写真はUFC公式より
ライトヘビー級 5分3R
WIN リョート・マチダ VS ダン・ヘンダーソン
(スプリット・デシジョンによる判定勝利)
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伝統派空手、それは一撃必殺の真剣の間合い
かつて日本の地で行われたであろう真剣勝負は、時を超えアメリカはカリフォルニアの荒野で再び取り行われることとなった。一人は無頼の賞金稼ぎ、腕一本で格闘技の世界を行きぬいた流れ者のアメリカ人ダン・ヘンダーソン、もう一人は日本人の血を継ぎ、日本の裏側で伝統派空手を学び、いまや日本人が失いつつある武人の魂を持つブラジリアン、リョート・マチダだ。
二人はそれぞれ一撃必殺の武器を持っている。ダン・ヘンダーソンは一振りで相手の首を跳ね飛ばす野太刀の右拳を、リョート・マチダは遠い間合いから速く、最短距離で急所を突き刺す長槍の当身だ。彼らの勝負は一瞬の交錯で全てが決まる緊張感を持って始められた。
果敢に切りかかったのはやはり無頼のアメリカンだった。顎の横に右の拳をぴたりと構え、分厚い岩のような左肩で己の左顎を覆い隠してにじり寄り、後ろ重心でケンケンのように相手の懐に飛び込んでは一気に重心を踏み込む足に飛び移らせて大外から渾身の右拳を振り回す。当たれば三途の川の船旅が楽しめる代物だ。さすがに歴戦の喧嘩屋、ただ一発を狙うのではなく、不恰好だが速い右のインローできちんとディフェンスを散らしていく。
対するドラゴン・キッドは伝統派空手の基本である相手の攻撃が当たらない遠い間合いを維持しながら、体を真っ直ぐに起こした独特の構えで隙を窺う。そして喧嘩屋が焦れ、いらつき、踏み込みすぎるのを強かに待ち続ける。五輪の書で宮本武蔵が記した奥義、後の先を押さえるためだ。後の先とはやられてからやりかえすことではない。相手が動くのを待ち、その動きはじめを抑えて潰す、つまりカウンターのことだ。龍の子はダン・ヘンダーソンにカウンターを合わせる機会を待ち、不用意に動いて自分の首が切り落とされるのを警戒し続けた。
ドラゴン・キッド、少ない手数で確実に急所を捉える
軍配は龍の子にあがった。1R終盤、投げからの一撃でヘンダーソンは明らかなダメージを負った。レスリングの使い手であるヘンダーソンと相撲の四つの状態で組み合ったマチダは、足をかけて奇麗に相手を投げて崩すと、すかさず空手の「極め」を放った。これがヘンダーソンの顔面を的確に突いた。あと少し時間があれば恐らく終わっていただろうと思う。以前にもマチダは足払いからの極めでKOをしているが、これはもっと多用すべき素晴らしい技術だ。相手が崩れて体勢を立て直す暇を与えず、崩して相手が地面に倒れるとほぼ同時に必殺の一撃を放つ。このようなバックボーンが活きたオリジナリティのある技を見るのはMMAの楽しみの一つだ。
2R、野太刀が顔を掠めるが首を跳ね飛ばせない無頼の男は無理に飛び込んでしまった。その刹那、下がり続けたマチダは突如として前に出て、その腹に鋭利な膝を突き刺したのだ。これは効いただろう。その後ミドルキックで傷口をさらに抉られ、元々あまり多くないヘンダーソンのスタミナはごっそり減ってしまった。その後巧く上を取るものの、得意のパウンドは打てず逃げられてしまい、最後まで的確にボディや顔を前蹴りや突きで鋭く突き刺されて消耗していった。とうとう最後まで、得意の右拳で龍を退治することはできずに終わってしまった。
相手に神経衰弱を挑む空手スタイルの問題点
試合結果はスプリット・デシジョンによりリョート・マチダの勝利だった。ユナニマスでしかるべき内容だったと思う。しかし一人のジャッジはヘンダーソン勝利につけた。その理由はヘンダーソンのトップ・ポジションのキープと、恐らくマチダの消極性だろう。
徹底して不利な状況に身を置かず、相手が自分の土俵に上がるまで待ち続ける。生き残るためにはこれがベストなのは確かだ。そしてこれは試合であり、勝ちが最優先されるのだからマチダの行動には何も問題が無い。もしこれが時間無制限の殺し合いであるならば、自分だってそうするだろう。空手のそもそもの目的は徒手による相手の打倒ではなく、どのような状況下でも自分が生存することが目的なのだ。
