MMA Fightingより
画像はCain Velasquez - Official UFC® Fighter Profile | UFC ® - Fighter Galleryより
ケイン・ヴェラスケスとジュニオール・ドス・サントスの10月19日の戦いは、誰がこのスポーツの歴史上最も偉大なヘビー級ファイターなのかという議論の中でもう一つの名前となるためのものだ。
そして長きに渡りもっとも大きなMMAヘビー級試合とは何かという中で、王者ケイン・ヴェラスケスは今、キャリア上のライバルであるジュニオール・ドス・サントスとの三度目の対戦のためにケージの扉が開くのをただ待ち続けている。「もしその試合が今週末に開催されたとしても、私は準備ができているだろう。」とヴェラスケスは言った、彼はすでにベスト・シェイプであるように見える。最も顕著なのが、カリフォルニアはアナハイムで2011年11月12日にドス・サントスにキャリア上唯一の敗北を喫する前の時よりも、王者の見た目がより軽く調子が良さそうな様子であることだ。
ヒューストンのトヨタ・センターから届けられるUFC166のメイン・イベントは最初の試合の時ほど全米の注目を集めないかもしれない。あの試合はFOXにおける会社初の生放送特番として組まれたものだった。そのかろうじて1分間程の長さとなったコンテストはアメリカのMMA最高記録となる950万人によって視聴され、その数字は歴史上のどの試合よりもかけ離れたものだった。だがこの試合はペイパー・ビューで放映されるし、この時代の傑出したヘビー級を決定するという歴史的視点からすれば、大きな試合の一つだ。
それはUFCの歴史上誰が最も偉大なヘビー級なのかという問いに答えるだろうものであり、そしてそれは恐らくMMAの歴史上ということだ。今現在、UFCの歴史に関してならば他に可能性のある答えはないだろう。過去のチャンピオン達の誰も、たとえばフランク・ミア、ランディ・クートゥア、ティム・シルビア、ブロック・レスナー、アンドレイ・アルロフスキーや他の誰一人として、ヴェラスケスとドス・サントスの完全なスキル・セットを持ってはいなかった。
MMAの頂点ということならば、かつて誰が最も偉大だったかということに関していえば二つの答えがありうるだろう、この試合の勝者と、かつて絶対的ヘビー級スターだったフョードル・エメリヤーエンコだ。この類の論争はすべて技術の進化、対戦相手の質、そしてトップにいた期間を勘案することでなされるものだ。だがこの試合の勝者は自身をその論争の中に送り込み、この時代におけるベストとなる。
それでも、この試合は少なくともアメリカよりもメキシコとブラジルではより多くの注目を集めることになるだろう。メキシコでは、その試合はTelevisa、あの国の中で最も有力なネットワークで生中継されることになっている、そこではヴェラスケスはMMAの英雄なのだ。MMA人気の大勢を占めているブラジルでは、ドス・サントスは有名なスポーツ・スターだ。
彼らの二回目かつ最新の試合、12月29日のラスベガスで、ヴェラスケスはUFCのタイトルマッチ史上あまりにも一方的な判定で勝利した。ドス・サントスはその敗北を、オーバー・トレーニングのためにベストの状態ではなかったせいだとしている。
「それは彼が言ったことか?」向こう側からの話を気に留めていなかったのだと言ったヴェラスケスは、彼の普段のストイックな顔が崩れ、わずかに笑みを漏らして考え込む前にそう尋ねた。「それが彼の言い訳?」
ドス・サントスのビデオクリップでは、彼は練習中に重点的に監視され、この前の試合の直前の時と同じミスをしていないかを確認するために頻繁に採血をしていた、その様子は試合を大々的に宣伝しているUFCのPrimetime showで放映された。
そしてその最初の試合が映しだすとおり、またドス・サントスのUFCキャリアにおける他のどの試合とも同じように、誰も過度の自信を持って攻撃をする余裕は持ち得ない。ドス・サントスのようなヘビー・ヒッターと対峙した時の一瞬の気の迷いは失神を意味する、それは最初の試合で証明されたことだ。ドス・サントスが元K-1王者のマーク・ハントを立った状態で3ラウンドの間支配した時、彼のスタンドアップ・ゲームは今までよりも良くなったように見えた、頭へのスピニング・ヒール・キックで彼をフィニッシュするまでのことだ。その動きは、ドス・サントスのゲームはもはや予測不可能で、大部分がボクシングとテイクダウンをがぶることに限られているのではないことを皆に気づかせた。
ヴェラスケスのトレイナーであるハビエル・メンデスは言った、彼は異なったドス・サントスといくつかの新しい策略を予期しており、例としてハント戦の最後を指摘しているのだと。
