2014年7月24日木曜日

感想と分析総集編part3 日沖vsオリベイラ他

ここ最近の気になった試合の寸評です。以下は個人的な意見ですので参考程度にどうぞ。

AUCKLAND, NEW ZEALAND - JUNE 27:  (L-R) Opponents Hatsu Hioki of Japan and Charles Oliveira of Brazil during the UFC weigh-in at Vector Arena on June 27, 2014 in Auckland, New Zealand.  (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)


UFC Fight Night 43: Te Huna vs. Marquardt

フェザー級 5分3R
WIN チャールズ・オリベイラ vs 日沖発
(2R ダース・チョーク)

健闘も勝利には届かず、越えられないUFCランカーの壁

AUCKLAND, NEW ZEALAND - JUNE 28:  (R-L) Charles Oliveira secures a guillotine choke submission against Hatsu Hioki in their featherweight fight during the UFC Fight Night event at Vector Arena on June 28, 2014 in Auckland, New Zealand.  (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

決して悪くはない、しかし勝利に辿り着かない。ここ最近の日沖の敗戦には常にこの感想が付きまとう。だから何が悪い、というのを分析するのはとても厄介だ。複雑に絡まった紐を解きほぐすように、忍耐強く彼の試合を見なければならないからだ。勝利していればその作業も楽しいだろう、だが敗戦に対してこの作業を行うのはひどく苦痛だ。それでも書く意味はあるように思うので試合を改めて見直した。

やはり悪くない。持っている道具はどれも決して見劣りするようなものではないのだ。だからこそ、彼の敗北は余計にやるせなさを感じさせるのだろう。

日沖は若きブラジル人ファイターを相手に一進一退のグラップリングマッチを展開した。スタンドでの攻防が多いUFCの中では珍しいこともあり、試合自体はとても面白いものだった。UFC社長のデイナ・ホワイトもツイッターでご満悦のコメントを出している。だが結果は伴わず、2R終盤、マウントを取った後に脱出され、体勢を立て直そうとした一瞬をオリベイラの長い腕で絡めとられてダース・チョークを極められてしまった。これで日沖は再び3勝4敗と負け越す結果となり、ランキング15位入りから遠のくこととなった。

繋がらない技術の断片、不透明なゴールへの道筋

AUCKLAND, NEW ZEALAND - JUNE 28:  (R-L) Charles Oliveira punches Hatsu Hioki in their featherweight fight during the UFC Fight Night event at Vector Arena on June 28, 2014 in Auckland, New Zealand.  (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

日沖最大の問題点だと自分が感じているのは、彼の勝利への道筋が見えてこない事だ。勝つ試合も負ける試合もすべて、展開を相手に委ねているように思う。相手の戦い方に付き合い、自分の土俵に持ち込もうとしないのだ。

負けた試合でそれは顕著だ。局面選択を相手に委ね、ディフェンスに追われている内に15分間があっという間に過ぎてしまう。今回は相手がレスラー系統ではなく柔術ベースだったために噛みあったが、大まかな展開事態は変わらない。日沖は寝技に持ち込みたいオリベイラに付き合ってグラップリングを受けて立ち、そして極め手と攻め手の豊富なオリベイラに競り負けることになった。

日沖はどの局面でもそれなりに戦えるが、どの局面にも弱点を持っている、というのが自分の印象だ。技術はどれも優れているが断片的で、それらを総合して何ができるかという視点が欠如しているように感じている。それはつまり対戦相手の研究不足ということではないか、と自分は推測している。相手の弱いところに自分の強いところをぶつけ続ければまず負けはないはずだ。だが日沖は相手の強いところに真っ向からぶつかってしまうケースが多いように思う。それで勝てるのであれば素晴らしいが、あまり懸命な判断だとは自分は思わない。

オリベイラ戦に限定して分析してみよう。オリベイラの作戦は明確だった。打撃でプレッシャーをかけ、打撃と連携させたタックルでTDして極める、というのが彼の狙いだった。特にスタンドはあまりやる気がなかったようだ。正直打撃と連携したタックルは巧いとはお世辞にも言えないものだったが、日沖相手には十分な代物だった。

