2014年2月19日水曜日

UFC Fight Night 36 感想と分析 リョートvsムサシ

UFC Fight Night 36のリョートvsムサシの感想と分析です。以下は個人的な意見ですので参考程度にどうぞ。

JARAGUA DO SUL, BRAZIL - FEBRUARY 15:  (L-R) Opponents Lyoto Machida and Gegard Mousasi face off before their middleweight fight during the UFC Fight Night event at Arena Jaragua on February 15, 2014 in Jaragua do Sul, Santa Catarina, Brazil. (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

画像はUFC® Fight Night Machida vs Mousasi Event Gallery | UFC ® - Mediaより

ミドル級 5分5R
WIN リョート・マチダ vs ゲガール・ムサシ
(ユナニマス・デシジョンによる判定勝利)
Fight metricによるデータはこちら

抜刀一閃!龍の子が到達した神速

JARAGUA DO SUL, BRAZIL - FEBRUARY 15:  (L-R) Lyoto Machida kicks Gegard Mousasi in their middleweight fight during the UFC Fight Night event at Arena Jaragua on February 15, 2014 in Jaragua do Sul, Santa Catarina, Brazil. (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

私にはほぼ見えなかった。龍の化身がわずかに身をよじらせた直後、ゲガール・ムサシの顔面を何かが神速で薙ぎ払ったのだ。それが上体を倒しながらの回し蹴りであることに気付いたのは、龍が元の体勢に戻ったあとのことだった。「ザ・ドラゴン」リョート・マチダ、長年ライトヘビー級で戦い続けたこの男は、盟友が王座を去った後に階級を落としてミドル級にやってきた。そこで彼が手に入れたものは、この階級では考えられないほどの神速だった。

JARAGUA DO SUL, BRAZIL - FEBRUARY 15:  Lyoto Machida enters the arena before his middleweight fight against Gegard Mousasi during the UFC Fight Night event at Arena Jaragua on February 15, 2014 in Jaragua do Sul, Santa Catarina, Brazil. (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

金網に現れたリョート・マチダの風貌は一変していた。かつての体の丸みや童顔は消え失せた。頬はこけ、体は鍛え抜かれた鋼のように硬質な印象を与える。目が少し落ちくぼんで眼光が鋭くなり、顎に生えた無精髭がその顔にさらなる迫力を加えている。彼がたった今、修行を終えて山から下りてここにきたのだと言えば私は信じただろう。その風貌は求道者そのものだった。かつて山に籠り、日夜剣を振って強さの神髄を追い求めた剣豪達を私は連想した。

マチダはこれまでライトヘビーを主戦場にしてきた。体格を考えれば適正とは思えなかったが、彼はそれでも他の選手と遜色なく戦ってきた。それはすべて彼のバックボーンである「松濤館流空手」のおかげだ。相手の攻撃が届かない遠い間合いを維持しながら相手を観察し、そして一瞬の隙を狙って超長距離から素早く間合いを詰めるそのスタイルはまさに伝統派空手そのものであり、この戦い方が体格差による不利を解消していたのだ。武道の目的の一つに、体格差や体重差を覆すことがある。技術によって物理的なハンデを解消しようという武の精神が、八角形の冷えた金網の中でも存分に発揮されたのだ。組みから展開するレスリングをベースに持った選手達とは特に相性が良く、組みに来たその刹那に彼は膝蹴りや突き、そして足払いを繰り出して沈めてきた。

JARAGUA DO SUL, BRAZIL - FEBRUARY 14:  Lyoto Machida weighs in during the UFC weigh-in at Arena Jaragua on February 14, 2014 in Jaragua do Sul, Santa Catarina, Brazil. (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

だが近年になってMMAはどの階級も一気に大型化が進んだ。スポーツとして充実するほどに、皆がよく研究するようになったからだ。少しでも有利になるために今や減量は当たり前となっており、体格の利やリバウンドによる体重差の利を用いようと、皆がこぞって可能な限り下の階級でやろうとしている。その象徴的な存在ともいえるのがライトヘビー級王者ジョン・「ボーンズ」・ジョーンズだろう。これまでのライトヘビーでは考えられない体格を持った彼は、その長いリーチを活かしたムエタイ技術で多くの選手たちを寄せ付けずに打ち破ってきた。その中の一人にリョート・マチダもいた。

