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画像はUFC® 155 Dos Santos vs Velasquez 2 Event Gallery | UFC ® - Mediaより
ラスベガス-ジュニオール・ドス・サントスは全長6フィート4インチの体格を伸ばした、MGMグランド・ガーデンのロッカールーム内で、特大の椅子を埋め尽くしながらだ。数分前、彼は驚くほどに激しいワーク・アウトを終えたばかりで、それはUFC160のコー・メイン・イベントでマーク・ハントを相手に行うヘビー級の3Rマッチから数日前のことだった。
彼は眉根を寄せて大きく息をついた、まるで何やらとんでもないことを考えているかのようだった、だが今がちょうどいい、質問をした:彼はやり方を放棄するか、少なくとも変えるだろうか?もし彼の仕事が、残りの人生でずっと続くであろう健康上の問題を生み出すということを確信したならば。
彼は椅子の中で身じろぎし、両手を頭の後ろで組んだ。
「それはいい質問だ、」と彼は言った。「本当にいい質問だ。」
ドス・サントスが椅子の中で体勢を変えて質問に答えはじめる前に、わずかな沈黙が流れた。笑みが彼の顔に皺を刻み始めた。
「ねえ、私はそいつはその価値があると思っているんだ。」と彼は言った。「これは私の人生だ。これが私の持つ全てなんだ。皆は知らないんだよ、私達がどれほど懸命に働き、成功の為に何を犠牲にしているのかをね。MMAのアスリート達はとてもたくさん練習するんだよ、なあ。私は今やっていることをこれからも続けていくだろう。私はそいつが欲しくてたまらないんだ。私はこいつのために自分が持つ全てを注ぎ込みたいんだ。これが私にとっては全てなんだよ。」
彼の人生が変わったのは21歳の時だ、ひょんな事から、彼は柔術のクラスを受講しようと決心したのだ。彼はそれまで非常に優れたアスリートではなかった、しかし体を作り上げたいと思った。柔術とは何かと相性が良く、そしてそれが彼の人生を変貌させたのだ。
それから8年間の歳月で、彼は世界のエリート・ファイターの一人となった。だが、UFCの頂点に到達するために彼が払ってきた犠牲と潜り抜けてきた苦難は、およそ信じがたいものだった。
12月29日、UFC155でケイン・ヴェラスケスを相手にタイトル防衛するために、彼は過剰にトレーニングをしすぎてしまったことを認めた。彼が言うには、試合の15日前にピークを迎えてしまったのだという。
彼はヴェラスケスとの5ラウンドに渡るヘビー級チャンピオン・シップで負け、手ひどくやられてしまった。その試合の翌朝、彼の尿は濃い暗褐色で、それはギネス・スタウト・ビールの色だった。
へとへとに疲れる試合をした後の選手達に見られるように、血を排尿することはなかった。むしろ、彼の尿の褐色は横紋筋融解症によるものだ。彼の筋繊維が壊れ、血流に入り込んでいるのだ。
それは治療できる症状だ、しかしある状況下においては致命的になりうるものだ。様々な原因があるが、一つは極度の身体的運動だ。ドス・サントスはあまりにも猛烈にトレーニングしたために、彼の肉体は素晴らしいところまで押し上られていた、その本来の限界を遥かに越えたところまで。
彼はナイキのエキスパート達と相談し、アレクサンドレ・ドルタスを招聘した、ブラジルの生理学者である彼に、彼の血のあらゆるレベルを管理計測してもらうためだ。ヴェラスケスへの敗北後、ドクターは彼のクレアチン・キナーゼ(CKとして知られる)のレベルが異常に高すぎることを発見した。
クレアチン・キナーゼは血中にある酵素で、横紋筋融解症を診断するのに使われる。平均的な成人男性のCKレベルは300以下だとドクターは言った。彼は言った、エリート・アスリートはそのレベルが350ほどの高さにまで到達しうるのだと。だがヴェラスケス戦の後、彼のCKレベルは1,400を超えていたとドス・サントスは言うのだ。
「彼は十分な休養をまったく取っていなかったんだ。」とドクターは言った。
ハント戦に備えたトレーニング・キャンプ中、ドルタスは親密な態度だった。トレーニング中に幾度もドス・サントスに接見し、彼の指を突き刺して血を抜き取り、ドス・サントスの血中の7つのレベルをテストするのに利用した、彼が己を酷使しすぎていないか確かめるためだ。
ドルタスは二つのことを勧めていた、一日あたり75分の練習と二ヶ月のみのトレーニング・キャンプだ。彼は言った、ドス・サントスがエリート・コンディションでいるのにはそれで十分であろうし、さらにそれは彼の肉体に十分に回復する猶予を与え、ネガティブな併発症を回避することになるだろう、と。
