UFC169のその他の試合の寸評です。以下は個人的な意見ですので参考程度にどうぞ。
画像はUFC 169 Event Gallery | UFC ® - Mediaより
バンタム級5分5R
WIN 王者ヘナン・バラオン vs 挑戦者ユライア・フェイバー
(1R パウンドによるレフェリーストップ)
王者は初防衛に成功
圧倒的!不遇の王者がついに初防衛達成
この勝利を初防衛というには違和感がある。彼はすでに暫定王者として二度挑戦者を退けているからだ。ハードな試合を潜り抜けながら然るべき評価や立場を得られなかった彼は、これでようやく名実共に認められることになるだろう。
試合はかなり一方的だったように思う。本来ならば自分からプレッシャーをかけて相手を下がらせ、そこに一気呵成に攻め込んでいくフェイバーだが、彼の圧力がほぼ効かなかった。バラオンはフェイバーの打撃に恐れることなく、逆にフェイバーがバラオンの制空権に入れずに四苦八苦した。このあたりは初戦とまったく同じ展開だ。フェイバーは自分の距離にできずに遠いところから攻めあぐね、その合間に強烈なローなどを被弾していった。
そしてフェイバーがジリジリと下がり始めたとき、バラオンが飛び込んで鋭い右ストレートを放った。その一撃で、タフな顎を持つことで知られるフェイバーがたったの一発でマットに倒れ込んでしまった。そのステップインの速さには感心するほかない。
まだ意識が十分に残っていたフェイバーはすぐさま対応し、追撃に来るバラオンを防ぎながらかろうじて逃れたものの、足取りはおぼつかない。スタンドに戻って息を整えようとしているところに、今度はバラオンの飛び込んでからのオーバーハンドが繰り出された。
これもフェイバーの側頭部をかすめるように当たると、一瞬耐えようとしたフェイバーが前のめりに倒れ込み、追撃に来たバラオンを相手にわずかに体が伸びてしまった。急いでバラオンの足に組み付いて亀になったフェイバーだが、その側頭部にバラオンはパウンドを落とし続ける。パウンドは全てフェイバーのガードの上からだ。バラオンはハーブ・ディーンの顔を見上げながらフェイバーのガードを叩き続け、そしてハーブ・ディーンは試合を止めた。
ヘナン・バラオンは強かった。特にリーチ差がある場合のバラオンには一際安定感が感じられる。あのフェイバーを相手にこの勝ち方ができるのであれば、恐らくバンタムにはもう敵なしだろう。私はドミニク・クルーズが好きだし、もし復帰してバラオンと対戦することになったら彼を応援するつもりだが、このパンチ技術を相手にすればクルーズでもかなり厳しいだろう。クルーズは体格やリーチでは遜色ないし、蹴りとフットワークがある。そしてレスリングとTDもあるとはいえ、バラオンの打撃技術を前にすると少し心もとない気がする。またクルーズはもう戦線を長いこと離れているし、手術の影響も少なからずあるはずだ。もし復帰して対戦したら、恐らく現王者が勝つように思う。
さて、バラオンは素晴らしかった。しかし唯一不満があるとすれば、レフェリーへのアピール行為だ。止められた直後、フェイバーはなぜ止めたのかとレフェリーに抗議した。ハーブ・ディーンが続行可能かを聞いたとき、フェイバーは親指を立ててまだ大丈夫であることを示していたのだ。だがレフェリーはそれを見落としたらしい。それはしょうがないだろうし、止めてもさほど不満はない。自分はフェイバーはまだ意識があって動けそうだったので、止めなくてもよかったかなとは思う。どのみち勝てなかったとは思うが、フェイバーは危機的状況においても逆転の芽がある選手だ。続ける価値はあっただろう。だが、バラオンはレフェリーが止めるようにアピールし、プレッシャーをかけた。この行為がレフェリーの判断に影響を与えたのは間違いないように思う。
相手が続行不可能かどうかを選手が判断する必要は基本的にはないのだ。彼はガードの上から叩く暇があれば、ガードの隙間を縫って攻撃を入れる努力をするべきだ。もし相手のダメージを考えて止めることを促したのであれば、それは余計なことだろう。是々非々で選手がアピールしたほうがいい場合もあるだろうが、この場合には自分は王者のあざとさのようなものを感じた。それが彼の強さの一つでもあるのだろうが、私はそういうものを好まない。可能であればやめるべきだし、ああいう要素は必ず将来においてバラオンにマイナスに作用する時が来ると思う。
