2013年11月23日土曜日

UFC167 感想と分析part2 ローラーvsマクドナルド他

UFC167のその他の試合の感想です。以下は個人的な意見ですので参考程度にどうぞ。

LAS VEGAS, NV - NOVEMBER 16:  Tyron Woodley (top) knocks down Josh Koscheck in their welterweight bout during the UFC 167 event inside the MGM Grand Garden Arena on November 16, 2013 in Las Vegas, Nevada. (Photo by Donald Miralle/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images) *** Local Caption *** Josh Koscheck; Tyron Woodley

画像はUFC® 167 St-Pierre vs Hendricks Event Gallery | UFC ® - Mediaより

ウェルター級5分3R
WIN ロビー・ローラー vs ローリー・マクドナルド
(スプリット・デシジョンによる判定勝利)
fightmetricによるデータはこちら

剛拳炸裂!無慈悲な拳に打ち砕かれた軍神の城

LAS VEGAS, NV - NOVEMBER 16:  (R-L) Robbie Lawler punches Rory MacDonald in their welterweight bout during the UFC 167 event inside the MGM Grand Garden Arena on November 16, 2013 in Las Vegas, Nevada. (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images) *** Local Caption *** Rory MacDonald; Robbie Lawler

ローラーの叩き付けるような左フックが当たると、軍神は無表情のままよろよろと下がって尻餅をついた。飛び込まずにゆっくりと近づいたローラーが暴力的に左拳を振り回す。弓を射かけられながらも城壁に飛びついたローラーが、とうとう城内にいた軍神に切りつけたのだ。絶命させるにはいたらなかったが、その一撃が接戦を制する決定打となった。

ローラーは勝負所に対する嗅覚に極めて優れている。相手が体勢を立て直そうとする所を潰していくのだ。ポイントとなったのは3R開始直後だ。2RをボディとTDで優勢に進め、ここからジワジワと自分のペースにしようとしていたマクドナルドが勢いづく前に先に自分からペースを上げて一気に仕掛け、そしてマクドナルドの嫌うインファイトで剛拳をぶん回して左フックを当ててその出鼻を挫いた。その後もいい打撃を喰らうたびにTDに逃げるマクドナルドに休ませないようにし、自分もガス欠で苦しいところで一歩踏み出てとうとう軍神の顎を捕えることに成功した。

LAS VEGAS, NV - NOVEMBER 16:  Robbie Lawler (top) punches Rory MacDonald in their welterweight bout during the UFC 167 event inside the MGM Grand Garden Arena on November 16, 2013 in Las Vegas, Nevada. (Photo by Donald Miralle/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images) *** Local Caption *** Rory MacDonald; Robbie Lawler

3R序盤にいい打撃を当てて効かせたローラーは、追撃を狙ってかなり踏み込んだために何度もTDされることとなったし、そのラッシュでスタミナが厳しくなってとうとう最後はマクドナルドにトップを取られ続けることになった。それでも彼が攻め続け、そして有効打を多く当ててダウンを奪ったおかげで僅差ながら彼は3Rを取ってスプリットで勝利した。

恐らくマクドナルドの戦い方次第では負けていた可能性も高かった試合だろう。それでも彼はノックアウトを狙って自分から勇敢に攻め続けたおかげで勝利した。もし3R開始直後にガンガン前に出なかったら、彼はジワジワと削られてマクドナルドのリズムになっていただろう。理想的な仕掛け方だ。特に判定で危ういと思ったら、ローラーの戦略が間違いなく一番有効だと思っている。

ローラーは極めてメンタルが優れている。彼は苦しいところで一歩前に出ることができるし、今回も明らかにつらそうな中であと一歩が踏み出せていた。これが彼の勝負強さの源だろう。また打ち合いでも何度も強烈な肘やパンチをもらいながら顔を背けず、ほとんど下がらなかったのも素晴らしい。これによってマクドナルドは後手に回らざるを得なくなった。

LAS VEGAS, NV - NOVEMBER 16:  (L-R) Rory MacDonald elbows Robbie Lawler in their welterweight bout during the UFC 167 event inside the MGM Grand Garden Arena on November 16, 2013 in Las Vegas, Nevada. (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images) *** Local Caption *** Rory MacDonald; Robbie Lawler