「だがケインも同じようにあの最後の試合から改善を重ねてきた。」とメンデスは言った。「彼の柔術はより良くなっている。彼の打撃はより良くなっている。彼のレスリング技術は大体同じだ、なぜなら彼はハイレベル・レスラーとして出発しているからな。だが彼のレスリングはダニエル・コーミエとの練習で鋭くなっている。」
カリフォルニアはサン・ホセにあるメンデスのアメリカン・キックボクシング・アカデミーのロビーに入った後、比較的小さな部屋があり、三方を壁に囲まれて4番目の所に金網があった。メンデスはそれを指さし、ここ何週間かに渡って何度も、世界で最もハイレベルなヘビー級の試合を見てきたのだと付け加えた。ヴェラスケスとコーミエは定期的にそれに取り組んでおり、ほとんど実際の試合のようだという。ただ一つの違いは彼らがプロテクションを着けていることで、そしてもしどちらかがトラブルに陥ったら、彼らはもう一方をフィニッシュしようとはしない。
メンデスとヴェラスケスは共に、それらの活動をもう一つの変革要素として指摘する。コーミエ、最近ドス・サントスのすぐ後ろのNo.2ヘビー級コンテンダーにランクされた彼は試合においてラウンドを一つも落としたことがなく、そして同じ夜に痩せ細ったロイ・ネルソンと顔を合わせることになっている。
「ジュニオールは同じレベルの奴と練習していないのを我々は知っている。」とメンデスは言った。
その二人のチームメイトが同じカードで戦うのは初めてのことだ、それは二人とも同じ日に最高の効力を発揮するために練習していたことを意味する。
同じカードで試合をすることの唯一の障害は、試合の夜そのものにある。コーミエは過去いくつかの試合でヴェラスケスのコーナーにいた。だが彼にはわずかな時間しかないだろう、もし彼が無傷出てきて、試合後の検査をすれば、メイン・イベントに間に合うようにケージ・サイドに戻ることができる。
リマッチがヴェラスケスにとって完璧に進んでいるように思えた一方で、メンデスは二つの驚きがあったと言った。
「ケインが疲れていたんだ。」と彼は言った、彼は3ラウンド中に何かが起きたのだと見定めたし、ヴェラスケスは試合後に何かが起きた事を認めた。「もう一つは、ジュニオール・ドス・サントスがどれほどに戦士なのかというのを見出したことだ。彼は散々に殴られて5ラウンドの間そこにいたのだ。彼は5ラウンドに入ってまだ勝とうとしていた。」
ヴェラスケスは疲れることを心配してはいない、すなわち5ラウンド戦の可能性に備えて序盤は抑えるということだ。
「私はトレーニングではいつだって5ラウンドをやっている、そしてそれが終わった時、私はさらにもう2ラウンドやる準備ができている。」と彼は言った。
「私はすぐに出て行って自分が望むペースにするんだ。」とヴェラスケスは言った。「私はいつも奴らが自分よりもずっと疲れていくのを感じていた。私がどれだけ疲れていようと(二度目の対戦で)、私は彼のほうがより疲れていたのをわかっていた。」
それでもヴェラスケスは思う、ドス・サントスもまた素早く出てきて、序盤に彼をノックアウトしようとするだろうと、そしてそれがドス・サントスの一番の好機だと感じている。「もし試合が判定になってしまえば、彼がその試合に勝つことはないだろう。」とヴェラスケスは言った。
3戦全部を通して、メンデスは似たような考えを繰り返し述べていた、曰くドス・サントスが勝つための唯一の方法、それはノックアウトだろう、一方でヴェラスケスはノックアウトやレフェリー・ストップ、判定でも勝つことができるのだと。メンデスはもうわずかなをコントロールを望む、ヴェラスケスが連続してテイクダウンを狙ったために疲れてしまい、そのテイクダウンのいくつかは準備不十分だったからだ。彼はまた感じている、彼はもっとストレート系のパンチを活かすことができるだろうと。それでも、そのスウォーム・タクティクス(接近分散攻撃戦術、一気に接近して様々な方向から猛攻を加える戦い方を指すと思われる、群がるように近づく)は機能してドス・サントスは防御することに試合のほとんどを費やさねばならず、そのペースは彼を疲労困憊させた。彼はまたこう注釈を加えた、ドス・サントスは最初の戦いでヴェラスケスをノックアウトできたが、「シガーノ」は二度目の戦いでも大量のハード・ショットを着弾させていたのだ、それでもヴェラスケスは止まらずに進み続けたのだと。
