2014年5月15日木曜日

UFC fight night Brown vs Silva 感想と分析part1 堀口vsモンタギュー

UFC fight night40、堀口vsモンタギューの感想と分析です。以下は個人的な意見ですので参考程度にどうぞ。

CINCINNATI, OH - MAY 09:  Opponents Kyoji Horiguchi (L) and Darrell Montague face off watched by UFC President Dana White during the UFC weigh-in at the U.S. Bank Arena on May 9, 2014 in Cincinnati, Ohio. (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)
フライ級 5分3R
WIN 堀口恭司 vs ダレル・モンタギュー
(ユナニマス・デシジョンによる判定勝利)

カラテ・キッドが魅せた大器の片鱗

モンタギューの目は虚ろだった。ブザーと同時にモンタギューは前かがみになり、泥酔したような足取りで帰還しようとする。彼は辛うじて金網まで辿り着くと、その目は何かを探すように宙を彷徨い、そしてそのまま崩れ落ちるようにしゃがみ込んでしまった。スタッフが慌てて彼の周りに駆け寄り、彼の腕を抱えてセコンドの場所まで連れて行った。2R終了直後、モンタギューの肉体は行動不能寸前にまで追い込まれていた。

全ては毒蜂のせいだ。金網の中を高速で飛び回る毒蜂が、モンタギューに残忍な針を突き立てたのだ。狂い飛ぶその蜂は何度も何度も針を突き刺し、モンタギューの体に猛毒を送り込んだ。モンタギューの体はその猛毒に悲鳴を上げ、ほぼ自由を失いかけていたのだ。

「KRAZY BEE」の麒麟児、堀口恭司。「神の子」山本KIDに師事し、伝統派空手を土台に持つ若干23歳の新星は、遥かアメリカの地でその大器の片鱗を見せつけた。

彼ならばUFC王座に辿り着くかもしれない、私はそう感じていた。

疾風迅雷、伝統派空手の真髄は「神速」

1Rが始まった。堀口は腰を落として足を広げ、重心をほぼ中央に置きながらトントンとリズミカルに跳ねつつ、前後左右に機敏に動く。ガードは下げ気味で、フェイントを掛けながら超長距離から相手の隙をじっくりと窺う。だがその間も足の動きが止まることは決してない。毒蜂は舞うようにオクタゴンの中を淀みなく移ろう。UFCの解説からも「美しいフットワーク」と感嘆の声が漏れる。モンタギューは何度か踏み込む気配を見せるが、その度に察した堀口はさっとガードを上げて距離を取る。その動きはミドル級のドラゴン・キッド、リョート・マチダとまったく同じだ。美しく舞うが、決して蝶のような優雅なものではない。獰猛な蜂を思わせる、キレのある攻撃的な動きだ。

試合開始52秒、遠い距離からローで牽制をしようとしたモンタギューの動きを察知した堀口は後の先を完璧に取った。ローに合わせ一瞬で飛び込んで距離を潰すと、そのまま左のガードが下がったモンタギューに右ストレートを叩き込む。さらに下がろうとするモンタギューに間を空けずにすぐさま左ミドルを狙っていく。モンタギューは辛うじてこれを避ける。最初のコンタクトは堀口に軍配があがった。

CINCINNATI, OH - MAY 10:  (L-R) Kyoji Horiguchi punches Darrell Montague in their flyweight fight during the UFC Fight Night event at the U.S. Bank Arena on May 10, 2014 in Cincinnati, Ohio. (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

圧力を強めるモンタギューだが、縦横無尽に動く堀口を中々射程内に捉えられない。堀口は何度も踏み込むフェイントをしては後ろに跳び退り、モンタギューを誘い込もうと罠を張る。会場からはコンタクトの少なさにブーイングが起こり始める。ここで堀口は自分から仕掛けた。サークリングの途中から突如として軌道を変えると、堀口はモンタギュー目がけて雪崩れ込んでいく。反応したモンタギューが下がって事なきを得たが、そのフットワークのキレは凄まじい。ブーイングが瞬時に驚きの声に変わる。

この後さらに攻めようとした堀口が少し安易に飛び込んだ。右パンチのフェイントを掛けて相手の様子を見てから攻撃しようとしたところを、逆にカウンターでタックルを合わせられてTDされてしまう。だが堀口は落ち着いていた。しっかりとパスを防ぐと腕絡みを狙い、嫌ったモンタギューが腰を上げて強いパウンドを狙ったのをきちんと避け、その隙を使って素早くスタンドに戻った。