距離の使い方が抜群に巧いマチダだったが、それでもボーンズの間合いを崩すことは出来なかった。いつものマチダの間合いでは、ボーンズの攻撃が届いてしまうからだ。これ以上離れてはマチダの踏み込みでも届かない。蹴り合いでは間合いに分が無い。結果としてマチダはリスクを負って飛び込まざるを得なくなった。そして飛び込んだ結果、龍は敗れた。額を割られ、そしてボーンズの長い腕に首を絡めとられ、金網に吊るされて龍は打ち滅ぼされた。

だがミドルに落とせばマチダに体格の不利はない。そして体重を落としたことで、彼にはさらなるスピードが生まれたのだ。居合の達人を思わせるその回し蹴りが、彼の適正階級がここであることをはっきりと示していた。

冴える後の先、宮本武蔵の教えそのままの龍の呼吸

JARAGUA DO SUL, BRAZIL - FEBRUARY 15:  (L-R) Lyoto Machida kicks Gegard Mousasi in their middleweight fight during the UFC Fight Night event at Arena Jaragua on February 15, 2014 in Jaragua do Sul, Santa Catarina, Brazil. (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

ゲガール・ムサシは明らかに焦れていた。終始追い回す展開に疲れてもいた。常に軽快な足取りで動き続け、右に左にとフェイントを掛けて動き回るかと思いきや、突如として足を止めて様子を窺ってきたりするマチダのスタイルに、ムサシは常に後手に回った。そしてムサシが意を決して飛び込もうとするタイミングを見計らって、その出鼻を潰すように龍は突然牙をむいて飛びかかってくるのだ。相手の動き始めを察して潰す、まさに古の剣豪、宮本武蔵の後の先を思わせる戦い方だ。マチダにどうしても先手を取られがちなムサシは攻めあぐねてしまった。

マチダの戦い方はよく難解なパズルのようだと言われる。何も考えずに戦えば翻弄されてしまうばかりだ。試合時間のわずか25分間を、解き方を考えることだけに使う羽目になってしまう。マチダと戦う時には自身の持ち駒の確認と、相手の盤面の分析が欠かせないだろう。マチダ自身も戦いを「チェス」のようなものだと語っている。相手がどんな手を打ってくるかを見て、それに合わせて自分が最良の一手を打つのだ。合戦の呼吸だと思う。マチダにとっては今だにMMAは戦争であり、それが彼の戦い方の根底にある。負けは死なのだ。だから大事なことは、絶対に負けないことだ。

しかし合戦とは大きな違いがある。スポーツには時間による制約があり、そして時間内に相手を打倒できなければ判定を第三者に委ねることになるのだ。相手に打倒されない戦い方では、思わぬところで敗北が訪れてしまう。きっと1時間、2時間と戦い続ければマチダは誰よりも強いのだろう。しかしこれは戦ではない。たとえ武の精神に反しようと、ルールに則した在り様を考えねばならない。

変化するマチダへの評価と、生まれつつある過大な幻想

JARAGUA DO SUL, BRAZIL - FEBRUARY 15:  (R-L) Lyoto Machida kicks Gegard Mousasi in their middleweight fight during the UFC Fight Night event at Arena Jaragua on February 15, 2014 in Jaragua do Sul, Santa Catarina, Brazil. (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

これまでマチダはその手数の少なさが批判の的になってきた。空手を理解しないジャッジ達は、マチダを消極的と評価した。それはUFC社長デイナ・ホワイトも例外ではない。彼らは一撃離脱の伝統派空手の理念を解さなかった。そのために、マチダは判定で何度も辛酸を舐めてきた。

だがここ最近になって、マチダの戦い方が理解され、彼の速すぎる打撃がかなり有効であることが知られてくるとそれも変わり始めた。デイビス戦でそれは顕著に表れたように思う。ジャッジは今だ手数重視だったが、デイナをはじめ、格闘技メディアの中ではマチダのほうがダメージを与えていたとして判定を批判したのだ。これは大きな変化だと言えるだろう。マチダが何をやっているのかが、数年の時を経てようやく浸透したのだ。

