今回はいい試合が多かったですね!
Part1はタイトルマッチについてです。
以下は個人的な感想ですので参考程度にどうぞ。
WIN 王者 デメトリアス・ジョンソン VS 挑戦者 ジョン・ドッドソン
(ユナニマス・デシジョンによる判定勝利 49-46, 48-47, 48-47)
ジョンソンについて
私は正直、デメトリアス・ジョンソンが好きではなかった。
技術もフィジカルもスピードも一級品だ。それは疑いようがない。
だが、彼はフィニッシュを見据えた動きをしないのだ。
常にポイントで勝つという意識が見えていた。
打ち合わず、無理をせず、リスクを負わずに戦う。
それは当然だ、目的は勝利なのだから。
他の王者もみなそうだ。だが、なぜかジョンソンだけは
許せないものを感じた。だからこの試合でも、どうせ
下がってカウンター待ちに徹するんだろうと思っていた。
それだけに今回の試合は驚愕だった。
1Rから、ジョンソンは前にでて果敢に攻め続けたのだ。
試合展開は最初から最後までジョンソンが被弾をしても
ダウンをしても前に出てドッドソンを追いかけ続ける
展開になった。
小さな体で、オクタゴンの中を所狭しと走り回って戦う
様子はリスの巣箱を思わせるものがあった。
スピーディでめまぐるしく、重量級のMMAとはまったく
別の競技だった。そして新鮮に感じた。
この試合でジョンソンが勝利を握った鍵となったのは
5Rという長丁場の経験があったことだろう。
ドッドソンのパンチは重く、KOできるものがあった。
それだけにドッドソンは終始下がってカウンターを狙い、
相手をKOしようとする動きをしていた。
それに対してジョンソンは、決して狙いを顔面にだけ
絞るのではなく頻繁にタックルやローを織り交ぜていた。
このローはかなり効果的で、パンチがある相手には
有効だ。しかし3Rでは効かせるほどに打てないことが
多い。だが5Rとなれば話は別だ。ローを打たれたダメージは、
試合が長引くほどに影響してくるのだ。この効果をジョンソンはよく
理解していた。
前に出て下がったところでローを打つ。相手は下がって
いるからカウンターをもらいにくい。ジョンソンの作戦は
よく練られていた。
後半、ローを嫌がりキャッチを狙ったりカウンターを狙ったりと
ドッドソンもいい対策を採っていたが、それも少し遅かった
ように思う。明らかに足にはかなりのダメージが見て取れた。
ジョンソンのスピーディなローキック 鞭のようにしなりドッドソンの足を痛めつけた |
またレスリングではドッドソンよりもかなり上だったように思う。
完全なTDは出来ないまでも、タックルに入るところまでは完璧に
近く、ドッドソンが対応できないことも多かった。後半では
このタックルが奇麗に決まることもあり、やはりレスリングでは
ジョンソンに分があったと言えるだろう。確かにTDした後に
そこまで有効な攻撃は出来なかったものの、ドッドソンのディフェンスを
散らし、スタミナを削るには十分な攻撃だった。
そしてジョンソンの最も優れた能力のひとつに、そのスタミナが
あるだろう。彼はあの速度で動きながら前に出続け、最後まで
その動きが鈍るようなことはなかった。ジョンソンの動きに
あわせて動くだけで、並みの選手ならスタミナ切れで負けても
おかしくない。
終盤、ドッドソンの体に登り上から肘を打ち落とすジョンソン 非常に面白い動きだ |
結果、5R前に出つづけ、最終ラウンド組膝による連打で
TKO間近までいったジョンソンがユナニマスで勝利した。
自分は1,3、4、5Rをジョンソンが取って勝利したと思うので
49-46のポイントを支持したい。ファイトメトリックによる
試合データではトータルストライキングで想像以上の
差が出ていた。
3Rに二つ反則があった。一つはローブローだ。だがこれは
そこまで影響したとは思えない。問題はもう一つの反則、
グラウンド状態への頭部への膝蹴りによるものだ。
UFCでは地面に片手がついていればグラウンド状態とみなされ、
この状態で頭部に蹴りを入れると反則とされる。
そのため、金網際で押し込まれているときに頭部への膝蹴りを
警戒して地面に手をつけて防御する方法がかなり普及している。
危険性という点に関しては、ほんのちょっと手が地面から離れた
状態と着いてる状態で差があるわけなどなく、ルールとして必要か
疑問視されている一方、選手としてはズルイが有効な防御手段として
使用する選手も多い。だが、見ている側からすればひどく
