2013年10月31日木曜日

ニュージャージー州、体重を多く戻しても大してアドバンテージはないことを発見する

減量:それはわずかな利益と、いくらかの危険性、そして解決が困難な問題だ



MMA Fightingより

先日のレンドロ・ソウザ選手の死は無情にも減量の実施による初めての不幸である。そしてそれはどうも最後にはならないようだ。

もしショーの10日前に、UFCや他のミックスド・マーシャル・アーツ・プロモーションが彼らはあらゆる契約を改変すると明言したメモを発送し、その変更はカードに載っているどの選手もいまだ同じ対戦相手のままで、ただ階級を一つだけあげるものであるとしたら、それがどんな反響を呼ぶか考えるのは楽しいに違いない。

その時にはほぼすべての選手がすでに彼らの新しい計量体重から数ポンド以内にいるだろう。いくらかはすでに体重ぴったりだろうし、わずかばかりの選手がそれを下回っているかもしれない。

試合当週の減量という、誰一人として楽しめない過酷な試練は、起こらずとも済むだろう。選手達が不機嫌になることもないだろう。体重を作るために自身に厳しい責め苦を与える代わりに、彼らは自分たちの試合を研究することができるだろうし、体を休めることができるだろうし、自分のタイミングで練習したり、カードを宣伝することもできるだろう。誰も計量で失格することもないだろうし、従って彼らは実際に戦う時の体重に近い状態だろう。体重を元に戻し、可能な限り早く自分の体に水分を補充しようと大慌てのために、秤から降りて何らかの液体を引っ掴むような選手は一人もいないだろう。

彼らが戦うためにケージに入った時、ほぼ全員が少しばかり力強くなっていることだろう。彼らはより多くのエネルギーとスタミナを持っているはずだ。メイン・イベントの選手たち、とりわけ5ラウンドをやる予定の選手は、フィニッシュの際にわずかしか(スタミナが)残っていないのではないかという恐怖のためにペースを早めてしまうことについてさほど心配しなくてもよくなるだろう。全員肉体的にわずかに良いシェイプになっているだろうし、多分精神的にも良くなっているはずだ、なぜなら彼らは出来うる限りの水分を彼らの体から排出させ、その後試合前に一日中かけて水分を戻すという、身体に重い負担を掛ける行為をしていないだろうからだ。その戦いはより良くなるだろう。選手たちはより幸福だろう。観衆はより良いショーを得るだろう。

もちろん、こんなことは絶対に起こらないだろう。

そう、私は知っている、合法的観点から私が提案したようなことは起こりえないということを。だがこの視点に立った時、大幅な減量プロセス全部は誰にとってもなんら良いことはないのだ。それが起こるのは、それが起こらないようにするにはどうしたらいいかというのを誰も理解できないからだ。

皆がそれをやるのは他の皆がやってるからだ。ある者はアドバンテージを得ようとしている。他の者は彼らの対戦相手のアドバンテージを打ち消そうとしている。それは終わりなきチキン・アンド・エッグ・ゲーム(解決できないゲーム)だ、その効果はすべてネガティブなものだ、だがゲームは決して止まることはないだろう。そういうわけだから、二人ともが互いにそれをやった時、彼らは二人そろって最終週に惨めな思いをし、そしてそこからなんらポジティブなものを得られないのだ。

それだけではなく、ニュージャージー・アスレティック・コントロール・ボードはその問題を研究しており、より大きなファイターになることのアドバンテージとは何かを発見し、統計的には、人々が考えているようなものとはまったくかけ離れたものだった。.

メジャーなMMAの試合に関わったことがある者なら誰でも見た経験があった、ある選手、大抵はカレッジでレスリングをしていた者だが、それが突然前日の夜より20ポンドも減るのだ。彼らの目の中には虚ろな色が漂い、そしてあなたはそれを見て思うのだ、「この男が明日の夜戦うのか?彼は強い風が吹いたら飛ばされちまいそうに見えるんだが。」

これはまさにトップ・レベルのファイターになるための一部だと見なされている。落とす量が膨大になればなるほど、より多く戻すことができるようになる、その思考プロセスは、より大きく力強いファイターになることによって勝利の機会を増やそうというものだ。より大きなファイターになる中に肉体のキレはまったくないし、同様に精神のキレもないのだ。