互いに息を整えると、モンタギューが放った前蹴りを手で払いのけた堀口は一気に飛び込んで強烈な右ミドルを放ち、さらにその勢いを利用して相手を金網に突き飛ばしてワンツーを狙っていく。クリーンヒットはないが素晴らしい速度のラッシュだ。会場がその動きにどよめいている。そして残り2分、遠い距離からインローを狙ったモンタギューに、再び堀口は強烈な右フックを合わせるがこれはガードされ、堀口はローを被弾して体が流れる。カウンターを警戒したモンタギューが出てこなくなると、堀口は飛び込み左フックから左右のパンチを連打する。目は相手から決してそらさず、そして反撃が来たらすぐに下がれる距離と重心を維持したままだ。ガードを固めてダッキングしつつ逃げようとするモンタギューをよく見ていた堀口は追撃でローを叩き込む。そして一度機を逃したら決して深追いはしなかった。

さらに警戒を強めたモンタギューは、堀口を中に入れるのを嫌って前蹴りやジャブを遠目から頻りに振り回し、堀口の飛び込みを防ごうとし始めた。あわよくばカウンターを入れる心算だろう。堀口はそれを察して無理に飛び込まない。会場からはブーイングが飛ぶ。ラスト14秒、堀口が飛び込むと踏んだモンタギューは打点の高いフライング・ニーを放つが、堀口はすぐに察知して素早く足を止めた。モンタギューの体が宙を彷徨う。さらにモンタギューは牽制の前蹴り、そしてかなりキレのある左ハイを放つが堀口はきちんとガードし、ラウンド終了間際にポイント稼ぎのTDを狙ってきたモンタギューのどてっぱらにカウンターで右ミドルを叩き込んだ。バキャッという音が響く。だがモンタギューはそのまま足をキャッチしてシングルで倒すが、これはブザー後となってカウントされなかった。手数の少なさに不満を持った観客のブーイングを聞きながら、彼らは1Rを終了した。

蜂のように舞い、蜂のように刺す!堀口脅威の火力

CINCINNATI, OH - MAY 10:  (L-R) Darrell Montague punches Kyoji Horiguchi in their flyweight fight during the UFC Fight Night event at the U.S. Bank Arena on May 10, 2014 in Cincinnati, Ohio. (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

2Rが始まると、互いに一気に仕掛けていく。モンタギューのサイドキックに飛び込み左フックを合わせた堀口は、次いで右の突き刺すようなミドルキックを放ち、さらに追撃で右フックを振り回す。だがこの大振りを掻い潜ったモンタギューは胴に絡みつくと、その体勢を利用して堀口の右腕を巻きこんでのスタンドの肩固めに移行した。そして金網に押し付けるようにして締め上げていく。しかし真正面から向き合う形では極まらない。すぐに隙間ができると、堀口はそこから滑りぬけるように脱出して事なきを得た。堀口はそのまま腰に組み付いてTDを狙う。体勢は良かったが、モンタギューは今度は首に手を回してフロントチョークを仕掛けてきた。そのまま持ち上げてTDしてしまおうとした堀口だが、相手の手が長くそこそこいい形になってしまったために一旦断念して防御に回る。その後堀口はチョークを外してシングルを狙うが、モンタギューが数度顔面を殴ると堀口はこの展開を諦めて距離を取った。ここでの展開はモンタギューが若干有利だっただろう。

この展開に少し腹が立ったのだろう。ここから堀口は猛然と襲い掛かっていく。スピードは1Rよりもさらに上がっている。まず信じられないほどの超長距離をひとっとびに踏み込んで槍を突き出すような右ストレートを放つと、反応できなかったモンタギューの顔面に毒針が深々と突き刺さる。慌てて反撃するモンタギューのパンチと前蹴りを容易く捌いて堀口は素早く回り込み、飛び込んできたモンタギューを横に交わしながら打ちおろしの右を叩き込む。怒れる蜂は拳を何度も軽く叩きながら、けたたましい音を立てて獲物の周囲を飛び回る。

CINCINNATI, OH - MAY 10:  (L-R) Darrell Montague and Kyoji Horiguchi trade punches in their flyweight fight during the UFC Fight Night event at the U.S. Bank Arena on May 10, 2014 in Cincinnati, Ohio. (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

ここで堀口がビッグヒットを当てた。サークリングで逃げようとするモンタギューのみぞおちあたりに強烈な右ミドルを叩き込んだのだ。ドチッという重い音が観客のブーイングと混ざり合う。これが効いたのだろう。モンタギューの足が少しもたつくと、下がるモンタギューを毒蜂は金網まで執拗に追い込んだ。