フラストレーションが溜まる行為である。
今回、ジョンソンはドッドソンがこの防御をしてる最中に
膝を当ててしまった。偶発的な事故として減点はされなかった。
だが、もしこれを減点していたら判定結果は覆っていた可能性は
十分にある。デイナ・ホワイトは減点するべきだとしている。
しかしもし減点していたら、このタイトルマッチの結果は非常に
議論を呼ぶものになっていただろう。
自分は手数と有効打にかなり差があったと考えており、1Rダウンを
したとはいえジョンソンにつけるべきだと思うので、仮に
反則になっていても結果は変わらないと考えている。
だがこの反則問題は大きい。もちろん完全に下になってる
相手に対するサッカーボールキックや膝は、さすがに規制しないと
今のUFCでは死人が出てしまう可能性があると思うのでやむをえないと
思うが、ほとんど立った状態での膝はそこまで影響しないはずだ。
実際、ジョンソンは同じ状態でドッドソンが手を離した隙に
顔面に同じ角度の膝を何度もぶち込んでいたのだから。
これを契機に、ルールの見直しが進むことを期待したい。
ドッドソンについて
こちらも期待以上の出来だった。TUF出身選手は総じて
本戦では上位に食い込めないといわれていたが、
彼はそんな評価を吹き飛ばすだけの力を持っていた。
身長は小さなジョンソンよりもさらに小さいものの、その体型は
ずんぐりとしていて、見るからに力のありそうな盛り上がった
背中をしている。御伽噺に出てくるドワーフのようだ。
その体から繰り出されるパンチはフライ級でありながら
十分にノックアウト・パワーを産みだす事が出来る。
試合展開は、常に下がって前に出るジョンソンにカウンターを
合わせようとするものだった。実際その作戦は余力のある
序盤では有効に機能し、被弾をほとんどしないジョンソンを
数度にわたりダウンさせた。
竜巻のような回転であっという間に相手をなぎ倒すフライ級のスピードスター |
接近戦での反射神経と爆発力は凄まじく、わずかな交錯の
瞬間に3枚、4枚と打ち込む回転力はフライ級でもずば抜けた
スピードである。正直何発か視認できないほどの速度だった。
それはジョンソンとて例外ではなかったらしく、あのジョンソンが
ディフェンスをし損ねて被弾を許していたくらいだ。
このスピードはフライ級の最大の魅力だと思う。
一方で、この作戦には大きな問題がいくつかあった。
一つはダウンを取った後に追撃をしなかったことだ。
追撃でカウンターをあわせられるのを警戒してだろうか、
グラウンドで上になっても有利には運べないと考えてだろうか。
それは理解できるが、彼の能力なら追撃してダメージを
与えることもできたはずだ。ドッドソンはスタミナや長丁場の
経験の無さを考えたら短気決戦をするべきだったはずだ。
ならばあそこでフィニッシュまで行くことを考えるべきだろう。
もう一つは、下がり続け押し込まれ続けることによる疲労を
考えていなかったことだ。序盤こそその優れたフィジカルで
TDされても抜け出し、押し込まれても逃げることが出来た。
だが恐ろしい勢いで常に前に出てプレッシャーをかけ、
パンチ、TD、ローキック、組み膝と削ってくるジョンソン相手に
少しずつ消耗し、3R辺りから失速し始めたのは明らかだ。
加えて、この下がり続ける戦い方は非常に印象が悪い。
もう少し出るべきところではきちんと出て自分から
圧力をかけなければいけないと思う。ジョンソンは
ダウンを取られても自分のゲームプランを遂行し続けた。
ドッドソンはそのプランを阻害するためにも、自分から
前に出て展開を変えなければならなかったのだ。
常に前に出て動くジョンソンが圧倒的に優勢に見えた
ことも、判定には間違いなく影響しているだろう。
カウンター待ちの作戦は、アンデウソンのようにフィニッシュ
しない限り必ず判定では負けるのだ。手数の差は
明らかだったろう。
ドッドソンはよく言えば賢いが、悪く言えばセコイところが
あるように感じていたが、今回もその悪いところが
出てしまった。慎重に安全に、絶対自分が有利なようにしか
動かないのはいいが、どこかでリスクを背負って勝負を
しなければいけないときに、その性質が邪魔をするの
だろうと思う。
ただ、彼は非常によく戦ったし、王者に手が届く可能性は
十分に感じさせるものがあった。この次の試合にも
期待したい選手だ。
見事防衛した王者と、それを笑顔で称えるドッドソン 素晴らしいスピード勝負だった |