またその拳の威力は凄まじく、ハンドスピードが速く当て勘に優れている。マクドナルドが前に出るタイミングで飛び込んで先に先にとパンチを当て、マクドナルドはまるで見えていなかった。ナックルの部分でテンプルや顎を正確に打ち抜くために、そのダメージは相当なものがあるだろう。特に体幹の強さを感じさせるパンチの質だ。上体を巧く使って飛び込みながら打つ打撃は、対戦相手からすれば距離を極めて掴みにくいだろう。この一撃は、たとえスキルやフィジカルで劣ってもそれを挽回しうるかなり頼れる武器だ。この武器をマクドナルドのアウトボクシングを掻い潜って当てることが出来たというのは注目すべき点だ。マクドナルドの間合いを崩して倒すことは、同様の性質の拳を持った「ジャガーノート」ジェイク・エレンバーガーでは不可能だったことだ。彼の城壁を乗り越えられるなら、ウェルターにいるほとんどすべての選手が無慈悲な剛拳の射程距離圏内にいると考えていいだろう。

フィジカルでは、ウェルターにおいて破格のパワーだ。ミドルのころは戦績が振るわず、KO狙いの荒いファイトが裏目に出ることが多かった。パワーではそこそこだが体格的には小柄で、特にレスリングがさほど優れているわけではないローラーはグラップリングで後手に回ることが多かったように記憶している。しかしウェルターでは体格的にはそこそこだし、パワーでは圧倒的だ。何より拳の重さが段違いだ。適正階級でようやく彼の才能が花開いたというところだろう。

課題としてはまずレスリングだろう。やはり少し転がされすぎだし、TDされてから立ち上がるのが遅いと思う。3Rに下になった時には、下からとは思えない音をさせてマクドナルドを殴りつけていた。しかしダメージがあったマクドナルドが少し止まりがちだったからブレイクがかかったものの、あのブレイクは少し早すぎる。場合によってはもっと長引くこともあるだろう。そうなった時に試合展開は大きく変わったはずだ。攻めていたためによく転がされたところもあったろうが、ジャッジ次第では負けてもおかしくなかった試合だ。今ウェルター級のトップにはタックルの名手が二人いる。彼らとやるには、どうしてもTD対策が必須になるだろう。

またスタミナ面で不安が残る。KO狙いの宿命とはいえ、3Rでこのばて方だと5Rは厳しいかもしれない。一発があるので序盤で効かせてしまえば何とかなるだろうし、実際ローラーは誰を相手にも大概当てられそうな気がするが、それでもカーロス・コンディットのような柳のごとく受け流してしまうタイプがいる以上、絶対は無い。あの剛拳と両立が可能かは怪しいところだが、スタミナの強化が必須だろう。またボディ・ショットへの嫌がり方が普通ではなかった。あれでスタミナを奪われたのは間違いない。あれほどボディを嫌がるのでは、ニック・ディアズのように執拗にボディを打ってくるタイプとは相性が悪いかもしれない。

ローラーは時期ウェルター級王者候補を打ち破って一躍ウェルター級トップ・コンテンダーの仲間入りを果たした。年齢的にも今が一番脂がのっている時期だろう。この勢いを無駄にすることは出来ない。SFが消滅してUFCに来てから彼は名のある選手にこれで3連勝だ。次に勝利すればタイトル挑戦はほぼ確実だろう。今後ウェルター級王座がどうなるかはまだわからないが、次の試合に勝てば来年半ば過ぎまでにはタイトル戦が回ってくるだろう。自分の希望としてはマット・ブラウンとカーロス・コンディットの勝者と対戦して挑戦者決定戦をしてほしいところだ。こんな強豪と私の敬愛する天性の殺し屋が対戦するとなれば、これほど楽しみなことはない。「ルースレス」ロビー・ローラーは新天地で一直線に王座を目指して走り続けている。

LAS VEGAS, NV - NOVEMBER 16:  Robbie Lawler (right) reacts to his victory over Rory MacDonald (left) in their welterweight bout during the UFC 167 event inside the MGM Grand Garden Arena on November 16, 2013 in Las Vegas, Nevada. (Photo by Donald Miralle/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images) *** Local Caption *** Rory MacDonald; Robbie Lawler


軍神が選んだ戦い方の危険性とその限界

LAS VEGAS, NV - NOVEMBER 16:  (R-L) Rory MacDonald kicks Robbie Lawler in their welterweight bout during the UFC 167 event inside the MGM Grand Garden Arena on November 16, 2013 in Las Vegas, Nevada. (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images) *** Local Caption *** Rory MacDonald; Robbie Lawler