日沖は前に出てくるオリベイラに足を止めて打ち合い、そこを強引に組み付かれていった。差し合いでの投げならば負けないが、クリンチ打撃とタックルへのディフェンスにおいて劣勢となる。グラウンドでは何度か上を取るものの、SAはほぼなく、また上を取っても足を効かせてコントロールするオリベイラに有効打を当てられない。力の強さではオリベイラの方が上だ。ポジションの取り合いでは日沖の方が優勢だったが、極め、グラウンド打撃、パワー、懐の深さで日沖は劣勢だった。わずかしかないスタンドでは日沖の方が打撃が優れていたしリーチも負けていなかったが、オリベイラの前進を食い止めるほどに効かせることはできなかった。

展開事態は一進一退に見えたがそれはポジション取りだけのことで、有効な攻撃をどちらが出来ていたかでいえば終始オリベイラの方が先に先に仕掛け、いい攻撃が出来ていたと思う。つまりグラウンドはオリベイラの土俵だったのだ。クリンチも同様だ。差し合いからの投げならば日沖が圧倒的と言えるほどに強かったが、その合間に行われる打撃戦で日沖は完全に後手だった。膝や肘を入れてくるオリベイラにボディを打ち返すものの差は歴然だった。

AUCKLAND, NEW ZEALAND - JUNE 28:  (R-L) Charles Oliveira knees Hatsu Hioki in their featherweight fight during the UFC Fight Night event at Vector Arena on June 28, 2014 in Auckland, New Zealand.  (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

こう見た時に、やはり日沖が相手の戦い方に付き合ってしまっていることは確かではないだろうか?ではどうすればよかったのかといえば、やはりスタンド勝負をするべきだったと自分は考える。まず前提として押さえるべきことは、日沖はどの局面でも圧倒的に有利なところはないということだ。その上で、少しでも優位に運べる可能性がある局面を選んでいくのが勝率向上に繋がるはずだ。

日沖のストレート系のパンチはハンドスピードもリーチもあってかなりの武器だ。この試合でもオリベイラに綺麗なワンツーを叩き込んでいる。前蹴りやミドルはこれまでも多くの選手をグロッキーにしてきた。これを主軸に据え、距離を取ってクリンチをしたがるオリベイラを遠くから削るのが最善だっただろう。グラウンドもクリンチも、長引いてしまえば不利だがすぐにやられはしないくらいの技術は十分にあった。相手を弱らせてからなら逆にTDして極めることもできただろう。打ち合いでも貰ってダウンする可能性もあったが、それでもただやられるようなことはなかったと思っている。

ただこの作戦を実行するにあたって2点問題がある。日沖のTDディフェンス、特にタックルへの対応の悪さとフットワークの無さだ。スタンドを維持するにも、この二つのせめてどちから一つが無ければ難しいだろう。

今回の試合でも、前に突っ込んで来るオリベイラを相手に下がらずにその場で足を止めて打ち合い、良いのを当てたもののそのまま距離を潰されて組み付かれてしまった。もちろん組み付かれても対処できる自信があったのかもしれないが、その後のクリンチでの被弾を考えればあまりよかったとは思わない。あそこできちんとサークリングして距離を取り、その後で自分の距離で打撃を自分から仕掛けていくべきだったと思う。日沖はサークリング、バックステップをもっと使うべきだろう。とくに今のUFCでは下がるときには皆とことん下がる。バックステップであっという間に遠くに飛び退るのは、中途半端な距離で相手の仕掛けに付き合うのはリスクが高いからだ。日本人選手は皆あまり下がらない印象が強い。

そして一番の問題点がタックルへの対処の悪さだ。蹴りを使うからか腰が高く、遠い距離からのタックルでも組み付かれると堪え切れずにズルズルと引きずり込まれる。過去レスラー相手にはこれが原因で負けている。差し合いでの腰の強さとはあまりにもギャップが大きい脆弱性であり、これが日沖から局面の選択肢を奪っている。オリベイラのタックルはとても巧いとは思わなかったが、それでも日沖を倒すのには十分だった。上位陣のレスラー相手ではまず勝ち目はないだろう。

グラウンドで下から攻められるが、常に逆転を狙えるほどの極めの強さまではない。下になっても柔術があるから大丈夫、と考えるのは失策だろう。ならばもっとTDディフェンスを強化していく方がいいと思う。

