WIN ティム・ボウシュ vs ブラッド・タバレス
(2R 右フックによるKO)
デジャブ!全てをひっくり返すノックアウト・パワー

ブラッド・タバレスは間違いなく優位だった。スキルにおいても概ねタバレスの方が優れていたように見えた。だが2R、ケージ際に崩れ落ちていたのはボウシュではなく、タバレスの方だった。
実況は「デ・ジャ・ブ!」と叫んだ。そう、この光景は見た記憶がある。2年前の冬の日、私は埼玉スーパーアリーナにいた。そして全身の血が逆流するような感覚と共に、今回と同じ場面を確かに見たのだ。
「ティム・ボウシュ被害者の会」が結成される日も近いかもしれない。副会長はブラッド・タバレス、そして初代会長の座に着くのは日本が誇るMMAファイター、「サンダー」岡見勇信だ。2年前の記念すべきUFC日本大会で、最終ラウンドまで全局面で圧倒しながらも、たった一発のハイキックから岡見勇信は全てをぶち壊された。彼の凱旋試合での勝利を待ち望んでいた観客たちは、腰が砕け、金網に頭を凭れて崩れていく英雄をただ呆然と見つめるばかりだった。
たとえスキルやフィジカルで劣っていたとしても、何らかの手段で相手の脳さえ揺さぶってしまえば勝利をもぎ取ることができる、それがMMAの最大の魅力の一つだろう。そしてティム・ボウシュは、そのわずか一瞬を捉える秘伝を知っているらしい。
1Rはタバレスのペースだった。序盤からタックルを狙うボウシュだがタバレスにきっちりと阻まれ、壁際の攻防ではタバレスの圧力に負けて長時間金網を背負った。ボウシュは掌底で側頭部を狙って相手の脳を揺さぶりに掛かるが、狙いすました肘の一撃を貰って早々に出血する。その後もボウシュが組みに行っては金網を背負い、という展開を繰り返した。中盤以降に上手くタイミングがあったためにタバレスを転がし、そのまま横からパウンドで強引に殴りつけたボウシュだったが、これもすぐに脱出されるとまたしても金網を背負う展開となる。さらにタバレスが深く腋の下に手を回したために4点ポジションになることができず、不利な体勢で何度も頭部に膝を打ち込まれて1Rを終了した。

2R、ケージ・レスリングで分があると踏んだタバレスは、1Rのスタンドで行く方針を転換して押し込んで削ることを優先して仕掛けていく。またしても押し込まれて金網を背負ったボウシュだが、疲れは見えるもののまだ冷静に状況を見ていた。
どちらも有効打を与えられないためにブレイクが掛かる。互いにスタミナの消耗が見え、特にボウシュはふらつきすら見え始めていた。この時点ではタバレスが優位に見えた。だが、その直後に悲劇が訪れたのだ。
パンチで分があると判断したタバレスがこれまでと違って深めに踏み込んだ瞬間、ボウシュは再三狙っていた上体を振りながらのフックを捨身で放った。これがカウンターとなってタバレスの死角から突き刺さると、タバレスはいとも簡単にマットに転がり落ちた。
タバレスは慌てた。急いで立ち上がると金網まで下がり、そのまま横に逃げようとした時だ。ボウシュはタバレスの顔をじっと見つめながら、その移動先を予測して右フックをその逃げ道に置く様に放った。ボウシュの顔ばかりを凝視していたタバレスは、自分の顎に拳が迫ることなど想像もしていなかったに違いない。自分からフックに当たりに行く形となったタバレスは、自らダメージを倍加してそのまま金網に凭れるように昏倒した。

KOの秘訣は我慢強さと頑丈さ、そして仕掛けの巧さにあり
ボウシュは決して何か一つに突出して優れているわけではない。だが全てが平均点以上であることに加え、彼には持ち前の頑丈さと我慢強さがある。この二つでギリギリのところでも平静さを保っていられるのが逆転劇の要となっているように思う。
ボウシュは劣勢でも慌てないのが大きな特徴だ。岡見戦ではどの局面でも圧倒されていた。特に組みでは相手にならなかった。だがジャブを貰っても下になっても、ボウシュは決して焦りを見せることはなかったのだ。
それはこの試合でも同様だ。壁際で削られても、膝をしこたま頭に貰っても、ボウシュは「どうすればいいのか?」をひたすらに考えていたように思う。もちろん彼が打たれ強いからこそできることだが、劣勢でも力まずにいられることが彼に常にノックアウト・パワーが残っている理由だろうと考えている。
またボウシュは戦略に精通している。彼は最初からただの殴り合いでは不利なことを承知しており、テイクダウンをしつこく狙っていった。結果的にクリンチでは負けていたし、それである程度のダメージを受けたのは事実だ。だがその仕掛けによってタバレスが打撃では自分が有利だと油断した可能性が高い。だからこそタバレスな安易に飛び込み、そして強烈なカウンターを貰うことになったのだ。