The Ultimate Fighter (TUF)の初期のシーズンにおいて、ハードな減量の部分が映されていた時、その大部分に対して一般視聴者はすっかり嫌気がさしてしまった、それはあなたにその番組のあの手のシーンはもう見ないと思わせるのには十分だった。それはハードなスポーツで、試合の準備をするためにありとあらゆる方法で男たちは自身の体を痛めつけるのであり、それは彼らの一部分となっているのだ。そして年間に何回か、あなたはコミッション・ドクターが選手にこれ以上の減量を許可しない理由について聞く機会がある、その理由はこういうことだ、もし彼らが続けたら、深刻な健康上の問題が生じる大きな恐れがあるからだ。

だがここ数週間にいくつかの出来事があった。

最初は9月26日のレンドロ・ソウザの死去だった、ブラジルで、ショーまで一週間足らずの間に159ポンドから126ポンドまで減量しようとしていた最中のことだった。注意すべきはブラジルのコミッション、北米におけるアメリカの該当部署の大半とは異なっているそれは利尿剤の検査をしておらず、 報道によれば一週間足らずで体重の23パーセントを落とすというソウザの試みにおいて、その物質がこの問題の一要素となっていたという。

一週間後、UFCファイターのホドリゴ・ダムが試合のために水分の重量を取り除こうとして強烈な痛みを伴う腎臓結石に襲われた、10月9日のことだった。

さらに先週にも、タイミングが偶然一致して、ニック・レンボ、ニュージャージー・アスレティック・コントロール・ボードの顧問である彼が、この潜在的に危険を内包するプロセスを少しばかり安全にするような基準を探る計画について公の場で議論した。

レンボは一つの案を提示した、それは試合時間から30日前に、全ての者が計量しなければならないというものだ。その時点で彼らは契約体重より10パーセント以上多い状態でいることはできない。

フライ級は137.5ポンドを作らねばならない、バンタム級は148.5ポンド、フェザー級は159.5ポンド、ライト級は170.5ポンド、ウェルター級は187ポンド、ミドル級は203.5ポンド、ライトヘビー級は225.5ポンド、そしてヘビー級は291.5ポンドだ。言い換えれば、ほとんどの階級にとって、彼らは試合をする時より約1階級上まででなければいけないということだ。

それから、試合時間より7日前の時点で、もう一つの計量がある、そこでは選手達に契約体重の5パーセント以内にいるように要求するのだ:フライ級は131.25、バンタム級は141.75、フェザー級は152.25、ライト級は162.75、ウェルター級は178.5、ミドル級は194.25、ライトヘビー級は215.25、そしてヘビー級は278.25だ。

これは思いつきのアイディアではない。The World Boxing Council (WBC) は同じ計量規則を全ての王座戦に課してきた。そしてレンボは言った、2007年にWBCがこのルールを制定して以来、何の問題もなかったのだと。

だがMMAでの計量の考え方というのはアマチュア・レスリングから大部分が来ているのであって、ボクシングではない。そのスポーツでは参加者たちは、概して、さらに多く体重を落とす。WBCがわずかな問題のみであれらの規則を採用できたのはそういうわけだ、一方MMAでは、これら同様の規則は遥かに強固な抵抗を受けるだろう。直ちに、あのアイディアの代わりに、キャンプ中に問題にならないところまで徐々に減量するようにしたら、批判者たちはこう言うだろう、それは選手達に一回で済むところ、三回も減量を強制することになるのだと。

「そのいわゆるレスリングのメンタリティがそこ(MMAの中)にあるのです。」とレンボは言った。「もしこれが明日実施されたら、懸念からくる大きな抗議の声があがるでしょう。しかしボクシングのコミュニティにおいて、それは実施されましたし大きな抗議の声もあがりませんでした。皆さんはそれに関する問題を滅多に見てこなかったでしょう。」

もちろんこの問題の面白い部分は、多くのレスリングのプログラムが同日計量であることだ、メジャーな柔術大会もそうだし、そしてそのどちらも、ボクシングよりも遥かに多く減量し、それらはかなりの割合のMMA選手にとってベース・スタイルとなっているのだ。

問題はMMAは打撃ありのスポーツということであり、したがって、完璧な水分補給をしていない状態で戦いに突入してしまうという医学的な問題が存在する。脳から液体が取り除かれることによって脳はダメージに対して遥かに影響を受けやすくなる、このことはMMAにおいて長期に渡り最も大きな懸念事項となるべきことだ。そのことは同日計量に反対する大きな論拠となる。

