画像はUFC ファイトナイト:セラーニ vs ミラー 大会フォトギャラリー | UFC ® - Mediaより
UFC Fight Night Cerrone vs Miller
ライト級5分5R
WIN ドナルド・セローニ vs ジム・ミラー
(2R 右ハイキックによるKO)
カウボーイ、開眼!影を潜めたセローニの軽佻浮薄さ

カウボーイの鉈のような脛がミラーの首から後頭部あたりを根こそぎぶった切った。彼のガードはパンチに備えて側頭部を覆っていたために、その凶器を防ぐことはできなかったのだ。ミラーの体は一瞬堪えようとした後に硬直し、そのまま石像のように大地に横倒しに倒れていった。彼の脳は会議の結果、命の危険を感じてスイッチをすべてOFFにする決定を下したのだ。カウボーイは素早く足を畳んでその光景を静かに見つめる。彼の心は完全に戦いが終わるまでOFFになることはない。木偶人形のように動かなくなったミラーに一気に詰め寄ると、一切の抵抗が出来ないミラーに対して容赦のない鉄槌を振り下ろす。
審判が慌てて駆け寄り試合の終了を告げた。観客席は興奮の坩堝と化した。以前のセローニならばここで喜びを爆発させていただろう。だが今のカウボーイは違う。
カウボーイは腰に手を当てて、鋭い眼光のまま場内をゆっくりと歩きだした。それはまるで思索に耽る哲学者の容貌だ。闘いとは何か、勝利とは何か、己が今為した事は一体何だったのか。わずか一瞬間に爆発した己の生命の輝きを、彼は静かに見つめ続けていた。
カウボーイは、闘うことの意味を悟り始めているのかもしれない。
金で磨き上げたカウボーイの「黄金の魂」


試合で見せる修行者のような様相とは相反するように、彼の私生活は派手で賑やかなものだ。彼のツイッターには、毎日のように様々なレジャーの写真が掲載されていく。狩猟に行ったり、海に行ったり、盛り場に繰り出して女性と写真を撮ったり・・・彼は生きることを楽しむのに全力を注いでいる。
だがそれらの生活には当然のように莫大な金がかかる。セローニはKO決着することが多く、獲得したボーナスは総額でかなりものだ。しかし彼にはろくに貯金が無いのだという。彼には極度の散在癖があるからだ。本人が言うには、金の溜め方がわからないらしい。だから彼はどんどんと浪費してしまうのだ。そのために彼は一時期財政難に陥り、今年に入ってからは金のために年間6試合はしたいと公言した。MMAでは考えられない試合ペースだ。
実際ペース的にはかなり苦しく、今年は出来てあと1試合というところだろう。だが金額的には、彼の希望に沿うだけの収入があっただろう。何しろ金が欲しいと言いだしてからの彼は、次々と芸術的なまでのフィニッシュを生み出しているからだ。ビジネスとして割り切ってからのほうが、彼から余計な力みや雑念が拭い去られ、ファイターとしてより洗練されてきているように思う。
皮肉な話ではあるが、これは間違いなく今の好成績の主要因だろう。以前のセローニはムラがあり、どこか派手なKOばかりを追い求めるところがあった。それは本人も認めていた。テレビカメラが自分を映している、信じられない数の人間が自分を見ている、そう考えた時、彼の体はナルシスティックな欲望に支配されてしまったのだ。彼はファンを楽しませなければ、素晴らしいKOを見せなければと気負い、合理的な選択を時として投げ捨てた。それは強迫観念と化していたのだろう。彼はあるべき自分を勝手に自分に課し、そしてキャリアを傷つけていった。
だがドス・アンジョスに負け、金銭的に追い込まれてからの彼は明らかに変わった。はっきりと変化が見えたのは今年に入ってから、アドリアーノ・マルチンスをKOした時だ。彼はKOした後に、今回のような深刻な顔つきで金網の中をうろついていた。
それからの彼の試合は劇的だった。蹴りの名手であるエジソン・バルボーザを相手に劣勢に追い込まれるも、相手がサークリングしたわずか一瞬の隙をついて、何一つ力むことのない、まるで呼吸するかのように自然なステップイン・ジャブを放った。それはそうなることが予め決められていたかのように、高速で動くバルボーザの顎の軌道上にそっと置かれ、そして何一つ気づかなかったバルボーザは顎を打ち抜かれて転倒した。バルボーザには、パンチを打ったことすらわからなかったのだ。不意の打撃にパニックを起こしたバルボーザに一瞬で詰め寄ったカウボーイは、その首に投げ縄を放ってバルボーザを締め上げ捕縛した。鮮やかなカウボーイの捕り物帖に観客は惜しみない拍手を送り続けた。
そして今回のミラー戦だ。カウボーイは何かを掴みつつあるように見える。それは極意とか奥義と言われる類のものだろう。金というのは日本だと動機として蔑まれがちだが、金こそはもっとも正確な物差しのひとつだと私は思っている。金のために戦うというのはすなわち自分の価値を高めるために戦うのであり、そのためには純粋に勝利のみが目的となる。UFCは勝つことによって己の「金額」があがっていくからだ。
戦い方にもセローニの試行錯誤が見て取れた。今回セローニが多用したのはパンチに合わせたカウンターの膝だ。これが試合の鍵となった攻撃だと私は考える。パンチへのディフェンスが向上しないセローニにとって、なかなかの上策だろう。

