2013年11月26日火曜日

デイナ・ホワイト、サブミッションがどんなものか知らない奴はジャッジをやるなと語る

デイナ・ホワイト:役員はジャッジすることを許可される前にサブミッションをかけられるべきだ



MMA fightingより

UFC167でのジョルジュ・サンピエールvsジョニー・ヘンドリクスの判定を巡る議論が収束する気配を見せない中、UFC社長デイナ・ホワイトはこのスポーツの審判行為を前に推し進めるためのアイディアを持っている:ジャッジとレフェリーに、彼らが注視しているものが何なのかをしかと知ってもらうことだ。

それは表面的には軽はずみなものに聞こえる一方で、事実として、ミックスド・マーシャル・アーツの役員はしばしばボクシング出身の、コミッション内で余っている者達であり、彼らはそのスポーツにおいて正式なトレーニングを欠いている。それは一昔前、ちょうどこのスポーツが軌道に乗り始めたころならば受け入れられるものだったかもしれないが、しかしあのようなハイリスク・ハイリターンを伴う今日の試合においては、ジャッジと審判行為を次の段階に進める時だ。

だからホワイトは簡単な前進への第一歩を提案する:「まず第一に、ボクシングのジャッジがミックスド・マーシャル・アーツのレフェリーをしていることだ、彼らはそれについて何も知らない、元ミックスド・マーシャル・アーティストではないんだ、君が実際に戦った経験がなく、そしてサブミッションがどんな感じなのかを知らないのならば、ジャッジなりレフェリングをするべきだとは私は思わない。どうだい、まず最初に、サブミッションが何かを知るというのは?」

ホワイトは、メイン・イベントの判定がスプリット・デシジョンによってサン・ピエールの方に行った後の、土曜夜の彼の意見について疑念の余地はなかった、その試合ではGSPが3人の内2人のジャッジのスコアで48-47を獲得している。

ネバダ・アスレティック・コミッションに向けられた彼のコメントについて質問されて、ホワイトは再び繰り返した、UFCはコミッション内の役員の任用には何ら関わりが無いということを、ファンはいつも理解していないのだと。

「私が皆にあの夜のことで理解して欲しかったことが一つある、私はそれを完璧にはっきりとさせたいんだが、我々はジャッジなりレフェリーに何ら入れ知恵をしていない、そんなことは全くないんだ。」とホワイトは言った。「我々は彼らを選ばないし、我々は彼らと何も関係が無いし、それは完全に反対側に位置しているんだ。間違いなく、私は土曜の夜に少しばかり激昂した、だが私ははっきりとさせておきたかった、我々は完璧にアスレティック・コミッションがすることに何ら関与していないんだ、それは行政なんだ。」

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というわけで今回はデイナ・ホワイトのジャッジに対する提案でした。

現状コミッションが関与しているMMAの試合では、ジャッジ、レフェリー共にコミッションから派遣されます。団体側は一切選択の余地はありません。そしてその出向してくるジャッジ達が、純粋なMMAのジャッジではないことがよくあります。よく見るのがボクシング出身のジャッジです。今回のGSPとヘンドリクスの試合では、3人中2人がボクシングと兼務している人でした。トニー・ウィークス、グレン・トゥローブリッジというお二方はボクシングの試合でもジャッジをしています。サル・ダマトという人はボクシングのジャッジ経歴は見当たりませんでしたが、一応海外の掲示板ではボクシング出身者であるという指摘がされていました。このうちグレン氏がヘンドリクスに、後の二人がGSPに48をつけています。ファイトメトリックで彼らの名前をクリックすると過去にジャッジした試合一覧がずらっと出ますが、全員ジャッジ経験はものすごく豊富です。

しかしホワイトは指摘します。彼らはMMAの経験が無いし、サブミッションがどういうものかを知らないのだと。それを知らない者がジャッジなりレフェリーをするべきではない、というのがホワイトの意見です。なのでジャッジとしての許可を得る前に、彼らにはサブミッションを知ってもらおうじゃないか、というのです。

記事中でも指摘されている通り短絡的ではありますが、実際ボクシングのジャッジがどこまでサブミッションなりグラウンドの攻防を理解しているかはわかりません。私の考えとしては、経験が無ければまったくわからないということもないと思いますし、元MMA選手ならば絶対に誤審が無いかといえば、そんなことはないだろうと思います。ただ基本的にはMMA経験者がジャッジなりレフェリーをやるほうがいいでしょう。それは単純に基礎知識の差があると思うからです。これによってグラウンドの攻防、蹴りや肘などの打撃がより適正に評価されるようになるのは間違いないでしょう。