上位への足掛かりとして求められる勝ちパターンの構築

日沖はフェザーではかなりの高身長でリーチがあり蹴りも使える。ならば理想を言えば基本は遠い距離を維持しての打撃戦だ。グイダを相手に打ち勝ち、エルキンスを蹴りでグロッキーにできるのであれば、打撃だけなら上位陣とやり合えるだけのものはあるということだからだ。ストレート系のパンチと蹴りを織り交ぜて手数を出して削り、相手がタックルに来たらしっかりディフェンスして相手の消耗を狙い、クリンチに来たらすぐに差して柔道スルー、不利と見たらさっさと離脱をする。グラウンドで下になったらすぐに脱出してスタンドに戻し、上を取って削れそうならパウンド、すこしでも手こずるなと感じたらやはり離脱してスタンドで削るほうがいいだろう。逆に相手が打撃が上と見たならば、日沖はどんどんクリンチを仕掛けて投げてから上を取り、削ってサブミッションを狙えばいい。

もちろん、メンジヴァーからダウンを奪われたことから打撃戦への懸念もある。だがあれはオーバーハンドであり、日本人はあの打撃にあまり慣れていないのではないか、と自分は推測している。そこまで盤石ではないかもしれないが、少なくともレスラー相手にタックルを取られて下になって時間を過ごしたり、若いグラップラーを相手に真っ正直にサブミッション対決を挑むよりは勝利が近づくだろう。

スタンドでの打撃、クリンチでの投げ、ポジションキープは巧く、タックルの防御、フットワーク、グラウンドでの削り、クリンチでの打撃がいまいちで、力負けすることが多い。これが今の日沖に対する感想だ。これらを俯瞰してみた時に、次にどんなピースが必要で、そしてどんな一枚絵を作ることが出来るのか。個々の細かい技術ではなく、大局的な勝利の青写真こそが、今の日沖に求められているものだろう。

トップに行ける選手には、皆「このパターンになれば勝てる」というものがある。ワンパターンでも構わない。日沖にとって最大の武器は何なのか、それを万人がはっきりと認識できるようになった時、彼の名前はランキングの中に並んでいることだろう。戦績的に危うく、次に敗北したときにはリリースされる可能性もある。次は崖っぷちの戦いになる。今回の日沖はよく戦ったしよく攻めた。だが次はもっと自分から、全身全霊で自分から仕掛ける戦いが必要になる。

日沖は飢えなければならない。勝利に、打倒に、栄誉に見苦しいほどのハングリーさを抱かねば、日沖は金網に居場所を失うことになるだろう、私はそう思っている。壁を打ち破り、何としてでも再び上位に食い込むことを願っている。

「鉄の箒」は、そう簡単には折れないはずだ。

AUCKLAND, NEW ZEALAND - JUNE 28:  (L-R) Hatsu Hioki punches Charles Oliveira in their featherweight fight during the UFC Fight Night event at Vector Arena on June 28, 2014 in Auckland, New Zealand.  (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

UFC Fight Night 42: Henderson vs. Khabilov

ライト級5分5R
WIN ベンソン・ヘンダーソン vs ルスタン・ハビロフ
(4R リアネイキッド・チョーク)

まさに「スムース」!流れるような美しきフィニッシュ

ALBUQUERQUE, NM - JUNE 07:  (L-R) Benson Henderson secures a rear choke submission against Rustam Khabilov in their lightweight fight during the UFC Fight Night event at Tingley Coliseum on June 7, 2014 in Albuquerque, New Mexico.  (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

無駄が無い物は美しい。「スムース」はその肉体同様、勝利への道筋も一切の無駄が無い洗練されたものだった。あの数秒の動きの中には何一つ余計なものが存在していなかっただろう。スムースは歯を食いしばりながら飛び込むと右アッパーで相手の頭を跳ね上げ、そのまま渾身の左ストレートをテンプルに突き刺した。バランスを崩して倒れ込むロシア人の後ろに吸い付く様に回り込むと、ロシア人の手を抑えた後に素早く腕を回して深く食い込ませる。スムースの体は考えるよりも先に、肉体が何をすべきかを把握して動いているように見えた。この美しすぎるフィニッシュを完成させるまでに、その裏ではどれほどの血のにじむような努力がなされていたのだろうか。