そして今新たな問題が生まれつつあると思う。今度は逆に、マチダの打撃が過大評価されすぎる傾向があるように思うのだ。今回の試合でも、有効打数では5Rを除いてムサシの方がわずかながら多い。そして相変わらず全体的な打撃数は少ないままだ。この試合では、わずかな手数差よりもマチダの一撃の方が有効だったとしてマチダに判定が行ったのだろう。これは納得のできるところだ。

しかし一方で、この手数の少なさでは10発以上の有効打数の差が出れば簡単に判定は逆になる可能性が高い。デイビス戦がまさにそれだ。そして私は、デイビス戦ではデイビス勝利を支持している。あの試合ではデイビスがマチダのお株を奪う機動力とリーチによってマチダを封じたのだ。

この試合でも、ムサシはかなり善戦した。そこまで一方的な展開ではなかったと思っている。だが判定は二人がフルマークでマチダにつけた。会場の雰囲気もあるのだろうが、少しマチダに傾きすぎている気がする。またムサシはかなりの部分をディフェンスしていた。有効打数だけならムサシの方が当てていたのだ。だが、メディアもジャッジもマチダのダウンには至らない一撃の威力を評価している。これは少し危うい傾向なように思っている。

JARAGUA DO SUL, BRAZIL - FEBRUARY 15:  (L-R) Lyoto Machida kicks Gegard Mousasi in their middleweight fight during the UFC Fight Night event at Arena Jaragua on February 15, 2014 in Jaragua do Sul, Santa Catarina, Brazil. (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

私の判定基準は、ダウンにならない限り有効攻撃数の差で考えるというものだ。これが一番公平なように思うからだ。ダウンにならずともダメージが大きいのであれば、どのみちその後の手数差に反映される。少しマチダの打撃に幻想を抱きすぎている向きがないだろうか?またマチダのカウンターは激しく速く交錯するために、ヒットしていないものもヒットしているとカウントされているような気がしてならない。この試合では二度のハイキックと序盤のミドルキックを除き、ムサシはよく防御していたと思う。少なくとも4Rはムサシにポイントを与えてもよかっただろう。

いずれにしろ、マチダの手数不足は今だに深刻だ。このスタイルならばやはり相手を倒しておきたいところだろう。それでも今回のマチダはKOを狙っていたので、この試合は緊張感がある楽しい試合だった。ムサシも罠を張って待ち構えていた。会場は静まって固唾を飲み、一瞬の交錯に目を凝らしているのが雰囲気で分かった。本当ならば、格闘技はこういう雰囲気がいいと思う。日本の会場でしか味わえなかったあの武道とスポーツの融合した雰囲気が、マチダのおかげでブラジルの地に実現したのであれば嬉しい限りだ。願わくば、他の選手の試合でもこういう観戦をして欲しいところだ。

またディフェンス面で一つだけいうならば、マチダはやはりパンチそのものがそこまで見えているわけではないと思う。接近戦でのパンチのカウンターこそがマチダ攻略の鍵だろう。距離を遠目に取るから反応が間に合うだけで、接近戦で振り回された時にいいのが当たればマチダは倒れる気がする。空手の構えは上体を起こしている。頭の位置はほぼ変わらない。そしてマチダはあまりパンチが見えていない。飛び込みに合わせてオーバーハンドを被せていけば、ダウンが奪えそうに思っている。

だがマチダの技の一つ一つは本当に素晴らしかった。ハイキックを始め、序盤に当てた痛烈なミドル、飛び込んでの膝蹴り、そして何より感動したのが突きで飛び込んでからの足払いだ。足を深く相手の後ろに差し込んで、そのままなぎ倒すように投げるあのトリップをマチダは以前からよく使うが、まさに空手の知恵の結晶ともいうべき技だと思う。この技はレスリングのタックルなどとは全然違う、やはり立ち技から派生した文脈のものであり、こういう攻撃には対処できない選手も多いだろう。バックボーンを巧みにMMAに適応させているのを見るたびに心動かされるものがある。皆がマチダに幻想を抱いてしまうのもやむを得ないのかもしれない。私自身、マチダのこういう技術を見るたびに空手を学びたい衝動に駆られるのだから。

