UFC162の感想と分析の続きです。
以下は個人的な意見ですので参考程度にどうぞ。
画像はUFC® 162 Silva vs Weidman Event Gallery | UFC ® - Mediaより
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フェザー級 5分3R
WIN フランキー・エドガー vs チャールズ・オリベイラ
(ユナニマス・デシジョンによる判定勝利)
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圧勝、しかし残る僅差の印象
フランキー・「ジ・アンサー」・エドガーの約3年ぶりとなる3Rマッチということで注目が集まった試合だった。手数、TD、有効打数で圧倒的にエドガーのほうが優勢だったにも関わらず、妙に苦戦した印象の残る試合だった。
パンチの技術、TDの技術、メンタルではエドガーが圧倒的に上だったが、反面エドガーのスタンドにおけるディフェンスの悪さ、そしてグラウンドでの支配権の無さが目立ったと思う。序盤からエドガーはいつものようにステップ・インしてコンビネーションを繰り出していく。打ち分けが出来ており、特に右ボディから繋ぐ左フックは素晴らしい連携で何度もオリベイラの顔面をとらえていた。回転も速く素晴らしいが、離脱する際に逃げ切れずにパンチに捕まってしまうことが度々あった。
グラウンドでもいつもの荒々しく爆発力のあるタックルや投げで相手を転がすも、体格差が影響してオリベイラのガードを中々崩せない。ガードからパウンドを狙い多少はいいのを当てるものの、下から仕掛けるオリベイラに苦戦していた。結局グラウンドではインサイドガードからポジションを移行することはできず、オリベイラの長い足に巻きつかれ、下から肘などをもらってしまった。
打撃を貰って早々に鼻から出血するも、序盤からパンチでボディ、フックといい打撃を当て、組んでは相手を突き飛ばすような投げで転がして優勢に運び、3Rではいつものようにギアが上がっていくとパンチでオリベイラにビッグヒットを当てていき、もう少しでKOできるというところまで追い詰める。しかしオリベイラを捕らえきれずに結局判定勝利という形となった。
フェザーでも足かせとなる体格差
データではエドガーが文句の無い優勢なのだが、オリベイラに要所でビッグヒットを貰ってしまったこと、グラウンドであまり優勢に立てなかったことが圧勝の印象が無い原因だろうと思う。この試合でも、ライトと同じ問題がエドガーの前に立ちはだかった。
ライト級では体格差があるものの、それを圧倒的なスピードで補ったが故にそこそこやれた。しかしフェザーに落としてきて判明したのは依然残る体格差と、縮まってしまったスピード差だ。せっかくのアドバンテージも薄れてしまった印象がある。
そして今回も気になったのが、エドガーの入り際、逃げ際の危うさだ。頭を振ってジャブやストレートを打ちながら中に入り、ボディからフック、アッパー、そしてタックルと連携するのはさすがの動きだった。しかし逃げる際に、体格で上回るオリベイラのパンチから逃げ切れずに被弾を許していた。また入る際にもどうしても大きくステップ・インする必要性から、そこを狙ったカウンターのジャブなどを被弾しがちなところもあった。リーチ差がある相手には常にこの問題がついてまわってしまう。
グラウンドではパウンドなどを仕掛けようとはしていたが、オリベイラの長い足を抜いてパスガードするまでには至らず、身動きの出来ない状態が続いていた。これではライトと同じでテイクダウンが活きないままだ。ライトのときよりは多少攻撃が出来ていたとは思うが、それでもやはりテイクダウン能力には見合っていない。2R終盤のダブル・レッグも素晴らしく、あの体格からは考えられないパワーなのだが、それでも身長で10センチ上回るオリベイラは容易くエドガーの首に腕を回すとフロント・チョークを狙っていった。柔術の心得はかなりあるエドガーだからあのまま続いたとしても恐らく抜いていたとは思うが、それでも体格差がある分この手の技は逃げにくくなるだろう。
エドガーのほうでも体格からくる不利な点はよく把握しており、接近した際に逃げ際をタイ・クリンチで捕まえようとするオリベイラの手口は読んでいて手を回すとすぐに反応し、頭を抜いて相手を突き飛ばして離脱するなど対策は十分しているようだった。しかしその対策もこれだけの被弾だとまだ完璧とは言えないだろう。
王座には届かない?更なる階級変更の必要性