メンデスはヴェラスケスを彼のMMA練習初日からずっと指導してきた。ヴェラスケスはアリゾナ州立大学で3年級の時にMMAに参入したいという決定を下した。彼のカレッジのレスリング・コーチのトム・オーティスは、ヴェラスケスが4年級を終えた後に、彼はMMAの世界で正しい方向に向かって出発するだろうことを請け合った。2006年のNCAAディヴィジョン1・トーナメントで小柄なヘビー級選手として4位となったすぐ後に、ヴェラスケスは荷物をまとめてカリフォルニアはサリナスに車で向かった、そこには彼の両親が住んでおり、最初にサン・ホセで練習している間はそこに滞在した。
彼の怪物としての評判はジム内であっという間に広がってカリフォルニアのMMAシーン一帯に行きわたったために、彼がスタートを切った時には試合をするのが難しくなっていたことを彼は発見した。ストライクフォースの拠点はサン・ホセにあったにも関わらず、スコット・コーカーは彼と対戦する奴を全く探し出すことができなかったのだ。彼は2年足らずの間練習していた、そして2試合だけを経験してケージの中にいた時間は全部で6分だった、彼がデイナ・ホワイトのために個人的なトライ・アウトをしていた時のことだ。それから2008年初頭、ホワイトは彼と契約した。
それは出世街道としてはあんまりなものに聞こえる一方で、振り返ってみて、ヴェラスケスは改めることはなかっただろうと言った。彼はその時自信があり、準備は整っていたと言った。
彼がかつてオクタゴンに足を踏み入れる前のこと、関係者と選手は予期していた、彼はチャンスを手に入れ次第すぐにUFCヘビー級タイトルを掴み取ってしまうだろうと。2年後、彼は7連勝を飾り、その内6勝はノックアウトかTKOによるもので、ブロック・レスナーから第1ラウンドでタイトルを勝ち取って彼は最高潮に達した。
ヴェラスケスは何の迷信も信じてはいない、だが家族はそうではない。
彼は言及した、最初のドス・サントス戦でその場にいた彼の父親は、今や彼の試合を見には来ないだろうと、それは不吉な事だと感じているからだ。
彼はどれだけ父親を誇りに思っているかについて冗談を言う、エフレイン・ヴェラスケス・シニア、それが彼の名だ。その年配のヴェラスケス、メキシコから国境を違法に越えてやって来た移住労働者の彼は、チャンピオンのルーツを紹介するためにいくつかのUFCのテレビジョン・ショーに出演している。彼は冗談を言う、彼の父親がチャンピオンの父として集める注目をどれだけ愛しているのかについて、特に彼がサインしてくださいと尋ねられた時だ。それはどのくらいかといえば、知らない人が彼の母親に、もしケイン・ヴェラスケスの父親があなたの夫だったらどうしますと尋ねると、彼女は大抵お断りねと言うくらいだ。
ヴェラスケスはまた違ったドス・サントスを予期している、そして彼は事態を変えようとしてグラウンドで戦うかもしれないという推測すらしている。ドス・サントスはブラジリアン柔術黒帯で、かのノゲイラ兄弟と広範囲にわたって練習している。だが彼はUFCの試合の中で、彼はグラウンドで何ができるのかということを一度も見せてはこなかった、彼はそこに行くことなしに皆を支配してきたからだ。
ヴェラスケスのゲームはレスリングと総力を挙げた圧力の強いスタンドに重点を置いてきた。彼は一度もサブミッションで勝ったことがないし、したがって彼が対戦相手をダウンさせた時、彼のゲームは情け容赦のないグラウンド&パウンドとなる。
だが技術はあるのだ、だからヴェラスケスは木曜日にBJJトレイナーのレンドロ・ヴィエイラによって黒帯に昇段されている。
その二人の男は本質的にはUFCの競争の中で接点はなかった、互いの目立った汚点を除けばだ。彼のドス・サントスに対する第一ラウンドのノックアウト負けを除けば、ヴェラスケス(12勝1敗)はキャリアの中でラウンドを落としかけたことすらなかった。
その敗北は、ヴェラスケスが2010年にレスナーから勝ち取ったものと真剣に向き合う最高の切っ掛けとなった。
「私が最初にそれを手に入れた時、それは超現実的な感じだった。」と彼は言った。「それはまるで夢のようだった、ほとんどね。だが私がそれを失った時、そのせいでそれが現実的になったんだ。私はとても嫌な気分だった。私はあんな感覚には二度と戻りたくない。」
ドス・サントス(16勝2敗)は、彼のキャリア初期に一度負けている、しかし彼のUFCの履歴書はファブリシオ・ヴェウドゥム、ステファン・ストルーブ、ミルコ・クロコップ、ガブリエル・ゴンザーガ、シェイン・カーウィン、フランク・ミアそして最近ではハントへの勝利を含んでいる。
ヴェラスケスは今週中にも242か243ポンドでの練習を開始するだろう、そして試合当日には239か240ポンドを予定している。その数字は彼の対戦相手とはなんの関係もないし、全ては彼の感じることが彼自身にとってベストであるかどうかに関係している。