昇竜はかつて友の座した王座を目指して駆け上がる

JARAGUA DO SUL, BRAZIL - FEBRUARY 15:  Lyoto Machida reacts after his decision victory over Gegard Mousasi in their middleweight fight during the UFC Fight Night event at Arena Jaragua on February 15, 2014 in Jaragua do Sul, Santa Catarina, Brazil. (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

龍はもはや若くはない。現在35歳であり、キャリアはいよいよ佳境に入りつつある。近年ではトレーニング法や栄養学などの発達により、以前なら引退した年齢でも第一線で活躍できるアスリートは増えている。加えてマチダのスタイルならば、高齢になっても他の選手よりは活躍できそうだ。だが頂点に立つには、今を逃せばもう厳しいところだろう。ライトヘビーで長年経験を積み、さらにミドルに落として最高のキレとスピードを手に入れたドラゴンにとってはここが最大のチャンスだ。

そして今王座に腰を下ろすのは、ドラゴンの盟友を二度にわたって、それも手ひどく痛めつけて退けたアメリカの若き英雄、「オールアメリカン」クリス・ワイドマンだ。純粋なる誇り高き戦士と、21世紀に武の心を胸に宿すブラジルの侍は、近いうちに八角形の仇討場でその刃を交えるだろう。彼ら二人はどこか似ている気がする。誇り高く、敬意に満ち、そして猛々しくも優しい心を持っている戦士たちだ。彼らの戦いは、UFC史上最高のものとなるかもしれない。

龍はミドルという階級に落としてその真の姿を現した。彼の行く先に待つ物は王座か、それとも友と同じ末路か-全ては時が来れば明らかになる。

「ザ・ドリームキャッチャー」が掴み損ねたタイトル挑戦の夢

JARAGUA DO SUL, BRAZIL - FEBRUARY 15:  Gegard Mousasi enters the arena before his middleweight fight against Lyoto Machida during the UFC Fight Night event at Arena Jaragua on February 15, 2014 in Jaragua do Sul, Santa Catarina, Brazil. (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

私はゲガール・ムサシの実力を測り兼ねていた。彼は調子が良かった時と悪かった時で大きくぶれていたからだ。だが今回の試合で彼の実力をはっきりと把握できた。そしてこう思った、彼は練習環境さえ整えば遠からずトップコンテンダーになれるだろう、と。素材が一級品であることは間違いないように思う。この試合で、私はゲガール・ムサシという男がとても好きになった。

試合では、マチダのスタイルに攻めあぐねてはいたものの、まったく勝機が無いわけではなかった。1Rから放つローキックはインロー、アウトローと蹴りわけをしていたし、その大部分が非常にいい当たりだったと思う。威力は十分であり、もっと蹴ってもよかっただろう。マチダは空手を用いるが、その空手のスタンスは前足を大きく前に出すものであり、ロー自体は比較的よく当たるシーンが多いように思う。かつてムエタイの使い手であるマウリシオ・ショーグンにはそれでやられている。カットとカウンターに気を付けて足を殺しにいくのは上策だろう。

パンチも決して悪くなかった。2、3Rなどでは逃げるマチダに踏み込んでコンビネーションを放っていったが、これが良く伸びてマチダの顔面を綺麗に捉えた。リーチはかなりありそうだ。鞭のように柔らかくしなるようなパンチだと思う。ジャブも多くはないが当たっており、特に4Rにはマチダの顔面を弾き飛ばすヒットがあった。途中マチダの飛び込みに合わせて強烈なフックを打ち込み、さらには下がるマチダの頭を抱え込んで振り回していった。クリンチからのパンチは当たらなかったがこれは悪くない戦法だ。全体的にKOするには少し距離が遠すぎる場面ばかりだったが、接近戦のカウンター狙い自体は決して悪い選択ではなかっただろう。

