以下はあくまで個人的な意見ですので参考程度にどうぞ。
大会結果はこちら。写真は公式ギャラリーより
世代交代を感じさせる一戦だった |
WIN アレクサンダー・グスタフソン VS ショーグン・フア
(ユナニマス・デシジョン)
グスタフソンについて
試合前、友人にグスタフソンが勝つだろうと言ったら
変な表情をされた。まるで知らない国の言葉で喋りかけられた
ようだった。こいつは何を言ってるんだ、彼の目が
そう語っていた。
だが蓋を開けてみればグスタフソンが圧勝だった。
スタンドではとにかく距離で圧倒的なアドバンテージがあった。
距離を取ってコンパクトなパンチを次々とヒットさせていく。
それだけではない。近づいたときにはカウンターの膝、
ローキックも巧みに織り交ぜ、ショーグンよりも蹴りを
有効に使っていた印象だった。彼のパンチがどれだけ
正確で鋭いかは、ショーグンの腫れあがった左目を見れば
明らかだろう。決して体を泳がせずにきちんと打ってきちんと
当てる。基礎中の基礎で最も大事なことでありながら、試合中に
実行するのがもっとも難しいことだ。さすがのボクシングスキルと
言うべきだろう。
加えて、パンチ慣れをしている分ショーグンの乱戦に持ち込もうと
するラッシュにも慌てることなくきちんと対応していたし、打たれても
崩れることは無かった。すばらしいゲームプランを持ち、それを
忠実に実行できたのは賞賛に値する精神力だ。
そして事前に評価が分かれていたレスリングスキル、グラウンド
スキルでもショーグンより優勢だった。序盤にかなり強引な
ショーグンのヒールホールドに捕まりかけるものの、きちんと
対処して抜けた後はポジションキープや差しあいでの攻防、
テイクダウンでは遥かにグスタフソンが優勢だった。
彼の唯一の敗戦がフィル・デイビスというエリートレスラーに
よってもたらされたものだが、彼はそれをフィル・デイビスと
特訓することで克服していたのだ。自分を負かした相手に
トレーニングを乞う。岡見勇信がほとんど英語が喋れないにも
関わらず、自分を倒したチェール・ソネンに頼み込んで
すぐに一緒にトレーニングを始めたときと同じだ。
つまらないプライドに拘らずに純粋な強さを求める
姿勢は感動的だ。彼はすでに次のステップに進んでいた。
またクリンチで何度も見せていたのが柔道スルーだ。
ボクシング出身が疑わしいくらいに奇麗な払い腰を
見せていた。クリンチ状態は腰が起きている
状態で、腰を曲げて頭をつき合わせるレスリングよりも
柔道に近く、最近では柔道のスキルが見直されて
取り入れている選手も非常に多い。ジョン・ジョーンズも
そのスキルを取り入れてると公言しているし、リョート・マチダは
相撲を取り入れているという。グスタフソンも柔道を
取り入れているのかもしれない。
結果的にはグスタフソンが全局面で圧勝であり、
フィジカルも最後まで動き続けられる十分なものだった。
自分の課題を正確に捉えてよく練習してきた成果を
見せてくれた。ショーグンにここまで圧勝であれば
タイトルショットの資格は十分だろう。体格でも
決してジョーンズに引けを取らない。古い英雄たちの
ネームバリューに頼ってばかりいた感のある
ライトヘビー級だが、いよいよ新しい世代によって
次のステージに進むことが出来そうだ。
ショーグンについて
私はプライドが好きだった。だから当然ショーグンも
好きだ。彼はいつも戦う姿勢を見せてくれる。勝敗だけで
彼への好意が変わることなどない。だが進化を見せない
場合は別だ。
ここ数戦でいつも感じていたことだ。ショーグンは強い。
勝負どころを理解し、ここぞで仕掛ける嗅覚は素晴らしい
ものがある。だが、対戦相手を研究し、自分の弱点を
見つめて改善していこうというものが感じられないのだ。
ダン・ヘンダーソンとの激闘は最高だった。戦争だった。
彼らは死力を振り絞って戦い、多くの人を感動させた。
だが、結局ショーグンは負けているのだ。泥仕合に
なったのは実力が拮抗していたからではなく、ショーグンが
戦略を持たなかったからに過ぎなかったと思う。
だからグスタフソン戦が決まったときには負けるだろうと
予感した。ショーグンもまた、リングで足を止めて相手と
