以下は個人的な意見ですので参考程度にどうぞ。
画像はUFC公式より
ライト級 5分3R
WIN TJ・グラント vs グレイ・メイナード
(1R パンチ→パウンドによるTKO)
メイナード、ライト級でアドバンテージを失う
今、UFCでかなり頻繁に見られるのが階級変更だ。それも階級を下げる選手が非常に増えている。そして、階級を下げたことによって急激に成績が向上する選手もいる。ウェルターからライト級に転向した途端に連勝を重ねたTJ・グラントはその代表的な例の一人だろう。
なぜそんなに階級変更が増えたのか?一つは、体格とリーチ差が大きく影響するようになってきたからだ。UFCの階級はかなり大きく区切られている。そのために、上下どちらの階級にもうまく収まることが出来ないというケースが非常に多い。無理せず作れる体重で収まった階級ではリーチや体格で劣る、パワーで負けるという場合、かなりの無理をしてでも下の階級に行ったほうが有利なことが多いのだ。一昔前のように、技術やフィジカルに大きな差があった時代ならともかく、今や全員が多くの格闘技の基礎技術を習得し、またフィジカルも軒並み向上してきたために、修練でどうにもできない身長や体格が試合に影響する割合が大きくなってきたのだ。
そしてもう一つは減量技術の進歩だ。今や近代的なトレーニングは当たり前、有名なドルチェ・ダイエットのように新しい減量方法なども出てきており、サプリメントもどんどん充実してきている。そのために最近では、それらを駆使してギリギリまで減量し、試合当日に大きく戻して試合を有意に運ぼうという選手も非常に増えている。減量がかなり一般的になったのだ。ナチュラルな体型で出てきて、ただ殴り倒せばいいというような選手はまず生き残れなくなってしまった。
その結果として、今や各階級での選手の大型化が進んでいる。ライト級でもそれは顕著だ。元ライト級王者フランキー・エドガーは王者ベンソン・ヘンダーソンに体格差とパワーによって敗れ、彼はフェザー級に戦場を移した。そのベンソン・ヘンダーソンもライト級では破格のフィジカルを誇るものの、ウェルターでは体格、パワーともに他の選手に劣る可能性が高く、そのためにかなりシビアな減量をしてライト級に留まっている。
一方で階級を落としたことでトラブルに見舞われるケースもある。代表的なのはネイト・ディアズだ。彼は183センチとライト級では非常に大きな体格だが、その体でライト級に留まるためにはかなり無理な減量をせねばならない。そのために頻繁にカロリー不足を起こしてスタミナやパワーに問題が発生することがあった。
このような時代の流れの中で、かつてはライト級でそこそこの体格と破格のパワーを持っていると思われていたメイナードは、知らずそのアドバンテージをライト級で失っていたのかもしれない。エドガーとの対戦以外は怪我を重ねて欠場がちだったメイナードがオクタゴンに帰ってきた今、ライト級には彼以上のフィジカルや体格を持った選手が次々に登場していたのだ。彼の直近の対戦相手のクレイ・グイダもまた、体格差に苦しみメイナード戦後にフェザー級に移動した。
TJ・グラント、重くシャープな打撃でメイナードを衝撃KO勝利
正直に言えば、TJ・グラントはよく試合で見かけるが余り覚えていない選手の一人だった。顔に見た記憶があるくらいで、その試合内容や得意なものはほとんどわからなかった。彼ががウェルターから階級を下げたことも、その後ライトでは連勝を重ねていたことも、今回初めて知ったくらいだ。そのために、自分はメイナードに勝てるだけの力があるとは全く思っていなかった。
だが試合開始前にお互いが並び立ってわかったのは、TJ・グラントはメイナードよりも一回りくらい体が大きいことだ。体が分厚いというよりも、全体的に大きい印象だ。メイナードが妙に細く見えた。自分の記憶の中のメイナードはもっと太く分厚いように思ったが、それはやはりエドガーやグイダと一緒に並んでいたからというだけのことだったのだ。
