UFNのその他の試合の感想と分析です。
以下は個人的な意見ですので参考程度にどうぞ。
画像はUFC Fight Night: Condit vs Kampmann 2 Event Gallery | UFC ® - Mediaより
バンタム級 5分3R
WIN 水垣偉弥 vs エリック・ペレス
(スプリット・デシジョンによる判定勝利)
fightmetricによる試合データはこちら
インテリジェント・スナイパー、アサルトライフルで強襲
遠い距離から素早くステップインし、近い距離で回転の速い打撃をコンパクトにまとめて叩き込んでいく。相手の攻撃もよく見切り、決して連打の中で致命打は貰わない。それは狙撃銃というよりもアサルトライフルを担いだ強襲だった。しかしその強襲は「インテリジェント」のニックネームに相応しい、冷静でよく練られた素晴らしい攻めだった。
水垣は日本人選手では珍しく、キレのあるフットワークと回転の速いパンチを得意とする選手だ。特にここ数戦ではフィジカルに厚みが増し、そのパンチにますます磨きがかかっている。今回でも試合の決め手となったのは水垣の強烈なパンチだった。
リーチに関してはさほどアドバンテージが無い水垣だが、それをフットワークによってかなりカバーしている。今回もビッグヒットとなったのは遠目から飛び込んでの一撃が多かった。特に相手の蹴りにカウンターで叩き込んだ右ストレートと、2Rにボディに叩き込んだ痛烈な右フックはかなりいいパンチだった。冷静に打ち分もしており、ボディはかなり効いていたのではないだろうか。飛び込んで放つコンビネーション・ブローも、時折力みすぎるところはあったがそれでもフランキー・エドガーを髣髴とさせる素晴らしいものだった。
結果として3Rを通して自分から前に出て攻め続け、ガンガン相手を殴り、さらに3Rでチョークを極めかけた水垣が勝利した。しかしなぜか、それはスプリット・デシジョンだった。
重なるスプリット・デシジョンとその原因
もし現代にスフィンクスがいたら、水垣がスプリットになった理由を聞いてみたらいい。きっとスフィンクスは答えられずに自殺してしまうだろう。それくらいに不可解な判定だった。
ペレスはパンチにおいて完全にアドバンテージを失っており、試合中盤から水垣とのスタンドを嫌って必死にテイクダウンを仕掛けてきた。確かに何度かTDは成功したが、その大半はスタンドを嫌ってのトライで、試合を膠着させるのが目的の消極的な攻めに見えた。水垣もクリーン・テイクダウンは許さず、金網際でしゃがみこむような体勢が多かった。完全に倒されたわけではない。それでも一人のジャッジはペレスにつけた。果たしてあれがそこまでのポイントになるだろうか?
ここで統計を見てみると驚愕の事実が明らかになった。終始打撃で押しているように見えた水垣だが、有効打の総計が水垣39のペレス37と僅差となっているのだ。そしてTD数は水垣が2のペレス5、これならば確かにペレスにつけるジャッジがいてもおかしくはない。
ではラウンド毎に統計を見てみよう。
まず第1ラウンドは有効打で水垣10のペレス16、グラウンドなどの打撃を含めると互いに21発と同数、そしてテイクダウン数は水垣1のペレス3だ。このラウンドは全ジャッジがペレスにつけただろう。
次に第2ラウンドだ。水垣が18のペレス11、TDは互いに0だ。水垣の強烈なボディがヒットしたのもこのラウンドだ。このラウンドは全員水垣で間違いない。
そして最後のラウンドだ。水垣10のペレス10、トータルで水垣が19のペレス16、TDは水垣1のペレス2、そして水垣はサブミッション・アテンプトが1となっている。このサブミッションの評価とテイクダウンの評価で、恐らくペレスにつけたジャッジが現れたのだろう。
試合を通してみれば優勢だったのは水垣で間違いないはずだ。有効打もずっと水垣が多いように感じた。そして水垣はそこまで打撃を貰っていないようにも見えた。カウントされているテイクダウンも奇麗なタックルというよりは、金網際でなし崩しに尻をつけさせたというようなものばかりで、倒した後にこれといって有効な攻撃もしていなかった。しかしどのラウンドでも打撃でそこまでの差がついていないし、テイクダウンもカウントされている。これはどういうことだろうか?