「私は240がベストだと感じている。」と彼は言った。「それより重いと、私は少し遅くなる。240なら、私はまだ力強さを感じているし、そして速さがある。」
彼が最初ドス・サントスに負けた時に彼は248ポンドだった、どうも膝の問題が彼の練習を制限してしまったためのようだ、もっとも、ドス・サントスもその試合の前に深刻な膝の怪我に見舞われていたのだが。それは彼が認めるところではないだろう。最初の試合の話になるとき、彼の答えは大抵似たようなものだ。「私はゲーム・プランを遂行しなかったんだ。」と彼は言った。
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というわけでもう目前に迫ってきたUFC166のメイン・イベント、UFCヘビー級タイトルマッチをドス・サントスと行うケイン・ヴェラスケスの直前インタビューでした。言い訳をしない男、相変わらずカッコいいですね。そしてヴェラスケスのお母さんが笑えますw
二人の対戦はこれで3度目です。1戦目はヴェラスケスが怪我から復帰してまだ完全ではないままに行われた試合でした。そのために彼は体重が現在のベストである240より8ポンドも重く、本来自分から前に出てペースを奪う彼のスタイルは鳴りを潜め、そして遠い距離で止まって迷ったためにサントスの最大の武器の一つ、オーバーハンドで意識を刈り取られてしまいました。それはFOX初の大会ということで大々的に宣伝されたものだったために、あっさりとKOされたヴェラスケスには嘲笑めいた批判も数多く浴びせられ、一躍シガーノはスターとなりました。
2戦目では前回の反省を生かして100%の仕上がりにしてきたヴェラスケスが、序盤からあらゆる武器を用いてシガーノを防戦一方に追い込むと、1Rに右ストレートでダウンを奪い、そのまま試合終了のブザーが鳴るまでヴェラスケスは一方的に支配し続けました。シガーノはトータルで200発近く殴られ続け、たったの25分間で彼の顔はもはや別人となっていました。翌日、シガーノの尿はギネス・ビールのように暗褐色となっていたそうです。彼はオーバーワークに加え、あまりにも殴られすぎたために横紋筋融解症を発症していました。この試合では、シガーノは気負いから練習量を増やしすぎ、本来試合当日に来るべき肉体のピークが試合前に訪れるというミスをしていました。
そして1勝1敗で、いよいよ彼らは三度目の対戦を迎えます。互いが敗北から大いに学びました。ヴェラスケスは自分の体重管理を徹底すること、そしてサントスを捕まえるためにフットワークとストレート系の打撃、特にステップ・ジャブを磨き、動きを止めて狙われないようにボディワークをきちんと使うようになりました。サントスは練習のしすぎを防ぐためにナイキのサポートの元、血液採取をしてコンディションを徹底管理するようになりました。加えて彼は先のハント戦でテイクダウンとスピニング・キックを見せて、パンチとTDディフェンスのみに頼った戦い方を大きく変更したように見えます。彼らは二人とも、もはや最初に戦った時とはまったく違ったファイターです。彼らのライバル関係は彼らを加速度的に進化させて、もはや二人に並び立つものはヘビー級にいなくなってしまいました。
そんなまさかという人は恐らくいないでしょう。ヴェラスケスはランキング5位のアントニオ・シウバを二度、何一つさせないままにフィニッシュしています。スピード差はもはや階級二つ分くらいのものがあり、ビッグフットは彼をまともに正面に捉えることすらままなりませんでした。対するドス・サントスは敗北後の復帰戦でマーク・ハントと対戦し、ストライキングであのマーク・ハントを相手に優勢に運び、さらにはあの頑健なサモアの戦士をノックアウトするという偉業を成し遂げています。
そして今回は二人ともかなりコンディションが良さそうです。シガーノは科学的な監視体制を完備して一切の無茶をしないようになりましたし、特にネガティブな報道は見かけません。そしてヴェラスケスは記事中にある通り、ベスト体重の240ポンドにきっちり合わせることができそうです。二人とも一切の言い訳なし、ここで勝利したものが真のUFCヘビー級王者となります。それは同時に、MMA史上最強のヘビー級王者となることを意味しているのです。
この試合の予想は困難を極めるでしょう。どちらにも十分に勝つ要素があり、ほんのわずかなミスで試合が一気に動いてしまうからです。