試合が始まるとパンチによる打撃戦となった。メイナードにTDをしようという気配は無い。いつものようににじり寄っては腕を振り回すスタイルだ。対するTJはしっかりと脇を絞め、足を使ってメイナードの様子を見ていく。
試合開始後すぐに判明したのがボクシング技術の差だ。パンチに破壊力があり、自身もボクシングのファンであるメイナードだが、彼のパンチは曲線軌道のパンチが多い。特に左右のフックとアッパーを巧く使うが、直線軌道のジャブやストレートはあまり使わない。そしてメイナードはオフェンスはいいがディフェンスは決していいわけではない。パンチがあまり見えていないのだ。それはエドガー戦でも、遠目からのジャブをかなり被弾したグイダ戦からも間違いないと思う。
それに対してTJ・グラントは非常にボクシングが巧かった。きっちりと脇を絞め、きちんとガードを上げて足を使い、ステップ・インからコンパクトなストレートを打ち込んでいく。リーチがあり無駄が無く、とても奇麗なパンチだ。メイナードのラッシュに慌てることもなく、しっかりガードして足を使って逃げるところもなかなかのものだ。相手をよく見ている。
序盤、ゴリゴリとプレッシャーをかけて追い込んでは連打のフックを叩き込むメイナード。いいのが少しヒットするもグラントはそこまで効いているようには見えない。そしてTJがシャープなストレートでメイナードを打ちぬくと明らかにメイナードの動きがおかしくなる。恐らく、ウェルターから落としてきたグラントのほうがタフでパンチが重いのだ。最初は優勢に見えたメイナードは数発打撃を貰うと動きが鈍り始め、そしてグラントの放った奇麗なストレートにまったく反応できずに被弾を許すと、メイナードはあっけなく倒れてしまった。タフなメイナードは何とか立ち上がるものの、追撃のフックなどを的確に何度も顔面に打ち込まれるとそのまま崩れ落ちた。勝負は予想外の結末を迎えた。
階級変更か引退か、メイナードの去就とグラントの次戦は?
メイナードはエドガーがフェザーに移動した後、彼もまた階級をフェザーに落とすことを検討していると語っていた。そして今回の試合前には、グイダ戦前後からモチベーションが低下していることも仄めかしていた。メイナードは33歳と比較的高齢であり、最近は怪我による欠場も頻繁だった。この敗戦により、メイナ-ドは引退をしてしまうかもしれないと危惧している。可能であれば是非階級を下げてフェザーでやるべきだと思う。そのほうがあのパワーとパンチをより活かすことが出来ると思うからだ。きっとフェザーのほうがいいパフォーマンスができるだろう。
そしてもう一つ、メイナードはあまりにもパンチに固執しすぎたゲームプランが多いと思う。せっかくのレスリング・エリートでありながらあまり積極的にTDも狙わない。今回の試合でも、少し打撃で押されたときにTDに切り替えずにパンチで押し通そうとしてしまったのは痛恨の判断ミスだろう。ダメージ回復と、相手の呼吸を乱し勢いを削ぐためにTDを仕掛けるほうがよかったはずだ。戦略があまり適切ではない印象がある。いずれにしても、彼には何とか現役を続けて欲しいところだ。
対するグラントは、この大金星により一気にライト級ランキング上位へと躍り出た。その印象的なパフォーマンスにより、ライト級王者ベンソン・ヘンダーソンへのタイトル挑戦権を獲得するかもしれない。本人はタイトルマッチに意欲満々だ。メイナードを1RKOできるストライキングと177センチと大きな体格、そして
ライト級 5分3R
WIN ドナルド・セローニ vs KJ・ヌーンズ
(3R ユナニマス・デシジョンによる判定勝利)
fightmetricによるデータはこちら
プレッシャーを無事克服?セローニ、激しい打撃戦に競り勝つ
心理学者まで雇い、「攻めなければ」という強迫観念を払拭して冷静な試合運びができるようにとトレーニングをしてきたドナルド・「カウボーイ」・セローニが、ボクシングを得意とするSF移籍組みのKJ・ヌーンズに完勝した。