日本人の大きな壁、外国人選手とのフィジカル差
原因は2つあるように思う。一つは水垣の打撃がヒットとカウントされていないこと、もう一つはフィジカル差によってクリンチやグラウンドでの印象が悪い点だ。
水垣の打撃スタイルは軽量級の英雄「ジ・アンサー」フランキー・エドガーによく似ている。リーチの無さを補うために遠目から飛び込んでパンチをまとめていく。体格に劣る選手にはいい戦術であり、実際に水垣はこれでペレスにいい打撃を当てていた。しかし、そのまとめていった打撃がヒットとしてあまりカウントされていないのではないだろうか?同様のことはエドガーの時にも思った。打ち方なのか、当て方なのかはわからないがどうもカウントされていないヒットがかなりあるように感じる。
そしてこのスタイルはその宿命として、飛び込んで足を止めて打ち合うためにどうしても反撃を受ける。エドガーはそこで打たれて結果被弾が多くなってしまうことがあった。水垣はそこまで打たれていたようには見えないが、やはり相手の反撃を受けて乱打戦の様相を呈することがあった。そこでのペレスのヒットが見た目以上にカウントされていたようにも思う。
次にフィジカル差だ。身体が厚くなり、フィジカルが充実してきたとはいえやはりまだ外国人選手とのパワー差は依然としてある。それはペレス戦でも同様で、単純なパワーだけならば水垣はやはり分が悪かったように思う。そしてこのフィジカル差からくる印象の差というのは、思った以上にジャッジに影響を与えているのかもしれない、と感じ始めている。
先にも述べたように奇麗に倒されたわけではなく、金網際で堪えた水垣をなんとか倒そうと尻餅をつけさせ、金網にもたれた状態の水垣の足を押さえて立たせないようにするなど、とにかくペレスは完全なグラウンドにしようとあがいていた。だが水垣が完全にマットに背中をつけたのはそこまで多くはなかったように思う。自分はそれをテイクダウンとは思っていなかったが、しっかりとカウントされていた。あれをテイクダウンとカウントされてしまう原因が、やはりそのフィジカル差からくる印象なのではないかと思う。水垣が組み合いでパワー負けして中々立てないでいる=ペレスが優位に運んでいる、というように判断されているのかもしれない。
試合後にデイナはツイッターで、「日本人は判定でねじれることが多いと思う。私は水垣が勝ったと思った。」とコメントしていた。これは多くのファンが感じていることでもある。そして日本人に共通する点は何かを考えれば、やはりフィジカル差であるように思うのだ。レスリングのジャッジが出向していることも多いMMAで、組み合いで力負けしているというのは非常に印象が悪いのは間違いないだろう。
日本人でその点を克服できている選手といえば岡見勇信だ。彼はリッチ・フランクリンに敗北したあとにそのフィジカル差に愕然とし、外国人選手に負けないフィジカルを作り上げる努力をした。結果彼はマーク・ムニョス、ティム・ボッシュ、ヘクター・ロンバード、ネイサン・マーコートといったパワーのあるファイターを相手に組み負けることなく、むしろクリンチでは圧倒的な強さを誇るまでに至ったのだ。あのチェール・ソネンをして、再戦したら勝てないと言わしめるほどの力を持っている。岡見がギリギリのところで判定勝ちできるのも、やはりこのクリンチでの力強さが大きく貢献しているだろう。
水垣はどの局面でも優れていて、特にパンチではかなりのレベルにある。ケージでの戦い方にも精通した日本人では稀有のファイターだ。しかしこれまで僅差の判定で敗れた試合は、尽くクリンチで力負けし、そしてグラウンドからの脱出が遅れたことによってポイントを落としていたように思う。確実に改善されているとはいえ、まだまだここを向上させる必要があるのかもしれない。今回の試合も、もっと早く立てていればスプリットになることはなかっただろう。ジョゼ・アルドのように、得意のスタンドに相手を付き合わせる為に徹底して相手を突き放し、距離を維持できるだけのフィジカルとクリンチの技術が求められている。
しかしその上で言わせて貰いたい。3Rにあそこまで相手を殴り、あわやチョークで一本というところまで行きながら水垣にポイントを入れないジャッジはさすがにどうかしているように思う。あれはポイントで言えば相当に大きかったはずだ。あれが外れてしまった後、水垣はガスが終わりかけたのかかなり苦しそうな表情に変わってしまった。しかしそれを差し引いてもやはり3Rは全体を通してみれば水垣有利ではないだろうか。スタンドでの有効打が10となっているが、そんなに少なかっただろうか?やはりカウントされていない打撃が多いように思うが、自分が水垣を贔屓しすぎているのだろうか。ペレスと同じ程度にしか有効打を当てていないようには見えなかったが・・・。
また戦い方として、もっとタックルを織り交ぜていってもいいだろう。打撃を嫌った相手がタックルを仕掛けるより先に、自分からタックルのプレッシャーをかけて倒していくというのも一つの手だ。今回でも水垣は完璧なタックルでTDを取っており、あれをもう少し織り交ぜていけばスタンドも良く当たるようになるし、相手に組み付かれて時間をロスすることも減るだろう。彼には強烈なパウンドもある。もっとTDし、上からガンガン殴って削るのもいいかもしれない。そうすれば判定でごたごたすることもなくなるだろう。
ジャッジに不満は残るが、ともあれこれで水垣初の3連勝、次は間違いなくトップ10ランカーとの対戦になるだろう。水垣はこれまで上位陣と対戦すると敗北していたが、次で勝てれば王座も見えてくる。彼は毎試合着実になんらかの向上が見られ、地味ながらも常に進化し続けている。これこそがインテリジェント・スナイパーの最も優秀な点だろう。年齢も29歳と、いよいよ彼のキャリアがピークを迎えるときだ。彼のアグレッシブでスピーディな闘いは、世界中に多くのファンを生んでいる。ひたむきで勇敢な彼の試合は、誰が見ても面白いと感じるのだ。輝く知性と勇気を武器に、これからも一歩一歩王座に近づいていって欲しいと切に願っている。
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水垣のスタイルはいいですね
返信削除ジャッジの的外れさにはうんざりです
柔軟性のない局所的な判定の総計だからあんなことになると思うんです
どっちが勝ったのか、どっちが強いのか、ファンが納得するのか
そういう本質的なジャッジをして、局所的な判定を後付け的に説得するほうが良いと思います。
エドガーにはまだまだ遠いとしても、戦術は共通する点がありますね
個人的には水垣のスタミナの使い方に感心します
ステンディングではフットワークが少ないんですが、集中力と距離感で戦ってるように見えます。
体力の温存に適してますよね。
実際に相手だけを徐々に削っていけましたし
あのベタ足から素早い踏み込みができるのと、器用に打ち合ってテイクダウンを取れるのは才能ですかね
まるで、現在ではフィジカルで遅れをとるようになった日本人ファイターの、活路を示しているように見えました