一方時期王者候補との期待が強かったマクドナルドは思わぬところで躓いた。結局は彼の戦い方のツケが回ってきたと言うべきだろう。兆候はすでにペン戦、エレンバーガー戦でもあったのだ。彼はGSPと同様に試合を支配することを目指しながら、GSPと同様な戦い方はしなかった。GSPは決してディフェンシブな選手ではない。最初から最後まで動き続け、攻め続けることで支配するやり方だ。しかし彼を尊敬していたはずの軍神は、相手の様子を見続けて時折遠くから射掛ける事が多く、手数や仕掛けはあまり多くはなかったのだ。

BJ・ペン戦では、圧倒的に有利でありながら彼はフィニッシュに行かなかった。なぜとどめを刺さないのか、皆が首をかしげるほどの展開だった。続くエレンバーガー戦でも彼はひたすらに遠目からエレンバーガーを削り続け、インファイトを避ける戦略を取った。インファイトに持ち込めないエレンバーガーの責任でもある。だがもっと仕掛けられるのに仕掛けない、フィニッシュできるのに狙わないというやり方では、判定そのものにある種の危険を抱えるMMAではリスクの高い戦略だ。また手数を出して相手を徹底的に弱らせなければ、それは常に逆転の余地を残し続けるということでもある。判定を狙うならばとにかく攻め続けて全ラウンドを取りに行き、そして圧倒的な差を作り出す。KOを狙うならば相手を弱らせるために前に出て相手を削り続け、そして優位な状況を作って一撃を当てる隙を作り出す。このどちらかしかないはずだし、そのどちらも基本は自分から仕掛け、手数を出していくことになるはずだ。

彼の最も惜しむべきことは、出来るのにやらないということだ。彼が自分からもっと積極的に仕掛けていけば、ローラーには十分勝てる可能性があったはずだ。彼はこれまでの安全運転な戦い方に気を良くし、鉄火場で一歩を踏み出すことを怠っていたのだ。私がエレンバーガー戦の感想でカーロス・コンディットにはまだ勝てないとした理由がこれだ。この戦い方では、必ず彼は隙を生んで一撃を貰うと思うからだ。

この試合では、1Rに様子を見過ぎたのがまず失策だった。彼は1Rを落としている。ローラーの強烈なローを受けて眉ひとつ動かさないのは結構だが、それもポイントになっていることを考えなければいけない。3Rの試合では1Rに様子を見ることは許されない。2R、3RのTDを見る限りは、1RからTDを仕掛けるべきだったはずだ。それこそ先輩のGSPのようにもっとタックルのプレッシャーをかけていくべきだったろう。そうすればローラーのパンチのリスクも多少は避けられたはずだ。

またやはりインファイトが弱い。エレンバーガー戦でも後半からクリンチの組み際、離れ際に振り回すフックが見えておらずに何度か被弾していた。あの時はそれで倒れなかったが、今回のローラーの拳には耐えられなかったようだ。マクドナルドは接近戦が欠点だと思うし、またそのクリンチ前後のつなぎ目部分で切り替えが遅く、連携がないように思う。クリンチをする想定がないのに、変にローラーに打ち合いを挑もうとしたりとチグハグなところも気になった。元々負けん気が強く執念深い男だ。冷静を装っていても、実際は結構ムキになっていたのかもしれないと思う。

またせっかくの蹴りとジャブがあるのだから、もっと手数を出していく必要があるだろう。一発を狙わないのならばなおさらだ。前蹴りはローラーも嫌がっていたのだ。相手がTDを狙っている気配はなかったのだから、ここで手数が稼げたはずだ。スタミナだって削れただろう。

LAS VEGAS, NV - NOVEMBER 16:  (R-L) Rory MacDonald kicks Robbie Lawler in their welterweight bout during the UFC 167 event inside the MGM Grand Garden Arena on November 16, 2013 in Las Vegas, Nevada. (Photo by Donald Miralle/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images) *** Local Caption *** Rory MacDonald; Robbie Lawler

2Rのボディ・ショットは大成功だった。ローラーは明らかに嫌っていた。そしてそれを利用したTDも大成功だった。あの展開をもっと早く、もっと多く仕掛けていけばローラーのスタミナは底をつき、そうすればマクドナルドは安全に勝つことが出来ただろう。

LAS VEGAS, NV - NOVEMBER 16:  (L-R) Rory MacDonald punches Robbie Lawler in their welterweight bout during the UFC 167 event inside the MGM Grand Garden Arena on November 16, 2013 in Las Vegas, Nevada. (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images) *** Local Caption *** Rory MacDonald; Robbie Lawler