そして蜂はとうとう仕留めにかかる。右フックから始まる怒涛の8連打を見舞っていい左アッパーを当てると、必死に逃げるモンタギューにさらに左フックの強打を当て、返す刀で右フックをねじり込む。たまらずモンタギューは片膝をつく。必死で組み付いて毒蜂を止めようとするが、それを弾き飛ばした毒蜂は相手の体を左フックでかちあげて無理やり起こす。それでも絡みついたモンタギューはなんとか蜂を金網に押しこんで一息つくが、堀口はそれを突き放して殺さんばかりの勢いで右フックを振り回す。その鋭利な針は膝を放とうとしたモンタギューの右側頭部を掠めて通り抜けた。モンタギューは堀口に対して横を向いたおかしな体勢のままふらふらと離れていく。

効いていると判断した堀口は相手を倒し切ろうと少し急いたのか、リスクを背負ってガンガン前に出ていく。それを見たモンタギューは1Rに成功したカウンターのタックルを狙い、堀口の打撃を掻い潜って組み付いた。タイミングは完璧だったが、もはやモンタギューの足には1Rほど力が入らない。蜂の毒が残っているのだ。堀口はすぐさまがぶるとこれを切り、相手の頭を抱え込んで覆いかぶさった。顔を上げて状況を確認する目は冷静そのものだ。良く回りが見えている。

そして毒蜂はその本領を発揮した。堀口はヘッドロックをしたまま立ち上がると、跳ね上げるようにモンタギューの顔面に膝を突き刺したのだ!あまりの激痛からか、顔面を覆いながらモンタギューはその場に力なくへたり込んで蹲った。先程まで不満げだった観客たちは一斉に歓声をあげる。

毒蜂は蹲るモンタギューのバックについてパウンドを打ち込んでいく。だが先のラッシュで堀口もスタミナをかなりロスしたようで、その動きからはキレが落ちていた。相手を倒し切れるだけの強打が出ない。堀口がもたつく間にモンタギューは堀口の手を掴むと、そのまま前に倒れ込むように抱え込んだ。パウンドを防ぎ、回復する時間を稼ぐつもりだ。手を抜こうと何度か体を揺さぶる堀口だがモンタギューが必死で縋り付いて離れない。苛立った堀口は横に回って膝を突き刺し、さらに再び後ろに回ると先程よりも力のあるパウンドを連打した。嫌がるモンタギューはガードをしつつ立ち上がって脱出しようとする。だが今度は堀口が離さない。バックを取ったままの堀口は、打撃ばかりを警戒するモンタギューを軽々とリフトするとそのまま前方に乱暴に投げ捨てた。投げ捨てるやすぐさま右拳を大きく振り上げてモンタギューの側頭部に鉄槌を振り下ろす。観客からは大歓声があがった。

モンタギューは辛うじて拘束から抜け出すが、毒蜂は相手が動く限り攻撃の手を緩めない。相手が呼吸を整える隙を与えず、すぐさま飛び込んで右ミドルで腹に爪先を突き刺した。さらに左パンチのフェイントから飛び込んで右のボディストレートを狙う。完全に腹が効いていることを把握しているのだ。モンタギューも挽回しようと前蹴りの牽制を放ち、さらに下がる堀口に思い切って飛び込んでの綺麗な左ストレートを打ち込んだ。次いで飛び込み右ストレートを打とうとした堀口にカウンターで前蹴りを当てて突き放す。さらに右フックも当ててモンタギューが若干盛り返し始めた。

CINCINNATI, OH - MAY 10:  (L-R) Darrell Montague punches Kyoji Horiguchi in their flyweight fight during the UFC Fight Night event at the U.S. Bank Arena on May 10, 2014 in Cincinnati, Ohio. (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

だがこのあとモンタギューを凶悪な一撃が襲う。堀口は左フックを当てると、打ち合いに来ると踏んだモンタギューがワンツーを打とうとしたところに、今度は脛を叩き込む右ミドルをカウンターで放っていった。これが完璧に入った。バキッという音が会場に響くと、堀口は素早く戦域から脱出した。モンタギューの右フックが空を切るや、彼の体はゆっくりと前に振れ、顔面からは瞬く間に血の気が失せた。まるで突然スローモーションになったかのように、モンタギューの動きが緩慢になっていく。モンタギューの口はぽかんとだらしなく開き、息を吸おうと喘ぐが彼の体には空気が入っていかない。蜂の毒で彼の臓器が麻痺しているのだ。実況と解説がその光景に歓喜の声を上げる。