1R開始直後から、リーチで劣るミラーが飛びこむのに合わせて放たれた膝が彼の腹にめり込み、ミラーは露骨に嫌な顔をしていた。セローニは決して打たれ強くはないし、パンチのディフェンスはこの試合でもやはり悪かった。一番怖いのが飛び込まれての一発だろう。それに対してカウンターの膝を放つことによって、ミラーの飛び込みを抑止することに成功した。この攻撃は空手家のリョート・マチダが最も得意とするところだ。マチダほどの距離は無いが、蹴り主体でリーチのあるセローニにとっては同じように機能する武器だろう。
この膝が2Rの前蹴りでのダウンに繋がった。腹のダメージは蓄積し、一度効いてしまえばあとは何を貰っても響く様になる。1Rに散々膝を貰ったミラーの内臓はもう限界だったのだ。そこにカウボーイの槍のような前蹴りを数度喰らい、とうとう下腹部に突き刺さった時にミラーは顔面を強烈に歪ませてその場に蹲った。彼の口からはマウスピースが転げ落ち、その痛みがどれほどのものかをはっきりと伝えていた。
本来ならばここで試合が終わっていたはずなのだろうが、これを金的と取り違えたレフェリーが試合を中断してしまった。蹴って手ごたえを感じていたセローニは明らかに不服とし、ブーイングする観客に対して映像で確認するといい、と静かに金網上方に設置されたモニターを指さした。果たしてセローニの言う通り、彼の母指球はミラーの腸を撹拌して、彼の体に未曾有の大混乱を起こしていたのだ。
ミラーの体は不自然な前傾になった。足もわずかに内股気味になり、上体は力なくふらつきだす。下腹部に力が入らないのだろう。彼の腸は衝撃のあまり、自分が腸だったのか胃だったのか、肝臓だったのか、そもそも内臓なのかすらわからなくなっていたに違いない。
ミラーはその後面白いようにフェイントに掛かっていった。セローニがわずかに上げた膝にビクリと肩を震わせ、前蹴りで蹴り飛ばされるたびに逃げ腰になって慌てて下がる。もはやミラーの無意識が怯えていた。これ以上内臓に衝撃を与えられたら、彼らは自分たちが何の機関かも忘れて呼吸を始めたり、歩きだしたりするかもしれないからだ。

途中で捨身の反撃に出て良いオーバーハンドを当てたりするも、力の抜けかけたミラーの打撃ではセローニを止めることは出来ない。自信を漲らせ、かつ一切慌てることなく種馬野郎は悠々と仕上げに掛かった。ここでがっつかなくなったのも、セローニの大きな進歩だろう。
とうとうその時が訪れた。ここまでセローニは前蹴り、ハイ、膝、パンチ、ローキックとあらゆる打撃でミラーの意識を散らしていた。合間に当たった前蹴りでミラーはまたしても悶絶している。ミラーの口はすでにぽっかりと開いていた。堂々と近づいたセローニは、ここで右のパンチを繰り出す。ミラーは左の側頭部を拳で覆って頭を下げた。罠だった。刹那、一瞬遅れてセローニが右足を振り上げていたのだ。右腕で隠された場所から分厚い鉈がミラーの首をなで斬りにした。