私たちが待ち望んでいた戦士が、再び帰ってきた瞬間だった。

ALBUQUERQUE, NM - JUNE 07:  Benson Henderson reacts after his submission victory over Rustam Khabilov in their lightweight fight during the UFC Fight Night event at Tingley Coliseum on June 7, 2014 in Albuquerque, New Mexico.  (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

だがフィニッシュに反して、そこに至るまでの過程はとてもスムースと呼べるものではなかった。目に前に突如として現れたロシア人があまりにも屈強すぎたからだ。

試合展開は五分か、やや不利くらいだったと思う。ローなどで細かく手数を稼ぐスムースだが、パンチではハビロフのほうがハードヒットは多かっただろう。クリンチではいい膝を当てるも、同じくらいにボディを打たれ、離れ際に肘やパンチなども被弾した。

ALBUQUERQUE, NM - JUNE 07:  (L-R) Rustam Khabilov punches Benson Henderson in their lightweight fight during the UFC Fight Night event at Tingley Coliseum on June 7, 2014 in Albuquerque, New Mexico.  (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

そして衝撃だったのがTDだ。あのスムースがいとも簡単にTDされ続けた。その被TD数は6回、いずれもクリーンTDだ。スムースのバックボーンはテコンドーとレスリングであり、特にレスリングは彼が若い時に懸命に打ち込んでいたものだ。にもかかわらずタックルだけならばかなりの差があった。

だが倒されてからスムースを救ったのが柔術だ。下から煩く攻撃を仕掛け、ハビロフを足を使って巧くコントロールしてパスを許さず、大きなダメージを受けないうちに素早くグラウンドから脱出した。ここでハビロフがもっと寝かせるのが巧かった場合にはかなり厳しい展開となっただろう。時折見せるサブミッションの仕掛けも効果的だった。相手を防御に回らせることで、展開を遅らせることに成功している。判定となった時にこういう要素は非常に重要となる。さすがの試合巧者ぶりというべきだろう。

最後にスムースはスタミナにおいて優位だった。互いにかなり消耗したが、TDを仕掛けるもののそこから攻めきれないハビロフは中盤からすでにスタミナ切れの気配を見せており、4Rには足が止まりかけていた。そしてディフェンスが甘くなったところに一気呵成に攻めることでスムースは勝利を引き寄せたのだ。彼が長い年月をかけて練り上げた肉体は、やはりスムース最大の武器といえるだろう。

ポイント勝負を続けたら危ういと判断したのだと思うが、スムースはここぞでリスクを負って勇敢に前に出た。これにより劇的な勝利を手にし、まだまだトップコンテンダーであることをはっきりと証明した。これならばそう遠くない内に王座挑戦の機会も巡ってくるだろう。

ここ最近はリスクを負わないポイントゲームが多く、本来の魅力を損ねていることの多かったスムースだが、窮地に追い込まれたことで彼は再び以前のような勇敢で思い切りのいいファイト・スタイルを取り戻した。肩に刻まれた「戦士」のハングルがいつもよりも誇らしげに見える。韓国系のファイターは恐れ知らずで果敢に挑むタイプが多いが、やはりヘンダーソンにもそのDNAがしっかりと受け継がれているようだ。

前回はいいところもなく敗れた王座戦だが、次はもっとうまくやれるはずだ。なぜなら今のベンソン・ヘンダーソンは、かつてのような熱い魂をもった「戦士」なのだから。今から彼の次戦が非常に楽しみだ。

ALBUQUERQUE, NM - JUNE 07:  Benson Henderson enters the arena before his lightweight fight against Rustam Khabilov during the UFC Fight Night event at Tingley Coliseum on June 7, 2014 in Albuquerque, New Mexico.  (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

台頭するロシア勢、圧倒的なポテンシャルと欠ける戦略性

ライト級ではかなり大きく見えていたあのスムースが小さく見えた。目の前に立つロシア人のせいだ。ゴツゴツとした硬質な印象を与える筋肉が白い肌を押し上げて隆起し、体全体が分厚く膨れ上がっている。ヘンダーソンよりも一回りは大きいように見える。

ルスタン・ハビロフ、ロシアのスープレックス・マシーンはこの日、トップコンテンダーすらも容易く転がせることを証明した。彼がタイトル戦線に躍り出てくるのも、そう遠い日のことではないだろう。