たぶん答えは同日計量と水分補給検査の組み合わせを同時に行うというものがありうるだろう。理論的に、それは選手達に健康的な体重での計量を強いるし、莫大な水分量削減の排除を強いることになるだろう。だがその後もし選手が体重を作れても、完璧に水分補給していない場合には、コミッションにのしかかる重圧は甚大なものとなるだろう。彼らは試合時の数時間前までわからないだろうからだ。もしそれがメイン・イベントで、誰かが合意に達した体重に失敗したわけではないが、罰金を科せられ、そしてまだ戦うのだとしたら、これはすぐにでも試合をキャンセルすべきことだろう。もしそれが誤った試合だったならば、それはビジネスの観点からは破滅的なものになりうるのだ。(訳者注 脱水症状のまま試合をして死者が出たら、ということ)

減量には二つのかなり異なった問題が存在する。一つは計量前に膨大な体重を減らすことによる潜在的な健康上のリスクと結びついていることだ。もう一つは計量後に体重を戻し、意義のある選手間のサイズ格差を作り出すことによる競技上のアドバンテージと関係がある。

階級を有することのそもそもの発想は、選手たちが彼らのサイズに近い人と相対するためのものだ。だが前日に各々が一ポンドかそこら以内の差で計量することでサイズの不一致を排除しているように見える一方で、MMAを観戦してきた者なら誰でも、時折恐らくは20ポンドくらいの格差があろうかというような試合を見てきたはずだ、より軽い階級においてでさえだ。

「記憶に残っている人が二人います。」とレンボは言った。「一人はフランキー・エドガーです、なぜなら彼は私の街に住んでいるからです。私は文字通り彼を見てきましたが、UFCの試合がある週、イタリアン・レストランで食事をし、パン、スープ、サラダを食べていました。彼は全然減量していないのです。その対極にいるのが、ご存じグレイソン・チバウです。彼は凄まじい体重量を減らしています。」

この問題を研究する一端として、ニュージャージーはMMAファイターがケージに入る前に計量されるというプログラムを実施した、厳密に情報収集のみを目的としたものだ。その体重は公的には決して明かされなかった、だがレンボは言った、選手たちのほとんどは、予想外でもなんでもなく、彼らが前日に計量した数字よりも10ポンドから20ポンド多いところに位置していたのだと。

「我々は、その利点が皆が考えていたものとは違うことを発見しました。」と彼は言った。「ちょうど50%以上、実際には52パーセントのより多く体重を獲得した選手が、試合に勝利していたのです。」

本質的に、このことは人々がより大きくなるために彼らの体重を操作する中でやっていた全ての作業が、実際には言われていたほどのアドバンテージではなかったことを指し示している、試合時に50パーセント近くの確率でより小さい方が勝利しているということは、本質的にサイズはアドバンテージが0であることを意味しているからだ。だが今だに誰もが相手選手よりも15ポンドかそれ以上少ない状態になることを望まないし、だからもしあなたの対戦相手が20ポンド減量しているなら、その感覚としては、あなたも同じレベルに近いくらいに減量しようと十分に大きくなるか、不利を抱えて臨むかといったものだ。

「大幅に減量する選手は、試合中にある点で壁にぶつかります。」とレンボは言った。「もし5ラウンドを戦う予定の選手がいたら、私は減量を勧めないでしょう。」

レンボはまた、高校のレスリングに関わる仕事をしているために、1997年のシーズン中に減量で3人のカレッジ・レスラーが死んだ後の数年間でそのスポーツが完全に変化したことを熟知している。その規則は体脂肪と水分量のレベルをシーズン開始時にチェックすることを含んでいる、その人間が活動できる最低限の体重はどれくらいか、そして現在健康かを把握するためだ。

「これらの人たちはシーズンの始まりに医者に診察してもらわねばなりません、そして彼らはあなた方に番号を与えます、体重はファイルに収められます、そしてそれはあなたがレスリングができる最低限の体重なのです。」とレンボは言った。