ただ、ジャッジが関節を軋ませてサブミッションの恐怖を知っていたとしても、GSPとヘンドリクスの試合にそこまで変化があったかは疑問です。あれはジャッジの問題ではなく、どちらかといえばシステム面の問題だと思うからです。ラウンド毎にどちらが有利かを判定する今のシステムでは、手数を出し続けたGSPが取れたラウンドが多くなったというだけのことだからです。影響を受けるとすれば先日のアルバレスvsチャンドラーのほうでしょう。

また自分の推測ですが、ボクシングのジャッジは手数を重視する傾向にあると思います。それは指標として一番わかりやすいからです。これが純粋なMMA出身のジャッジに変わったら変化があるかといえば、結構微妙な気がします。私のダメージの考え方は再三述べていますが、ダメージの多寡は経験者であろうがなかろうが見抜きにくいものだと思っています。パフォーマンスの低下なり肉体的な兆候によってそれはある程度推測できますが、確実にわかるわけではありませんし、ましてやどちらがよりダメージがあるのかを比較するのは、ダウンなどのはっきりとした肉体的な反応が無い僅差の試合ではやはり難しいでしょう。それはMMAでもボクシングでもあまり変わらないと思うからです。

またMMA出身のジャッジにとって、例えば片方がひたすら打撃を当て、片方がひたすらTDをしたような試合はどうなのでしょうか?結局どの攻撃や局面を優先して評価するかは、そのジャッジのバックボーンや好み次第になり、あまり現状と変わらないかもしれません。

とはいえ、MMAで評価される技術とされない技術があって、バックボーンによって不平等が発生しているのは事実でしょうし、MMA専門のジャッジを育成なり採用することが急務なのは確かです。何らかの対応が望まれます。しかし記事の最後でデイナ・ホワイトは、コミッションにどうにかしろとケチをつけたことについて聞かれて、あくまで自分たちは彼らに関与することはできない、彼らは行政なのだと強調しています。この点をはっきりさせるのは、スポーツが癒着や不祥事によって致命傷を被ることをよく知っている証左です。あの発言は踏み込み過ぎたのだとデイナも自覚しているところはあるのでしょう、なんだかバツが悪そうです。

行政に監督してもらうことと引き換えに、現在の判定やルールの問題は発生しています。行政相手では遠まわしに文句をつけたところで聞き入れてもらえませんし、下手をすれば圧力をかけたとして大問題に発展するでしょう。正式な手続きで意見を伝える程度は出来るでしょうが、積極的に関与してどうこうすることは一切できていません。それがクリーンさの証であると同時に、物事が前に進まない原因でもあります。私はこの事態の進展の遅さは、ある意味ではUFCの公平性を感じるものとして好意的に見ています。少なくとも、試合中にルールが変更になるようなふざけたことだけはないわけです。日本においてこのあたりの線引きを疎かにするどころか、大会運営が特定の選手に深く関与するような異常なケースが常態化していたのを不愉快に感じていた身としては、こういうのは良いことだと感じます。しかし、これではいつまでたってもMMA経験者のジャッジは増えず、今のMMAの規模に見合ったものにはなりません。

一番理想なのが、アメリカの行政に頼らずにMMAの国際的な統括機関を作ることです。統一されたルール、各地にある下部組織、そしてそこに所属する各種団体という形です。UFCはあくまでも大会の一つであり、ルールやジャッジ、レフェリーに関しては統括機関の規約に従います。その機関ではジャッジやレフェリーに基準と審査を設け、ライセンスを発行してMMAのジャッジなりを許可するという形にすれば、専門外の人間が関わることもありませんし、ある程度の公平性も担保できるでしょう。枠組みが統一されることで、世界中でMMAの大会を開催しやすくもなるはずです。様々なルールなどの変更もよりスムーズに決定されることになると思います。

しかし現状ではそれは難しいでしょう。MMAはまだそこまでのスポーツではないからです。もし発展していって、あらゆるコンバット・スポーツの受け皿たるプロ競技となることが出来れば可能でしょうが、今はまだそれほどのメジャースポーツではありません。また連盟なりの統括機関が出来ることによって多様性は奪われます。それを維持したい各団体が加盟せずに独自の大会をやり続ければ、結局は形骸化してしまう恐れもあるでしょう。また統一ルール次第では、各地で大会主催が不可能になる場合も発生するかもしれません。それを解消しようとすれば、肘、パウンドですら禁止になる可能性があるでしょう。基本的にはより危険性、暴力性を排除する方向に動くと思うからです。

次善策として、やはりコミッションが率先してMMA専属のジャッジをもっと任用してくれることです。しかし一向にこの傾向が見られません。彼らの職務はMMAだけではないでしょうし、そう簡単に動くことはできないのでしょう。現状でもボクシング出身のジャッジなどにはある程度の教育や指導もしてくれていますし、専門外のジャッジとしてはそこそこ適正な判定をしている方だとは思いますので、そう責めるのも気の毒です。