彼の魅力は多かった。まずその圧倒的な力の強さだ。スムースもライト級ではフィジカルに優れ、これまで多くの選手を転がして試合を優位に展開してきた。だがこの試合では自分の十八番を奪われる展開となった。タックルでもクリンチでも、とにかく力の強いハビロフに押される展開が目立っていたように思う。スムースを相手にこれが出来るならば、恐らくハビロフのパワーは階級でもトップに近い。

パンチにも優れていた。ロシア人はDNAに人を効率的に殴る方法が記されているのだろうか。まだそこまでの巧さはないがハンドスピードがあって思い切りもよく、何よりも一発が異常に重そうだ。彼らのパンチは皆硬くて重そうに見える。序盤からこの拳がヘンダーソンを襲っていた。今後さらにボクシングに磨きを掛ければ恐ろしい武器になりそうだ。

ALBUQUERQUE, NM - JUNE 07:  (L-R) Rustam Khabilov punches Benson Henderson in their lightweight fight during the UFC Fight Night event at Tingley Coliseum on June 7, 2014 in Albuquerque, New Mexico.  (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

クリンチでも強さを見せた。スムースから膝を貰うものの、差し合いでのポジション取りではスムースよりも上手だったし、クリンチでのボディへのパンチは素晴らしい武器だった。また離れ際をよく研究しており、押し込んで肘を当てたり、離脱した直後にオーバーハンドを振るって叩き込むなどのうまさを見せていたのも頼もしいところだ。

そして特筆すべきは何といってもTD能力だろう。ヘンダーソンを面白いように倒す様は圧巻だった。成功数は6回、判定などでは相当優位になるだろう。また彼は過去にスラムでKOしたこともある。今回は相手がヘンダーソンだったためにスラムまでは出来なかったが、TD耐性があまりない選手であればもはや転がし続けるだけで勝ってしまうだろうと思う。

ALBUQUERQUE, NM - JUNE 07:  (L-R) Rustam Khabilov takes down Benson Henderson in their lightweight fight during the UFC Fight Night event at Tingley Coliseum on June 7, 2014 in Albuquerque, New Mexico.  (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

魅力的な武器が多い一方で、まだまだ粗削りで経験不足なところも目立った。

まずディフェンスだ。目はそこまで悪いようには見えなかったが、ヘンダーソンの飛び込みに対してまっすぐに下がっては逃げきれずに被弾する、という展開を1Rから何度も繰り返した。序盤は体力も残っていたために貰っても耐えきり、そのままTDなどに逃げることが出来ていたが、4Rにスタミナ切れを起こして逃げ切れなくなったところでパンチに捕まり敗れてしまった。火力のあるパンチに比べ、ディフェンス面ではまだ甘さがあるように思う。フットワークの改善が必要だろう。

次にスタミナだ。5Rの経験自体が少なかったからかもしれないが、試合の組み立ての悪さ、序盤からのボディへの膝の被弾が相まってハビロフは早い段階でガスが足りなくなっていた。またTDに行きすぎた事、TDしてからの攻めあぐねでもスタミナのロスを繰り返した。

グラウンドで上になってからの展開の悪さも目立った。パスをできず、ガードでもそこまで有効な攻撃が無いままに下から攻めるスムースに手を焼き、せっかくのTDを活かしきることは出来ていなかった。TDするまではいいが、TDした後に続かないようであればスタミナのロスを防ぐために立ってしまってもよかっただろう。TDするだけしておいてスタンドで五分であれば、そのラウンドを取ることが出来ると思うからだ。寝かせ続けることにあまり慣れていないような印象も受けた。

この試合は5Rマッチだった。いつでもTDできるんだぞというところを見せておき、スタンドでもっとパンチを狙っていった方がよかったのではないかと思っている。あと少しでダウンを奪えそうな当たりも多かった。TDして寝かせてから攻撃するのは、それこそ4Rを過ぎてからでもよかっただろう。ヘンダーソン自身も打撃を嫌って何度かTD狙いに来ていたので、それを防ぎ続けるだけでスタミナで後半上回ることが出来たのではないかと思う。

ALBUQUERQUE, NM - JUNE 07:  (R-L) Rustam Khabilov punches Benson Henderson in their lightweight fight during the UFC Fight Night event at Tingley Coliseum on June 7, 2014 in Albuquerque, New Mexico.  (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