結局のところ、マクドナルドはどこが試合目標なのかわからないのだ。どの局面も強いが、どこで勝ちたいのかがわからない。今回の試合ならば、ローラーを転がしては削り、そしてローラーがTDを警戒すれば打撃で削れば、3Rにローラーが爆発する体力は残っていなかっただろう。打撃でKOを狙うわけでもなし、フルラウンド漬けきる気も無し、グラウンド&パウンドで徹底して削る気もなければ、転がして一本を狙う気もない。何もかもが中途半端だ。器用貧乏でどれも選べないから、結局手数が減って変なところでラウンドを落とす。ローラーの一発があるうちは近づきたくなかったのかもしれないが、そこでリスクを負えないのがそもそも問題だ。これこそまさに安全運転と非難されるべき戦い方だし、そしてそれは全然安全ではないのだ。ローラーのような選手を相手にリスクを避けようとすることは、かえって相手が前に出る余裕を与えてしまう。むしろ自分から仕掛けてその出鼻を叩き潰していかなければ、危険はいつまでも取り除けないのだ。

素晴らしいところはたくさんあった。パンチの巧さでは決してローラーには劣らないだろうし、前蹴りもハイもいい武器だ。ボディ・ショットも抜群に効いていた。3Rはあれだけ殴られていながら何度もTDに成功し、そしてラウンドの最後ではトップを取って何度も肘を撃ち落した。あれだけいいものを持っていながら、何発もぶん殴られて鼻血を噴出さないとそれが出せないのでは宝の持ち腐れだ。出し惜しみする意味などないのだ。1Rから思い切り行って常に試合ですべてを出し切ろうとしなければ、必ずその才能の伸びしろは減り、いつしか頭打ちになってしまうだろう。鉄火場に己を晒し、そこで踏みとどまる経験が無ければ大舞台では絶対に勝てない。勝負への嗅覚が鈍っていくからだ。

LAS VEGAS, NV - NOVEMBER 16:  (R-L) Rory MacDonald kicks Robbie Lawler in their welterweight bout during the UFC 167 event inside the MGM Grand Garden Arena on November 16, 2013 in Las Vegas, Nevada. (Photo by Donald Miralle/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images) *** Local Caption *** Rory MacDonald; Robbie Lawler

マクドナルドの戦い方はある程度まではいけるが、そこから先には進めない戦い方だ。持っている能力を活かしきれていない。虎穴に入らずんば虎子を得ずの故事の通り、トップを目指すにはここから死地に身を投じる覚悟がいる。彼の尊敬すべき先輩である「ラッシュ」ジョルジュ・サンピエールはトラックの前に立ちはだかり、何度も轢かれながらも立ち向かい、とにかく最後まで攻めて攻めて攻めぬいた。出し惜しみどころか引き出しをひっくり返して自分の持てる武器の全てを引っ張り出して、たとえ打撃が軽かろうがカウンターを返されようが自分から手を出していった。「ラッシュ」最大の武器はリスクを背負って常に自分から仕掛ける点だ。この能力こそが王者たる資格だ。軽量級の英雄フランキー・エドガー、「ショータイム」アンソニー・ペティス、そしてヘビー級王者「ブラウンプライド」ケイン・ヴェラスケスなどが持っている才能であり、特に現ヘビー級王者の姿勢こそMMAでは最も理想的なあり方だろう。緻密な戦略を冷静に遂行した結果、誰よりも積極的に前に出て相手の得意手を叩き潰し、そして自分の優位な場所で相手を轢き潰してしまうという、まさに蹂躙としか言いようのない戦略だ。あの戦い方は判定でも勝てる、KOでも勝てる、TKOでも勝てる、一本でも勝つ可能性が存在するやり方だ。何しろ相手はボロ雑巾のようにされてスタミナは全て無くなってしまうからだ。それ以前に「シガーノ」のようなモンスターではない限り、大抵は脳が耐えられずにさっさと地面に転がってしまうだろう。