蜂は勝機と見た。相手の弱点を狙ってもう一度右ミドルを放っていく。モンタギューは顔面蒼白のままそれを辛うじて手で払いのけた。口は力なく開いたままだ。堀口は少し気が逸ったのか、雑なフックを振り回してバランスを崩す。だがその後すぐに気を引き締めるとキレのある左フックを当て、必死に前に出たモンタギューにカウンターで豪快な右ストレートを叩き込んだ。モンタギューはまったく見えておらず、棒立ちのまま鼻っ柱に被弾して頭が後方に弾け飛んだ。まともにガードもできないまま横を向いてモンタギューは逃げようとする。そして彼は何とか意識を繋ぎとめ、ボディワークを死に物狂いで駆使して毒蜂の止めの一撃を逃れていく。

命からがら逃げ延びたモンタギューは、とにかくKOされないことだけを考えていたのだろう。堀口が飛び込む気配を察して、もはやなりふり構わぬハイガードで顔面を覆って頭を下げた。だが毒蜂は冷静にその様子を観察していた。ここで顔面を狙わずに、またしても強烈な右ミドルを打ちこむ。堀口の高速で振りぬかれた脛がモンタギューの脇腹に深く食い込むと、そこを起点に彼の体が真っ二つに折れ曲がった。彼はハイガードを選択してまったく相手を見ていなかったために、もはや何の防御行動も取れなかったのだ。モンタギューの体は痛みから逃れようと無意識に蠢く。会場も実況解説もそのあまりにも的確で破壊的な攻撃に思わず声を上げる。審判はいつでも止められるように二人の間にぴったりと寄り添っている。最後は一発逆転を狙ってのモンタギューの飛び膝に、堀口が強烈な右ストレートをカウンターで掠らせて終了のブザーが鳴った。

モンタギューは限界間近だった。審判が割って入ると同時にぐらつきだした彼の体は、そのまま金網に向かって倒れ込むように歩いていった。毒蜂の華麗なラッシュと、それを耐えて生還したモンタギューのタフさに会場中が大きくどよめいている。

3Rが始まる前、モンタギューは笑顔だった。想像以上の好敵手に、彼は戦士として喜びを感じているのかもしれない。それとも、毒蜂の禍々しい美しさに見惚れていたのかもしれない。

そして二人は開始早々に空中戦を繰り広げた。堀口が飛び蹴り気味に右ミドルを滑り込むように放つと、モンタギューはバランスを崩した堀口にお返しとばかりに豪快なフライング・ニーを放っていく。堀口は1Rと変わらないフットワークを常に維持して所狭しと金網の中を飛び回り、隙を見ては右ミドルを狙う。モンタギューはスタミナがきついはずだが、それでも堀口のスピードに負けないように機敏に動いて食らいついていく。称賛すべきタフさと根性だろう。その後何度もいい打撃を貰うが動じず、体のキレも取り戻してモンタギューはフライング・ニーやパンチを懸命に返していった。

だが堀口はダメージの点で圧倒的に有利だ。今だダメージらしきものもあまりなければ、スタミナでも遥かに分がある。なんとしてもラウンドを取り返そうと攻めるモンタギューのハイをキャッチすると、左フックを一発叩き込んでから綺麗に軸足を刈り込んでTDした。私はあまりにも美しい投げに息を呑んだ。堀口は相手の両足を掴むと、そこから全身を浴びせるようにパウンドを落とした。そして中腰になって乱暴にパウンドを落としていく。途中足を掬われるもののすぐに体勢を戻し、先の試合でも見せた日本人離れしたヘビーなパウンドでガンガン相手を削り続ける。モンタギューの鼻からは再び鮮血が垂れ始めた。モンタギューも一発を狙って下から蹴り上げを狙う。いい攻撃だが、この状況では蜂をさらに怒らせるだけだ。それを気にも留めずに堀口はさらにガツンガツンと殴りつけていく。

この後足を取りに来たモンタギューを嫌って堀口が体を反転させて立ち上がった。おそらくパウンドで堀口もスタミナをロスし、これ以上グラウンドを続けても止めは刺せないと判断したのだろう。モンタギューはよろけながらようやく地獄から抜け出した。