いずれにしろ、素晴らしい人材がまた一人トップ戦線に出てきたと思う。スムースを相手にあれだけやれるのであれば、現時点でも他のランカー相手に十分通用するだろう。まだ穴が多く不安なところも多いが、持っている武器は圧倒的だ。このTDがあるというだけで、かなり容易に戦えるのは間違いない。あとはそれの使いどころと、それを勝利に繋げる技術の補完が必要だ。TDしてからパス、そしてパウンド、トップキープという流れを徹底して鍛えればそれこそ王者も夢ではないだろう。パンチは現時点でも強いが、もっとパンチの精度を上げていけばこちらもより恐ろしい武器となっていくだろう。

金網には新たなる脅威が迫りつつある。極寒の地からの刺客は皆タフな奴らばかりだ。彼らがこの戦場に馴染んだ時、勢力図は一変するかもしれない。「氷の拳」エメリヤーエンコ・フョードルが運命に翻弄されて果たせなかった夢を、彼の後輩たちが叶えてくれる日がいつか来るのだろうか?

ALBUQUERQUE, NM - JUNE 07:  (R-L) Benson Henderson kicks Rustam Khabilov in their lightweight fight during the UFC Fight Night event at Tingley Coliseum on June 7, 2014 in Albuquerque, New Mexico.  (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

8 件のコメント:

  1. ロシア人て瞬間のスピードとパワー、頑健さは凄いけどスタミナがない印象があります
    速筋型なんでしょうか

    吉田秀彦も柔道時代のロシア人対策として前半は凄いけど
    我慢して後半勝負にいけば勝手に自滅してくれるて言ってたし

    そう考えるとロシア人がMMAで活躍できる階級は中量級~重量級までですかね
    フェザー以下だと吉田戦法でじり貧負けしそうです

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    1. 筋肉の付き方はすごい独特ですよね。他の白人種よりも筋肉質でどっしりとして、ゴツゴツとしてる印象です。

      そういえばスタミナは無さそうですね。ロシア系の人はみな短期決戦型な気がします。先日アリ・バガウティノフがEPOでドラッグテスト陽性になりましたが、もしロシア系選手の欠点がスタミナならば納得なところです。

      逆に吉田選手はさすがというか、やはりそういうのをよく心得ていたんですね。一流選手ならではの慧眼だと思います。

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  2. ミンテア2014/07/24 20:53

    日沖選手は試合がつまらないということもないですし日本人のひいき目がなくてもいい選手だと思うのですが、ある程度の強豪には勝てないですよね。問題点は違うのでしょうがエリック・シウバと日沖の負けを見ると「器も実力もある筈なのに・・・!」といつもつぶやいてしまいます。

    ベンヘンの試合は個人的には上半期ベストバウトでした。新たな強敵を前に己の真の姿を思い出し覚醒する戦士!なんて詩的な試合でしょうか・・・・!

    ペティスが王者になった時は「これから倒さなきゃいけない相手が山積みだな~」とか思っていたのですが、最近ではペティスがお休みしてる間にベンヘンが挑戦者候補を残らず刈り取ってしまうんじゃないか疑惑が浮上しつつあります。

    ただ次戦ドスアンジョスの決定にはちょっとZUFFAの思考回路を疑いました
    私の大のお気に入りのヌルマゴメドフとやったら・・・ヌルマゴのゴリゴリファイトがついにトップランカーを打ち砕くのか、更なる底の無さをベンヘンが見せつけるのか・・・いずれにせよ絶対いい試合になるのに!
    まあ彼は膝を怪我してしまったのでもし組まれていてもどうせ変更になったんでしょうが。彼が得意なハメド風の飛び込みパンチに影響がでないか心配です。

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    1. エリック・シウバとは問題点は違いますが、「あと少しなのにー!」とハンカチを噛みしめてしまうところは一緒ですねwエリックは精神的にムラッ気が強くて短気すぎるのがダメな印象です。優勢になってから脆いブラジル人って珍しい気がしますw

      なんかベンヘンがバラオ状態になりつつありますね。というか王者がお休み長いと皆そうなるんでしょうけどwメンデスも下手したらそんな感じになりそうです。

      ヌルマゴとは絶対に面白くなりそうです。ただ私が見るに、逆に今回は避けてよかったかなと思います。特にヌルマゴのためにです。もう少し経験を積まないと、今の荒さではベンヘン相手ではちょっと厳しそうです。あの荒さが抜ければもう十分にやり合えるだろうと思っています。