タバレスは距離を取ってスタンドで勝負するほうが賢明だっただろう。特にジャブ漬けにするのがベストだったと思っている。だが1Rにクリンチで優位に立ったことで、タバレスは自らクリンチを選び、そして押し込みで無駄にスタミナを消耗した。クリンチで優位だったのはタバレスだが、組みでの燃費の悪さもまたタバレスの方が上だったのだ。これは判断ミスをした、というよりはボウシュに判断ミスを誘われた、というほうが正確なように思う。

試合をするならば、ボウシュのような相手は非常に厄介だろう。自分の方が実力的には上であったとしても、わずかな判断ミスから一気に崩されてしまうのだ。また一旦流れを掴んでからの、ボウシュのフィニッシュへの嗅覚は称賛に値するだろう。劣勢からの逆転なるか、という場面で、あれほど冷静に相手の逃げ道にフックを置ける選手はそうはいないように思う。
これから王座を狙おうか、というタバレスにとっては痛恨の敗北となった。だがこれがあるからこそMMAは面白いのだ。ボウシュのようなタイプを相手に圧勝できるようでなければ、いずれにしろ王座にはまだ届かないだろう。この敗北を糧に彼は何を学ぶのか、どこか小賢しいところが出始めていたタバレスにとっては、これ以上ない教訓となったように思う。

パンチで分があると判断したタバレスがこれまでと違って深めに踏み込んだ瞬間、ボウシュは再三狙っていた上体を振りながらのフックを捨身で放った。これがカウンターとなってタバレスの死角から突き刺さると、タバレスはいとも簡単にマットに転がり落ちた。
タバレスは慌てた。急いで立ち上がると金網まで下がり、そのまま横に逃げようとした時だ。ボウシュはタバレスの顔をじっと見つめながら、その移動先を予測して右フックをその逃げ道に置く様に放った。ボウシュの顔ばかりを凝視していたタバレスは、自分の顎に拳が迫ることなど想像もしていなかったに違いない。自分からフックに当たりに行く形となったタバレスは、自らダメージを倍加してそのまま金網に凭れるように昏倒した。
KOの秘訣は我慢強さと頑丈さ、そして仕掛けの巧さにあり
ボウシュは決して何か一つに突出して優れているわけではない。だが全てが平均点以上であることに加え、彼には持ち前の頑丈さと我慢強さがある。この二つでギリギリのところでも平静さを保っていられるのが逆転劇の要となっているように思う。
ボウシュは劣勢でも慌てないのが大きな特徴だ。岡見戦ではどの局面でも圧倒されていた。特に組みでは相手にならなかった。だがジャブを貰っても下になっても、ボウシュは決して焦りを見せることはなかったのだ。
それはこの試合でも同様だ。壁際で削られても、膝をしこたま頭に貰っても、ボウシュは「どうすればいいのか?」をひたすらに考えていたように思う。もちろん彼が打たれ強いからこそできることだが、劣勢でも力まずにいられることが彼に常にノックアウト・パワーが残っている理由だろうと考えている。
またボウシュは戦略に精通している。彼は最初からただの殴り合いでは不利なことを承知しており、テイクダウンをしつこく狙っていった。結果的にクリンチでは負けていたし、それである程度のダメージを受けたのは事実だ。だがその仕掛けによってタバレスが打撃では自分が有利だと油断した可能性が高い。だからこそタバレスな安易に飛び込み、そして強烈なカウンターを貰うことになったのだ。
タバレスは距離を取ってスタンドで勝負するほうが賢明だっただろう。特にジャブ漬けにするのがベストだったと思っている。だが1Rにクリンチで優位に立ったことで、タバレスは自らクリンチを選び、そして押し込みで無駄にスタミナを消耗した。クリンチで優位だったのはタバレスだが、組みでの燃費の悪さもまたタバレスの方が上だったのだ。これは判断ミスをした、というよりはボウシュに判断ミスを誘われた、というほうが正確なように思う。
試合をするならば、ボウシュのような相手は非常に厄介だろう。自分の方が実力的には上であったとしても、わずかな判断ミスから一気に崩されてしまうのだ。また一旦流れを掴んでからの、ボウシュのフィニッシュへの嗅覚は称賛に値するだろう。劣勢からの逆転なるか、という場面で、あれほど冷静に相手の逃げ道にフックを置ける選手はそうはいないように思う。
これから王座を狙おうか、というタバレスにとっては痛恨の敗北となった。だがこれがあるからこそMMAは面白いのだ。ボウシュのようなタイプを相手に圧勝できるようでなければ、いずれにしろ王座にはまだ届かないだろう。この敗北を糧に彼は何を学ぶのか、どこか小賢しいところが出始めていたタバレスにとっては、これ以上ない教訓となったように思う。
ライト級5分3R
WIN ロス・ピアソン vs グレイ・メイナード
(2R ワンツー・左フック→パウンドによるTKO)
ロス・ピアソン、サンチェス戦を払しょくする痛快KO勝利