もちろんそこまで安泰というわけではない。ともすれば足を止めて打ち合いがちで、セローニはふとした時にヌーンズのいいパンチを貰ったりなどはしていたが、それでも蹴りやTDをうまく織り交ぜてヌーンズをKO手前まで追い込んだのはセローニだ。少しスタミナ不足な感じもあったが、それでもタフで安定した試合運びだった。
象徴的だったのがヌーンズが挑発したシーンだ。劣勢に追い込まれたヌーンズは3R、両手を広げ打ってこいと挑発をした。間違いなくネイト戦を研究してきたのだろう。ボクシングが得意なヌーンズは、劣勢を挽回するためにカウンターを狙いたいところだったのだと思う。それを眺めていたセローニは突如として前に出る。まさかまだ強迫観念が拭い去れていないのか?と思った瞬間セローニはTDに行き、カウンターを狙おうとしたヌーンズを奇麗にTDした。会場からはブーイングが起きていたが、これはむしろセローニが心理的に落ち着いていた証拠だ。彼は強迫観念に打ち克ち、一歩前に進んだのである。
まだまだ実力を発揮し切れているようには見えないセローニだが、それでもこれでまた一つ壁を乗り越えた。欲を言えばもっと足を使い、ディフェンス面を強化して被弾する数を減らして欲しいところだ。あまりパンチのディフェンスがよくないように思う。足を止めて打ち合いに行きがちなところもまだ残っており、もっと自分に優位な距離を保つ工夫が欲しいところだ。今回のパフォーマンスを受けて、先日セローニのトラウマであるネイト・ディアズを戦慄のハイキックで葬ったジョシュ・トムソンが、さっそくセローニとの対戦を望んでいる。これはいいカードだ。セローニにとってはまたしてもハードな一戦となるだろうが、これを超えれば王者戦も見えてくる。彼にはさらなる成長を期待したいところだ。
一方でヌーンズは泥沼のスランプに陥る可能性が出てきた。決して悪くは無いが競り合いでズルズルと負けていくケースが非常に多い。フィジカルか、総合技術の未熟さゆえか、どうにもパッとしないところだ。特に劣勢に追い込まれた時の精神的な弱さというか、もっと自分から積極的に仕掛けるところが欲しい。相手の弱点を突こうというのはいいが、それがネイトがやったような挑発というのではあまりにもこすっからいやり口だ。またTDは攻守ともにあまり考えていないようにも見える。もしグラウンドを避けたいなら徹底したTDディフェンスと、もっと優れたストライキング技術が必要になるだろう。全体的に中途半端で、こじんまりとまとまってしまっている印象がある。ここからもう一花咲かせられるか、次戦で正念場を迎えることになりそうだ。
ライトヘビー級 5分3R
WIN グローバー・ティシェイラ vs ジェイムズ・テ-フナ
(1R フロント・チョーク)
総合であることを完全に失念したテ-フナ
ボクシングに自信があるのはわかる。だがこれは総合格闘技だ。グラップリングがあることを忘れてはいけない。だが、残念なことにテーフナは自分のパンチのほうが勝っていることに気を良くして、タックルの存在を脳の片隅に追いやってしまった。
序盤の打撃戦では、お互いボクシングを得意とする二人がパンチの応酬を繰り広げた。単純なパンチ技術だけならばどうもテ-フナのほうに分がありそうだ、そう思った瞬間にティシェイラは即座にTDに切り替えると、殴りあう気満々のテ-フナはあっさりと転がされる。上をとられて散々に殴られ、何とか逃げようと立った所をティシェイラが最も得意とするチョークに捕らえられ、簡単に一本を取られてしまった。
中々にいい素材だと思うテ-フナだが、経験の差で敗れたような印象だ。フィジカルはかなり強そうで、スーパー・サモアン、マーク・ハントの弟子だというだけあってパンチは相当巧かったし破壊力もありそうだ。サモア人なのだろうか?よくシェイプした体のシルエットは見たことがない一種異様なフォルムで、進撃の巨人の巨人達を思いだした。首から肩回りが原因だと思う。
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