相変わらず素晴らしい戦い方だった。しかし現状フェザー級王者ジョゼ・アルドに勝てるようになるかというと、これはかなり厳しいのではないかと思う。もしフェザーでアルドに勝ちたいのならば、どうしても改善するべきポイントがいくつかある。
まずディフェンス面、それも入り方、逃げ方の工夫だ。フェザーでもリーチにおいて不利に立たされるのは間違いないだろう。そのためにはまず、ここでの被弾を激減させる必要がある。エドガーは決して目は悪くないが、そこまでいいわけでもない。加えて、逃げるときに相手を見ずに頭を下げて逃げる癖があるように思う。恐らく被弾を避けるための動きなのだろうが、逆にそのために予期せぬダメージを負ってぐらつくことがある気がする。まずこの点を改善しなければ、やはりスカーフェイスの鞭のようなパンチから逃れられないだろう。中に入るときも、まっすぐに入ればカウンターの餌食だ。頭を振ったりしているとはいえ、距離が遠ければどうしても見られてカウンターを合わされる可能性は高い。ましてや相手はヤツだ、ヤツの獣じみた動きから免れるのは現状のやり方では不十分だろう。
次にKOパワーだ。リーチで劣り、グラウンドでも体格差によっていいポジションをキープできないのであれば、削り主体の戦い方ではどうしても競り負けてしまうケースが多くなる。序盤から右ストレート一発でオリベイラをぐらつかせたり、決してそこまで威力が無いわけではない。それでもあれだけ当てて倒せないとなると少し厳しいものがある。ディフェンスに優れ、ほとんど一発も被弾しないというのであれば別だが、オリベイラ相手にもあれだけ被弾するのであればやはりKOが必須になってくる。チャド・メンデスくらいの爆発力が欲しいところだ。一発があればあれだけのスタンド・テクニックだ、試合を遥かに優勢に運べるようになるだろう。十分なダメージを与えられれば、逃げ際を狙われるようなこともなくなるだろう。今回は最終ラウンドでぐらついたオリベイラに欲目を見せてオーバーハンドを振り回していたが、むしろ相手にダメージを与え損ねていた。いつものようにきちんとしたコンビネーションから、強烈な右ストレートなどを叩き込むべきだっただろう。
またパンチに傾倒しすぎるのもKOが生まれない要因だ。もっと蹴り、それもミドルなどを使いたいところだ。ボディ・ショットは素晴らしかったが、それだけでは単調になる。TDの不安が少ないエドガーならば、カウンターさえ警戒すれば蹴りはいい武器だ。途中見せたミドルはスピーディでクリーンヒットしていた。あれをもっと使っていきたい。
そしてグラウンドでの展開の早さだ。今回はテイクダウンしてからグラウンドでの攻めを見せ、パウンドなども悪くは無かったエドガーだが、倒してからの展開が遅く、相手が完全にガードする余裕を与えてしまっていた。ガードでは上背が無いために頭を下げさせられ、そこを肘で狙われるなど相手にうまくそこを利用された形となった。あれだけのバネとスピードがあるのだから、倒したら相手が対策を取る前に先に動いていけば小柄であってもいいポジションを奪取し、もっと攻めていけるだろう。どうしても立たれてしまうなら、いっそ体勢を崩された相手が起き上がるところを狙い撃ちにする技術を徹底的に鍛えてもいいかもしれない。メイナードはその立ち際を狙ったアッパーで沈めたのだ。あれがもっと狙ってできるのならば、エドガーのTDもぐっと意味が出てくるだろう。
上記のポイントにおいて、全てとは言わないがある程度まで解決できるのであれば、フェザーに留まっても王座戦の可能性は見えてくる。そうでなければ、無理にこの階級に拘らずにもう一つ階級を下げたほうがよりスマートな答えではないだろうか。体格的にもバンタムが適正であり、フライであれば今度はエドガーに体格の利が生じるだろうと思う。飢えた状態が嫌いというエドガーは恐らく承知しないとは思うが、戦績とベルトに拘るのであればバンタム転向がベストだと自分は思ってい
る。フェザーも大型化が著しく、180センチ代の選手も次々出てきている。今回の対戦相手であるオリベイラも177センチだ。このまま留まれば、ライト級のときよりもアドバンテージを失った状態で試合をし続けることになるだろう。
今回は仕掛けが速く、きちんと3Rマッチに適応したいい試合だった。序盤から先に先にと攻めていき、手数を出して圧倒していた。いいペースで試合を進めていたと思うし、新進気鋭の若手にきちんと勝てるのもさすが元王者の貫禄だ。しかしベルトを取るにはもう一歩突き抜けた何かが欲しい、そう感じさせる試合だった。エドガーならばもっと出来る、そういう期待感から苦戦したような印象になったのかもしれない。BJ・ペンというレジェンドを破ったときには斬新だったエドガーの戦い方も、今や当たり前となり、対策も確実に取られるようになっている。逃げ際を狙われたのは、間違いなく研究されている証拠だ。次の対戦相手も決して楽ではないだろう、どうするかは本人に掛かっ