マクドナルドに必要なのはこの精神であり、それに基づく明確な戦略だ。削るなら削り切る、漬けるなら漬けきる、打撃で倒すのなら倒しに行く。どれでも構わないが、少なくとも自分から攻めて「どこで勝つのか」がはっきりとしている戦い方を選ぶべきだろう。ローラーにはそれがあった。そしてその狙い通りに展開した。マクドナルドは窮地を逃げ切る力があった。だがそれを利用して自分から仕掛ける目標が無かった。相手の攻撃を封じるのがディフェンシブなのであり、リスクを恐れて自分から仕掛けないのは単に消極的なだけだ。だから場合によっては、ガンガン攻めることこそディフェンシブと呼ぶべき展開もあるのだ。マクドナルドはそのことに気づく必要があると思っている。

軍神が築き上げた城壁は崩れ去った。彼の自慢の矛は、掻い潜られた時に対処する術がなかったのだ。怯まずに突進するローラーを相手に押し切られ、とうとう彼は地面に転がった。最後まで抵抗したのはさすがというべきだが、自分から積極的に仕掛ければ勝ち目もあった試合だと私は思っている。持っている手ごまは十分だ。あとはそれを使って、MMAにどんな戦い方を持ち込むか次第だ。彼の先輩であるGSPは、打撃とタックルを連携させて相手のディフェンスを崩壊させるという手法によってMMAの進化を10年早めたと言われている。ではその後輩である「アレス」ローリー・マクドナルドは一体どんな手法を編み出すのだろうか?少なくとも城壁の中に閉じこもっていては無理なことだ。彼は城から打って出て、相手の城に乗り込んで蹂躙する方法を考えねばならない。「軍神」と呼ばれる男だ、この敗北をきっかけに、きっと新たなる戦略を編み出してくれるだろうと期待している。

LAS VEGAS, NV - NOVEMBER 16:  (L-R) Rory MacDonald punches Robbie Lawler in their welterweight bout during the UFC 167 event inside the MGM Grand Garden Arena on November 16, 2013 in Las Vegas, Nevada. (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images) *** Local Caption *** Rory MacDonald; Robbie Lawler


ライトヘビー級 5分3R
WIN ラシャド・エヴァンス vs チェール・ソネン
(1R パウンドによるTKO)

チェール・ソネン、それはたった一つの戦い方しか持たない男

LAS VEGAS, NV - NOVEMBER 16:  Chael Sonnen prepares to face Rashad Evans in their light heavyweight bout during the UFC 167 event inside the MGM Grand Garden Arena on November 16, 2013 in Las Vegas, Nevada. (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images) *** Local Caption ***

チェール・ソネンとはたった一つの戦い方しか知らない男だ。かつて彼は言った、もし私の最初の攻撃が成功したなら、それはレスリングのできない相手と戦っているのだと。彼の武器はたった一つ、グレコローマン・スタイルで培った、相手を地面に引きずり倒す技術のみだ。彼の打撃も、クリンチも、全ては相手を地面に引きずり倒すためにのみ利用されるものだ。彼の戦い方はシンプルで明確だ。そしてだからこそ、そのレスリングで上回れない時に打つ手は残されていないのだ。

彼の戦い方に必要な要素は二つ、相手を上回るレスリングか、相手を上回るフィジカルだ。最悪どちらかがあれば勝てる可能性がある。アンデウソン・シウバにはレスリングで上回った。マウリシオ・ショーグンにもレスリングで上回った。そしてジョン・ジョーンズにはレスリング、フィジカル共に下回ったために完敗した。そして今回の対戦相手であるラシャド・エヴァンス、彼もまたフィジカル、レスリング共にソネンよりも上だった。よって結果は当然のものだろう。賭け率が僅差なのが信じられなかった。

LAS VEGAS, NV - NOVEMBER 16:  Rashad Evans (left) and Chael Sonnen (right) touch gloves in their light heavyweight bout during the UFC 167 event inside the MGM Grand Garden Arena on November 16, 2013 in Las Vegas, Nevada. (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images) *** Local Caption *** Rashad Evans; Chael Sonnen

いつものようにプレッシャーを掛けて前に出たソネンがエヴァンスにクリンチを仕掛けると、エヴァンスは易々と位置を変えてさっさとテイクダウンした。チェール・ソネンはボトムが極端に弱い。あれよあれよという間にマウントを取られ、殴られて下を向いたところをバックマウントからボコスカ殴られて、足をバタバタさせながら試合を止められてしまった。本人は不服そうな顔だが、実際あそこからもう何もすることはないから止められて当然だし、本人もそれくらいは承知してるだろう。