テイル・オブ・ザ・テープをぼんやりと眺めて「ピアソンさんももう39歳かー」と思っていた。だがその数字は29だった。私は思わず3度ほど確認した。やはり29だ。私の脳はロス・ピアソンのことを完全に35歳以上だと認識しており、そのために29という数字を信用しなかったようだ。いやいや、完全におじいちゃんの顔だろ!と思う一方で、自分の勘違いをとても嬉しく思った。
今の実力で29歳ならば、ロス・ピアソンはこれから上位に行ける可能性がまだ十分あるからだ。この日ロス・ピアソンは自慢の拳で「ザ・ブリー」グレイ・メイナードを完全に粉砕した。次戦に勝利すれば、彼に王座挑戦の切符が回ってくることもあるだろう。
私はロス・ピアソンが好きだ。自分からガンガン前に出て揺さぶりを掛ける選手が基本的に好きなのだと思う。この試合でも、ピアソンは頭脳と肉体をフル回転させてメイナードに自分から仕掛けていった。
ピアソンはパンチが主武器だ。だが決してパンチ一辺倒ではない点に彼の凄さがある。この試合で特に光ったのはコンパクトなインローだ。ステップインのフェイントと絡ませて一発、飛び込んでからのコンビネーションの起点として一発と、コンパクトながらも鋭く、そしてフットワークの邪魔にならない蹴り方をしていく。これに加えて左ミドル、左ハイなども絡めてメイナードのディフェンスを散らしていった。パンチしかないというイメージを逆手に取っていたのではないかと思う。
フットワークにも優れている。ただまっすぐ入るのではなく、踏み込んでからジグザグに動いたり、相手の出てくるのに合わせて横に回り込んでフックを引っかけたりと、ずんぐりとした体型からは想像もつかないほどに機動力がある。

ディフェンス、それもパンチディフェンスに関してピアソンは全階級を通じても屈指の技術があるだろう。相手を見据えてガードをあげ、常に上体と足を動かして相手に的を絞らせない。このディフェンスがあるからこそ、ピアソンは恐れずに中に入っていけるのだ。
こうしてピアソンはメイナードに的確に打撃を当てていき、そしてとうとう2Rに飛び込んでの右ショートを当てるとこれが効いた。揺れた脳を無理やり叩き起こすように目を見開いたメイナードは、ガードをあげて必死になってピアソンの顔を見つめる。だがもはやパンチは見えていなかった。ピアソンはそのまま見事なワンツーを叩き込み、顎があがったところに全身を浴びせるような左フックを繋げると、メイナードの体は金網に向かって弾き飛ばされた。