負けたフェイバーは試合後も不満たらたらだったが、負けは負けとして受け入れてバラオンを称賛し、そしてレフェリーへの批判を防ぐためにハーブ・ディーンを擁護した。さらに自分と同門の若手であるTJ・ディラショーの名前を挙げ、彼への注目をも促した。強烈なパンチを受けながらも話しぶりはしっかりとし、そして全員への気遣いを忘れないこの男、まさに兄貴と呼ぶに相応しい男っぷりだ。カリフォルニア・キッドは常に心地よいカラッとした海風をそよがせている。彼に大勢のファンがいるのも当然だろう。ケツアゴ兄貴はこれでタイトルマッチ4連敗となり、年齢的にもう一回挑戦することは難しいかもしれない。だがその力は今だ健在であり、試合内容も素晴らしいものばかりだ。これからもケツアゴ兄貴にはぜひとも戦い続け、いつかまたもう一度王座まで辿り着いてほしいと願っている。
ヘビー級 5分3R
WIN アリスター・オーフレイム vs フランク・ミア
(ユナニマス・デシジョンによる判定勝利)
目立つ消極性、精彩を欠くかつての強豪たち
結論から言ってしまえば、どちらのパフォーマンスにも感心しない試合だった。アリスター・オーフレイムは消極的だったし、フランク・ミアはスタンドが絶望的だ。かつての強豪たちはあまり噛みあわずに試合を終えた。両者ともに、王座までの道のりは遥か遠い。
だが、アリスター・オーフレイムはここ最近ではかなりよかったように思う。肉体的にはある程度シェイプができており、スタミナとスピードで多少の改善が見られた。テストステロン値の大幅な上昇が発覚して以来、彼は通常の成人男性以下のテストステロン値になってしまったという。その影響か、先の敗戦では身体がひどく緩み、見るからに重そうな体型となっていた。そして必ず試合途中で突然失速していたのだが、今回の試合ではそれらがあまりひどくなかったように思う。もっとも、序盤で膝を当てた後にラッシュをかけたが、そこを凌がれると一気にペースダウンしていた。彼のスタミナ不足は肉体もさることながら、ペース配分の下手さやチャンスでの無理な体の使い方のほうが問題なように思う。フランク・ミアがもう少しキレを取り戻していたら、あの場面はかなり危ないところだっただろう。だが肉体を絞ったのは良い傾向だ。もっと絞って、スピード重視、手数重視のスタイルを構築すれば一気に化ける可能性もあるだろう。
またオーフレイムはクリンチが相変わらず強く、クリンチが苦手なミアを相手に優位に立った。先に述べた膝でダウンを奪い、そして後半では膂力に任せてミアを放り投げた。クリンチならばアリスターは打撃のプレッシャーを感じないから試合を展開しやすい。無理に打撃戦をするよりは、この戦い方のほうがスマートだろう。倒した後は上を取ってパウンドを落としていったが、手数が出ていたのは評価できる点だ。もはや彼にKOを期待する向きもさほどないだろう。まずしっかりと優位なところで勝つことを考えるのは決して批判されることではない。
だが、手数はあるがどの攻撃もいまいち威力に欠けるところが気になった。終盤でもミアはそこそこ動けていたことからもダメージはあまり与えておらず、フィニッシュにまで持ち込む力が不足している。アントニオ・シウバ戦でもトラヴィス・ブラウン戦でも、一度は優位に立ちながら結局倒し切れずに巻き返されて負けるパターンばかりだ。パウンドの威力のなさには毎度度肝を抜かれる。彼はチャンスと見るやすこし体を力ませすぎているように感じている。仕留めきるだけの威力が無いのは確かなのだから、無理にラッシュを狙うのはやめたほうがいいだろう。
そして一番問題だと感じたのが、スタンドでは相変わらず距離を維持して戦えないことだ。飛び込んでささっと何発か打つとすぐに組み付いてしまう。序盤はそれでもかまわないが、ダウンを奪って優位に立ってからもそれができないのはもったいないだろう。スタンドで蹴りを主体に削っていけばもっとしっかり勝てたはずだ。パンチも後半はいいのが何度も顔面を捉えていた。飛び込んでの長い距離からの右ストレートはかなりいい武器だろう。もっと攻めることはできた気がする。特に今回のミアはスタンドが壊滅的で全く手が出なかったのだから、ここで積極性を見せることが出来ないのではやはりトップ選手との対戦は不可能だろう。