      アンジョス戦に関しては、ベンヘンがというよりもアンジョスにチャンスを与えるための試合だと思います。もうベンヘンは誰とやっても王者にならない限り評価の上がりようがない状態ですし、そのベンヘンを倒した若手は一気にスターですので。

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  3.  話が少しそれてしまうのですが、長年UFCの日本人選手を見続けてきてこの前の田中選手の試合でようやく長年の疑問が解けてきました。
     要するに多くの日本人選手は自分達のMMAにおける長所を認識していない&日本という国のせいで長所の一角を伸ばしづらいのでは?と考えたわけです。
     もったいぶらずに結論からいうと日本人のMMAにおける人種的なアドバンテージ。それはエディさんも以前から指摘していた四つ組(クリンチ)と意外に思えますが長時間行えるステップワークです。

     なんで?日本人はステップワークできる選手少ないじゃん。と思われるかもしれませんが、元々日本人は膝から下の筋肉(下腿三頭筋と前脛骨筋)が非常に大きくかつ成長しやすい人種なのです。日本レスリングが長い間頂点に位置していた時代の日本人がとった基本戦法は前後左右にステップを踏み何度もフェイントをかけて相手を消耗させる、もしくは過剰にフェイントに反応した隙に低空タックルをしかけるというものでした。脚が短く強靭な日本人にピッタリなスタイルです。(ちなみにこのスタイルのオリジナルはアメリカです。皮肉にも師匠より弟子のほうがこのスタイルに合っていたということですね。白人、黒人は脚が長く膝から下が弱いのです。アメリカにいくと驚くのですが50代、60代で杖をついている方が非常に多いです。構造的に膝が弱いという話を聞きました。だからこそ膝の手術、リハビリが大幅に進歩したんだとか)
     しかし考えてみてください、日本の格闘技ジムを。狭いでしょう?その狭い空間で3組以上の選手がMMAスパーや打撃&テイクダウンのスパーをしてみてください、すぐにぶつかります。グラウンド状態の一組にぶつからないように注意しないといけませんよね?休憩中の人間が間に入ってぶつからないようにしてもどうしても周りに注意しながらのスパーになりますよね。思いっきり気兼ねなくバックステップ踏めますかね。日本人がオーバーハンドに弱いのは相手が距離を詰めてきたらとりあえずバックステップするという練習が圧倒的に不足しているからでしょう。
     もうひとつは日本人の美学である決して退かず前にでるという精神的なものでしょう。相撲なんかその典型ですよね(相撲はその美学が強くなることに直結しているから問題ないのですが。)ビビって逃げることと勝つ為に間合いをコントロールするのは別物なんですが分かっていない指導者、選手は多いきがします。
     自分が好きな言葉に「大事なのは間合い。そして引かぬ心だ。」というのがあるんですが日本選手達にも知ってもらいたいです。この言葉テレビゲームの台詞なんですけどね、すいません(^^;

     ステップワークの問題は解決策があります。公共のスポーツセンターの柔道場を利用すればいいだけです。ビニールテープでオクタゴンの広さを再現すれば面食らうことも減るでしょう。

     すいません、クリンチにおける日本人の優位性は次回に書かせてください。久しぶりにハイテンションで一気に書いて疲れました。自分に比べれば満腹状態のビッグカントリーの方がよほどカーディオに優れていると思います(-_-;)
     
     

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    1. 面白かったので一気に読んでしまいました。いえいえ、満腹状態のクソデブだったら「話が少しそれて」くらいまで書いたところで疲れて顔に生クリームつけながら爆睡しているでしょうから、カーディオにもっと自信を持たれていいと思います。ニック・ディアズくらいはありますw

      なるほど、クリンチはともかくとして、なぜあんなにレスリングが強いのかと思ったらそういう人種的なアドバンテージがあったんですね。そういえば腰を悪くする人は多いですが、膝ってあんまりやらかしてる人がいない印象です。アメリカで杖を突いてる人が多いのは、皆単に太りすぎてるだけだからかと思ってました。

