2013年3月9日土曜日

UFCJapan2013 感想と分析part2 シウバvsスタン

UFCJapan2013 感想と分析part1の続きです。
以下は個人的な意見ですので参考程度にどうぞ。

SAITAMA, JAPAN - MARCH 03:  (L-R) Opponents Wanderlei Silva and Brian Stann face off before their light heavyweight fight during the UFC on FUEL TV event at Saitama Super Arena on March 3, 2013 in Saitama, Japan.  (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

写真はUFC公式より

ライトヘビー級 5分5R
WIN ヴァンダレイ・シウバ vs ブライアン・スタン
(2R フック→パウンドによるTKO)

斧の殺人鬼 埼玉スーパーアリーナに帰還

SAITAMA, JAPAN - MARCH 03:  Wanderlei Silva stands in the Octagon before his light heavyweight fight against Brian Stann during the UFC on FUEL TV event at Saitama Super Arena on March 3, 2013 in Saitama, Japan.  (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

3月3日、埼玉スーパーアリーナに「サンドストーム」が
鳴り響くと、会場には大きな歓声の嵐が巻き起こった。
一人の殺人鬼を迎えるための盛大な儀式だ。
実に6年ぶり、「ジ・アクス・マーダラー」ヴァンダレイ・
シウバがホームに帰還したのだ。

ヴァンダレイ・シウバ、彼はPRIDEの伝説的ファイター
である。リングでは回転の速い打撃を武器に多くの
名勝負を作り上げた。

しかしPRIDEがなくなりUFCに来てから、殺人鬼は
思うような戦いができずに低迷した。足を使えず、
中々自分の得意な距離に入れないために遠目から
削られたり、打たれ弱くなったのか簡単にダウン
することなどが目立つようになってきた。彼は
激闘のツケとして、軽いドランカーの疑いを持たれる
ようになっていたのだ。デイナ社長は彼にミドル級に
落とすことを進め、さらに試合内容を見て彼に
リタイアを促すようなコメントを出した。当然
彼は拒否したが、多くの人が彼はもう厳しいと
思っていた。

今回のブライアン・スタン戦は、殺人鬼に
引導を渡すものになると誰もが思っていた。
リーチと打撃の正確性に勝るスタンが、
足を使ってヴァンダレイにスタンドで勝つだろう、
自分もそう予想していた。

ブライアン・スタン、海兵隊魂を見せた敵地上陸

だが試合内容は予想を裏切るものだった。
スタンが、1R開始直後にまさかの強襲上陸
作戦を見せたのだ。近距離での回転の速い
打撃の打ち合いは、斧の殺人鬼が多くの戦士を
地獄に送った彼のテリトリーだ。そこに踏み込むなど
よほどの愚か者か、勇敢な戦士かのどちらかだ。
しかしスタンは、アサルトライフルを担いで
殺人鬼が潜む場所に単身乗り込んで目の
覚めるようなマシンガン・ラッシュを仕掛けた。

SAITAMA, JAPAN - MARCH 03:  (L-R) Brian Stann punches Wanderlei Silva in their light heavyweight fight during the UFC on FUEL TV event at Saitama Super Arena on March 3, 2013 in Saitama, Japan.  (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

パンチの正確性やヒット数ではスタンが
勝ったものの、さすがは殺人鬼の領域だ。
スタンがバランスを崩し、急いで立ち上がろうと
した瞬間、得意のタイクリンチからスタンの
逞しい鼻柱に恐怖の斧を叩き込んだのだ。
開始数十秒、この一発でスタンの鼻の
ブリッジは叩き割られ、彼の鼻からは
おびただしいほどの鮮血が噴出した。

SAITAMA, JAPAN - MARCH 03:  (R-L) Wanderlei Silva knees Brian Stann in their light heavyweight fight during the UFC on FUEL TV event at Saitama Super Arena on March 3, 2013 in Saitama, Japan.  (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

この怪我が恐らくスタンにとっては相当な
ハンディとなってしまっただろうと思う。
流血は呼吸を阻害し、彼のスタミナを
大きく損ねることになっただろう。
戦慄の膝小僧は6年経った今もなお
腕白なままで、決して老いた膝中年には
なっていなかったのだ。

SAITAMA, JAPAN - MARCH 03:  (L-R) Wanderlei Silva squares off with Brian Stann in their light heavyweight fight during the UFC on FUEL TV event at Saitama Super Arena on March 3, 2013 in Saitama, Japan.  (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

ヴァンダレイ・シウバ、「ホーム」で見事な勝利を飾る

1R、既視感のある決闘のような激しい殴り合いを
終え、2Rのゴングが鳴ると両者は息を落ち着ける
ようにお互い探りあう展開になる。それぞれがいい
打撃を貰いダウンを喫した。お互いにダメージを
抱えている。スタンは両足をトントンとリズミカルに
跳ねながら隙を窺い、ヴァンダレイはガードを
固めて拳を突き出し、サークリングしながら相手の
出方を見る。そして試合中盤、顔を下げながら
大きくステップインしたシウバは得意の右フックを
放つ。消耗し息の上がったスタンはカウンターの
右をあわせようとするが遅かった。