素晴らしいKO勝利によって、ピアソンはライト級で確固たる地位を築くことに成功した。この前の試合ではサンチェスの顔芸によって判定負けを喫していたが、このKOでその嫌な記憶もすべて吹き飛ばしたように思う。
WIN ロス・ピアソン vs グレイ・メイナード
(2R ワンツー・左フック→パウンドによるTKO)
ロス・ピアソン、サンチェス戦を払しょくする痛快KO勝利
テイル・オブ・ザ・テープをぼんやりと眺めて「ピアソンさんももう39歳かー」と思っていた。だがその数字は29だった。私は思わず3度ほど確認した。やはり29だ。私の脳はロス・ピアソンのことを完全に35歳以上だと認識しており、そのために29という数字を信用しなかったようだ。いやいや、完全におじいちゃんの顔だろ!と思う一方で、自分の勘違いをとても嬉しく思った。
今の実力で29歳ならば、ロス・ピアソンはこれから上位に行ける可能性がまだ十分あるからだ。この日ロス・ピアソンは自慢の拳で「ザ・ブリー」グレイ・メイナードを完全に粉砕した。次戦に勝利すれば、彼に王座挑戦の切符が回ってくることもあるだろう。
私はロス・ピアソンが好きだ。自分からガンガン前に出て揺さぶりを掛ける選手が基本的に好きなのだと思う。この試合でも、ピアソンは頭脳と肉体をフル回転させてメイナードに自分から仕掛けていった。
ピアソンはパンチが主武器だ。だが決してパンチ一辺倒ではない点に彼の凄さがある。この試合で特に光ったのはコンパクトなインローだ。ステップインのフェイントと絡ませて一発、飛び込んでからのコンビネーションの起点として一発と、コンパクトながらも鋭く、そしてフットワークの邪魔にならない蹴り方をしていく。これに加えて左ミドル、左ハイなども絡めてメイナードのディフェンスを散らしていった。パンチしかないというイメージを逆手に取っていたのではないかと思う。
フットワークにも優れている。ただまっすぐ入るのではなく、踏み込んでからジグザグに動いたり、相手の出てくるのに合わせて横に回り込んでフックを引っかけたりと、ずんぐりとした体型からは想像もつかないほどに機動力がある。
ディフェンス、それもパンチディフェンスに関してピアソンは全階級を通じても屈指の技術があるだろう。相手を見据えてガードをあげ、常に上体と足を動かして相手に的を絞らせない。このディフェンスがあるからこそ、ピアソンは恐れずに中に入っていけるのだ。
こうしてピアソンはメイナードに的確に打撃を当てていき、そしてとうとう2Rに飛び込んでの右ショートを当てるとこれが効いた。揺れた脳を無理やり叩き起こすように目を見開いたメイナードは、ガードをあげて必死になってピアソンの顔を見つめる。だがもはやパンチは見えていなかった。ピアソンはそのまま見事なワンツーを叩き込み、顎があがったところに全身を浴びせるような左フックを繋げると、メイナードの体は金網に向かって弾き飛ばされた。
素晴らしいKO勝利によって、ピアソンはライト級で確固たる地位を築くことに成功した。この前の試合ではサンチェスの顔芸によって判定負けを喫していたが、このKOでその嫌な記憶もすべて吹き飛ばしたように思う。
ロス・ピアソンは体格に優れるわけではないが負けん気が強く、恐れずに自分からどんどん前に出て勝負を仕掛けることのできる素晴らしいファイターの一人だ。アメリカとブラジルの選手がトップに多い今のUFCで、イングランド出身というのも好ましく思っている。スタイルや体格を考えるに、ここから先はかなり厳しい戦いになっていくだろう。だが是非とも王座戦まで辿り着いてほしい、私はそう願っている。
大丈夫、まだ伸びしろはあるはずだ。何しろ彼は還暦前ではない、まだ三十路前なのだから。

ライト級の立役者に迫りつつある「引退」の二文字
一方のグレイ・メイナードはこれで完全にトップ・コンテンダーのグループから転落したといえるだろう。引退の二文字が否が応でもチラつきはじめた。本人はまだ現役続行の意思があるとのことだが、試合内容を鑑みるに、王者への道のりは絶望的だ。
メイナードの試合を見るたびに、彼の体が少しずつ縮んでいるような錯覚に陥る。これは恐らく「ジ・アンサー」フランキー・エドガーとの3度にわたる死闘の負の影響だろう。小さき英雄の前に立ちはだかる巨大なファイター、というイメージがそれらの試合ですっかり定着してしまったがために、私はメイナードは体格に優れるという誤解をいまだに払しょくできずにいたようだ。
だがフェザーから戻ってきたロス・ピアソンとの対戦において体格にほぼ差が無かったことで、私のシナプスはようやく修正に応じる気になってくれたようだ。この試合ではパワーでもピアソンと五分、もしくは負けていたくらいであり、メイナードはピアソンとは反対にフェザーに落とすことも考えた方がいいかもしれない。
試合の組み立ては悪くなかっただろう。パンチ主体で戦い、合間にタックルを織り交ぜていった。TDは1度成功しすぐに立たれてしまったが、攻め方としては理想的だ。パンチでも執拗にボディを叩いていったのはよかったと思う。KOされる直前のボディも中々のハードヒットで、ピアソンは距離を取って呼吸を整えていたことからも効果はあったのだ。

だがそれ以外のパンチはほとんど当たる気配が無かった。たまに当たってもピアソンをぐらつかせるほどの火力は無く、パンチ以外の武器が無いメイナードは手詰まり感が強かった。
そして何よりも気になったのが目の悪さだ。上体を振って被弾に気を付けていたのはよかったが、パンチそのものが見えていたとは言い難い動きだったように思う。同じように上体を振っていたピアソンと大きく違ったのはその点だ。ピアソンは見て体を動かしている。だがメイナードは目の悪さを補うように、保険で体を振っているにすぎなかったのではないか、と私は感じた。
この目の悪さはここ数戦、ずっとメイナードから感じていた最大の不安要因だ。決して打たれ強くもなく、脳が少し揺れると途端にディフェンスが崩壊して一気にKO負けまで行ってしまう。この脳の揺れやすさも、メイナードのこれからのキャリアに暗い影を落としている。
正直、メイナードがどう戦い方を工夫しても恐らくピアソンには勝てなかっただろう。この感覚は私だけではないはずだ。だからこそ、この敗戦後に「引退」という言葉が囁かれ始めたのだ。
フランキー・エドガーとの名勝負でライト級の歴史を創り上げたもう一人の英雄に、今、大きな危機が訪れている。可能であればもう一度トップ戦線に返り咲いてほしいと思う。だが彼の現状を俯瞰したときに、それは叶いそうもない夢だと感じざるを得ないでいる。