レンボの考えは減量に潜む悲劇を避けるためにある、その悲劇はここアメリカにおいては必然的に起こるだろう、もし現代の悪習がチェックされないのならば。TJ・クック、ストライクフォース選手の彼は、数年前に減量によって腎不全となった。ダニエル・コーミエの物語の一部であり、彼の205ポンドへの減量で語られることは、2008年のオリンピックで彼が211.5ポンドを作ろうとして膨大な量の体重を落している最中に、彼の腎臓が機能停止した記憶についてだ、そして彼は試合をすることができなかった。その階級では小さいのに、MMAにおいて彼がヘビー級で戦うのはそれが理由の一つだ。

「私が気に入らないのは、ある人々がそれを支持していること、そしてマサチューセッツが提案してペンシルバニアが支持し、IBFがその様は眺めているこのことです、あなたが155ポンドで計量し、さあ明日(試合当日)、我々はあなたを午後2時に計量してあなたはその体重より10パーセント以上増やすことができないのです。」とレンボは言った。「選手が体重を作った後には、私は彼らに水分を補給することに集中して欲しいのです、彼らが再び体重を心配することなくです。私は皆が体重を戻して、それからまた試合当日に減量しなければならないというのを望みません。」

彼が言及した試合前の肉体を調べる解決策とは、試合の夜、試合前、選手たちは水分量テストのために尿サンプルを提出しなければならないというものだった、なぜなら彼らは試合をする脱水状態のファイターを除外しないだろうからだ。

「我々の試合前の身体検査はとても広範囲に渡ります。」と彼は言った。「私は医師が試合前に脱水症状の選手を見つけ出さないのではということには何の憂慮も抱いていません。その心配はこのポイントに至る以前のものです。我々にはブラジルで悲劇がありました。我々には地方で行われる地域タイトル戦のために体重を作っていた選手がいました、しかしその後腎臓の機能障害のために入院させられました。私は皆さんがこの問題を完全に規制することができるとは思いません。うまくいけば、教育によって、より多くのトレイナーが医療のエキスパート達から知識を得て、減量がもう少しだけ科学的になってわずかに危険性が減るでしょう。」

レンボは特に言及した、あらゆる変化に伴う問題がある、たとえば遅れて代役となったファイターが事前に30日も無い試合を受けたイベントで発生する問題などだ。彼はこれを深刻な問題として見ており、より多くの医師が関わることを希望している。彼はバス・ソルトと水分注入ダイエットを使用する何人かの栄養士は、彼らの顧客達に良いことどころか危害を加えているのかもしれないと感じている。

あらゆる現実の変化が起こる限り、それは遥か遠い道のりだとレンボは言った。

「私が思うに、我々はあのポイント(レンボの30日前、7日前計量の案)から大分離れたところにいます。」と彼は言った。

AxsTVの報道において彼の計画について話しが出て、それを提案された変更と呼んだことについて、それは正しい呼称ではないと彼は言った。彼はその「提案された変更」という言葉はアスレティック・コントロール・ボードから可決されたものを指しているように感じたし、それは正式な聴聞過程を経たもののように感じた。

「これは今まさに我々が研究し分析していることなのです。」と彼は言った。「また別の話として、SB Nation上で、私がそのことについて話されるのを拒んでいたのだと報じました、私はそれを拒んだりはしませんでした、それはただ、目下今すぐに起こることではないというだけのことです。」

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というわけでここ最近の減量問題と、新しい計量プログラム案についてでした。事態は中々に複雑です。

ニュージャージー州では、ネバダ州とはまた違ったアプローチが取られており、今回はそこのお偉いさんからのお話でした。この人は非常にスポーツへの愛情と熱意があり、また迂闊な答弁を嫌う慎重なところがあると感じました。頼りになります。

今回特に興味を引くのが、体重差によるアドバンテージがこれまで考えられてきたほどには存在しない、という点です。

ニュージャージー州では、純粋な情報収集を目的としてケージにあがる直前の選手を計量してそのデータを収集し、分析していたそうです。その結果わかったことは二つ、一つはほとんどの選手が10ポンド以上も計量時の体重より多かったこと、そしてもう一つは、体重が多いほうが勝つ確率は52パーセントだった、ということです。なので記事中では、体重によるアドバンテージはない、としています。