堀口は再びトントンと跳ねながら隙を窺ういつもの構えに戻る。だが上体が少しぐらついており、ガスがいくらか危うくなりはじめていた。対するモンタギューはあれだけダメージを負いながら体にはまた力が戻りつつある。堀口は疲れのせいか、モンタギューの蹴りに合わせて豪快すぎるフックを狙って相手の蹴り足の下に入ってしまい、その足が上から乗っかってきたためにバランスを崩してマットに転んだ。ダメージはないが印象が悪い。そして残り30秒、相手の拳が届く距離でガードを完全に下げたまま足を止めてしまい、モンタギューの左ストレートをまともに被弾してしまう。その後もモンタギューのパンチにカウンターで一発を狙いすぎて体が泳ぎ、最後10秒でも強引に飛び込んでKOを狙う危険な展開を繰り返して、とうとう3Rが終了した。

CINCINNATI, OH - MAY 10:  (L-R) Darrell Montague and Kyoji Horiguchi trade punches in their flyweight fight during the UFC Fight Night event at the U.S. Bank Arena on May 10, 2014 in Cincinnati, Ohio. (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

判定結果は言うまでもなかった。30-27が二人、29-28が一人、ユナニマス・デシジョンで堀口恭司が勝利した。完勝だろう。試合後にカメラを向けられた堀口は、顔一面に笑みを浮かべてファイティング・ポーズを取った。貫録ある試合内容に反して、その屈託の無い笑顔は23歳の若者らしさを感じさせる爽やかなものだった。

空手とMMAの見事な融合、師匠譲りの倒す気概

CINCINNATI, OH - MAY 10:  (L-R) Kyoji Horiguchi punches Darrell Montague in their flyweight fight during the UFC Fight Night event at the U.S. Bank Arena on May 10, 2014 in Cincinnati, Ohio. (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

堀口はUFC2戦目を見事に勝利し、この試合後にフライ級14位にランクインした。完全決着こそ出来なかったものの、その優れたパフォーマンスはかなりの好印象を残したのは間違いないだろう。

堀口の評価すべき点は多い。まずその肉体の強靭さだ。今回の試合で一番最初に目についたのが堀口の分厚く盛り上がった臀部だ。私は決してそちらの趣味があるわけではない。念のためもう一度書くが、決して衆道を嗜むものではない。だがその隆起した尻の筋肉には思わず目を奪われた。彼の疾風のような踏み込みや重心の安定感は、すべてあの筋肉のおかげだろう。上半身もどこか日本人離れしている。背中が非常に大きく、肩回りにもゴツゴツとした筋肉がついていて甲冑を着込んだようだ。その後ろ姿は彼の師匠である山本KIDに瓜二つだ。決して見た目だけではない。この上半身から繰り出されるパウンドは強烈そのもので、相手をKOする力を十二分に秘めている。

冷静さも素晴らしい。多少KOを狙いすぎて雑になるところがあったが、全体を通せば落ち着いた試合運びだっただろう。特に相手を良く見ている点が素晴らしい。相手が今何を考え、どういう状況に置かれているのかをしっかりと観察している。とにかくKOだけはと必死に顔を覆うモンタギューの腹にミドルを叩き込んだ瞬間などは思わず嘆声が出るほどに優れた判断だった。グラウンドで下になっても慌てずに対処し、サブミッションを仕掛けられても無理をせずにしっかりと防御した。相手がカウンターを狙っていると察すれば強引に行きすぎず、きちんと回避する余裕も残している。23歳とは思えないほどの肝の据わり方だろう。堀口の趣味は釣りだという。彼は試合でもじっくりと魚が食いつくのを待っていた。一瞬のチャンスを逃さない洞察力を釣りで養っているのかもしれない。

そして今回一番称賛すべきは、彼の圧倒的な火力と攻める姿勢だ。とにかく彼はどの局面でも攻める手段と倒す気概を持っている。その火力は全盛期の「神の子」山本KIDを彷彿とさせる。そしてその火力の土台となるのが彼が幼少時から学び続けた伝統派空手だ。彼は空手を見事にMMAに適応させている。

空手が最も活きているのはフットワークにおいてだ。相手の攻撃がほぼ届かない遠い間合いが空手の距離だ。堀口はこの距離を軽やかな足捌きで保つことで安全圏を維持し、そして相手の一瞬の隙を窺って攻撃していった。このスタイルはリョート・マチダによって空手の戦い方として認知されたものだ。ガードは低めに下げ、重心は体の中心あたりに置き、相手に対してほぼ横に構えて常時軽く跳ねている。この構えと動きによって、伝統派空手の使い手は常に前後左右どちらにでも移動が可能になっている。そして相手が動くと見たら素早くさがり、また攻撃手段が読めたらそのまま前に出て後の先でカウンターを打ち込んでいく。相手の追撃が激しいと見たらすぐさま左右どちらかに飛び退り、その間もバランスはほぼ崩さない。

