2013年5月21日火曜日

ファイト・ドクター、テストステロン補充療法について述べる

ファイト・ドクに聞く:もしMMAで完全にTRTを禁止したら一体どうなるのだろうか?

あるコラムにおいて、いたるところで体を調整しているように偽ったことが、もはやMMAでテストステロン補充療法が許された状態になったのを決定付けたとしている。

現在TRTを行っているファイターにはどのような影響があるのか-そしてどれほどのファイターがそれに衝撃を受けたのだろうか?

最新のファイト・ドクへの質問で、MMAjunkie.comメディカル・コラムニストのドクター・ジョニー・ベンジャミンが起こりうる可能性について議論した。

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写真 ファイト・ドク ジョニー・ベンジャミン
MMAjunkie.comより

ドクターB、なぜMMAではTRTが合法なのですか?- 匿名より

TRT、つまりテストステロン補充療法は、精巣で自然に十分な量のアナボリック・ステロイド・ホルモンであるテストステロンを生産できない男性に適した医療方法です。

明らかに低いTレベルの男性にあり得る原因として:


・思春期前に精巣(生殖腺)が十分に発達しなかった

・外傷によって睾丸が外科的に取り除かれた、もしくは傷ついてしまった

・脳下垂体の腺に対する脳の怪我(この箇所はホルモンを分泌して精巣に働きかける)

・長年の過酷なトレーニングと減量(通常休養と適切な水分補給によって簡単に元に戻る)

・過去の外因性の(外部から体内へ)アナボリック・ステロイド・ホルモンの使用


Tレベルは男性が一度30代に突入すれば年間約1パーセントずつ自然に下降していきます。それは通常の加齢の過程の一つです。本当に兆候的な低Tは健康な男性の1パーセント以下程度にしか見られません。成人男性にとって後天的な低Tを治療するというのは二者択一です;まるで死にそうも無いようになるか、それとも治療せず放置して酷く苦しむかのどちらかです。

医師による治療目的の使用に対する免除(TUE)すらも含む全てのTRT使用を禁止することは、エリート・ファイターのわずか1パーセントよりもさらに少ない人数にしか影響しなさそうです。それが十代前半のころから未治療の低Tを抱えた男性がMMAのプロエリート・レベルにまで進化するための肉体的な手段であるならば、極めて難しい問題でしょう。簡単に言えば、そのような若い男性はMMAで成功を納め、エリート・レベルに到達するのに必要なだけの筋肉量と体力を持ち合わせていないでしょう。

永続的な、著しい低T(それは十代の頃から、もしくは負傷・怪我を経てのことだとはっきりと医学的に提示されていない)を抱えたエリート・アスリートにとって、最もまことしやかなシナリオとして報じられてきたのが過去のアナボリック・ステロイド使用で、それは組織化されたスポーツでは一般的に非合法・禁止とされているものです。

もしファイターが自身の低Tは脳の(脳下垂体の)ダメージを引き起こすに足る長年の頭部への外傷の結果だと主張するのであれば、そのファイターは重大な脳の負傷なのですから競技へ参加させるべきではないでしょう。

もしファイターが自身の著しい低Tは長年の過酷なトレーニングと大幅な減量の結果だと主張するのであれば、この問題を解決するためによく自身の体を休め、十分に水分補給をすればいいだけのことです。

コンバット・スポーツにおいて、多数の規則を管轄する機関(州アスレティック・コミッション)は適切かつ注意深くテストステロンを含むパフォーマンス向上薬を監視するための一定のポリシーも、手続きも、十分な財源も持ってはいないのです。したがって、これは私見ですが、すべてのRT(TUEを含むと含まざるとに関わらず)はコンバット・スポーツにおいては禁止されるべきです。なぜならばそれは1パーセント以下の人たちを阻害し、100パーセントの人たちを保護するからです。

Tの投与(外因性)はCIR(カーボン・アイソトープ・レイショウ=炭素同位体比率)によって検出することができます。投与されたTがどの程度の量であっても検出されれば非合法であり、したがってT/E比率で混乱することもなくなります。

自然に歳を重ねた男性は筋肉量も減り、体力とスピードも失われていきます(様々なことにおいて)。より発達した科学を通じて超肉体的(自然に発生するよりも優れた)性能を開発することはクリーンな競技者に対して潜在的な危険を秘めており、それはコンバット・スポーツでは本質的に危険なことと定義して止めなければならないのです。よりクリーンなアスリートがより安全なコンバット・スポーツを創り上げるのです。

ドクター・ジョニー・ベンジャミンはMMAjunkie.comの医学コラムニスト兼コンサルタントであり、著名なコンバット・スポーツの専門家です。彼はまたボクシング・コミッションとMMAメディカル小委員会共通のメンバーでもあります。(以下略)

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というわけでスポーツ・ドクターによるテストステロン補充療法への見解でした。