これに関して私が思うに、もし選手がほぼ同じ実力であった場合に、この体重によるアドバンテージが効力を発揮するのだと思います。これはジョン・フィッチが指摘することです。しかしほとんどの場合、体重差よりも先に技術差、フィジカル差、スピード差、スタミナ差、体格差などのほうが大きく作用するのでしょう。加えて、体重増加によるスタミナとスピードの減少によるディスアドバンテージがアドバンテージを上回るのではないでしょうか。特に今日ではスピードとスタミナのほうが優先順位が遥かに高いように思いますので、この結果は当然のように思います。

むしろ減量が効果を発揮するのは、自分の体格にあった階級に合わせる時です。ライトヘビー級では小柄で、その体格差とリーチ差で王者に敗れたリョート・マチダは、先日ミドル級にあっさりと落として試合をした結果、ライトヘビー級を遥かに凌ぐパフォーマンスを見せました。同階級の選手に比べて明らかに小さい場合、体格に比して体重が重すぎる場合には、減量をして階級を落とした方が勝率が上がるのではないかと思います。要はデブは絞ったほうが強いぞってことです。どうせ奴らは絞らないだろうからもう期待はしていませんが!

同様に、大幅な減量が効果を発揮するのは階級を落とすことで他の選手よりも遥かに大きい体格で戦える場合です。これも要は体重そのものよりも、減量で一階級落すことでその体格差を活かすことが勝利につながっているように思います。

レンボ氏は、大幅な減量をして戻す選手はスタミナに問題が出ることを指摘しており、自分ならば5ラウンドを戦う選手にそのやり方は勧めないだろうとしています。

そして減量の一番の問題点が健康を害する可能性があることです。大幅な減量は深刻な健康被害をもたらします。

その症状は多岐にわたります。ホドリゴ・ダム、ダニエル・コーミエなどは腎臓の機能障害を起こしました。また過度の脱水は精神錯乱などを引き起こしますし、脳内の液体が減少することで衝撃に極度に弱くなるそうです。立っても寝ても打撃のあるMMAでは、脱水症状のまま試合をすることは命を落としてしまう可能性があります。

そして打撃があるにも関わらず、MMAにおける減量の考え方はボクシングではなく、レスリングから来ているものだそうです。レスリングは当日計量でありながらボクシングを遥かに超える減量をするそうです。柔術も同様です。これは恐らく、これら組み技競技のほうが体重の影響が大きいこと、そして打撃がないことが理由でしょう。これらの競技での常識で、パウンドやらストライキングがあるMMAをやったら危険度は跳ね上がります。

そんな中、レンボ氏が提案する解決策は三回の事前計量です。まず最初に30日前の計量を実施し、その時点で契約体重から10パーセント多い状態を超えてはいけません。次に7日前に計量し、この時点では契約体重から5パーセント多い状態以下、そして試合前に規定の上限体重以下にする、というものです。

この解決案が実行できれば健康被害は大幅に減るでしょう。短期間での無茶な減量は不可能になります。この時点で体重が作れない選手を除外すれば、適正な階級で試合させられるようになるでしょう。冒頭の記者の妄想中にある通り、大半の選手は試合10日前には一階級上の体重で、そこから凄惨な減量をして合わせている現状があるからです。またこのシステムならば準備期間が一か月を切るショート・ノーティスを排除することができます。プロモーションとコミッション、そして海外にいる選手などはかなりの負担になるでしょうが、これは安全策としては理想的です。

実際にボクシングではWBCが王座戦でこの規則を運用しているそうですが、これまで問題はないそうです。やはりコスト的にできるのは王座戦くらいかもしれません。全部の試合での実施は相当な負担になってしまいそうです。

次善策として、レンボ氏はとりあえず脱水症状の選手を除外するために、試合前に尿検査をするという案を出しています。体重ができていたとしても、脱水症状のまま試合をさせるのは危険です。もしMMAで死者が出たらビジネスとしても終わってしまう可能性があります。なのでこれにより、悲劇だけは回避しようというものです。これはどれくらいの手間かはわかりませんが、実施は楽そうです。

ただこれも頭が痛いのはプロモーションとコミッションです。健康を最優先に試合を中止するのはいいですが、もしそれがメイン・イベント、それも王座戦で、しかも試合の直前で出場停止となったら暴動になりかねませんし、それ以降の大会で客が激減してしまう可能性があるからです。