ているが、彼がよりスマートな「アンサー」を導き出すことを願っている。
期待の23歳、英雄を相手に大健闘
対するオリベイラも決して悪くなかった。元王者を相手によく戦ったと思う。しかし少しばかり狡いというか、相手の弱みに漬けこみすぎるところがあったようにも思う。エドガーの動きを待ちすぎてしまったのではないだろうか。体格差を活かすのはいいが、そればかりを考えていては後手に回っていく。もっと手数を出していくほうがいいだろう。
もっとも組んで倒す、タックルで倒すというのは恐らく無理だったろうし、相手が来たところを引き込んでというのは決して悪くは無かった。下からも有効な肘を使い、エドガーが顔を上げられないようにするなど若くして中々の試合巧者だった。ただ組んでからのレスリングではやはりまったく適わず、テイクダウンを取られすぎたところはあるだろう。
まだ23歳という若さでエドガーに有効な攻撃を何度も出来ただけでも十分な成果だろう。ここぞでは大胆に攻めており、もう少し積極性とレスリング、特にクリンチの技術があれば更なる向上が見込めるはずだ。様子を見すぎるきらいがあるのも、経験が浅いがゆえだろう。もっと試合経験を積めば、より早く有利に仕掛けることが出来るようになっていくだろう。敗北後に悔しそうな顔で拍手をしてエドガーを称える姿には個人的にとても好感を持った。なんとも青年らしく爽やかな態度だ。この敗北を糧にさらに研鑽を積んで欲しい。これからの活躍に期待できる選手だと思う。
ミドル級 5分3R
WIN ティム・ケネディ vs ホジャー・グレイシー
(ユナニマス・デシジョンによる判定勝利)
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柔術界の超大物、MMAに適応しきれず
柔術で驚異的な成績を残してMMAに参戦してきたホジャーだが、依然としてMMAに適応できていない印象だ。
問題点はやはり柔術に頼りすぎるところと、打撃に対してあまりにも耐性がないところだ。せっかくテイクダウンをしてグラウンドになっても、ことあるごとにうるさくパンチを打ち込んでくるケネディに露骨に嫌がる素振りを見せる。集中して相手の様子を窺いたがるホジャーに、その隙を与えないように軽くでも休まずケネディは殴り続ける。バックマウントを取られてすら、慌てることなく後ろに張り付いたホジャーの顔面を殴りつける。恐らくケネディは純粋な寝業師の最も嫌うことを熟知しているのだろう。相手に殴られる心配が無い状態と、隙があればパンチが振ってくる状態では同じように出来るはずがない。
また柔術に秀でるホジャーも、MMAにおけるレスリングの展開では後手に回り、2R以降はレスリングでケネディに完全に後れを取ることになった。タックルも巧いわけではなく、体格差がありながらケージ際で有利に運ぶこともできなかった。
結局、ケネディの粘っこいグラウンド&パウンドで中盤に完全にガスを使い果たしたホジャーは、その後スタンドでも被弾が増え、3Rではほとんど何も出来ずに判定で敗れる結果となった。柔術のみならばいざしらず、攻撃手段が豊富なMMAでは一つの技術で後れをとっても、他の技術で補うことが出来る。ホジャーは柔術を封じられたら他の攻撃手段が存在していないのが問題だろう。特にスタンド技術がひどく、リーチがあるためにそこそこやれているだけで、もう少し体格があって打撃の巧い選手を相手にすれば、恐らくすぐにKOされてしまうことになるだろう。マイアのように柔術をMMAにアジャストする必要性がある。このままでは、柔術と並ぶ実績をMMAで残すことは出来ないだろう。
ミドル級 5分3R
WIN マーク・ムニョス vs ティム・ボーシュ
(ユナニマス・デシジョンによる判定勝利)
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解体機械の修理完了、ボーシュのガスタンクを完全破壊