ヴェラスケスとしては、やはりスピードを活かして相手の体勢が整う前に仕掛けていき、的を絞らせないように動きつつストレート系の打撃からクリンチに持ち込むか、テイクダウンを狙っていくのが基本的なものになると思います。そしてテイクダウンできたらグラウンド&パウンド、クリンチに持ち込んだらタイクリンチからの膝やパンチを使った接近戦でしょう。その合間にローやミドルを織り込んで行けば完璧です。
ヴェラスケスの最大の武器はスピードと攻撃手段の豊富さにあります。彼はスタンドでステップ・ジャブのようなストレート系のパンチだけでなく、相手のボディを狙った強烈で高速のミドル、叩き折るようなローキック、そして近接しての竜巻のようなフックやアッパーがあります。クリンチをすればそこからアッパーと、そして彼が最も得意とするボディへの膝を打ち込み相手の動きを止めにかかります。
またこの打撃を最大限に機能させるのが、彼のテイクダウン能力です。レスラー出身の彼のテイクダウン能力は凄まじく、ヘビーでは小柄ながら自分より一回りは大きい相手を簡単に転がしてしまいます。彼は序盤で必ず単発の超低空タックルを遠目から仕掛け、相手の脳裏にテイクダウンの可能性を植え付けます。相手は彼が組み付いてきたときに感じたプレッシャーから嫌でもTDディフェンスを考えざるを得なくなり、そしてガードが散漫になります。そしてそれこそがヴェラスケスの狙いです。
ヴェラスケスは猛然と相手に突進しながら蹴り、パンチ、タックルのフェイントを仕掛け、相手が迷ってガードが疎かになったところに一気に仕掛けてきます。そのスタイルはGSP、フランキー・エドガーなどのタックルに秀でた選手が得意とするものです。打撃を警戒すればタックル、タックルを警戒すれば打撃とシンプルながら対処が難しく、かつヴェラスケスのスタンドはかなりバリエーション豊富で何よりも蹴りがありますから、距離の設定もかなり難しくなるでしょう。あらゆる方向、あらゆる距離、あらゆる高さで戦う術を持つヴェラスケスの戦いの幅は広く、それが彼のトレイナーであるメンデスが「サントスが勝つにはノックアウトしかないが、ヴェラスケスはノックアウト、レフェリーストップ、判定どれでも勝てる」と言う理由です。前回の試合ではこの戦い方によってシガーノは距離を作る前にケージまで追い込まれ、対処に追われるうちにケージ際から逃げるところを捕まってダウンを奪われてしまいました。
しかし前回の戦いでは、その後苦しくなったヴェラスケスがついついテイクダウンに逃げ込むシーンが多々あり、それによってヴェラスケスはスタミナをさらにロスして結局試合をフィニッシュすることができませんでした。コーチも言うようにあれが前回の試合で最大のミスでしょう。今回の試合でも、もし打撃を警戒しすぎてあまりタックルに逃げるようであれば、ガスがなくなったところに一撃をもらって沈んでしまう可能性はあります。サントスを前に足を止めるのは、自分からKOを待つようなものです。
そして今回ヴェラスケス陣営には興味深いポイントが二つあります。一つはダニエル・コーミエの存在、そしてもう一つはヴェラスケスの柔術黒帯取得です。
記事によれば、ヴェラスケスは今あのダニエル・コーミエと日常的にほぼ試合に近い形のスパーリングをしているようです。ダニエル・コーミエも小柄ながらそのフィジカル、スピード、レスリングは凄まじく、先日フランク・ミアを一方的にクリンチで沈めたジョシュ・バーネットをリフトしてスラムで叩き付けたりするほどの力を持っています。レスリングの実績だけならばヴェラスケスを遥かに凌いでおり、コーミエからレスリングの指導を受けているMMA選手は多いと聞きます。そんなコーミエは、現在UFCヘビー級ランキング2位にランクされています。
その彼との特訓の成果は、恐らくかなりのものでしょう。スタミナ面でも相当に鍛えられるはずです。コーミエのスピードに慣れてしまえば、大概の選手の攻撃は止まって見えるように感じるかもしれません。ヴェラスケスのコーチは言います、「サントスには同じレベルの練習パートナーがいない」と。これは恐らくその通りでしょう。ヘビー級はただでさえ人材不足な上に、もはや上位2名とそれ以外の選手にはかなりの差が生じています。誰をパートナーとして迎えても、満足の行くレベルには達していない可能性があります。できることは、打撃、レスリングとそれぞれ切り離して各分野の超一流を招聘することです。しかしそれでも、現王者とランキング2位が毎日のように練習する環境に比肩することは難しいと思います。この環境のアドバンテージは相当なものです。
そしてもう一つがヴェラスケスの柔術です。当然のことながらヴェラスケスは柔術も練習しています。しかし彼はこれまで柔術を使う前にほとんどの相手を殴り倒してしまったので、それを披露する機会もありませんでした。ビッグフットとの2度目の対戦の時に彼は少しチョークを狙う素振りを見せましたが、ビッグフットの対応を見てさっさとパウンドに切り替えてしまいました。なので彼のキャリアにサブミッションによる勝利は一つもありません。