JARAGUA DO SUL, BRAZIL - FEBRUARY 15:  (L-R) Gegard Mousasi and Lyoto Machida trade punches in their middleweight fight during the UFC Fight Night event at Arena Jaragua on February 15, 2014 in Jaragua do Sul, Santa Catarina, Brazil. (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

グラウンドでもムサシは善戦した。タックルを返されて逆に上を取られるシーンもあったが、4Rには上を取られてから相手の足を巻き込むようにクラッチし、そのままハーフガードから一気にスイープしたのは圧巻だった。力の強さもさることながら、その技術には驚愕するものがある。彼はそれで上を奪取し、4R後半を優勢に運んだ。

またディフェンスも総じて優れていただろう。ボクシングをやっていただけあって目はかなりいいように思う。臆さずに相手をしっかりと見て、序盤から中盤はマチダの攻撃をかなりディフェンスできていた。特に1Rにきっちりとローをカットしたのは良かっただろう。乾いた音を立ててローをカットしたときに、マチダは明らかに一瞬ひるんで嫌な顔をしていた。これでマチダのローをある程度抑止することに成功したのだと思う。何度かハイは食らったが、ディフェンスできていた蹴りも多かったし、突きはほぼ食らっていなかっただろう。

タフネスも大したものだ。マーク・ムニョスを一撃で葬ったマチダのハイキックを3Rにまともに食らったが、ムサシの意識は揺らぐことなくすぐに蹴り足をキャッチしてTDを狙っていった。完全なクリーンヒットだったが、ムサシのバランス感覚は保たれたままだった。この打たれ強さだけでも評価に値するだろう。その後にリョートの変則ハイで顔面を薙がれても平然としていた。ただボディはあまり強くないようで、序盤のミドルで動きが止まり、5Rのカウンターの膝で露骨にペースダウンしていたように思う。

何よりも優れていたのが、そのメンタルだ。確かに焦れてはいたものの、ムサシは最後まで試合を諦めてはいなかったし、特に4Rには絶好の機会を作り出した。勝負所で行こうとする姿勢ははっきりと見られたし、時折混ぜたタックルのタイミングなども優れていた。難解なパズルを前にして、彼は最善を尽くして努力していたと思う。試合に緊張感がみなぎっていたのは、アルメニアの暗殺者が常にマチダを狙い続けているのがはっきりとわかったからだ。彼の勝負強さと負けん気は、今後の試合でも必ずプラスに働くだろう。

ゲガール・ムサシの今後の課題と展望

JARAGUA DO SUL, BRAZIL - FEBRUARY 15:  (L-R) Gegard Mousasi and Lyoto Machida trade strikes in their middleweight fight during the UFC Fight Night event at Arena Jaragua on February 15, 2014 in Jaragua do Sul, Santa Catarina, Brazil. (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

マーク・ムニョスに完勝したマチダを相手にここまで戦えるのであれば、ムサシはミドルでもトップ10以内に入るだけの力があるだろう。ムサシはこれまで練習環境の悪さや、膝の怪我などによってその実力が完全に発揮されていたとはいいがたいところがあった。特に膝が悪い時にはクリンチでずるずると押されていたように思う。だが今は膝の調子もよさそうだ。年齢もまだ28歳と若い。よりよい練習環境を整え、怪我をしないように気を付ければあと数年で王座まで辿り着くことも不可能ではないように思う。パンチ技術や勝負勘は申し分ないし、スタミナもそこそこでどの局面でもそれなりに戦えるオールラウンダーだ。蹴りもそこそこ使えている。あとはもっとフットワークを磨き、サークリングを使ってステップ・ジャブをどんどん当てて削っていければさらに強くなるだろう。リョートにもいいパンチは何度も当たっていた。だが足がついていかないために威力不十分だったし、リョートを捕えることができなかったのだ。機動力確保がムサシの最優先課題ではないかと考えている。