岡見勇信に負けた後4連勝するも、アンデウソンを撃破したクリス・ワイドマンに一方的な敗北を喫したマーク・ムニョスは、連敗がかかった正念場となる一戦だった。この試合の前には、体重120キロ近くから30キロ以上を減量した衝撃のビフォアー・アフターで世間を騒がせたムニョスだったが、そのフィジカル・コンディションは完璧に近い仕上がりだった。まさにこれぞ戦士といった、筋肉が隆起しはちきれんばかりの素晴らしいフィジカルだったと思う。
序盤から濃厚なレスリングの攻防となり、個人的には大喜びの試合展開だった。スタンドでは若干ボーシュ有利であり、グラップリングでは白熱した一進一退の攻防が繰り広げられる。
その後、組際でムニョスの膝がボーシュの太いボディに直撃すると、ボーシュは動きが悪くなり始める。さらにグラウンドでムニョスががぶるような形から、オーガのような腕を振り回してボーシュの横腹を猛烈な勢いで殴りつけると、いよいよもってボーシュの動きは止まり、精彩を一気に欠いていった。
結局ムニョスがボーシュのガスタンクを完全に叩き壊し、3Rでは息も絶え絶えのボーシュが死に物狂いで抵抗を見せるも勝機を見出せず、グラウンドで散々にパウンドを落としてボーシュを滅多打ちにし、解体機械ムニョスが完勝した。グラウンド&パウンドのお手本のような戦いであり、ムニョスは次への可能性を感じさせる素晴らしい勝ち方となった。
しかし今回はボーシュが自分から組みに来てくれたからこそこの展開だったのであって、スタンドでやりあっていたらムニョスが負ける展開も十分にありえただろう。遠めから削ってくるファイターを相手にどうするかという課題は今だ残ったままのように思う。
一方でボーシュは序盤から果敢に攻めるものの、クリンチから無理にテイクダウンをしようとしすぎた感がある。何が彼をそこまで焦らせたのかはわからないが、1Rはスタンドで優勢だったし、いつものように蹴りを使い距離を取って打撃戦を挑めば十分に勝てる試合だったようにも思う。作戦ミスだったように自分には思えた試合だった。
フェザー級 5分3R
WIN カブ・スワンソン vs デニス・シヴァー
(3R パンチ→パウンドによるTKO)
一撃のスワンソン、手数のシヴァーに勝利
近年遠目からの一撃を当てることに我が意を得たりという感じのスワンソンが、スタンド・テクニックに精通したシヴァーをパンチで撃沈した。
蹴りを速射砲のように繰り出すシヴァーを相手に、削りあいを挑まずに手数を抑え続けたスワンソンは、2R中盤あたりからパンチがよく当たりだす。そして3Rに大爆発、相手が出てくるところに完璧な右フックを合わせた。これがシヴァーの脳を完全に揺さぶり、見事狙い通りにKOを勝ち取った形となった。
最近、スワンソンはMMAでの打撃の当て方を心得たのか、遠い距離から狙い澄ましてKOパンチを叩き込むことが多い。独特の技術のように見えるので、暇があれば精査して何がポイントなのかを分析してみたいと思う。しかしKOできたからいいものの、全体を通せば手数が少なく、判定になれば勝ち星を落としてしまうこともあるだろう。もっと積極的に攻めることも必要かと思う。それでもあの打撃力はかなりの魅力であり、時折見せるアクロバティックな攻撃も決してただのハッタリではな
い。その身体能力の高さ、ここぞでの爆発力には目を見張るものがある。あのパンチがどこまで通用するのか、過去にスワンソンを打ち負かしたフェザー上位陣との再戦がとても楽しみになってきた。次はいよいよトップ・グループとの対戦だろう、スワンソンの真価が問われることになる。
対するシヴァーはいつものように蹴りを用いた削り主体のスピーディなスタンドで、試合の展開自体は決して悪くなかった。グラウンドでもスワンソン相手に優勢に運ぶところもあり、さすがのオールラウンダーといったところだ。ただ惜しむらくはパンチ技術の差があり、蹴りは当たるもののパンチの
強打を最後まで叩き込むことは出来なかった。
一応データで見るとスワンソン、シヴァーともに身長は170センチとなっているが、どう見てもシヴァーのほうが小さく見えた。リーチでも劣っているように見えたが、ジョーク・グッズ・コーナーで売っている筋肉の着ぐるみのようなシヴァーの体型のせいだろうか?シヴァーが異様に腕が短いだけなのだろうか。リーチ差で敗北した、と書こうとしてデータを見て驚愕してしまった。シヴァーがフック軌道のパンチを多用したこと、スワンソンがフットワークに優れていることを勘案しても、どうも腑に落ちない。誰かにシヴァーがサバを読んでいないか聞いてみて欲しいと思う。とりあえずもう一度VTRでシヴァーの体格とリーチを確認してみたいところだ。
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