そして攻撃はその構えからの一瞬の踏み込みと共に行われる。超長距離からの飛び込みは稲妻のようだ。比較的遠い間合いで戦うMMAとこの飛び込みは相性が抜群だ。特に相手が前に出るのに合わせた時に最大限の威力を発揮する。リョート・マチダはレスラーなどが組みに来る瞬間に一気に踏み込んで膝を叩き込むのを得意としているが、堀口は相手のローに突きをよく合わせていった。さらに堀口はサークリングの途中から突如として軌道を変えて飛び込んだりと、フライならではの俊敏さを見せていた。この戦い方によって、堀口はリーチによる不利を解消することに成功している。先の試合では自分よりも遥かに大きい相手から、飛び込みからのフックでダウンを奪ってもいる。この機動力こそ伝統派空手の最も優れた点であり、そして堀口最大の強みだろう。

次に空手が活きているのは打撃、特に蹴りではないだろうか。今回試合を大きく左右した右のミドルキックなどが最たるものだろう。彼には同じミドルでも2種類あった。一つは膝から下を跳ね上げて、足の先を突き刺すように打つ蹴り方であり、もう一つは腰を入れて脛から足首あたりを叩き込む打ち方だ。彼は距離に応じてこの二つを使い分けているように見えた。遠い間合いの時には速くバランスを崩さない足先を使った回し蹴り、そして近い距離では後者の蹴りを使っているように思う。この足先を刺す回し蹴りは空手に特徴的な蹴り方だろう。力を一点に集中したその蹴りは、急所に的確に入れば相手の動きを急激に鈍らせることが可能になる。まさに蜂の一刺しというべき攻撃だろう。また速くて隙が少なく、バランスを崩しにくい。

私が最も感心したのはこのフットワークと蹴りを使ったコンビネーションだ。堀口はこの試合で、蹴りから始まるコンビネーションを何度も見せていた。飛び込んで右のミドルから入り、その突進の勢いを一切殺すことなくそのままパンチに繋げていくのだ。蹴りで相手に防御をさせてパンチの間合いに入るまでの隙を潰し、そこから一気に追撃を仕掛けていく。そしてこれが可能なのも、独特のフットワークと蹴り方によって一切バランスを崩さないからだ。あれだけの速度ある踏み込みの合間に蹴りを挟んでも崩れないのだ。伝統派空手は移動と打撃が一体化している。

また飛び込んでの右のストレートも冴えていた。モンタギューはこれがほぼ見えておらず、遠い距離からにも関わらず無反応で被弾した。あれだけの超長距離を、あの体格でありながらほぼ一瞬で詰めるのだから驚異的なバネだ。その速度と構えのせいで、恐らく打撃の出どころが見えないのだろう。踏み込みと同時に真っ直ぐに繰り出される突きはガードも回避も相当にしにくく、距離を見誤りやすいのは間違いない。これは右のミドルと並んで堀口の最大の武器になるものだと思う。

次いでグラウンドでの攻める手段の多さや威力も優れていた。2Rはスタミナ切れのせいか聊か精彩を欠いたが、3Rの中腰からのパウンドは威力十分でインパクトがあった。このパウンドも山本KIDそっくりだ。逞しく盛り上がった肩と背中は伊達ではなかった。また腕を抱え込まれた時に、回り込んで放った膝も有効だ。堀口は体の使い方が非常に巧いと感じさせる攻撃だった。このグラウンドでの手数の多さはこれまでの日本人選手には欠けていることが多かったものであり、ここでこれだけ殴れるというだけでも大きな期待が持てるところだろう。

23歳の新星、今後の展望と課題

課題となる点ももちろんある。まずスタミナだ。攻める姿勢は素晴らしいが、ところどころで少し欲を出したせいで攻めすぎてしまい、その後でガス欠になるシーンが何度かあった。特に3Rではそのせいでいい打撃を被弾しており、相手によってはあそこでダウンを奪われる可能性もある。ガス欠で足が止まった時、ガードを下げがちな伝統派のスタイルは被弾しやすい。全体を通してみればそこまでスタミナが無いとは感じなかったが、やはり要所でガス欠の気配を見せていたからさらなる強化が必要だろう。あれだけの機動力を維持するのは大変だろうが、まだ23歳という若さであれば今後十分鍛えることが出来るだろう。王者戦は5Rだ。王座を目指すのであれば、あの動きでそれこそ5R以上動くことを想定するほうがいいように思う。