ライトヘビー級 5分5R
WIN ライアン・ベイダー vs オーヴィンス・サンプルー
(5R ユナニマス・デシジョンによる判定勝利)
ベイダー、死に物狂いで掴んだ判定勝利

決していい勝ち方だったとは言えないだろう。弱気になってしまう場面も多かった。だが、一度逃した好調の波に再び乗るためには、まずどんな形でもいいから勝利を手にするというのは一つの優れたやり方だ。
ライアン・「ダース」・ベイダーは、これで敗戦から3連勝となった。波に乗りかける度にボードから転落していたこの男は、この勝利で再び波に乗っていけるかもしれない。十分なポテンシャルを感じさせながらその実力を発揮しきれなかった不遇の男は、これでようやく一つの壁を乗り越えたように思う。
飛び込んでからの射程の長いストレートを得意とするベイダーは序盤からパンチを狙っていくが、蹴りを主体とする長身のサンプルーを相手に距離が合わない。ヒットするのは概ねカウンターのタイミングが多かっただろう。パンチとタックルが主体のベイダーは、蹴りの距離で攻めあぐねるシーンも多かった。

それでもパンチとタックルの連携は素晴らしく、1Rから飛び込んでパンチ、ガードさせて転がすというコンビネーションでTDを奪っていく。ベイダーの突進力は凄まじく、サンプル―は堪える暇もなくマットに転がっていった。このコンビネーションはこの試合で猛威を振るい、トータル9回というTD数を記録している。

これで転がして上を取り、それを全力でキープすることでラウンドを制していった。4R中盤以降は全てをテイクダウンとトップキープに費やした。なりふり構わない戦い方ではあったが、得意な局面を可能な限り維持するのは基本中の基本だ。5Rではスタンドを嫌いすぎて上からエルボーを落とされて出血し、かなり危ういシーンもあったが逃げ切って勝利した。
一方で問題点も多かった。
まずTDした後の削りが甘いことだ。サイドをとってもあまりいいパウンドは打てていない。サンプルーが立つのを阻止することに手一杯で、せっかくのトップキープも活きていたとは言い難い。削りが甘いために自分の使ったスタミナに見合うほどには相手を弱らせることが出来なかった。ここでもっと殴っていけるようにならなければ、今後もスタミナをロスしてガードが甘くなったところで危機が訪れることになるだろう。
スタンドでも単調になりがちだ。今回はサンプルーが比較的転がされやすかったからいいものの、パンチと連携したタックルを見切られたらすぐに手詰まりになるだろう。この試合でもその危険性はあった。蹴りは出していたものの巧いとは言い難く、もっと相手のディフェンスを散らす戦い方の構築が求められる。それがなければ、やはり王座には届かないままだろう。
何よりも問題なのが、スタンドでのジリジリとした競り合いでいい打撃を貰うと弱気になりがちなことだ。特に5Rでは逃げ切り狙いもあったのだろうが、スタンドでの事故を警戒するあまりに過剰にタックルで粘り、かえって側頭部に肘を落とされて流血している。あの肘は当たり方次第ではKOがあることは既に判明している。ベイダーは過去に有利な状況で安易に飛び込んで、返り討ちにされたことが2度ほどある。そのトラウマが彼に過度の警戒心を抱かせているのだろうが、結局その極端さが問題なのだ。ベクトルが違うだけで、根本的な問題はまだ完全に解決していないように思う。

体格、フィジカル、年齢、技術、どれも悪くないものを持ちながら、それらがいまいちちぐはぐな印象を与えるベイダーはなんとか勝利をものにした。まずここできちんと勝ち、自信を持つことがこの問題を解消する一番の特効薬だと思うので、とりあえずは今回の勝利を歓迎したいところだ。
対するサンプルーもまた、持っている力をすべて発揮できないままにずるずると負けた試合だった。素養という面ではかなりのものがありそうだが、技術、経験にまだまだ不足が多いように思う。

まずパンチの技術があまりないように感じた。彼の打撃を見て最初に思ったのが「うわー、なんか懐かしい!」という感想だったほどだ。ほぼ身体能力頼みのパンチで、腕をぶんぶんと振り回す乱暴なフックは当たれば倒れることもあるだろうが、今のUFCではそうそう当たることはないだろう。飛び込んでのパンチがすべて大振りなフックのために、ベイダーにことごとくストレート系のパンチをカウンターで当てられてしまい、途中からパンチそのものを手控えてしまった。「ボブ・サップ」というワードが試合中に何度か頭をよぎったことからも、つまりはそういうことなのだろう。