      サッカーでも、海外の選手が口をそろえて言うのが日本人は機敏で常に動き続けてるということだった気がします。小回りが利くんでしょうね。ちょこまかとした機動性は単に走るのが速いと言うアフリカ系の足の速さとはまた別なのでしょう。サークリングなんか極めたらすごいことになりそうですねw

      日本の練習環境はちょっと選手が気の毒ですね。狭いビルに無理やり作ったようなジムが多いですが、練習場所としてはあまり適切ではないように思います。とはいえ競技人口と日本の土地の高さ、さらには生徒の交通の便などを考慮するとあれが最適解になるのでしょう。たしかに柔道場くらいの広さが無いと厳しい気がします。試合じゃレッグダイブで5mくらいすっとぶわけですからねw日本人選手がオクタゴンにあがると広さに驚くといいますが、逆にそれはその広さを認識せずに練習してきたと言うことですし、広さを活かした戦略もないということですから、その時点でもう不利なんですよね。

      そして最後に「大事なのは間合い、そして引かぬ心だ。」いい言葉です。香川照之さんが大のボクシングファンですが、彼が同じことで苦言を呈してました。曰く日本ではひたすら前に出て頭をぶつけて殴り合うのが賛美される風潮なのだそうです。だから足を使って距離を取る選手が育たいのだと。これはいわば戦略を狭め、ディフェンスを放棄し、そして日本人の長所を奪うものです。私もボクシングでは日本人選手がすぐにクリンチでもつれあって泥仕合をするのに辟易としていたのでまったくの同感でした。この風潮はMMAにも間違いなくあります。

      日本人選手はとにかく間合いを外さないんですよね。相手の間合いでダラダラとやってしまう。そういう意味では堀口選手は本当に素晴らしいです。あの間合いの外し方は伝統派ならではなのでしょう。あの機動力と俊敏性こそが日本人が目指すべきあり方かもしれませんね。








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    2. コメント欄がすごい勉強になるww
      日本は引くことを是としないというより、スポーツの中で当初想定されていなかった(ルールの隙間を突く的な)技術を「卑怯だ」などと言い否定する傾向にあると思います。特に柔道や相撲で顕著です。MMAでも相手のいいところを潰す系の戦いをする人はあまりいない気がします。

      あのような批判が強くあろうとする日本人選手の邪魔をすると思うと許せないです。

      少し話がそれますがネットニュースで秋山選手が退屈に勝つよりKO負けのほうがいいと言っていました、本音でなければいいのですが・・・
      日本ではヒールかもしれないけどファンだっているんだぞ!(私とか)全力で勝てよバカヤロー!選手に必要なのはFOTNじゃなくて勝利だろ!いつからそんなつまらない正々堂々マンになったんだ秋山!!

      ・・・すいませんとりみだしましたw
      私は選手が勝つためだけに全力を尽くした試合こそが面白いし、そのような選手こそがいい選手だと思います

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    3. 格中のコメント欄は、本文よりもためになると評判の素晴らしい識者が集まる超優良コンテンツですwこっちがメインと言ってもいいかもしれません。

      >ルールの隙間を突く技術を卑怯
      これは間違いなくそうだと思います。かくいう私も昔はそうでした。相撲はまあスポーツかというとあまりにも微妙なのでアレですがw柔道はそういうのを感じますね。

      露骨な反則は好きじゃないですが、どちらかというとそれを見逃してしまう審判やルールのほうが問題なんですよね。反則しても注意で済んで減点なし、それで危機が脱出できるんならそりゃあ金網だってパンツだって掴みますw

      つまり日本では勝ちと同じかそれ以上に内容が問われるのでしょう。ただ日本以外では内容はともかくとしてまず勝たねば何も得られない、という考え方がスタンダードなのだと思います。

      秋山選手みたいに韓国系の選手は、メンタリティ的に玉砕戦法がすごく性に合っている気がします。彼らは恐れ知らずでゾンビのようなタフさが標準装備なので、KO負け上等でぶっこんでくと逆に相手が気圧されて勝っちゃうことが多いように思います。エリック・シウバ戦でのドンヒョンの捨身フックとかそうですねwなので秋山さんは塩試合するよりはそんな考え方の方が勝率高いかもしれませんよ。

      ただ、基本はやっぱり勝利至上主義でいいと思います。勝つために必死になって皆あの手この手を考えますし、その試行錯誤がおっしゃる通り一番面白いと思うからです。

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