次にTDディフェンスだ。スタイルの都合上、どうしても飛び込みを狙ったタックルが来る。これは今後完全に狙われる前提で対策していく必要があるだろう。モンタギューを相手にあそこまで綺麗にTDされるのであれば、上位陣を相手にした時に転がされ続ける可能性がある。特に今のフライ級王者は信じられない速度でタックルに入ってくる。あの飛び込みを維持しつつもTDを防ぐ技術を身に着けなければ、TD防御に追われて一切攻撃する機会が無いというような展開が今後あるかもしれないと思う。

次いでサブミッション・ディフェンスだ。もちろん現状でも悪くはないのだが、どうしても体格の差、手足の長さの差から強引なサブミッションを狙われがちだ。それも2戦連続なのは気になるところだ。前回の試合は明らかな身長差があったからともかくとしても、この試合でも同じようなことが起きたのは決して偶然ではないだろう。モンタギューにTDされたときも深々と手を回されていたし、やはり手足の長さの差というのは中々のハンデになりそうだ。皆が易々と堀口の体に巻き付いてくる。これも皆が狙ってくるだろうという前提で、攻めている時でもどこか頭の片隅に置いておかねばならないだろう。肩固めはあれで倒されて横につかれてしまったら危ういところだったかもしれない。

最後に打撃のディフェンスだ。これも空手スタイルの宿命だが、飛び込んでからの打ち合いに不安が残る。ガードは下がりがちだし、ラッシュ時にフックが多いのも懸念材料だ。あそこで強引に相打ちに持ち込まれた際にKOされる危険性を感じている。ガスが十分な内は足を使って離脱していたが、欲が出て近い距離に長くいすぎた場合、そしてガスが無くなって離脱が遅れた場合にそこを狙われる可能性がある。かつてリョート・マチダが飛び込んでのラッシュを狙った時に、マウリシオ・フアの強引なオーバーハンドでKOされた試合があった。空手のラッシュには常にあのリスクが存在しているような気がする。

CINCINNATI, OH - MAY 10:  (L-R) Darrell Montague punches Kyoji Horiguchi in their flyweight fight during the UFC Fight Night event at the U.S. Bank Arena on May 10, 2014 in Cincinnati, Ohio. (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

もう一つ、カウンターを狙って読み間違えた場合のリスク回避も必要だ。この試合ではモンタギューの蹴り始めをローと見て飛び込んだものの実際は前蹴りで、結果的にカウンターとなって被弾することが2度ほどあった。成功したケースもあったが、完全に読めないのであればあまり無理に狙うこともないだろう。ましてや今後の対戦相手は皆飛び込みを嫌ってああいう攻撃を多用するだろうと思うので、それも前提として考える必要があるように思う。

王座到達なるか?師弟で目指す日本人初UFC王者

改めて試合を見ても、これが23歳とは信じられない。それほどに彼には十分な実力がある。年齢的にこれからさらに成長していくことを考えれば、彼は今一番王座に近い日本人と考えていいだろう。修正する時間は十分あるからだ。

加えてフライ級は他の階級に比べて手薄だ。これからさらにバンタムから落としてくる選手もいるだろうが、それでもバンタムでやるよりはずっと王座に辿り着く可能性が高いだろう。当初堀口はバンタムでやる意志を見せていたが、すぐにフライ級に転向したのはいい判断だと思う。体格の影響はやはり大きいからだ。対戦相手のスピードはあがるかもしれないが、堀口はスピード勝負ならば決して遅れは取らないだろう。パワー差もバンタムよりはずっと少なくなるはずだ。もちろん王者の「マイティマウス」ディミトリウス・ジョンソンをはじめドッドソン、ベナビデスとスピードも破壊力もある化け物が上位にはいるが、他の階級ほどに絶望的な感じはない。堀口の年齢も合わせて、かなり期待してよさそうだ。

日本では格闘技ブームが去ったと言われて久しい。名が知られているのもかつてPRIDEやドリームがあった時代の選手ばかりだ。まるで彼らを最後に選手は誰一人いなくなってしまったかのように世間では思われている。だが決してそうではなかった。日本格闘技黄金時代に試合を見てMMAに憧れた若者が、その黄金時代を支えたレジェンドに育てられて着実に実力をつけていたのだ。