ハント戦のキャンプまでは、ドス・サントスは日に二度、一セッション三時間に及ぶ練習をしていた。UFC155のキャンプは3ヶ月以上の長期に渡った。
そのやり方では長く健康的なキャリアを生み出すことはできない、そしてもしドス・サントスが求める何かしらがあるとすれば、それは彼が可能な限り長期間戦うということだ。
ドス・サントス、29歳の彼は言った、彼は「ランディ・クートゥアのような男になる」ことを望むし、40代半ばまで戦うのだと。
「私はこいつをマジで愛してるのさ。」と彼は言った、ニカッと大きく笑いながら。
だが彼はすでに自身の肉体を尋常ならざる緊張状態に晒してきた。2012年5月26にMGMグランドでフランク・ミアを相手に行われたタイトル防衛戦に先だって、ドス・サントスは体の右側の筋肉をひどく怪我してしまった。
その筋肉は骨から裂かれ、剥がれてしまっていた。彼は絶対に戦うべきじゃなかったし、安全に競争できるだけの健康状態に戻るまで素直に試合を延期するべきだった、しかし手を引くべきだという提案を彼は頑なに拒んだ。
彼は右手でパンチを打つときは常に激痛を感じ、その部位を打たれたような時にはそこが何だったかわからなくなるほどだった。ドス・サントスは2Rにノックアウトでその試合に勝利したが、彼は言った、体の右側にある怪我をした6インチの部位をミアが蹴ったり殴ったりしたら、うまくはいかなかっただろうと。
「正直にいえば、私は多分ダウンしていただろうね。」と彼は言った。
ドス・サントスは言う、彼が試合の延期を拒んだのは根性なしではないからというだけじゃなく、彼が毎回トレーニング・キャンプに財政的に莫大な投資をしているからだと。
試合をしない選手は金を貰えない、しかし依然トレーニング・キャンプの費用に責任を負ったままなのだ。
「我々はトレーニング・キャンプをするのに莫大な金を支払っているんだ。」と彼は言った。「私はそれを無駄にしたくないんだ。それに知ってるだろ、私は自分を信じている。私はまだ自分が戦って勝つことが出来ると信じているんだ、たとえそういう怪我を抱えていてさえね。」
カリフォルニアはアナハイムで2011年11月12日にUFC on Fox 1において彼がヴェラスケスを破り、ヘビー級のタイトルと勝ち取ったときに、彼はそれを証明した。
彼はそのトレーニング・キャンプ中に大変な膝の怪我を負っていたのだ。「それは危険な状態だった。」と彼の側近の一人は言った。彼は戦えないかもしれないというごもっともな懸念が彼のチーム内には蔓延していた。
彼は整形外科医をブラジルから連れてきて、ハント戦前の最終週の間はいつでも助力してもらえるようにした。火曜日に彼は言った、健康な状態でハントとの試合に向かっていると。そして彼は明らかに獰猛だった。普段は喜色満面でフレンドリーな男が、不屈の決意を見せながらコーチのルイス・ドレアと共にフォーカス・ミット(ターゲットの丸がついているミットのこと)を打ち、グラップリング・トレーニングを行った。
彼はもし勝利したらもう一度タイトル・ショットを獲得するだろう、そして彼は全てを運に任せたくないのだ。彼はタイトルを賭けたラバーマッチで再びヴェラスケスと対面することを大いに望んでいる。ヴェラスケスは土曜日にUFC160のメイン・イベントでアントニオ・「ビッグフット」・シウバと対戦してそのベルトを防衛するだろう、ビッグフットはドス・サントスの近しい友人だ。
ドス・サントスは信じている、彼のキャリアは思うに5回か、もしかしたらそれ以上になるかもしれないヴェラスケスとの対戦によって彩られることになるだろうと。ちょうどモハメド・アリが一連のジョー・フレイザーとシュガー・レイ・ロビンソンの試合によって彩られ、そしてロビンソンがジェイク・ラ・モタとの試合によって彩られていたように。
ハントを倒すことは最優先事項だと彼は言う、だがそれは彼が獰猛な競技者であり全身全霊を使って勝つ必要があると感じているからだけでなく、その試合が彼をヴェラスケスとの再戦に近づけて
くれるものだからだ。
「人々は私達の戦いをずっと、ずっと長い間語り続けていくだろう、そう私は信じている。」と彼は言った、いつものようにニヤつきながら。「あの男は私の最後をまだ見たことがないんだ。」
彼が自分の体をハイパフォーマンス・スポーツ・カーのように扱い、限界を超えて向上させない限り、ドス・サントスの前には素晴らしい未来が待っている。