スタミナも厳しかった。5Rマッチだから、という理由だけではないだろう。というのも、すでに3R開始時点でサンプルーはすっかりバテていたからだ。グラップリングで消耗したのかボディが効いたのかは判然としないが、あまりにも早すぎるガス欠だった。ただでさえパンチでの細かい削りがないサンプルーは、スタミナ切れで蹴りすらも出し惜しみし始めてから手数が絶望的になった。蹴りでボディを効かせても、単発で終わるためにベイダーに回復の機会を与えてしまった。とても5Rを想定していたとは思えない。
最後にベイダー同様、メンタル面がいまいちだったように思う。リスクを忌避しすぎるあまりに、勝てる機会をすべて見逃してしまったように思った。あと少し踏み込めば試合の展開が大きく変わる、そう感じる一歩手前で毎回立ち止まってしまうのだ。飛び込んで自分のパンチが当たっても、カウンターを貰うとすぐにそれをやめてしまう。スタミナが苦しくなってくると、せっかく良い蹴りが当たったのに追撃をせずに休んでしまう。これは一見合理的に見えて、その実勝機を逃しているだけだ。苦しいところでリスクを背負って前に出ることができなければ、接戦を制することはできないだろう。この点に関しては、ボウシュの心構えを見習うべきだろう。TDを取られすぎて判定で負けることは4R時点で明らかだったはずだ。5R、スタミナ切れで動きが怪しくなっていたベイダーに猛攻を仕掛ければKOできた可能性もかなりあったはずだ。

そういう意味で、この二人は似た者同士の対戦だったのかもしれない。だがたとえ見苦しくとも、勝利だけを求めて足掻いたベイダーのほうが結果的に自分から仕掛け、有利な局面を維持することに成功したと言えるだろう。
リスクを負って前に出る勇気を持った時、ライトヘビーにはトップ・コンテンダーがあと二人増えるに違いない。今後の彼らの成長に大いに期待していきたいところだ。