打ち合うプライド・スタイルのままだったからだ。
そのスタイルは確かに一世を風靡した。だからこそ
その対策が次々と練られていったのだ。競技は
常に進化している。ついていけないものから脱落
していくのだ。
試合では特に言うことは無い。ここ数戦
ショーグンは全て同じだった。にじり寄ってローとパンチを主体に
スタンドをやり、時折柔術で一発を狙いに行く。それだけだ。
グスタフソン戦では打開策となる可能性のあったローを
カウンターのパンチやタックルで合わされて、次第にローすら
打てなくなっていった。足関節を狙うも削りの無い状態では
難しい。相手の足を腕力で掴んで抑える膂力には背筋の
寒くなるものがあった、だがそれでスタミナを消耗しては
元も子もないだろう。
起死回生のパンチを何度も狙ってグスタフソンを捕らえたが
ぐらつかせるまでいかなかった。無理やりに当てることばかり
考えてジャンプするような飛込みで打つために、上体が
完全に流れて泳いでいたからだ。パンチに足がついていかず
体の軸がぶれているのだ。彼はいまだにフットワークを
改善できていない。ジョーンズにリーチ差で飛び込みすら
許されなかったときに彼は何かを学ばなかったのだろうか。
フィジカルもお粗末なままだ。確かに筋力は凄まじいものが
あるだろう。あの肩回りを見ても相当な力があるのは
容易に理解できる。だが、それは本当に勝つために
必要なのか?毎試合ガス欠を起こしてはグダグダと
KO寸前の状態で打たれることから何が必要か
明白なはずだ。
ショーグンはもうかなりの高年齢と思われがちだが
そんなことはない。彼はまだ31歳で、今がまさに選手として
ピークであるべき年齢なのだ。自身を変える時間は
まだ十分にあるだろう。才能もある。これはもう彼の
環境の問題であり、練習の仕方の問題である。
私はショーグンが好きだ。だからこそ、次のステージに
進んで欲しい。同じブラジル人にアンデウソン・シウバが居る。
彼が花開いたのは30歳を越えてからだ。年齢は言い訳に
ならないだろう。体格的にもライトヘビーでは厳しい。
個人的には、減量をしてミドル級でやるべきだと思う。
そうすれば今よりもさらに強くなったショーグンとなるだろうと
予想している。若くして成功したショーグンは、今かなり
厳しい岐路に立たされていると言っていいだろう。
大会総評
とても面白い大会だった。テーマが「世代交代」としてはっきりしていた
と思う。特にメイン3試合がどれも同じような展開だったことはとても
印象的だ。旧式の選手がフィジカルと戦略を持った新式の選手に
完封されてしまうという展開だったと思う。
足を使わず、近い距離で倒しあうような戦い方で一時代を築いた
選手たちが、足を使いたくさんの引き出しを持ち優れたスタミナを
持った選手によって得意な場面に持ち込ませてもらえずに負けた。
負けた選手に共通するのは全員試合で進歩が見られないことだ。
同じことをやられて同じように負ける。悲しいことだが、これが
世代交代ということなのだろう。気づいて変われないものは
消えていくだけだ。
GSPは選手は医者のようなものだといった。一生勉強し、研究して
いかなければいけないのだと。負けた選手にその姿勢がかけていた
ことは明らかだったと思う。一つのスタイルが終わり、新しいスタイル
が始まったときにそのスタイルに適応できなければ実力やらなにやら
以前の問題として、知らないから負けるということになってしまうのだ。
逆にいえば、今の足を使って距離を支配しリスクを犯さない戦い方も
いつか破られるのだろう。その時にまたついていけないものが
振り落とされていく。それがスポーツの残酷さであり、面白さだと
自分は思っている。
そして一番感じたのが、敬愛するフランキー・エドガーの強さだ。
あの体格でありながらフィジカルモンスターのベンヘン相手に
互角以上にやりあっていた。レスリングでは明らかに上回っていたし、
ネイトがほとんど当てることのできなかったパンチをぶち込んで
ダウンを奪っていたのだ。なるほど、GSPの言うようにエドガーは
P4Pなのかもしれない。今回のベンヘンの強さをみて、ますます
アルドとの対戦が楽しみになってきた。後はあのブラジル人が
怪我をしないことを祈るばかりだ。