しかしシガーノが先のハント戦でグラウンドでの戦いを披露したこと、そしてシガーノがグラウンドで勝負を挑んでくる可能性を考えた時、ヴェラスケスにもある程度の柔術スキルが要求されます。そしてそうなれば、ヴェラスケスは柔術を用いて試合を終わらせてくる可能性があるのではないか、と考えています。
なぜそう考えるかと言えば、最近レスラーたちが自分たちの技術に柔術をかなり巧く取り込み始めているように思うからです。一つは先日ミドル級の生きる伝説、アンデウソン・シウバを左フックで沈めたクリス・ワイドマンです。彼は元々レスリングでオリンピックを目指すほどのレスラーでしたが、並行して練習していた柔術でも非凡な才能を発揮しており、その極める力はこれまでのレスラーからは考えられないものでした。柔術コーチのジョン・ダナハーも舌を巻くほどのもので、事実彼はスパイダーとの対戦でもテイクダウンした後に見事な膝十字とヒール・フックを仕掛けており、それはかなり惜しいものでした。
そして一番驚いたのが、この間のチェール・ソネンによるショーグン・フアへのチョークです。チェール・ソネンといえばグラウンド&パウンドを使う代表的な選手で、そのスタイルは徹底して相手を消耗させるものでした。どれだけ有利なポジションを取ってもサブミッションを仕掛けることはなく、そして同時に柔術の防御もお粗末でした。彼は過去何度も何度もガードから三角絞めに捕まっては三角絞めの悪口を言うだけでした。しかし彼は先日、レスリングを用いて優位なポジションをショーグンから奪った後、ショーグンのスイープに合わせて見事なチョークを仕掛け、そして逃がさずきっちりと極めてたったの1Rで鮮やかに勝利したのです。
アメリカのレスラーたちは横の繋がりが強く、それはブラジル人の連帯に似ています。そして彼らは技術的な交流を頻繁に行います。そのことから、彼らの内で有効なスキルが見出されるたびに、それらを互いに融通している可能性もありそうです。そしてあの柔術嫌いのソネンがグラインダーからサブミッション・アーティストに変貌したのは、ワイドマンの勝利を境にそういう流れがレスラー達の間に生まれたからではないかと推測しています。ここにきてヴェラスケスが柔術黒帯を取得というのも、それと決して無縁ではないように感じます。彼らは最も成功を収めたレスラーを見て、その有効性に気づいて積極的に柔術を取り込み始めているのではないでしょうか?
アメリカのカレッジ・レスラーはチェール・ソネンが言うように、相手をひたすらに大地に縫いとめる能力に秀でています。その能力の上に相手を極める力が加われば、常に有利なポジションをキープすることはもうできているわけですから、これはとんでもない相乗効果になります。そして組んだ時のレスラーのスタミナは化け物じみています。その化け物の中でも特に常軌を逸しているのがケイン・ヴェラスケスです。もしシガーノがグラウンド勝負を挑んできたとき、私たちは新しいケイン・ヴェラスケスを見ることができるかもしれません。
一方のサントスは、やはり距離をキープしてパンチ、が基本的な戦い方になるでしょう。前回負けたとはいえ、彼のリーチと体格差によるアドバンテージは今もって顕在だからです。前回ですらヴェラスケスは捕まえるのにかなり手こずりました。万全の今回ならば、ヴェラスケスが捕まえるのはさらに困難でしょう。サントスが足を使いながらパンチでヴェラスケスを追い出し、そしてパンチを嫌ってヴェラスケスの足が止まったところに一撃、というのがやはり一番手堅いところです。
また今回のサントスはたぶんどこかで前に出てくるでしょう。距離の維持に必要なのは下がることではなく、ヴェラスケスに近づかれる前に自分の最もいい距離で先に打撃を当てていくことだと思うからです。ヴェラスケスの体勢が整う前に先に大きくステップインして一撃、そしてヴェラスケスが強引に来て自分がケージ際から逃げた直後、ここで体を入れ替えてから前に出て一撃を狙うように思います。そしてもう一つの狙いどころとして、少し苦しくなったケインがクリンチに来たところに近距離での一撃、このあたりがサントスの狙いどころのように思います。
前回蹴りは見せましたが、恐らくヴェラスケスが相当弱らない限りはあまり使ってこないでしょう。ただパンチを餌にスピニング・キックは狙ってくる可能性があります。決して巧くはないですが、それでもハントを沈めただけの実績はあります。またヴェラスケスはボクシング的なボディワークを使うので、頭を振ったところにカウンター気味で当たれば倒れる可能性は十分でしょう。