LAS VEGAS, NV - NOVEMBER 16:  Rashad Evans (top) punches Chael Sonnen as referee Herb Dean looks on in their light heavyweight bout during the UFC 167 event inside the MGM Grand Garden Arena on November 16, 2013 in Las Vegas, Nevada. (Photo by Donald Miralle/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images) *** Local Caption *** Rashad Evans; Chael Sonnen

ジョーンズ戦でもそうだが、ライトヘビーだと相手がレスリング出身者だった場合にソネンは確実にパワー負けをする気がする。パワーで勝てないのであればもう万策は尽きたも同然だ。あとはラッキー狙いのオーバーハンドを振り回すくらいしかやることはないだろう。ソネンのスタイルは相性がかなり物を言う。相手がレスリング経験者かどうか次第になってしまうのだ。

結局ソネンは試合後にミドル級に戻ることを宣言した。当然と言うか、むしろなぜライトヘビーにとどまったのかがよくわからない。進んでアドバンテージを捨てたのは理解に苦しむところだろう。ミドルならばまだビトーをはじめレスリングでどうにかできる可能性が残されているコンテンダーが多い。パワーでもそこそこ有利だ。マチダやジャカレイ相手につっこんでタックルを仕掛ければ、厳しそうだがライトヘビーでレスラーを相手にするよりはまだ希望がある。ライトヘビーでショーグンを極めただけよしとしておくべきだろう。さっさとミドルに戻って、誰かコンテンダーと試合をしてタイトル戦線に戻ることを考えるのが良策だろう。

LAS VEGAS, NV - NOVEMBER 16:  Rashad Evans (left) is declared the winner over Chael Sonnen in their light heavyweight bout during the UFC 167 event inside the MGM Grand Garden Arena on November 16, 2013 in Las Vegas, Nevada. (Photo by Donald Miralle/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images) *** Local Caption *** Rashad Evans; Chael Sonnen

エヴァンスとしてはあまり得るものがない試合だった。本人は次はダニエル・コーミエになりそうだと予想しているようだが、実現すればかなりいい試合になりそうだ。互いにレスリングのバックボーンがあり、優れたフィジカルとスピードがある。そして打撃戦もできるのだ。相性関係なし、はっきりと実力差が出る試合となるだろう。ライトヘビー級のダニエル・コーミエを査定するには最高の組み合わせだ。これは次のタフな試合前に与えられた、ボーナス・ステージと考えてもいいかもしれない。

LAS VEGAS, NV - NOVEMBER 16:  Rashad Evans reacts to his victory over Chael Sonnen in their light heavyweight bout during the UFC 167 event inside the MGM Grand Garden Arena on November 16, 2013 in Las Vegas, Nevada. (Photo by Donald Miralle/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images) *** Local Caption *** Rashad Evans


ウェルター級5分3R 
WIN タイロン・ウッドリー vs ジョシュ・コスチェック
(右フック→ワンツーによるKO)

ジョシュ・コスチェック、限界を感じさせるKO負け

LAS VEGAS, NV - NOVEMBER 16:  Tyron Woodley (top) punches Josh Koscheck in their welterweight bout during the UFC 167 event inside the MGM Grand Garden Arena on November 16, 2013 in Las Vegas, Nevada. (Photo by Donald Miralle/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images) *** Local Caption *** Josh Koscheck; Tyron Woodley

コスチェックがまったく距離の合っていない右ストレートを体が泳ぐほどに前に出て打ち込んで戻れなくなったところに、完璧な体勢から放たれたウッドリー万全の右フックが炸裂すると、コスチェックはあえなく腰から砕け落ちた。しかしわずかに残った勝利への執念がぎりぎりでコスチェックを踏みとどまらせると、そのしゃがみ込んだ状態のコスチェックの側頭部にウッドリーの美しいワンツーがめり込み、そしてコスチェックに最後に残された思いも刈り取られた。コスチェックは最悪の形で2連敗を喫することとなった。ヘンドリクスにスプリットで負けたことを含めて、これでとうとう3連敗だ。

今回のコスチェックは積極的だった。自分から前に出て攻めていった。しかし、その攻めは積極的ではあるが脇が甘く、距離の遠いパンチを強振するばかりだった。前に出なければという気持ちが焦りを生み、勇敢というよりは無謀というべきものだった。私はこの戦い方に見覚えがある気がする。それは、負けが込んだ時にそれを取り戻そうとする選手の戦い方だ。そしてこの戦い方をして、勝ったケースを私はまるで見た記憶がない。彼は間違いなくスランプに陥っている。