今海外ではテストステロン補充療法、通称TRTに関する議論が最高潮に達しつつあります。原因はルーク・ロックホールドに衝撃的なホイール・キックをぶちかまして劇的勝利を飾ったビトー・べウフォートです。

自分もハイライトを見たのですが驚愕でした。格闘ゲームか漫画でしかお目にかかれないような嘘の様に美しい後ろ回し蹴りでしたね!踵であんなに奇麗に顎を打ち抜かれて立っていられる人間は恐らく存在しないでしょう。私も思わず真似してしまったので股関節がヤバイ音を立てています。明日は多分ガニマタで歩くことになるでしょう。

ビトーはご存知の通り非常にキャリアが長いです。UFC十番台から参戦して、いまだに第一線にいる稀有なファイターです。1977年生まれですから現在36歳と高齢で、本来ならばもう肉体的には下り坂に入っている時期ですね。しかし彼はこれまで年齢を感じさせない活躍をしてきました。

そんな彼ですが、最近自身がTRTを行っていることを認めており、試合前後に記者から散々そのことを突付かれて大分お怒りでした。記者を恫喝したりだんまりだったりと、割とシャレにならない感じになっていたようです。

そのメディアとの喧嘩もあってか、海外のMMAサイトでは次々にTRTの是非に関する記事があがっています。ビトーのおかげでここ最近グレーのままだった合法ドーピングの問題に一つの区切りがつきそうな感じです。自分もこの機会にドーピングについて少し考えてみたいと思います。

まずTRTですが、どのくらいの補充でどういう効果が得られるのか、これは全然わかりません。現状アスレティック・コミッションが規定する上限値というのがT/E比6:1で、通常は1:1から2:1だそうです。先天的に分泌が多くても4:1くらいだそうです。ちなみに検査に引っかかったアリスターは14:1、ソネン教授もそのくらいでした。

この数値の差による効果の差が正直わかりません。自分の体を実験台にしたら機能が失われてしまいますから試すわけにもいかず、ここは自分としては意見のしようがありません。参考としてTRTを行ったランペイジの言葉を借りれば「十代に戻った」ということです。ソネン教授の言葉を借りれば「第二思春期」だそうです。ソネンさんの言葉のチョイスは本当に素敵ですね。第二思春期、昼ドラのタイトルにありそうな感じです。

次に低テストステロンの状態になる人は、通常であれば健康的な男性のわずか1パーセント以下ということです。まずお目にかからない珍しい症状ということですね。タ○マキンがもげることによってテストステロン欠乏になるのは当然として、脳へのダメージが蓄積して脳下垂体がやられると低Tになるというのは初めて知りました。ホルモン生産の指示を出す部位がだめになるということです。しかしそんな症状になるほど脳がダメージを受けているならTRT許可以前に試合に出すな、というドクターの意見が全てですね。そこまでの重篤なダメージを負った人はTRT以前に引退でしょう。

過度な減量やトレーニングもホルモン異常を引き起こすようです。女性のマラソン選手が生理が止まってしまう、とはよく聞きますが、やはり肉体の酷使は脳や内臓にエラーを引き起こすのでしょう。しかしこれは休めば簡単に直ることのようです。

となるとこの珍しい病気がMMAファイターに多いのは、やはり過去のドーピングが原因か、ということになってきます。しかしドクターもいうように、原因を考えることが逆にTRTを容認する環境になってしまっていたのだ、と自分は考えます。

つまり、これこれこういう原因だから仕方ないんです、というのを一つでも認めてしまえば、当然選手はそれを認めさせる様々な方法を考え出しますし、その結果としてこれだけ合法ステロイダーが増えてしまったのです。

ならば解決策として、医者が認めようが認めまいが外因性のテストステロンを補充する行為は全て禁止しろ、というのがドクターの意見です。全て禁止になれば、外因性のテストステロンは炭素同位体を用いて検出が可能なので、インチキした奴は量に関わらず判別できる、ということです。この炭素同位体については以前の記事で詳しいリンクを貼ってありますのでよかったらどうぞ。人体内で生成されるテストステロンは動物性コレステロール起源であり、外因性、つまりドーピングに使用する物は大豆などの植物起源であり、それを炭素同位体を用いて特定するというものだそうです。

確かにそれは一番シンプルな解決策です。しかしハードランディグになることは間違いありません。もし今すぐ実施したら相当数の選手が引退することになりかねないでしょう。なのでこれはまだ後数年待ったほうがいいような気がします。

もちろん自分はTRTを積極的に肯定する人間ではありません。可能であれば全員ナチュラルでやって欲しいと望みます。しかし、現在TRTを行っている選手の中には、ある程度しょうがない部分があるのではないかとも思っています。

どういうことかといいますと、TRTをやっている代表的な選手としてダン・ヘンダーソン、チェール・ソネン、ビトー・ベウフォート、フランク・ミアなどがいます。彼らは全員黎明期からMMAを経験してますが、その頃はまだ今みたいなスポーツとしての基盤がまったく整備されておらず、まだ野蛮な見世物としての色合いが濃い時代だったということを考慮すべきだと考えているからです。 

当時からドーピングは恐らく禁止として明文化はされていたとは思います。しかし、それは検査が無ければ規定されていないのと同義だということです。そのような環境で勝利を念頭に置いた競技者がドーピングをしない理由があるでしょうか?今現在ですらコミッションの都合によって十全な検査が行われていないのです、ましてやほぼ無法状態だった初期・中期MMAではむしろドーピングをしない選手のほうが稀だったのではないでしょうか?