この技は、彼が上昇気流に乗る切っ掛けとなったマルチンス戦でのKOとまったく同じ蹴りだった。セローニは己の勝ちパターンを構築したのだ。カウボーイの足は金で磨き上げられ、その一振りでさらなる金を生み出す「黄金の右足」となりつつある。
改善したメンタル、不安の残る目の悪さ

カウボーイは敗北やコンプレックスを見事に乗り越え、今やスターになりつつある。一方で、タイトル奪取という話になれば致命的な弱点が依然として残っている。それはパンチのディフェンスだ。
この試合でも危険な被弾は何度かあった。蹴りへの対処やTDへの反応は決して悪くない。だがことパンチになるとセローニは途端に危うくなるように感じている。攻めに集中しすぎているようにも思う。原因ははっきりしないが、パンチに対して反応しないことが多々あるのだ。
この欠点はネイト・ディアズ戦で最悪の結果をもたらした。ディフェンスを捨て、ひたすら丁寧にパンチを当てることだけを考えるディアズ兄弟のMMAボクシングに対して、セローニのスタイルは格好の餌食だったのだ。メンタルの未熟さも加わり、カウボーイは端正な顔を見るも無残に叩き潰されてしまった。
劇的な勝利を飾ったマルチンス戦、バルボーザ戦でもパンチのディフェンスに関してはやはり危うく、どちらからもいいパンチを何度か被弾したように記憶している。特にバルボーザ戦では、純粋なスタンドでは恐らくバルボーザの方が若干上だっただろう。
戦績的にはこれでタイトル挑戦権を得ても何らおかしくはないところまで来た。心技体、どれも今からがセローニのピークだろう。時期としては最高だ。だが、この欠点に対して何らかの改善が見られなければ、恐らく現王者、「ショータイム」アンソニー・ペティスに勝つことは不可能だ。
なぜならスキル・セットがほぼ一緒だからだ。スピード、目の良さ、パンチの巧さ、フットワークなどでペティスが上回っている以上、同型のセローニはかなり分が悪い。ペティスに対抗する戦略や技術、若しくは己の弱点の克服が必要不可欠になってくる。

今回見せた、カウンターの膝というのは一つのパンチ対策の答えではあるだろう。効果は抜群、ミラーはまんまと引っかかってガスタンクにでかい穴を開けられた。だがこれがあの「ショータイム」に当たるかと問われればどうだろうか?私の首はユライア・フェイバーにチョークを掛けられているとしか思えないほど、縦に動かすことが出来ないでいる。
金網を駆け抜けるカウボーイの明日はどっちだ!

己の命をリボルバーに充填し、四方八方に乱射しながら、カウボーイは人生の荒野を縦横無尽に駆け抜ける。魂の銃弾で賞金首を次々に撃ち倒し、得た金で再び命を弾丸に変えていくのだ。不器用で危なっかしい、だがとても羨ましい生き方だ。
セローニは格闘技だけではなく、ロッククライミング、乗馬、狩猟なども趣味にしている。どれもが興奮を強く感じるスポーツだ。セローニは己の命を土壇場に晒して、それが大きく躍動する感覚の虜なのだろう。宵越しの銭を持たないのも、もしかしたら常に自分に危機感を与えたいからなのかもしれない。
彼がその感覚の中毒なのであれば、金網の中はまさに彼に相応しいステージだろう。腰に据えたリボルバーを抜き放ち、死ぬか生きるかをわずか一瞬間に決定するのだ。勝てば大金、負ければ暗闇、それは複雑怪奇なこの世界で、これ以上にないほどわかりやすく、そして激しい生き方だ。
そう考えた時、セローニの勝利後の表情は少しだけ理解できるような気がする。彼はあの瞬間、闘いを生き延びることができたあの刹那にこそ、もっとも深い生きる喜びを噛みしめているのではないだろうか?勝利の喜びならば人は誰しもはしゃいで笑顔を見せるだろう。だが「己の命は今、この瞬間まで生きながらえることが出来たのだ!」という感動を感じる時、人は果たして騒ぎまわるような喜び方をするだろうか?彼のように深刻で、より真剣な表情になるのではないか、私はそう思っている。それは瀕死の危機を、すんでのところで回避した後の感覚に近いのだろう。
カウボーイはこれからも明日に向かって一目散に駆けてゆく。その先に待つものは偉大なる王座か、野垂れ死にして鳥の餌か。それはグレート・スピリッツすらも知りえない。ただ一つだけはっきりとわかることがある。どちらにしても、最後の時、カウボーイは前のめりに倒れているだろう。
そして顔を見てみれば、あいつはきっと、最高の笑顔でくたばっているに違いない。さあ、ドナルド・「カウボーイ」・セローニの明日はどっちだ!