LAS VEGAS, NV - NOVEMBER 16:  (R-L) Tyron Woodley punches Josh Koscheck in their welterweight bout during the UFC 167 event inside the MGM Grand Garden Arena on November 16, 2013 in Las Vegas, Nevada. (Photo by Donald Miralle/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images) *** Local Caption *** Josh Koscheck; Tyron Woodley

前回のロビー・ローラー戦ではこれとは逆にローラーの一発を恐れて打ち合いを極端に避け、消極的なタックルに行ったところをがぶられ、這った姿勢で様子を見ているところに上から横殴りに殴りつけるフックを側頭部に打ち込まれてTKO負けをした。おそらくはこの戦いで後悔するところがあったのだろう。ウッドリー戦では自分から前に出た。

しかし、前に出るはいいが焦りが体に漲って動きが固い。相手の拳を恐れて、まだ距離が遠いうちからこらえきれずに振ってしまうため、打ち終わりに被弾して彼は2度効かされた。事前に戦略を立てているとは到底思えない。もし優秀なコーチがいれば、今のコスチェックの戦い方がおかしいことはすぐにわかるはずだ。もしタックルを使うならここで使うべきだっただろう。

また確実に打たれ弱くなっている気がする。ローラー戦でも側頭部を殴られてあっさり体が動かなくなったが、今回の試合でもそこまでクリーンヒットではない右のフックを耳に貰って倒れている。そこから立て直すことは出来なかった。以前はもっとタフだったように記憶している。試合時の変な焦りと合わせて、打撃に対してなんらかのトラブルを抱えていると私は見ている。

LAS VEGAS, NV - NOVEMBER 16:  (R-L) Tyron Woodley punches Josh Koscheck in their welterweight bout during the UFC 167 event inside the MGM Grand Garden Arena on November 16, 2013 in Las Vegas, Nevada. (Photo by Donald Miralle/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images) *** Local Caption *** Josh Koscheck; Tyron Woodley

コスチェックは元々AKA所属だったが、ハビエル・メンデスと対立して2012年にAKAを出た。彼はその前後にはまともに練習できなかったことを明かしている。年齢も35歳とかなり厳しい。またここのところは怪我を重ねて何度も大会を欠場していたこともある。メンタルの危うさ、打たれ弱さ、練習環境、怪我と彼にはプラスに転じる要素を見出せない。限界かもしれないと思う。本人は試合後に引退を示唆し、デイナ・ホワイトは引退にはまだ早いと引き留める様子を見せた。しかし引き留めて今後の活躍に期待できるかは難しいところだろう。今でも戦い方を工夫すればもっと戦えるとは思うが、現在のキャンプでそれができるかはわからない。少なくとも今回の試合運びを見る限り、まともに作戦を立案する人間がいたとは思えない。

LAS VEGAS, NV - NOVEMBER 16:  (L-R) Tyron Woodley punches Josh Koscheck in their welterweight bout during the UFC 167 event inside the MGM Grand Garden Arena on November 16, 2013 in Las Vegas, Nevada. (Photo by Donald Miralle/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images) *** Local Caption *** Josh Koscheck; Tyron Woodley

TUFの立役者の一人だったコスチェックはとうとうこれでランキングからも陥落し、トップ争いから弾きだされることになった。とりあえずどこか優秀なコーチのいるジムに変えるなりしてきちんと指導する人がいなければ、持ち直すことはできないのではと思っている。怪我の影響もあるように思う。持てる力を巧く扱えずに負ける選手は見ていて気の毒だ。まだ現役を続けるのであれば、体調を万全にし、心置きなく練習できる環境が必須だろう。いずれにしろ、コスチェックは崖っぷちに立たされていることは間違いない。

対するウッドリーはこれでタイトル戦線に一歩近づいた。マーコート、シールズに負けた時には上位は難しいかと思ったが、コスチェックに強打を当ててその力が健在であることを証明した。倒れかかっている人間の頭に正確にワンツーを打ち込んだのには驚愕した。無慈悲すぎる追い打ちであり、頭が南極の氷のように冷えてなければできない芸当だ。次はマーティン・カンプマン、ヘクター・ロンバート、デミアン・マイア、ジェイク・エレンバーガーあたりと対戦することになりそうだ。エレンバーガーに粉砕されたマーコートとリベンジマッチをしてもいいだろう。体の仕上がりはここ数戦では一番よかったように思うし、打撃も良く見えていた。コスチェックの突進にもまったく慌てなかったのは素晴らしかったと思う。年齢も31歳で、MMAを始めたのが遅くまだキャリアが4年程度であることを考えれば今後さらに進化する余地があるだろう。是非ともタイトル戦線に加わって、ただでさえ厚いウェルター級の層をさらに厚くして盛り上げてほしいと思う。