その次の案としては、ラウンド制の改革です。GSPが提案する、ラウンドを廃止した時間制限試合になれば正しい判定結果は増えそうですが、エンターテイメントとしてヤバいことになりそうです。試合開始5分で双方のスタミナが底をついた後の10分間、果たしてどれほどのものになるのかです。日本の団体で、どこか一回試しにやってみてくれないでしょうかwできれば決定力のない選手同士で試合を組んで、25分間くらいやってみてほしいです。

逆にラウンド数を増やす方法もあります。私は現在の5分が長いと感じているので、通常の試合で3分5R、王座戦で3分8~9Rがいいんじゃないかと思います。どのみち現在の5分でも、じっくり時間をかけて相手を極めるというのは時間的にも技術的にも不可能になりつつあります。むしろサブミッションは激しい攻防の一瞬の隙で極まるものになっていますし、ブレイクもどんどん早くなってる現状ならば、2分縮めてもグラップラーにはそんなに問題はないかなと思っています。これと併用してドローラウンド、9ポイント以下のラウンドの積極採点、さらにはドロー判定の際の延長も併用してくれれば、完全決着しやすくなるでしょう。一番の問題は、選手の肉体に深刻な負荷をかけてしまうということです。

佐藤ルミナ選手がツイッターで1R2分とかも面白いとコメントされてましたが、確かにそれも面白そうです。それが選手のスタミナや試合展開にどう影響するのか、かなり見てみたい気がします。さすがに2分だとストライカーが有利になりそうですね。しかしそれはそれで一つの特色になるでしょうし、悪くないかもしれません。

よくUFCが自前のジャッジやレフェリーを雇ったらどうかという話がありますが、大会運営者がそれをやるのは危ないと私は思います。理由はこれまでのMMAの歴史を紐解けば納得いただけるでしょう。重要なのは、大会主催者とは別の、競技を統括する上位組織が必要であるということです。特に重要なのは、金が絡まないことです。大会運営がジャッジを雇えば、当然ジャッジは運営と金銭的なつながりが出来てしまいますし、そうなればが運営が人気が出てほしいと望む選手に有利な判断をすることは、自分の利益に通じてくるわけです。これが不正の始まりです。そしてスポーツが見世物に代わる引き金となります。

もう少し経ってMMAの人気が落ちなければ自ずと連盟の必要性が発生するだろうとは思うのですが、このあたりは何ともわかりません。どんな方法でも構いませんが、少なくとも専門のジャッジが必要であることは間違いないでしょう。そろそろ往年の名MMA選手が引退を始めるころですので、彼らには引退後にはぜひとも積極的にMMAに関わっていただき、ジャッジなりレフェリーになって欲しいと思います。同時にMMAという競技にとって最も理想的なルールは何なのか、それを常に見直して改善し続けていってほしいと思います。

ところで当のデイナはサブミッションをかけられたことがあるんでしょうか?この人は本当にサブミッション大好きです。私もKOよりはサブミッションのほうが決まり手としては好きです。やっぱりしてやったり感がサブミッションのほうがある気がします。芸術的と言いますか、より美しい感じがします。フランク・ミアがノゲイラの腕を極めた時はテンションMAXでした。ロレンゾ・フェティータがMMAを練習している上にかなり強いというのは聞いたことがありますし、会見などでスーツが弾けんばかりにパッツンパッツンになってるごっついオッサンがいて、「なんだこのジジイ、選手より強そうだな」と思って調べたらロレンゾだったというのが彼を知った切っ掛けなくらいですので、彼は間違いなくMMAに精通しているでしょう。しかしデイナはボクシングの経験はありますが、MMAをやっているとは聞いたことがありません。彼もMMAを練習してたりするんでしょうか?もししているなら、UFCの経営方針でいよいよ揉めて喧嘩になった時には是非ともケージで決着をつけて欲しいですね。私はロレンゾに賭けますw

2 件のコメント:

  1. 実際の試合に取り込めるかどうかは別としてですが、私は、複数メディアによる採点結果の全体的な評価を見ていると、どちらにつけているかという偏りも含め信頼度が高く誰が見ても納得するようなものになっているなぁと、感じることが多いです。
    現実的には政治的要素などもあるかもしれませんが、理屈的にはジャッジの数(有識者であるという前提の下)が増えれば増えるほど、より妥当な判定に収束していくように思えます。

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    1. なるほど、分母が増えればそれだけ正確になる可能性は高そうです。

      ただその場合、実況解説をオフにしてみる必要があるかもしれません。自分もそうなんですが、実況解説のリアクションは試合の判断にかなり影響を受けている気がします。今回のタイトル戦で日本ではそこそこGSP勝利に理解があったのも、その辺が影響してるのではないかと思ってます。なのでそこを押さえておかないと、結局分母が増えてもズレが出るかなあと思いました。

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