試合後には安全運転であったことを認めたアリスターだが、仕方ない面もあるとはいえ、やはり試合は中途半端で消極的な印象を受けた。スタンドでのディフェンスが改善しているとも思えない。彼はどちらかにはっきり舵を取る必要があるように思う。序盤にラッシュをかけて倒し切る、初期アリスターと同様のウルトラマン・スタイルか、さらにシェイプをしてスピードとスタミナをつけ、ラッシュで無理に仕留めに行かずに最後まで削り続けるスタイルかだ。結果的に、きちんと削り続けるスタイルの方がKOは増える気がする。もはや彼にはテストステロンに頼った肉の鎧はなく、ガードごと吹き飛ばすようなフックはないのだから。かつての超人的なパワーを持っていた時代の名残で無理にフィニッシュをを狙う癖が、彼のスタミナ不足やラッシュ後のピンチを招いていると自分は見ている。
輝くものは確かにある。だがそれを本人が理解していない、それがアリスターの一貫した問題点なのかもしれない。あと少しピースの位置を動かせば、素晴らしい一枚絵が完成しそうな気もするのだが・・・。彼の解けないパズルはまだ続きそうだ。
そしてフランク・ミアに関しては、ファンである自分としては哀しい限りの調子の悪さだった。ここ最近は体重が110キロを切ることがまずない。重すぎるし、シェイプが出来ているとは思えない。スピード重視のシェイプにしてくれればまだ期待できるが、ここのところはずっと重い体のままだ。もう肉体的にも精神的にも身体を練り上げるモチベーションがないのかもしれない。
案の定スタンドではキレが無く、今回は特に手が出なかった。3Rを通してシグニフィカント・ストライキングの数がわずか6発という驚異的な少なさだ。唯一の見せ場はチョークを狙ったシーンくらいだろう。あとはひたすらに安全運転をするアリスターの対処に追われるだけだった。
ジョシュ・バーネットの試合に続き、この試合でもパフォーマンスは最悪に近い。勝機らしいものすらないままに、いたずらに時間を重ねただけだった。技術やら以前に肉体の仕上がりが悪すぎる気がするし、精神的にもここで攻めるんだというものが見られない。とにかく手が出ないのだ。何が原因かはいまいちはっきりしないが、以前のようにワクワクするようなギラついたものがなくなってしまった。序盤で相手の出方を窺いすぎてはなし崩しに負けている。
フランク・ミアにはもはや上位陣に食い込むことすら期待できなくなっている。これでとうとう4連敗だ。リリースもやむなしなところまで彼は追い込まれてしまった。今のミアでは、おそらく次にノゲイラと再戦したら今度こそ負けるだろう。重すぎる身体、完全に後退を始めたスタンド技術が、無冠の帝王の未来に暗い影を落としている。彼に再起の芽は果たしてあるのだろうか?願わくば、あの強かったころのフランク・ミアを今一度見たいと思う。
Tweet
ミアはなんというか、、、ライトヘビー転向をもくろんでいた頃が懐かしいです。コンゴをぶっ飛ばして締め落とした時が彼のピークだったんでしょうか。
返信削除リリースではなく引退勧告ではないでしょうか。ミアはUFCとも揉めず
これ一本でキャリアをつくってきましたから。記念すべきWOWOWの初回
UFCで彼は二戦目をしていたのですがコムロック一発で試合を終わらせて驚いたものです。メジャー団体ではそれ以降コムロックはみかけませんね。
彼程インパクトのあるサブミッションの使い手はUFCに再び現れることはあるのでしょうか。トキーニョ?レフェリーストップ前に壊してこそ本物の壊し屋でしょう!
あのデカくて強い若者がキャリアの終焉を迎えようとしているわけですから自分も歳とるわけだなとw
デイナは負けたら引退したほうがいいと勧めてましたね。34歳だから本当ならまだやれるとは思うんですが、キャリアが長く、大事故経験もしてますしTRT利用者でもあるので、体はもうボロボロなのかもしれません。
削除ほんと一瞬で相手を叩き壊す剛術使いとして、あのサブミッションは惚れ惚れするほどカッコよかったんですが、もうあれも見られないんでしょうか。確かにトキーニョよりも本当の壊し屋という感じですねw
今だに覚えているUFC100のレスナー対ミア戦も、確認したら2009年で4年以上前なんですね・・・。自分もおっさんになるわけですw