SAITAMA, JAPAN - MARCH 03:  (L-R) Wanderlei Silva defeats Brian Stann by knockout in their light heavyweight fight during the UFC on FUEL TV event at Saitama Super Arena on March 3, 2013 in Saitama, Japan.  (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

シウバのフックが炸裂しスタンの右が空を斬ると、
返す左腕でシウバが得意の左フックを放つ。
スタンの意識は大斧で切り落された。

SAITAMA, JAPAN - MARCH 03:  (L-R) Wanderlei Silva defeats Brian Stann by knockout in their light heavyweight fight during the UFC on FUEL TV event at Saitama Super Arena on March 3, 2013 in Saitama, Japan.  (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

ヴァンダレイ・シウバは自分が伝説となった
この土地で、また新たな伝説を作り上げた。
決して過去の栄光に縋ることなく、どんなに
見苦しく負けても戦いの舞台に残った彼は、
ファンの大声援を力に変えて見事に前に
進んでみせた。彼の勝利は、燻る日本格闘技界に
忸怩たる思いを抱くMMAファンにとって
最高の贈り物となっただろう。

SAITAMA, JAPAN - MARCH 03:  Wanderlei Silva reacts after knocking out Brian Stann in their light heavyweight fight during the UFC on FUEL TV event at Saitama Super Arena on March 3, 2013 in Saitama, Japan.  (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

しかし、この勝利はスタンの勇気と英断によって
作り上げられたのも確かである。スタンが
ラッシュなど仕掛けず、5Rフルに戦うつもりで
序盤から距離を維持した打ち合いをしていたら
恐らく十分に勝てていただろう。総合力では
やはり彼に分があったと思うからだ。だが
MMAの聖地で、生きた伝説を相手にして
その伝説が伝説となり得た最大の要因である
熱いファイトスタイルで挑んだスタンは、
やはり彼もまたファイターである前に一人の
MMAファンだったのだろう。その気持ちは
痛いほどわかる。彼はMMAの最大の魅力を、
自分自身で体現したいと願ったのだろう。


SAITAMA, JAPAN - MARCH 03:  Brian Stann squares off with Wanderlei Silva in their light heavyweight fight during the UFC on FUEL TV event at Saitama Super Arena on March 3, 2013 in Saitama, Japan.  (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

もちろんそれを馬鹿げているという人も
いるかもしれない。勝ちを度外視しては意味が
無いという人もいるかもしれない。それは
その通りだろう。だが、スタンは負ける気など
さらさらなかった。彼は伝説に真っ向から挑み、
それを叩き潰そうとしていたのだ。これは
リスクが大きいが、もし乗り越えればそれは
彼にとって莫大なメリットをもたらす。彼には
自信を与え、栄光を与え、ファンの賞賛を与え、
そして多くの金をもたらすだろうからだ。
彼はそれを承知で全てを賭けたのだ。己の
何もかもをベットして、新たな伝説を自分の
手に勝ち得ようとしたのだ。それもまた
戦略の一つである。だから自分はスタンが
決して愚かだったとは思わない。

加えて、今回の試合がライトヘビー級で
行われたということもあるだろう。スタンの
主戦場はあくまでミドルであり、それがゆえに
スタンはあえて大きな賭けに出たのかもしれない。

どの道、危険を承知で挑んでいったスタン、
そしてそれから逃げずに真っ向から受けた
シウバという二人の戦士のおかげで、私たちは
戦いの熱さ、面白さ、興奮を再び思い起こさせて
貰ったと思う。彼らからは最高の贈り物を
貰った。それは試合後のスタンへの暖かい
拍手と声援からも明らかだ。この熱さと
戦士への惜しみない賞賛こそ、日本のMMAファン
の最も素晴らしいところだろう。ホームだからと
いって、違う国籍の者や敗者へブーイングを
するなどあってはならない愚挙だと思う。
命を賭して戦った者達へは、結果に関わらず
最高の敬意と熱意を持って労うのが戦いを
楽しむ者の最低限の礼儀だろう。これが
日本という場所が多くのファイターたちに
愛される最大の理由だと思う。

確かにこの試合でヴァンダレイ・シウバが
ライトヘビーで上位に食い込む可能性を見せたか、
ブライアン・スタンがミドル級でその立場を
悪くしたかというとあまり関係の無い試合だった。
タイトル戦線にはあまり絡まない試合だったと
思う。ただ、それでもこの試合はそれを越えた
価値が十分にあった。たまにはこんなバカで
熱い試合があったっていいじゃないか、と
強く思った。これは祭りだ。楽しまないのは
野暮というものだろう。

SAITAMA, JAPAN - MARCH 03:  A general view of the arena during the UFC on FUEL TV event at Saitama Super Arena on March 3, 2013 in Saitama, Japan.  (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

シウバはホームで見事勝利を飾った。そして
ブライアン・スタンは彼の勇気と紳士的な態度に
より、米国に次ぐ第二のホームを手に入れる
ことができた。さあ、二人の戦士の激闘を祝し、
今宵ははなまるうどんの出汁で乾杯をしようじゃないか。

彼らが再び「ホーム」である日本で試合する日を心待ちにしている。