クリンチには恐らく付き合わないと思います。先に述べたとおり組み際にパンチを狙い、そして組み付かれたら今までと同じように突き放して距離を取り、その離れ際を狙っていくでしょう。前回の試合で、実はサントスはクリンチ際でかなりいい打撃を与えていたので、あれを自分から仕掛ければヴェラスケスのムエタイともやりあえると思います。
問題はグラウンドです。前回シガーノは敗因として、無理にグラウンドから脱出しようとしすぎてガスを浪費しすぎたことを挙げています。なので今回は寝かされたら立てるようならばさっさと立つでしょうが、そうでなければグラウンドである程度付き合うかもしれません。そしてここがかなりわからないところです。もしグラウンドで付き合ったとして、下になったシガーノが果たしてどこまでやれるのか、というのはとても興味深い点です。もしシガーノが大きい体格を活かしてうまくヴェラスケスを封じ込めるのならばかなり面白いことになりそうです(ちょうどソネン対シウバのように)。
しかしもしその選択をしたら、恐らくシガーノは敗北するでしょう。自分としては無理にでもスタンドに戻すほうが懸命だと思います。トップを取ったヴェラスケスを相手に、シガーノが下から攻めるのはやはり無理ではないでしょうか。ソネンと違ってヴェラスケスのパウンドはパウンド・アウトできる威力がありますし、そのパウンドを掻い潜りながら下から攻めるのは困難を極めると思うからです。それをやろうとしたのがアントニオ・シウバでしたが、その後にどうなったかはみなさんの脳にしっかりと焼き付いていると思います。ヴェラスケスはグラウンドで肘を使います。パンチャーが瞼を切り裂かれてしまえば、勝つ可能性はBJペンがフライ級デビューするくらいのものになってしまうでしょう。また先のハント戦でグラウンドに挑戦するサントスを見ましたが、スタンドと違ってあまり動きにキレを感じませんでした。あれをヴェラスケスに仕掛けようものなら命取りになる気がします。
どこのタイミングでもいいですが、きちんとステップインしての一撃を打ち込めればサントスは勝てます。そしてそれに必要なのはヴェラスケスを一度でもいいから下がらせることです。そして下がらせるには、飛び込んでくるヴェラスケスと真っ向からぶつからねばなりません。ヴェラスケスはストレート系の打撃が飛躍的に向上しており、先の戦いではこのヴェラスケスのジャブによってシガーノは下がらざるを得なくなってしまいました。恐らく勝負は、少し遠い距離でのジャブの差し合いが鍵になると思います。ここでシガーノが打ち勝ってヴェラスケスが下がれば、もう彼は翌日に便器をギネス・ビールで満たすことはないでしょう。
私はどちらの選手も好きなのでどう応援したものか悩んでしまいますが、ここはやはり「ブラウンプライド」ケイン・ヴェラスケスを応援したいと思います。どちらが勝ってもかまいませんが、互いに全てを出し切って決着をつけてほしいところです。全体的に安定しているのはヴェラスケスですが、やはりリーチ差が気になります。サントスがヴェラスケスの回避行動を研究しつくして的確にパンチを打ちこめるようであれば、あっさりとヴェラスケスが負ける可能性もあるでしょう。
そして私はこういう結果の読めない試合が大好きです。結果が読めないことで嫌でもその緊張感は高まり、そして観戦している私の握りしめた拳から汗が滴り落ちるわけです。本当はどんなプロモーションやキャラ付けも必要ないのです。互いに力を認め合う者同士が何もかもを費やして試合に挑む、そんな彼らの命をベットしたギャンブルそのものが彼らの最高のプロモーションであり、その興奮が10年以上格闘技を見てきた私の胸を今もなお焦がしています。
運命の時は今週末、日本時間10月20日にテキサスはヒューストンで訪れます。
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自分としては「現代版」ミルコvsヒョードルと勝手に思ってます
返信削除そうなるとどうしてもミルコを応援してしまいますw
ミルコ側が体格はもとよりメンタルの強さが全く違いますがw
それにしてもまだ10年しか経ってないのに技術的には隔世の感がありますね
あの頃はヘビーで上段後ろ回し蹴りでKOとか想像もしてませんでした
総合でそんな動きの大きいのは外したら勿論の事初動の段階でタックルで以上て言われてましたし
逆にそういう蹴りを可能にする為にはそうなってもいいようレスリングや柔術は勿論
そうならない様細かい間合いどりや運足、タイミング等地味な技術あってのことなんでしょうね