MMAにおいて死に等しいことは、お互いが警戒しすぎてお見合いしたまま試合が動かずに時間切れになることだ。これはMMAにおけるもうひとつの死だ。もしそうなれば、自分がUFCから追い出される可能性がかなり大きくなるからだ。観客からも総スカンを食らい、その評価は地に落ちることになる。
マチダの友人であるアンデウソンは、この空手のスタイルから非常に大きな影響を受けている。構え、距離、一撃離脱はそのまま空手の戦い方だ。アンデウソンとマチダはこの死を相手に迫り、相手が焦って動くの待ち続けるという、恐ろしいメンタル・ゲームを挑んでくるのである。多くの選手はこれに耐えられずに動いて負けるのだ。マチダの先の対戦相手であるベイダーなどは、この戦略に見事に嵌って敗れた。そして慎重に身構えて、焦らず動こうとする相手には自分から突如として動き、相手が対応できない速くて想像外の攻撃を死角から一撃してくる。これはビトーがアンデウソンにやられたことだ。
これを崩す方法の一つが、乱戦と削りだ。焦って前に出るのではなく、かといって相手が動くのを待ってもいけない。常に相手の間合いを崩し、相手が構える隙を与えずにこちらから動いて相手を出し抜くしかない。これを実行できた選手といえばチェール・ソネンだ。最近ではヘビー級王者ヴェラスケスがサントスを相手に選択したのもこの戦法である。一撃必殺には絶対的に距離が必要になるからだ。乱戦はその距離を潰す。そして動いて散らして考える隙を与えずに少しずつ相手にダメージを与えていく。今回ヘンダーソンが使った戦略もこれと全く同じだった。自分から仕掛け、削っていく。
しかし、ヘンダーソンは間合いが遠すぎた。あまりにもリーチに分が無かった。ローキックは非常にいい攻撃だった。しかし、3Rではそれだけで突破口を作るには時間が足りない。そしてボディを攻撃されたことで、最後までそれを実行するスタミナも足りなくなってしまった。踏み込みも膝の怪我の影響だろう、以前ほどのスピードはやはり失われていたと思う。この戦略にはさらなる突進力が必要なのだ。
マチダの問題点はこのスタイルを選択しながら必殺ではないことである。今回の試合も、3Rに自分から仕掛ければ十分にKOすることはできただろう。ここで動かないところがマチダとアンデウソンの違いだ。アンデウソンは必ずこのあたりで自分から動いて確実にフィニッシュに来るのだ。だからこそあの戦い方が許されている側面がある。
だがマチダはフィニッシュまで行かないことが多い。ある程度のリスクで行けるにもかかわらず、彼はどうしても自分の生存を優先してしまう。このあたりはやはり空手が骨の髄まで染みているからなのかもしれない。生き残ることを最優先してしまうのだ。ただ、結果的に弱りきった相手に止めを刺さなければ、勝敗をジャッジに委ねたときに積極性がないとして判定で敗れてしまうこともある。過去の試合では明らかにそれが原因で敗れている。ファンもそっぽを向き、タイトル挑戦も遠のいてしまうだろう。今回の試合もスプリットなのがそれを示唆している。下手をすれば彼は負けていたのだ。
何よりも自分から動いて止めを刺す戦い方をしなければ進歩が無いのではないだろうか。今回の試合を見ても、これではタイトルに挑戦しても自分よりさらに遠い間合いを持つライトヘビー級王者ジョン・ジョーンズに削られてフィニッシュされるだけの展開になるのではないかと思う。ジョーンズはまだ進化している。恐らくこの戦い方だけでは、いつまでたってもジョーンズの牙城を崩せないどころかどんどん差が開いていくだろう。マチダのスタイルは好きだ。だが、そろそろ前に出ることをしなければ友人のアンデウソンとともにベルトを巻くことは出来ずに終わるだろうと思う。
一方ダン・ヘンダーソンは相変わらずだった。あの手この手でとにかく自分が少しでも有利に立って勝とうとするのは見ていて頼もしい。TRT問題、膝の怪我の問題、非を認めない倣岸不遜な態度と腹の立つこともあったが、やはりいざ試合が始まるとついつい応援してしまう魅力がある。ずるさや強かさ、状況を冷静に見て工夫をするところは彼がこの歳でまだ第一線にいられる秘訣なのだろう。何よりも前に出て戦おうとする姿勢がはっきりと見えるのが一番の魅力だ。どんな状況でもひっくり返してしまいそうな期待感が常に漂っているのだ。