一方でマサチューセッツ州が提案しているのが、前日計量に加えて試合当日にも計量して、その時の体重が規定体重より10パーセント以上多い状態ではだめだ、というものです。レンボ氏はこれに対して、試合当日にまで選手に計量させかねないこの案は危険で、せめて選手は試合当日には水分補給に専念してほしい、と言っています。確かに大幅に減量した選手は、このやり方では大半が失格になるか脱水症状を引き起こすかです。あまり推奨できない案だとおもいます。

減量は健康に対する悪影響の割に、試合にはそこまでプラスにならない、というのがレンボ氏と記者の一致した意見です。しかし現状、選手たちはそれが勝つために必須のことだと思っているし相手が自分よりも重くなることを望まないそうです。これはやはりレスリングの文化が大きく影響しているのでしょう。そしてみんながこぞって人体実験の領域に足を踏み入れようとしています。

そして現在減量界のアイドルとなっているのが、試合前に12.3キロを戻すリバウンド王グレイソン・チバウです。階級二つ上の状態で出てくる彼は、その驚異の体重増加に反して正直パフォーマンスは冴えません。動きおっそいです。スタミナないです。でもダイエットしちゃう、だってチバウだもん。試合に勝つためというよりは趣味の分野じゃないかと思っています。あと彼の栄養士は絶対に人体実験でやってるだろうと思ってます。一応健康被害はないやり方だと言っていますが、とてもそうは思えないというのが正直なところです。

そんな中、一切減量しない選手がいます。それがフランキー・エドガーです。彼の食事に関しては初期のころに紹介しましたが、彼は試合前まで非常に健康的な食生活をしています。また奥さんが健康食品にはまっており、体にいいからと色々と食べさせられてひどい目にもあっているそうです。彼は飢えた状態が嫌いだといい、可能であれば階級を落としたくないそうです。彼の精神力と化け物じみたスタミナの秘訣はここにあるのかもしれません。実際彼の体はいつも非常に調子良さそうに見えます。ただ彼は食事を制限することを嫌うあまりか、現状フェザーでも体格的に劣る中でバンタムに落とすことは絶対に嫌だそうです。適正はバンタムだと思うんですが、落してくれる可能性は低そうです。

減量のカリスマことマイク・ドルチェは、「減量する」という時点でもう減量は失敗なのだと言います。直前に地獄の苦しみを味わいながら落とすのではなく、一年間365日気を使って体を作り上げるのが彼のやり方です。それは一切の健康被害を無くし、かなりの選手寿命をもたらすだろう一方で、それを実行できる強靭な精神力が要求されます。まだ具体的なやり方は探してませんが、そのうち紹介したいと思っています。書籍が売ってたら取り寄せてみようかしら。

減量の凄惨さは筆舌に尽くしがたいそうで、TUFの初期で減量シーンを公開したら、視聴者はすっかり嫌になってしまったそうです。やっていることは完全に拷問の1シーンですので、そりゃまあ見るに堪えません。以前減量で飢えた状態のビトー・ベウフォートがタオルで包んだ氷を獣のように噛み砕いていましたが、とても正気の人間には見えませんでした。追い込まれて本能が剥きだしになったその姿は、このスポーツの過酷さを体現していました。

体重戻しにそこまでのアドバンテージはなさそうです。それは肉体と精神からキレを奪い、健康被害をもたらす可能性を有しており、そして選手に想像を絶する苦痛を与えます。MMAのトレイナーたちがもっと科学的な知識を専門家から学んでいけば、今のような無茶な減量合戦も終わりを告げるかもしれない、とレンボ氏は願望を述べます。しかしその根は深く、少しでも相手より優位に立ちたいと言うアスリートの強い執着は中々にそのやり方を手放しません。レンボ氏は、栄養士の中には選手を強くするどころか逆に害になっている奴らもいるんじゃないか、と思っているようです。輸液とバスソルトを用いていると方法を指摘していますので、該当者はおおよその見当がつきます。たぶん奴のトレイナー達です。選手が敗北の恐怖から逃れられない以上、このチキンレースが終わる日はまだ当分先かもしれません。しかし、カレッジ・レスリングのように多くの死者が出てからでは遅いのです。

最後に、「ザ・ブラジリアン・タイガー」ヒカルド・アローナの名言を引用します。

「もし君が戦うために25ポンド以上も落とす必要があるのなら、君はとんだ臆病者さ。」

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