キワの技術もそうですがそういう見た目には伝わり辛い技術の革新が
今の総合の派手な蹴りやスピーディな試合展開を生んでるですかね
逆に日本選手が今一ふるわないのはそこら辺の技術を教えられる人がいないのかな~とも
ミルコvsヒョードル、確かに似てますね。そして一撃のあるストライカーを応援してしまうのもよくわかりますw
削除そう、たったの10年くらいなんですよ、びっくりです。総合のヘビー級であれほどスピーディでテクニカルな選手が出てくるとは誰が想像したでしょう。といってもトップ以外は相変わらずデブがのたくたと殴り合うだけのことも結構ありますがw
日本の選手の場合、練習していることが全部バラバラな印象を受けることが多いです。ゴールが見えないといいますか。ここで勝つんだ、というところがあって、そこに全部の技術を繋げていく際の「つなぎ目」となる技術がないのかな、と個人的に推測しています。たぶん教える人がいないのと、競技間の溝が結構深いのかなあと感じています。向こうだとキックやボクシングの本職のコーチが積極的にMMAに関与して技術をMMAに適応させることを考えてくれてますが、そういうのがないのかな、と推測してます。
そうです日本はつなぎの技術は個人のセンス頼みて感じですよね
削除UFCと日本の総合見比べるとスピード感に差がありますが
あれは実際にあっちのが速いというのもありますが
ボクシングのパンチだけでなくフットワークも消化して取り入れているからかなと
オクタゴンの特質上必須という事もあるのでしょうが
リーチ差ありましたっけ?
返信削除身長差も並んだ画像からしてあって5センチじゃないですかね?
なんか細かくてすみません(笑)
身長は8センチ差ですね。リーチ差は知りませんが、やはり結構あるように感じてます。アンデウソンとチェール・ソネンの身長差も実は3センチしかなかったんですよね。この差は結構大きいと思います。ただ、よくデータで出る「リーチ差」は体感的にあんまり参考にならない気がしますw
削除私は二人とも大好きなのですが、ドスサントスの拘りがある戦い方が好きで昔からファンだったのですが、次の挑戦者がファブリシオなのでケインvsファブリシオがみたいというところとどっちを応援していいのか分からないですね
返信削除1回目や2回目みたいに一方的にならずに、JJvsグスタフソンのような試合を見せてもらえればどっちが勝ってもいいかなぁと思ってます。w
よかったですよね、ジョーンズvsグスタフソン。ああいう試合が本当に好きです。お互い力を出し切ったうえで決着してくれるといいですね、消化不良な感じが無くて。
削除サントスみたいに何か一つに特に秀でてて、それを最大限活かすために他の技術を身に着けている選手は確かに惹かれます。どんな状況でもひっくり返してくれそうな期待感がいいですよね。サントスの遠目からの一撃は直撃すればほとんどの選手が崩れますので、その爽快感たるや凄まじいです。個人的にはファブリシオを沈めたロング・アッパーが一番好きです。あれはかっこよかった。
前回シガーノが奪われていた主導権を、手段多様なケインからどのように奪えるかがポイントのようですね
返信削除タックルが相手の打撃に対する抑止力なら、タックルに対する抑止力は何になるでしょう
現状ではタックルは抑止するに至らず、その回避のため振り回されていますね
しかし、シガーノとMMAの進化は、何か妙策を生むかも知れません。
ミルコやアンデウソンは強烈なカウンターでレスラーの打撃を抑止し、打撃とタックルの相乗効果を殺しました
結局打撃に頼らざるを得ないストライカーの性ですね
タックルはきちんとディフェンスできれば、仕掛けるほうのスタミナが根こそぎやられるのでそれが抑止力にはなります。事実サントスのTDディフェンスは超一流です。
削除ただ、それに専念できないだけの打撃がヴェラスケスにあることが問題です。
なのでnaoさんのおっしゃる通り、やはりストライカーはストライキングで打開をするべきだと考えます。頼らざるを得ない反面、彼らはそれに頼れるだけのスキルを持ち合わせています。
自分としては相手がタックルか打撃かの仕掛けをする前に、長いリーチを活かして先に鋭く的確なジャブでまずヴェラスケスを下がらせることだと思います。最悪TDは取られるのは覚悟の上です。後ろに下がるよりは遥かにマシだと考えますし、序盤ならばすぐに立てるだろうとも思います。
そこで先に当てていければヴェラスケスは下がるか無理なタックルをします。無理なタックルは相手が消耗するだけですから切っていきます。そしてヴェラスケスが下がってしまった時、その時はサントスの両手が挙げられているだろうと思っています。