JARAGUA DO SUL, BRAZIL - FEBRUARY 15:  (L-R) Gegard Mousasi punches Lyoto Machida in their middleweight fight during the UFC Fight Night event at Arena Jaragua on February 15, 2014 in Jaragua do Sul, Santa Catarina, Brazil. (Photo by Josh Hedges/Zuffa LLC/Zuffa LLC via Getty Images)

今回は負けてしまったが、むしろムサシの評価を上げる試合だった。ファイト・オブ・ザ・ナイトを獲得したのがその証左だ。ムサシは不利を承知で前に出て、局面を打開しようと戦い続けた。確かに追い掛け回す展開になったのは痛手だったし研究不足が目立ったが、その中でもよく戦っただろう。次にトップ10下位の選手とやってそこで快勝すれば、再び挑戦権を賭けた試合を組んでもらえるはずだ。

彼は一度は夢を掴み損ねたかもしれない。だが彼が前に出て戦う限り、その夢は何度だって彼の手の届くところに来てくれる。負けて初めて得るものもあるだろう。試合後に「マチダは常に一歩先にいた」と後手に回ったことを悔やんだムサシだが、試合後にそれをはっきりと理解しているだけでも十分だ。この負けは絶対にムサシにとって無駄にはならないだろう。

ミドル級は一気に素晴らしいコンテンダー達であふれかえり始めた。見たい試合が次々と脳裏に浮かんでくる。そしてその試合の中には、当然ながらアルメニア人の屈強なファイターの姿も含まれているのだ。彼がいつかその手に夢を掴む光景を、私は今から楽しみに待っていようと思う。

4 件のコメント:

  1. 今回のマチダの姿を見て真っ先に浮かんだ言葉が”サムライ”でした。研いだ刀の様なボディ、無精髭、鋭い眼光。そこにあの居合いの如き足技。そして、そのサムライを若人が迎え撃つというこの展開。
    UFCは試合は勿論、各選手の背景、会場の雰囲気と何から何まで物語的で、本当にMMAの最高峰なのだと実感させてくれます。

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    1. リョートは風貌が劇画調でしたね。UFCは場の提供者としての立ち回りをよく理解してる気がします。選手を貪欲に取り込んでどんどん試合をさせていくことで自然と物語が生まれていく感じです。

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  2. 僕もこの試合にマチダ圧勝のような意見が多いのには、ちょっと首を傾げました。
    マチダの一瞬で踏み込む突きやカウンターなどはまさに神がかった速さで、
    踏み込み→突き→横に回り込みながらTDを警戒しつつ膝を狙うムーブなんかはライト級のような身のこなしでインパクトはありましたが、内容に関してはそこまで一方的な展開ではなかったと思います。
    ムサシは打撃に関してはトップクラスだと思いました。
    ただレスリングがどうなんだろう?という感じは未だにします。
    マチダはレスリング的なTDはしないものの、何度か上を取られていて、立てそうな場面でもボトムスに甘んじたシーンもあった気がします。
    ステップを多用するタイプでもないので、レスラーとやったらまた判定負けしそうな気がして、まああの一試合でそこまで穿つのは早計かもしれませんが(^^;

    そのへんの総合力含めるとマチダvsワイドマンは本当に楽しみです。
    分はワイドマンにあると思いますが、マチダのスピードとTDディフェンス、そして一撃に期待してしまいます。
    ミドル級のタイトル戦線はそれぞれ違うタイプの強豪が並んでいて、とんでもないことになってきてますね。

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    1. ムサシは思った以上にパンチとディフェンスがよかったですね。ハイにはまったく反応できてなかったですが、あれはもうしょうがない気もしますw

      ムサシは前からレスリングの技術が疑問視されてましたね。少なくともグラウンドはそこまで悪くは無さそうでしたが、クリンチの展開がどうなのかという感じですね。ただ以前見た時よりはよくなっているような気がします。

      リョートが時期挑戦者みたいに書きましたが、実はビトーさんが先に挑戦することをすっかり忘れてましたwまあワイドマンが勝つだろうと思ってそのままにしちゃいましたが。一発があるのでわかりませんが、アンデウソンさん相手に一発を貰わないならばビトーさん相手でも大丈夫だろうと思ってます。

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