LAS VEGAS, NV - NOVEMBER 16:  Tyron Woodley reacts to his victory over Josh Koscheck in their welterweight bout during the UFC 167 event inside the MGM Grand Garden Arena on November 16, 2013 in Las Vegas, Nevada. (Photo by Donald Miralle/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images) *** Local Caption *** Tyron Woodley

8 件のコメント:

  1. ソネンさ〜ん・・・頭抱えてバタ足するくらいなら、タップにして欲しかったです・・・
    ダメージ無さそうだし次戦ミドルに期待・・・。

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    1. まあやられ方のひどさもソネン教授の味の一つですので。私は無残にやられるソネンさんも好きですw

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  2. ローラーがロリマクに勝ってくれた 
    僅差とは言えしっかりパンチ効かせて勝ったのは本当にうれしいです
    ロリマクもウエルターのみならずUFC切っての若手プロスペクトとして注目してますし好きな選手ですが、
    ローラーみたいな出戻りベテラン選手がのし上がっていくのは堪らないですね
    本当は実力だけならロリマクが少し上のような気がしないでもないですが、
    ローラーはあの前に出る気持ち、姿が見てて清々しい
    一発の魅力もあるので次戦も楽しみです 
    できればストライカーとでは無くレスリングの出来る選手と戦って欲しいですね
    ジョニヘンがGSPとのリマッチを期待して強い言葉で煽ってるようですが、
    仮にGSPが引退するなり長期休暇を採るならジョニヘンvsローラーが見たいです

    ローリーは最初から全力で戦っていれば恐らくローラーを圧倒するだけの力は
    あるんじゃないかと思いますが、怪我をしない賢いファイター人生を間違って選んじゃってる風はありますね
    リスクを背負って前に出てくる選手に負けたことで考え方を変えてくるのか、
    更に安全運転の技術に磨きをかける方向なのか 本人も悩みどころでしょう

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    1. ローラーはワンパンぶっこんで倒してやろうっていうのが一挙手一投足に現れてましたね。ほんとあそこまで行けば清々しいですw今の選手の中では珍しいほどの闘志ですよね。レスラーが鬼門だと思うので、打撃のできるレスラーがいいですね。こないだマイアに勝ったシールズとリベンジマッチでもいいかもしれません。

      マクドナルドは賢いというより小賢しくなった感じです。まだ24歳ですので、やはりまだ経験やらが不足しているのかもしれません。是非とも前に出るファイトを目指してほしいです。本人の気性は結構激しそうなので、もっとグイグイ行った方が色々と面白くなりそうです。

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  3. ローラーはジョニヘンの様に流す様な事をしなかったのがジョニヘンと明暗を分けましたね
    ロリマクは見かけによらず気持ちが強いですが見かけ通りインテリ&不器用そうで
    戦術は何でも出来るのに戦略を途中で替えるというのは難しそうですね

    ソネンさん…プランBとは何だったのか http://omasuki.blog122.fc2.com/

    コスチェックはパンチングアイというよりドランカーな気がします
    ちょっと続けるのは危険な気が

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    1. ローラーはやっぱりアスリートではなくファイターなんだろうなと思います。プロ根性を感じる選手です。修行僧みたいな顔も含めていいキャラしてますw

      ロリマクはもっと狂気じみた攻撃性を秘めていると思うので、それを前面に出してほしいです。不器用というよりは、変にソロバンを弾きすぎて頭でっかちになってる印象です。

      ソネンさんのいう事は間に受けなくていいと思いますwあの人に他のプランがあるとは思えません。そのことはエヴァンスにも試合前に看破されていた記憶があります。どうせ会場にスタンバイさせた岡見さんに狙撃させるのがプランBとかそんなところでしょう。

      コスチェックはパンチアイかドランカーかわかりませんが、どちらかもしくは両方発症してる気がします。自分もちょっと危ないと思います。

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  4. ホント文才あるな~て思いました

    雑誌関係の仕事されてるんでしょうか?

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    1. いえいえ、あくまでこれは趣味でございます。褒めていただくと少し恥ずかしいながらもやはり嬉しいですwこれからも是非ともご愛読くださいませ。

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