強い選手は、これが出来ている選手のように思います。基本的にどのジャンルでも、進歩すればどんどんと専門分化と分業が進む傾向にあると思っています。これも今、MMAが発展している証左であるのかもしれません。

最後に、選手は怪我をしたら可能な限り大事をとるべきだと私も思っています。UFCではいつ解雇されるかわからない、いつタイトル・ショットが回ってくるかわからない、そしてキャンプで莫大な費用がかかるために、怪我を引きずってでも試合をしなければならないというプレッシャーが選手にかかっています。しかし無理をすれば、いつ二度とケージに戻れなくなるような不幸をもたらすかわかりません。たとえどんなに出たくとも、絶対に無理をしないで欲しいですし、だからこそTJはよく決断したと思います。賞賛すべき判断だったのではないでしょうか。

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