堀口は山本KIDが自分よりもでかい奴らをなぎ倒す様を見て、それに憧れてこの世界に入ったのだという。そんな堀口をKIDは手放しで褒めちぎる。堀口の良いところをまるで自分のことのように嬉しそうに語る。「神の子」は、類稀なセンスと肉体を持ちながら怪我によってそのキャリアを大きく傷つけてしまった。PRIDE消滅後の団体の乱立という時代の影響もあった。彼は自分の果たし切れなかった夢を、この愛弟子に託しているのかもしれない。

「日本では、格闘家ですっていうとえぇ~って反応が返ってくるんですよね。」と、堀口はあるドキュメンタリー動画で語っていた。日本での格闘家、格闘技へのイメージを一番的確に表現しているだろう。野蛮な見世物、スポーツっぽい何か、いまだプロレスと区別のついていない人も多い。日本ではこれだけ武道が盛んで、空手などを子供に習わせる親が大勢いるにも関わらず、格闘家と言うと途端に胡散臭く思われるのだ。これも日本の格闘技史を振り返れば仕方がないことかもしれない。

だがそういう人たちにこそ堀口の試合を見てほしいと思う。鍛えこまれた肉体、流麗なフットワーク、研ぎ澄まされた美しい技術。それらは決して野蛮なだけではないはずだ。確かに流血はあるかもしれない、弱った相手を追いかける物騒さがあるかもしれない。それでも全身全霊でぶつかり合う選手達の姿はそれ以上に美しい、カッコいいと思うはずだ。

だから堀口には勝ち続けて欲しい。そして勝って王座を取り、日本の子供たちにその勇姿を見せてあげて欲しいと願っている。そうすれば、今度は堀口に憧れて才能ある若者がこの世界に入ってくるだろう。その先に日本格闘技の再生があると私は信じている。

王座への道は遠く険しいだろう。だが堀口は敬愛する師と共にこの道を歩んでいく。その逞しい背中に、日本格闘技の未来を背負って。彼の功績によって、いつか「格闘家」という職業が多くの人に尊敬されるものとなることを私は願っている。

CINCINNATI, OH - MAY 10:  Kyoji Horiguchi reacts after his decision victory over Darrell Montague in their flyweight fight during the UFC Fight Night event at the U.S. Bank Arena on May 10, 2014 in Cincinnati, Ohio. (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

2 件のコメント:

  1.  戦前でモンタギューの評価が低かったので苦戦したイメージがありますが、よくよく考えれば彼の低評価の原因であるダドソン戦はUFCジッターなんですよね。なぜ初戦がダドソンだったのでしょうか、自分がマネージャーならデイナの頭髪を毟りにかかるところです。

     確かに堀口選手は首をキャッチされる試合が多いですね。上田戦ではチョークと肩がため、ラブランド戦ではギロチンでヒヤリとさせられましたからね。フォルミーガあたりが危険な気がします。

     次は勝率的な意味でゴーディノか、恐いものみたさでヨルゲンセンが観たいですね。ゴーディノはペイグにはTUFで半殺しにされましたが、リネカーには一本勝していて評価しづらいのですがw
     UFCで実績を残している選手が相手にあるであろう、次の試合が正念場でしょう。岡見選手にとってのスウィック戦のように。

    返信削除
    返信
    1. モンタギューはいきなりダドソンなので低評価は少し気の毒ですよね。そもそもダドソンがトップランカー候補でしたので。私がマネージャーでもデイナの髪の毛をツルツルに剃りあげてるところです。

      グラップリングでは手足の長さと胴の長さがかなり重要だと思いますが、堀口選手はその点ですごい不利な気がしています。首をあれだけ狙われるのは、やはり隙があるし極まりやすいと判断されているんでしょうね。フォルミーガみたいな寝技師相手は怖いですね。

      次戦の相手は結構いいのが来ると思いますが、ヨルゲンセンなら勝機はありそうです。ゴーディノは波があるんでよくわかりませんが、TDディフェンスとギロチンの防御さえなんとかしとけば打撃では負けないでしょう。ただ現状ではゴーディノのゴリ押しサブミッションで負けるかもしれません。TD防げないと主導権はゴーディノに行きますので打撃でも負ける可能性があります。

      次が堀口の大一番なのは間違いありません。23歳なので負けてもまだ次があるとはいえ、勝っておくに越したことはないでしょう。カリアゾあたりが来そうな気がしてます。ここで勝てば堀口は一気に王座に近づきそうです。

      削除