あくまでもMMAがスポーツとしてしっかりとしてきたのはわずかにここ数年足らず、それもUFCが完全に業界トップになってからのことであり、たった4,5年前はドーピングなどやり放題だったということを念頭に置かなければなりません。ましてや日本の格闘技界がどれだけひどかったことか。その象徴がアリスター・オーフレイムですが、彼は2010年まであの体で「日本で」試合をしていたのです。

ドーピングをしても検査がないのであれば、むしろドーピングをしないことによって不利になります。その状況でドーピングをしたことを責めるのはすこし奇麗事に過ぎるのかな、と思っています。そういう時代を経てきた結果、後遺症として現在低Tレベルとなってしまったのであれば、多少そこは勘案してもいいのかなと思っています。

なので自分としては、T/E比の上限値引き下げと、キャンプ期間中のドーピングチェック実施の二つで対応するのが一番いいのではないか、と考えています。現状、なぜ6:1が検査の上限なのかはっきりとした理由がわかりませんし、可能な限りこの上限は低く設定したほうがいいでしょう。医学的に何がしかの根拠があれば仕方がないと思いますが、そうでないのであればもう少し下げるべきかな?と思います。しかしテストステロンは個人差が凄まじく、また人種によっても差が出るそうなのでそのために少し余裕を持たせているのかもしれません。黄色人種は比較的低Tで、投与してもすぐに比が下がってしまう人もいるようです。とりあえず練習期間から試合までを常人とさほど変わらないレベルに維持させれば、あまりにも不公平な状態は現状防ぎ得るし、実際に低Tで苦しむ選手を救済できるかなとは思います。低Tの理由に関わらず、現状TRT使用選手とその他の選手で可能な限り差がでないようにするだけで十分でしょう。監視対象となる選手の数もさほど多くはないはずです。

この方法で数年間待ち、ビトーと同じ世代の選手が40代になればさすがにほとんどは引退するでしょう。そのくらいになってからTRTは全面禁止とすれば、多少の被害は出るでしょうが今すぐ禁止するよりは遥かに穏便に済むと思います。時代に合わせてシステムは変わります。今のシステムで過去の選手の行いを断罪するのは、あまりにも傲慢かな?と思うところがあります。なのでもちろん全面禁止はして欲しいですが、そこは徐々に変えていくほうがいいだろうと思っています。

スポーツは勝つことが目的です。そのためにはルールの穴をつき、どれだけ相手を出し抜くかと考えて当然です。人間が人間である限り、恐らく永久にドーピングをはじめとしたインチキはなくならないだろうと思います。しかしだからといってドーピングを放置したり、最初から諦めてしまうのもまた間違いです。実現は不可能かもしれなくても、そこを目指して可能な限りの努力を続け、そしてクリーンなファイターに敬意を払うことが大事です。

格闘技は他のスポーツと違って肉体を持って相手を傷つける競技ですから、ドーピングによる危険性というものは遥かに大きくなります。武器を持って上がるにも等しい行為です。なのでより厳しく取り扱うべきなのは間違いないでしょう。しかし一方で相手が武器を持つならば自分も、という理由でやってしまった人も結構いるのではないかと思います。それはスポーツを管理する側の責任であり、ただ選手ばかりを非難しては少し酷だと思います。

もっとも、TRTをしたから勝てるかというとそんなことはありません。TRT利用者達はみな、ただ加齢を食い止められている程度の効果で、そこまで勝率がよくなっているわけでもないようです。圧倒的な技術差を覆すほどのフィジカルを手に入れるには合法TRTでは不十分であり、やはり日本のリングにいた頃のアリスター並にバンバン投与しないとダメなような気がしますねw

とりあえず、現状ではUFCはよく対策しているほうでしょう。州のコミッションも叩かれがちですが、それでも新興スポーツで勝手がわからないながらもよくやっていると思います。老舗スポーツのボクシングがアレなことを考えれば、MMAに対してはしがらみが少ない分比較的迅速かつ的確に対応してくれているのではないでしょうか?要求するのは簡単ですが、実施する側はそう簡単じゃないことはある程度理解してあげる必要があるでしょう。数年前からすれば、今のMMAは確実に良くなってきているのは間違いないですし、それはやはり彼らの努力の賜物だからです。そこはきちんと評価するべきことだと思います。

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