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大丈夫、まだ伸びしろはあるはずだ。何しろ彼は還暦前ではない、まだ三十路前なのだから。
ライト級の立役者に迫りつつある「引退」の二文字
一方のグレイ・メイナードはこれで完全にトップ・コンテンダーのグループから転落したといえるだろう。引退の二文字が否が応でもチラつきはじめた。本人はまだ現役続行の意思があるとのことだが、試合内容を鑑みるに、王者への道のりは絶望的だ。
メイナードの試合を見るたびに、彼の体が少しずつ縮んでいるような錯覚に陥る。これは恐らく「ジ・アンサー」フランキー・エドガーとの3度にわたる死闘の負の影響だろう。小さき英雄の前に立ちはだかる巨大なファイター、というイメージがそれらの試合ですっかり定着してしまったがために、私はメイナードは体格に優れるという誤解をいまだに払しょくできずにいたようだ。
だがフェザーから戻ってきたロス・ピアソンとの対戦において体格にほぼ差が無かったことで、私のシナプスはようやく修正に応じる気になってくれたようだ。この試合ではパワーでもピアソンと五分、もしくは負けていたくらいであり、メイナードはピアソンとは反対にフェザーに落とすことも考えた方がいいかもしれない。
試合の組み立ては悪くなかっただろう。パンチ主体で戦い、合間にタックルを織り交ぜていった。TDは1度成功しすぐに立たれてしまったが、攻め方としては理想的だ。パンチでも執拗にボディを叩いていったのはよかったと思う。KOされる直前のボディも中々のハードヒットで、ピアソンは距離を取って呼吸を整えていたことからも効果はあったのだ。
だがそれ以外のパンチはほとんど当たる気配が無かった。たまに当たってもピアソンをぐらつかせるほどの火力は無く、パンチ以外の武器が無いメイナードは手詰まり感が強かった。
そして何よりも気になったのが目の悪さだ。上体を振って被弾に気を付けていたのはよかったが、パンチそのものが見えていたとは言い難い動きだったように思う。同じように上体を振っていたピアソンと大きく違ったのはその点だ。ピアソンは見て体を動かしている。だがメイナードは目の悪さを補うように、保険で体を振っているにすぎなかったのではないか、と私は感じた。
この目の悪さはここ数戦、ずっとメイナードから感じていた最大の不安要因だ。決して打たれ強くもなく、脳が少し揺れると途端にディフェンスが崩壊して一気にKO負けまで行ってしまう。この脳の揺れやすさも、メイナードのこれからのキャリアに暗い影を落としている。
正直、メイナードがどう戦い方を工夫しても恐らくピアソンには勝てなかっただろう。この感覚は私だけではないはずだ。だからこそ、この敗戦後に「引退」という言葉が囁かれ始めたのだ。
フランキー・エドガーとの名勝負でライト級の歴史を創り上げたもう一人の英雄に、今、大きな危機が訪れている。可能であればもう一度トップ戦線に返り咲いてほしいと思う。だが彼の現状を俯瞰したときに、それは叶いそうもない夢だと感じざるを得ないでいる。
ライトヘビー級 5分5R
WIN ライアン・ベイダー vs オーヴィンス・サンプルー
(5R ユナニマス・デシジョンによる判定勝利)
ベイダー、死に物狂いで掴んだ判定勝利
決していい勝ち方だったとは言えないだろう。弱気になってしまう場面も多かった。だが、一度逃した好調の波に再び乗るためには、まずどんな形でもいいから勝利を手にするというのは一つの優れたやり方だ。
ライアン・「ダース」・ベイダーは、これで敗戦から3連勝となった。波に乗りかける度にボードから転落していたこの男は、この勝利で再び波に乗っていけるかもしれない。十分なポテンシャルを感じさせながらその実力を発揮しきれなかった不遇の男は、これでようやく一つの壁を乗り越えたように思う。
飛び込んでからの射程の長いストレートを得意とするベイダーは序盤からパンチを狙っていくが、蹴りを主体とする長身のサンプルーを相手に距離が合わない。ヒットするのは概ねカウンターのタイミングが多かっただろう。パンチとタックルが主体のベイダーは、蹴りの距離で攻めあぐねるシーンも多かった。
それでもパンチとタックルの連携は素晴らしく、1Rから飛び込んでパンチ、ガードさせて転がすというコンビネーションでTDを奪っていく。ベイダーの突進力は凄まじく、サンプル―は堪える暇もなくマットに転がっていった。このコンビネーションはこの試合で猛威を振るい、トータル9回というTD数を記録している。
これで転がして上を取り、それを全力でキープすることでラウンドを制していった。4R中盤以降は全てをテイクダウンとトップキープに費やした。なりふり構わない戦い方ではあったが、得意な局面を可能な限り維持するのは基本中の基本だ。5Rではスタンドを嫌いすぎて上からエルボーを落とされて出血し、かなり危ういシーンもあったが逃げ切って勝利した。
一方で問題点も多かった。
まずTDした後の削りが甘いことだ。サイドをとってもあまりいいパウンドは打てていない。サンプルーが立つのを阻止することに手一杯で、せっかくのトップキープも活きていたとは言い難い。削りが甘いために自分の使ったスタミナに見合うほどには相手を弱らせることが出来なかった。ここでもっと殴っていけるようにならなければ、今後もスタミナをロスしてガードが甘くなったところで危機が訪れることになるだろう。
スタンドでも単調になりがちだ。今回はサンプルーが比較的転がされやすかったからいいものの、パンチと連携したタックルを見切られたらすぐに手詰まりになるだろう。この試合でもその危険性はあった。蹴りは出していたものの巧いとは言い難く、もっと相手のディフェンスを散らす戦い方の構築が求められる。それがなければ、やはり王座には届かないままだろう。
何よりも問題なのが、スタンドでのジリジリとした競り合いでいい打撃を貰うと弱気になりがちなことだ。特に5Rでは逃げ切り狙いもあったのだろうが、スタンドでの事故を警戒するあまりに過剰にタックルで粘り、かえって側頭部に肘を落とされて流血している。あの肘は当たり方次第ではKOがあることは既に判明している。ベイダーは過去に有利な状況で安易に飛び込んで、返り討ちにされたことが2度ほどある。そのトラウマが彼に過度の警戒心を抱かせているのだろうが、結局その極端さが問題なのだ。ベクトルが違うだけで、根本的な問題はまだ完全に解決していないように思う。