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というわけでちょっと古いですがドス・サントスのフィジカル・コンディションに注目した記事でした。これは次の記事のためのエントリでもあります。
ここ最近、またしても怪我の頻発によりカードが大量に変更になるという事態が起きました。それに関して「なぜファイターは無茶をするのか」という主旨のブラッディ・エルボーの記事にこのリンクがありまして、いくつか面白い内容がありましたのでこちらも訳すことにしました。
まず一つは、ヴェラスケス戦後にドス・サントスに見られた症状についてです。ヴェラスケスにトータル・ストライキングで210発殴られて負けた翌朝、尿の色がまるでギネス・ビールのようになっていたというのです。ギネスを飲む気が失せる表現ありがとうございます。書いた人はバドワイザー派なのでしょうか。
疲労で尿に血が混じるのはよく聞きます。しかし暗褐色というのはあまり聞いたことがありませんでした。そしてこれは横紋筋融解症が原因だというのです。リンク先にもあるように、事故などの外傷によって細胞が破壊されると、筋繊維が溶けて血中に流れ出すそうです。重症になれば腎臓が処理能力を超えて機能不全に陥り、透析や最悪死亡するケースもあるそうです。
そしてその診断に使われるのがクレアチン・キナーゼ(CK)で、血中にこの酵素が大量に検出されれば、筋繊維が融解しているかどうかがわかるそうです。そして通常の成人男性は300という数値、激しい運動をするアスリートであれば350であるところを、ヴェラスケスと戦った後には1400を超えていたということですから、その体への負担の大きさが窺えます。ファイターというのはこれほどまでに過酷なのかと改めて思い知らされました。
そして次に興味を惹いたのが、ドス・サントスはナイキのサポートを得ていることと、医療関係者を招聘しての改善に非常に前向きであるということです。
以前ドナルド・セローニが心理学者を招いて自身の精神的な問題を克服しようとしていましたが、こういう専門知識を有する人たちと連携できる環境とノウハウが海外では構築されていることに驚きました。日本のスポーツ選手が、「プレッシャーがどうしても克服できないから心理学者に協力してもらおう」とか、「現役を長く続けたいから医者に血液検査をしてもらって健康管理してもらおう」というようなことを言ったりやったりしたというのをあまり見聞きした記憶がありません。格闘技においては特にです。
もちろんこれには莫大な費用がかかるでしょうし、だからこそシガーノは無理をしてでも試合に出なければいけないというのがあるのでしょうが、こういう医学的、科学的なアプローチというのは非常に重要な気がします。トレーニングに必要なのは根性ではなく綿密なデータ管理と、科学的な裏づけだと思います。こういうのは日本でも積極的に見習っていきたいところではないでしょうか。
そして最後に、医者の助言によって勧められた練習時間が極めて短いということです。日に75分間で十分だ、というのです。そしてそれによってもたらされる休養が選手生命を永らえさせるのだと。
自分もそうですが、トレーニングはより厳しくやればそれだけ効果があるとどうしても思いがちですが、それはマゾヒスティックな快感に過ぎず、基本的にはトレーニングよりも休養のとり方、体を回復させることが重要のようです。そして現役を40代まで続けたいというサントスは、今までのオーバートレーニングを見直してキャンプ内容を大幅に改善したようです。これは他のMMA選手も真似することで大いに怪我が減る可能性があります。もっとも、相手に勝ちたいという気持ちが強ければ強いほど、不安から無茶なトレーニングをしてしまうのですからこれはかなり難しいことだとは思いますが。
というわけで次のエントリーに続く!
余談ですが、日本の部活動では成長具合もまばらな中学生を全てひと括りにして雑な練習プログラムをやらせているのが大多数だと思います。しかし一番大事なのは自分の体を自分で管理し、個人個人が適切な練習計画を立てることであり、そこを子供から奪っている日本の部活システムというのを自分は心底嫌っています。イカれた根性論がいまだに残っているのも不愉快です。炎天下に平気で成長期の子供に持久走をやらせて倒れさせる無能な体育教師もどきも多々いるようですし、スポーツに対する日本人の無知は間違いなく教育現場から発生していると思っています。時として厳しい練習に耐えるのは必要ですが、子供に苦痛を与えること自体が価値のあることと錯覚している変態は大嫌いです。
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