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なぜならスキル・セットがほぼ一緒だからだ。スピード、目の良さ、パンチの巧さ、フットワークなどでペティスが上回っている以上、同型のセローニはかなり分が悪い。ペティスに対抗する戦略や技術、若しくは己の弱点の克服が必要不可欠になってくる。
今回見せた、カウンターの膝というのは一つのパンチ対策の答えではあるだろう。効果は抜群、ミラーはまんまと引っかかってガスタンクにでかい穴を開けられた。だがこれがあの「ショータイム」に当たるかと問われればどうだろうか?私の首はユライア・フェイバーにチョークを掛けられているとしか思えないほど、縦に動かすことが出来ないでいる。
金網を駆け抜けるカウボーイの明日はどっちだ!
己の命をリボルバーに充填し、四方八方に乱射しながら、カウボーイは人生の荒野を縦横無尽に駆け抜ける。魂の銃弾で賞金首を次々に撃ち倒し、得た金で再び命を弾丸に変えていくのだ。不器用で危なっかしい、だがとても羨ましい生き方だ。
セローニは格闘技だけではなく、ロッククライミング、乗馬、狩猟なども趣味にしている。どれもが興奮を強く感じるスポーツだ。セローニは己の命を土壇場に晒して、それが大きく躍動する感覚の虜なのだろう。宵越しの銭を持たないのも、もしかしたら常に自分に危機感を与えたいからなのかもしれない。
彼がその感覚の中毒なのであれば、金網の中はまさに彼に相応しいステージだろう。腰に据えたリボルバーを抜き放ち、死ぬか生きるかをわずか一瞬間に決定するのだ。勝てば大金、負ければ暗闇、それは複雑怪奇なこの世界で、これ以上にないほどわかりやすく、そして激しい生き方だ。
そう考えた時、セローニの勝利後の表情は少しだけ理解できるような気がする。彼はあの瞬間、闘いを生き延びることができたあの刹那にこそ、もっとも深い生きる喜びを噛みしめているのではないだろうか?勝利の喜びならば人は誰しもはしゃいで笑顔を見せるだろう。だが「己の命は今、この瞬間まで生きながらえることが出来たのだ!」という感動を感じる時、人は果たして騒ぎまわるような喜び方をするだろうか?彼のように深刻で、より真剣な表情になるのではないか、私はそう思っている。それは瀕死の危機を、すんでのところで回避した後の感覚に近いのだろう。
カウボーイはこれからも明日に向かって一目散に駆けてゆく。その先に待つものは偉大なる王座か、野垂れ死にして鳥の餌か。それはグレート・スピリッツすらも知りえない。ただ一つだけはっきりとわかることがある。どちらにしても、最後の時、カウボーイは前のめりに倒れているだろう。
そして顔を見てみれば、あいつはきっと、最高の笑顔でくたばっているに違いない。さあ、ドナルド・「カウボーイ」・セローニの明日はどっちだ!
セラーニさん…w
返信削除渦中のUFC178で、「俺を使えオレヲツカエおれをつかえ!」戦法で試合決まっちゃって、本当に年間6試合いっちゃうんじゃないですかね?w
まるで明日がないような生き方…昭和な感じがカッコイイですが真似はしたくないタイプですねwでもやっぱイカス!
6試合いったらたぶん最多数記録ですよね。とうとうカウボーイはアルバレスを迎え撃つという大役まで仰せつかっちゃいましたし、これに勝てばマジでカウボーイ人気は最高潮になると思います。今のノリにのってるカウボーイならやれるかもしれない!
削除昭和というかなんというか、ほんと大時代的な生き方です。たぶん生まれる時代を間違えてると思います。今の日本の風潮とは真逆な生き方ですが、私は彼みたいに生きたいと思って日々努力している最中ですw