体格、フィジカル、年齢、技術、どれも悪くないものを持ちながら、それらがいまいちちぐはぐな印象を与えるベイダーはなんとか勝利をものにした。まずここできちんと勝ち、自信を持つことがこの問題を解消する一番の特効薬だと思うので、とりあえずは今回の勝利を歓迎したいところだ。
対するサンプルーもまた、持っている力をすべて発揮できないままにずるずると負けた試合だった。素養という面ではかなりのものがありそうだが、技術、経験にまだまだ不足が多いように思う。
まずパンチの技術があまりないように感じた。彼の打撃を見て最初に思ったのが「うわー、なんか懐かしい!」という感想だったほどだ。ほぼ身体能力頼みのパンチで、腕をぶんぶんと振り回す乱暴なフックは当たれば倒れることもあるだろうが、今のUFCではそうそう当たることはないだろう。飛び込んでのパンチがすべて大振りなフックのために、ベイダーにことごとくストレート系のパンチをカウンターで当てられてしまい、途中からパンチそのものを手控えてしまった。「ボブ・サップ」というワードが試合中に何度か頭をよぎったことからも、つまりはそういうことなのだろう。
スタミナも厳しかった。5Rマッチだから、という理由だけではないだろう。というのも、すでに3R開始時点でサンプルーはすっかりバテていたからだ。グラップリングで消耗したのかボディが効いたのかは判然としないが、あまりにも早すぎるガス欠だった。ただでさえパンチでの細かい削りがないサンプルーは、スタミナ切れで蹴りすらも出し惜しみし始めてから手数が絶望的になった。蹴りでボディを効かせても、単発で終わるためにベイダーに回復の機会を与えてしまった。とても5Rを想定していたとは思えない。
最後にベイダー同様、メンタル面がいまいちだったように思う。リスクを忌避しすぎるあまりに、勝てる機会をすべて見逃してしまったように思った。あと少し踏み込めば試合の展開が大きく変わる、そう感じる一歩手前で毎回立ち止まってしまうのだ。飛び込んで自分のパンチが当たっても、カウンターを貰うとすぐにそれをやめてしまう。スタミナが苦しくなってくると、せっかく良い蹴りが当たったのに追撃をせずに休んでしまう。これは一見合理的に見えて、その実勝機を逃しているだけだ。苦しいところでリスクを背負って前に出ることができなければ、接戦を制することはできないだろう。この点に関しては、ボウシュの心構えを見習うべきだろう。TDを取られすぎて判定で負けることは4R時点で明らかだったはずだ。5R、スタミナ切れで動きが怪しくなっていたベイダーに猛攻を仕掛ければKOできた可能性もかなりあったはずだ。
そういう意味で、この二人は似た者同士の対戦だったのかもしれない。だがたとえ見苦しくとも、勝利だけを求めて足掻いたベイダーのほうが結果的に自分から仕掛け、有利な局面を維持することに成功したと言えるだろう。
リスクを負って前に出る勇気を持った時、ライトヘビーにはトップ・コンテンダーがあと二人増えるに違いない。今後の彼らの成長に大いに期待していきたいところだ。
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OSPには凄くムカつきました。
返信削除ラウンドとれてないくせに攻めない、金網掴む、余裕アピールの涼しい顔(主観ですが)
リョートが相手の攻撃を待つのも、アンデウソンが余裕をアピールするのも、(アルドが金網掴むのも)、勝つための手段なら文句はないですがOSPは・・・
OSPのパフォーマンスさえなければかなりレベルの高いイベントだっただけに残念です(怒)
すぐに次の記事を出されて、触れるであろう事はわかっていますがwウルカは最高でしたね!!ベンヘンの件はショックでした・・・ビッグジョンのバカ―(泣)
OSPの涼しい顔は元からじゃないでしょうかwコーミエやアンデウソンさんもそうですが、黒人系の人でああいう眠そうな眼をした人は結構いますね。確かにやる気無さそうに見えてしまう時があります。
削除OSPはちょっと何がしたいのかよくわからないままに疲れてしまった感じです。ああいう攻めるのか守るのかもはっきりしないのは見てるのがストレスになりがちですwもうちょっとアグレッシブさが欲しかったですね。
ここ3大会は結構自分的には満足度高いです。OSPとベイダーの試合もある意味ではMMAらしさの一つですし、皆当分高いのばっかだと逆に飽きることもあるので、引き締めのためにも適度な塩分は大事です。
ミンテアさんには申し訳ないのですが、私は実はビッグジョン支持なのですwあれは負けでよかったと私は思ってます。
確かにOSPはいつもあんな顔かもしれないですwポテンシャルに結構期待してただけについ口が過ぎました。
削除3大会の質は良かったですよね!、マカオ大会だけは日本人とメイン二つづつしかみてませんがエディさんが言うなら見ときます。
記事にはしないと思うのでここでいいますがベンサンダースのオモプラッタは10th planet柔術信者の私には最高でしたw個人的サブミッションオブザイヤー確定です。
エディ(ブラボー)の教則DVDそっくりそのままの流れでした。「エディじゃないんだからwww」とか思ってたらセコンドにいて更に驚愕!俺はセコンドだからって感じで隅のほうで控えめにしてるのがかわいかったですw
記事と関係ない話してスイマセンw
あの技は見ててすごい面白かったですね!上からゆさゆさしてるのでちょっと笑ってしまいましたが、やられてるほうは笑うどころじゃなかったみたいですね。かなり痛そうでした。
削除あの流れはちゃんとそういうメソッドがあるんですね!あれは決まり手としてはオモプラッタでいいんですね。また勉強になってしまった・・・。オモプラッタは体勢を変えるだけなのかと勘違いしてました。極まる技なんですね。相手選手が針で縫いとめられたようにピクリとも動かなくなってしまいましたが、よく前転して逃げてますがあそこまで行くともう回転できないんですかね。
エディ・ブラボーもMMAでは相当な影響力ありますよね。トニー・ファーガソンもお弟子さんだそうですが、やはり攻める柔術でどんどん極めに来ますよね。ああいう闘う柔術はほんとカッコいいです。
というかミンテアさんは柔術家だったんですねw柔術も習ったら楽しそうですねえ。