勝敗などどうでもいい。彼が荒野に力尽きて倒れるその時まで、可能な限りオクタゴンにいて欲しいと願って止まない選手の一人である。
バンタム級 3分3R
WIN ユライア・フェイバー VS アイバン・メンジバー
(リアネイキッド・チョークによる一本勝ち)
もう少し打撃でメンジバーが善戦するかと思ったが蓋を開ければフェイバーの圧勝だった。フェイバーのチョーク成功率は凄まじいものがある。なぜあんなにがっちりと極まるのだろうか。たぶんケツアゴで相手の首の付け根をがっちりと挟んで動かないようにしてしまうのだろう。このパワフルさと獰猛さは素晴らしい。バラオにはいいところなく負けてしまったが、再戦すればまだやれるのではと思わせてくれるものがある。ただリーチ的に厳しいので、もしかしたらフライでやったほうがいいのかもしれない。
ウェルター級 3分3R
WIN ロビー・ローラー VS ジョシュ・コスチェック
(パウンドによるTKO)
元々コスい戦い方が多かったコスチェックの年貢の納め時だった。ここ最近は非常にディフェンシブな戦いが多く、今回もスタンドでのやりあいを最初から嫌がって避けていた。組み付いて必死にTDを狙うあたりは、自分が有利に戦うためというよりは殴らるのを恐れて逃げているように映った。案の定タックルをがぶられ、顔を下げた状態で様子を見ているところに死角から痛烈なフックがテンプルに直撃、そのまま上から殴られて終わってしまった。コスチェックの不調は改善しないどころか、どんどんと試合運びがまずくなっている。モチベーションも低い。下手をしたら今回の敗戦でリリースされる可能性もあるような気がする。
一方のローラーはUFC復帰一発目を最高の勝利で飾った。フィジカルはかなり強そうで、パンチの振りも豪快で相手を倒す気迫に満ちていた。面白そうな選手だ。今回の試合ではフィジカルの強さを非常に感じたが、今後他の選手と対戦していく中でどこまでやれるか楽しみな選手だと思う。ウェルター級はますます激戦区になりそうだ。
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WIN ユライア・フェイバー VS アイバン・メンジバー
(リアネイキッド・チョークによる一本勝ち)
もう少し打撃でメンジバーが善戦するかと思ったが蓋を開ければフェイバーの圧勝だった。フェイバーのチョーク成功率は凄まじいものがある。なぜあんなにがっちりと極まるのだろうか。たぶんケツアゴで相手の首の付け根をがっちりと挟んで動かないようにしてしまうのだろう。このパワフルさと獰猛さは素晴らしい。バラオにはいいところなく負けてしまったが、再戦すればまだやれるのではと思わせてくれるものがある。ただリーチ的に厳しいので、もしかしたらフライでやったほうがいいのかもしれない。
ウェルター級 3分3R
WIN ロビー・ローラー VS ジョシュ・コスチェック
(パウンドによるTKO)
元々コスい戦い方が多かったコスチェックの年貢の納め時だった。ここ最近は非常にディフェンシブな戦いが多く、今回もスタンドでのやりあいを最初から嫌がって避けていた。組み付いて必死にTDを狙うあたりは、自分が有利に戦うためというよりは殴らるのを恐れて逃げているように映った。案の定タックルをがぶられ、顔を下げた状態で様子を見ているところに死角から痛烈なフックがテンプルに直撃、そのまま上から殴られて終わってしまった。コスチェックの不調は改善しないどころか、どんどんと試合運びがまずくなっている。モチベーションも低い。下手をしたら今回の敗戦でリリースされる可能性もあるような気がする。
一方のローラーはUFC復帰一発目を最高の勝利で飾った。フィジカルはかなり強そうで、パンチの振りも豪快で相手を倒す気迫に満ちていた。面白そうな選手だ。今回の試合ではフィジカルの強さを非常に感じたが、今後他の選手と対戦していく中でどこまでやれるか楽しみな選手だと思う。ウェルター級はますます激戦区になりそうだ。